表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/33

第17話 三回目の投票

 投票開始まで時間が限られているというのに、なぜか事件の話ではなく雑談をしているのだった。目立ちたがりの勅使河原くんが会話の中心である。


「つまり人狼ゲームというのは、無罪推定の原則を無視している他にも、特定多数となる多数決を採用していることから、ことごとく民主主義に反するルールになっているわけだ」


 会話を受けているのはお調子者の日比谷くんだ。


「先週も話したけど、ゲームの元はモスクワ大学で考案された『Mafia』だからね。『市民』と『マフィア』の戦いだから、正々堂々と戦う遊びではないんだよ」


 ムードメーカーの岸くんも会話に参加する。


「つまり元から無法者を相手に戦うことを前提に作られているわけだ。クソゲーだけど、初めから意図して作ってるから真面目にツッコむのは野暮ってことだ」


 そこで元イジメられっこの瀬能くんが加わる。


「だから『村長』はさ、『マフィア』に勝つためにも、無罪を証明できないような『容疑者』なら助けずに数を減らしていかなければならないんだよ」


 瀬能くんが怖いことを言う。

 岸くんが笑顔でツッコむ。


「そう言ってる自分に投票が集まったらどうするの?」

「僕より怪しい人がたくさんいるよね?」

「自分が投票されたらの話だよ」

「一番怪しいのは愛川さんだけど?」


 それには答えない岸くんだった。

 そこで知的メガネの武藤さんがたしなめる。


「仮に愛川さんが選ばれたとしても、最終的に判断するのは『村長』で、蓮見さんを助けたことから、アリバイがないだけなら証拠不十分で助けると思うよ」


 いつの間にか『村長』捜しゲームになっているが、その原因は瀬能くんだ。


「それはどうかな? ついさっき全員死亡エンドが決まったばかりなんだ。だったら当てずっぽうでも減らした方がいいじゃないか。愛川さんが『人狼』である確率はゼロじゃないんだから」


 追い詰められて神経がたかぶっている瀬能くんを鎮めるためにも、美山さんが犯人であることを告げた方がいいのだろうか?


 しかし、それで美山さんに票が集まらなかったら、金曜日の夜の襲撃で終わるので、ここは我慢するしかなかった。


「言っとくけど、僕は正常だぞ?」 


 瀬能くんが立ち上がって円の中心に移動した。


「みんなこのゲームの恐ろしさを解ってないんだ。『人狼』は予想を外し続けても十九回、いや、十七回目の襲撃で確実に勝利することができる。それに対して『村人』チームは何度投票しても無効にされるから、『村長』のせいで勝つことができないんだよ」


 『人狼』ではなく、味方である『村長』に対する恨みが深刻だ。


「もしも愛川さんが『人狼』だったらどうする? 『村長』が助けたとして、もう一回投票しようってなるかな? ならないよね? それでもしも愛川さんが嘘をついていたとしたら大変なことになるよ?」


 味方なのに敵みたいだ。

 それが人狼ゲームの怖さだけど。


「『人狼』の襲撃っていうのは勘だけでも当たる場合があるんだよ。『村人』チームは一週間後に死ぬ可能性があるの。なんでそれが解らないんだよ? 向こうが勘でも当たるなら、こっちも勘で当てにいかないとダメなんだって」


 ゲームの世界では瀬能くんの方が正常なのかもしれない。彼が『村長』の方が勝つ確率が高そうだ。


 とはいえ僕だって、それが正攻法であることは百も承知である。だけど無罪の人を殺した後の世界で生きることに耐えられそうにない。だからこうして苦しんでいるのだ。


「『村長』に言いたい」


 そこで全員を回し見て、一人一人睨みつける。


「僕の一票を無効にしたら許さないからな?」


 そこで勅使河原くんがチクリと一言。


「これでオマエが『村長』じゃないことがハッキリしちゃったな」


 その場で膝をついて頭を抱えたので、自分が味方の足を引っ張ったことを理解したようだ。


 美山さんは瀬能くんが『村長』だとは思わないだろうから、これで選択肢が一つ消えたということになる。


「まぁ、いいさ、これで僕に投票する人もいなくなるだろうからね」


 そう言って、瀬能くんは席に戻った。

 そこで腕を組んでいる日比谷くんがボソッと一言。


「でもそれは大事だよね、瀬能くんくらいハッキリ主張してもらうと除外しやすいと思うし、無実の人は無実だと証明してもらわないと『村人』チームが勝つのは難しいからさ」


 岸くんが同意する。


「ただ、『人狼』も『村人』のフリをするから気をつけないと。瀬能くんが『人狼』だった場合、今のは全部お芝居ということになる。いや、瀬能くんのことは疑ってないけどさ」


 勅使河原くんがやんわりと否定する。


「いや、瀬能くんに限らず、事件当日のアリバイに関しては誰も証明されていないんだよ。愛川さんが答えてないけど、『家に帰った』と言っている人が嘘をついている可能性もあるからね」


 目立ちたがりのテッシーはかなり強力な味方になってくれそうだ。


「愛川さんは無実だ」


 その一言で室内の空気が固まった。

 誰かと思ったら委員長の小石川くんだった。

 議長の武藤さんが質疑に入る。


「愛川さんが無実だって聞こえたけど、ほんと? 何か知ってるなら証言をお願いしたいんだけど?」


 アイドル顔の小石川くんが席を立ち、円の中心に移動する。


「愛川さんは無実です。事件当日の放課後、僕と待ち合わせをして、実際に会って話をしたので」


 こういった形で恋愛関係が発覚するとは思わなかった。


「二人とも事件とは無関係なので黙っていました。でも、確固たるアリバイがあるなら話さないといけないと思って、こうして打ち明けました。犯人は他の人なので、愛川さんに投票するのは止めてください」


 そこで声を上げたのがモデル系の本庄さんだった。


「だから待ち合わせ時間をずらしたんだ?」


 誰も彼女の言葉を理解できていない様子だ。そんなことも気にせず、本庄さんは小石川くんを睨みつけるのだった。


「『先にファクトリーに行ってて』って言うからおかしいと思ったけど、二股してたんだね」


 突然、ディスカッション・ルームが修羅場と化した。


「え? なに? 浮気してたってこと?」


 妹系の古橋さんがドン引きした。


「いや、まだ、浮気とか、そういう関係じゃない」


 委員長の言い訳だ。

 それに本庄さんがキレる。


「まだってどういうこと? バレなければ浮気してたってことだよね? だって隠してたもんね。事件に関わる大事な事情聴取でも隠してたってことは、その後のことも考えてたわけだ? 全員の命が懸かってるのに」


 男が言い訳する。


「だから全員のために打ち明けた」


 言い訳になっていないので、彼を見る周りの目も冷ややかであった。


 それにしても小石川くんが手近なところで次から次へと手を出すタイプだとは思わなかった。将来的に大学や職場で迷惑を掛ける人になりそうだ。その未来があればの話だけど。


「あの、小石川くんは悪くありません」


 窮地の彼を擁護したのが愛川さんだった。全員の注目が集まるが、説明する様子がないので、議長の武藤さんが「どういうこと?」と発言を促すのだった。


 小石川くんと入れ替わるように円の中心に移動する。


「委員長には協力してもらっただけなんです。実は、私、鎌田くんと付き合っていて、でも、二年生になってから、美山さんと親しくするから、それで私も他の男子と親しくしようと思って、すごくバカなことを考えてしまいました」


 自然消滅したと思っていたのは僕だけで、愛川さんの中では未だに僕と付き合っていることになっていたようだ。


「付き合ってるの?」


 尋ねたのは美山さんだ。

 それが何とも白々しく見えた。

 でも冷めた目で見てはいけない。


「付き合ってます」


 愛川さんの答えに、またしても妹系の古橋さんが反応する。


「本当に?」

「はい」

「ちゃんと付き合ってるの?」

「告白されたので」

「別れたんじゃないの?」

「別れ話は一度もありません」

「サイテーだ」


 反論したいが、できないので、僕も周りに合わせて不快感を示す演技をした。


「うちのクラスの男子サイテーだ」

「一緒にすんなよ」


 古橋さんの言葉に反論したのは勅使河原くんである。


「鎌田くん、サイテーだよ」

「それは同意するけど」


 古橋さんがアニメ声で嘆く。


「なんで鎌田くんのためにウチらが殺されなくちゃいけないの? 大事な人を傷つけたのは鎌田くんの方だよね? ウチらみんな被害者だよ」


 僕が『人狼』よりも悪いことをしたかのような口ぶりだ。

 まさか古橋さんが共犯者?

 いや、それはまだ分からない。


「よし、投票の時間だ」


 そこへタイミング悪く白狼男がスクリーンの中に現れるのだった。


「それじゃあ投票してもらうぞ」


 もう既に三回目なので慣れたものである。罰の怖さも知っているので今さら反抗する者は一人もいなかった。


 今回は誰に投票するか判断が難しいので、結果に影響を与えないように、前回と同じく自分に投票した。


「結果が出たんで発表するぞ」


 緊張の一瞬。


「最多得票は三票獲得した七番だ」


 委員長の小石川くんだ。


「ちょっと待ってくれ」


 当然の訴えである。


「僕は事件があった放課後、愛川さんと会った後、ファクトリーで本庄さんにも会っているんだ。だから誰よりも鉄壁のアリバイを持っている。それでどうして僕なんだよ?」


 最多得票が三票ということは、多くの者が僕と同じように自分(イコール棄権)を選択したのだろう。


 無実の小石川くんに票が入った理由は、浮気という不貞行為からくる嫌悪感以外は思いつかない。それで処刑されるリスクを彼に被らせたと考えられるからだ。


「委員長、ちょっといいか?」


 白狼男が足の裏を見せて呼び掛けた。


「まだ話は終わってないんだ。今回は一番も同じく三票獲得している」


 元カノの愛川さんだ。


「ということは、初の決選投票になるわけだな。こういう時のために時間に余裕を待たせているから、どちらに投票するか話し合ってくれ。十七人による投票だから同率はねぇぜ? 九票以上獲得した者が今週の『生贄』だ」


 美山さんが犯人なので話し合いに意味はないが、それを口にするわけにもいけないので深刻な表情をキープした。


 二人とも確かなアリバイがあるので、どちらが選ばれても救うことになる。つまり昼のターンを一回無駄にしたということだ。


 後は『人狼』の襲撃でまぐれが起きないことを祈るばかりである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ