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第15話 村長

 金曜日の夜、料理が面倒だからカップ焼きそばを作ったのだが、そこへ白狼男が現れて「俺にも食わせろ」と言うから、仕方なく作ってやることにした。


 出来上がったカップを床に置いてやると、尖がった口を突っ込んで食べ始めたが、それがあまりにも汚い食い方だったので、付属のスープをぶっ掛けてやりたくなった。


 食後、口元をテカテカさせた白狼男がリビングのソファで寛ぎながら尋ねる。


「それで今度の『生贄』をどうするか決めたのか?」


 お気に入りの席を取られたのでキッチンテーブルの椅子に座って答えることにした。


「蓮見さんは生かしておく」

「マジかよ?」


 コイツは犯人を知っているのに、こんな反応をするのだから殺意が湧く。


「ハスミンが犯人だったらどうすんだ?」


 蓮見さんにそんなニックネームはない。


「犯人は別の人だからね」

「誰よ?」

「答え合わせをしてくれるの?」

「しねぇよ」


 死ねよ、と言いそうになったけど、思うのと口にするのは別なので止めておいた。


「ハスミンが主犯なら死ぬぞ?」

「彼女は、ないよ」

「共犯者の可能性は?」

「それは分からないけど」

「だったら死ぬな」


 それでも答えは変わらない。


「そもそも、このゲームは従来のルールでは無罪推定の原則に反するからといって、わざわざ新しいルールを作って始めたんだ。その新ルールを自ら破るというのは理念に反する」


 甘いかもしれない。それでも曲げてはいけないことだ。なぜなら、


「もしも蓮見さんが無罪ならば冤罪で、つまりそれは僕の手で殺したことになるんだ。彼女は容疑者の一人であって、有罪が確定したわけじゃないんだから、今の捜査状況では絶対に守らなければいけないんだよ」


 そう思えるのも真犯人が判明したからであって、わかっていなければ弱い心に流れて救わなかったかもしれないけど。


「やっぱ一回死んでる男は言うことが違うな」


 変な風に解釈されたけど、コイツの感想はどうでも良かった。


「じゃあよ、裏設定はどうするんだ? ハスミンが無事なら、みんなビックリすんぞ?」


 そこに選択の余地はないはずだ。


「どうするって、こうなったら開示するしかない」

「どうやって?」

「僕にできるわけないだろう」

「BOWWOWBOWBOWWOW」


 いきなり犬みたいな鳴き方で笑うのだった。


「じゃあ、どうすりゃいんだよ?」

「みんなに説明してください」

「おまえが『村長』だってか?」

「それはダメでしょ」

「BOWBOW!!」


 笑いながら手を叩くのだった。

 いや、足か?

 いや、そんなことはどうでもいい。


「だから『村長』という役職があって、その者だけが昼のターンでの追放者を救うことができるって、それだけでいいですよ。ほんと、それ以外は余計なことを言わなくていいんで」


 そう言うと、黙って僕のことを凝視するのだった。それがゾッとするほど不気味だった。


「おまえ、なんか、さっきから怒ってないか?」

「いや、茶化されたら怒りますよ」


 そこで力なく俯くのである。


「ごめんな」

「え?」


 そこで廊下のドアが開いて、黒狼男が現れた。


「わりぃ、待たせたな」


 二匹とも妙に優しいのが気になった。


「『人狼モドキ』に会ってきたぜ」

「おう、で、誰を襲撃したんだ?」

「転校生の風野だってよ」


 えっ?


 意味が分からない。


 僕のことか?


「残念だったな」


 そう言って、僕の肩に手を添えるのだった。


「まさか」

「俺も驚いちまったよ」


 そんなはずはない。


 ありえない。


 美山さんが犯人。


 だから癖を見抜いたと?


 自分では自覚できない癖。


 それで転生者であることがバレた?


「え? っていうことは?」

「ゲーム終了だな」


 それは、死だ。


「どうなるんですか?」


 黒狼男の手を払いのける気力もなかった。


「なに、消えてなくなるだけだ」


 何の感情も湧かないのに涙が流れた。


「おいおい、待ってくれ」


 その声が、遠くに聞こえる。


「泣くなよ、ドッキリだよ」


 ドッキリ?


「おい、マジかよ」


 反応したのは白狼男だ。


「俺まで騙されちまったぜ」

「BOWWOWBOWBOWWOWWWWWWWWWW」


 僕はもう、金輪際、泣くのを止めようと思った。他人の娯楽に利用されるだけだからだ。


「腹いてぇ」

「おまえ、いい加減にしろよな」

「すまんすまん」

「おもしろいからいいけどよ」


 これが死神の民度である。もう二度と死を恐れるのを止めようと思った。バカらしいからだ。


「で、本当は誰よ?」

「二十番だ」


 孤高の探偵・諸星くんだ。


「ああ、アイツ目立ってたもんな」

「人狼モドキも『気に入らねぇ』だとよ」


 ん? ということは、共犯者ではないということだろうか?


「おっと、それ以上はヒントになるぜ?」

「おう、そうだったな」


 そうか、二匹の会話にもヒントが隠されている可能性があるわけだ。今回でいえば「気に入らねぇ」という言い回し。美山さんがそんな言葉遣いをするだろうか?


 いや、そこは考え過ぎだろう。単純に黒狼男が自分の口調で伝えたにすぎないと考えるのが自然だ。



「しかし、諸星くんとは……」


 寝室のベッドで横になりながらも、ずっと考えてしまう。『人狼モドキ』の意図は何か?


 やはり目立つ行動をした人から消していくようだ。これは牽制の意味があるのかもしれない。


 現に、これでは下手に動けないからである。だとしたら、探偵に託すしかないようだ。


 僕の命は二人の探偵に委ねられた。

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