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第14話 二回目の猶予期間

 翌日の月曜日、学校に行くと、投票によって『生贄』となった蓮見さんが無事に登校しているのを確認できた。


 パニックを起こして保健室に運ばれたので心配だったけど、自力で学校に来ることはできたみたいだ。


 といっても不登校は罰を受けるので、実際は強制されて登校させられたということになるが。


 ひどく憔悴した顔をしているが、思い返すと、元々覇気のない顔をしている人なので、心の中までは分からないというのが本当のところだ。


 記憶が戻らなかったら、大人しい蓮見さんまで疑わなければならなかったわけで、そこは本当に助かった。


 犯人の美山さんだが、蓮見さんの隣の席に座っているけど、絶対に視線を向けないようにと心掛けた。


 目と目が合っただけでも狙われる可能性があるからだ。


「あの、ちょっといいですか?」


 クラス全員が登校して、朝自習が始まる前に、蓮見さんの前に座る幼馴染の西村さんが立ち上がって呼び掛けた。


「蓮見さんは『人狼』ではありません。自白した千葉くんと違って、ただの『村人』なんです。ね、そうだよね?」


 後ろの席に座る蓮見さんに確認を求めると、コクリと頷く反応が返ってきた。


「このままだと冤罪になってしまいます。ユリカちゃんを助けられるのは、真犯人に名乗り出てもらうしかないんです」


 そこで教室を見回す。


「お願いします。これ以上、罪を重ねないでください。どうして鎌田くんを転落させたのか知りませんが、蓮見さんは関係ないじゃないですか。だから自首してください」


 そう言って頭を下げるが、無反応であった。おしゃべりが好きな人たちも黙っているのであった。


 美山さんが犯人だと知らなかったら、西村さんと蓮見さんの共犯説も考えられたわけで、僕も反応に困っていたことだろう。


「証拠は?」


 こういう時に勇気を持って出しゃばることができるのが知的メガネの武藤さんである。


 質問に答えたのは蓮見さんではなく、西村さんだった。


「スマホで引いたのが『村人』だったんだよね?」


 蓮見さんがコクリと頷くも、武藤さんがすかさず反論する。


「そんなこと言い出したら私も『村人』なんだけど、それだけで信じてくれるの?」


 西村さんが黙ったまま着席してしまった。


「あのね、真相は別にして、現状では『人狼』が二人もいるんでしょ? だから主犯の方が口封じのために切ったとも考えられるの。つまり確実な証拠がない限りは絶対に無実だとは言い切れないんだよ」


 僕は目立つ行動ができないので、武藤さんに頑張ってもらうしかなかった。『人狼モドキ』に真っ先に疑われた人でもあるので。


 いや、美山さんの協力者の可能性もあるのか? いやいや、それで貴重な夜のターンの襲撃を無駄にすることはないだろう。


 いや、僕を油断させるため? となると、シロが確定していなかったということか? 彼女が『人狼』の一人だとしたら大変なことである。


 とりあえず『人狼モドキ』の襲撃を受けた人とは接触しない方が良さそうだ。それが探偵のような活躍を見せる武藤さんというのが苦しいところだけど。


「ちょっといいかな?」


 そこで手を上げたのは孤高の諸星くんだった。


 全員が意外そうな顔をして顔を向けるが、それも無理のないことだ。僕も彼はクラスの問題に極力関わろうとしないタイプの人だと思っていたから。


「やっぱり武藤さんが言うように、結局のところは証拠が大事なんだよ。『人狼』が二匹いるということは、この悪夢が少なくとも残り一回、蓮見さんが『人狼』じゃなければ二回も続くことになるからだ」


 ここにも一人、探偵という名の神が舞い降りた。


「狼男は転落事件の犯行グループ三人が『人狼』だと言い切った。その言葉に嘘はないはずだ。ならば、この死神が作り出したゲームを終わらせるには、俺たちの手で事件の真相を暴く以外に方法はない」


 喜びを表に出さないように努めた。


「死神による処刑の日は土曜日なのだから、五日後の午後まで時間はある。蓮見さんを救うには、俺たちの手で犯人を見つけ出し、警察に突き出して、ゲームから退場させればいいんだよ」


 残り五日間。


「だから今日の放課後から事情聴取を行う。一日五人ずつ行って、残りの時間で犯人を見つけてみせる。協力できないとは言わせないぞ? 拒否した者に投票するように呼び掛けるから覚悟を決めてほしい」


 この発案は『人狼モドキ』にとっては自殺行為なので、犯人の一人である可能性はゼロだ。


 前の席に座る武藤さんがわざわざ手を上げる。


「その事情聴取だけど、私も立ち会っていいかな?」


 諸星くんが即答する。


「誰かにお願いしようと思ったけど、立候補するならお願いする。ただし武藤さんだけだ。プライバシーの侵害についても考慮しないといけないし、秘密保持のためにも監視し合えるのは二人が限界だからな」


 そこで目立ちたがりの勅使河原くんが尋ねる。


「武藤さんと諸星くんの事情聴取は誰がするんだ?」


 これに発案者の諸星くんが答える。


「委員長に立ち会ってもらう。いいよね?」

「あっ、うん」


 それに対して小石川くんが冴えない表情で同意するのだった。


「風野くん」


 孤高の探偵にいきなり名前を呼ばれたので驚いた。それから僕の返事を聞かずに説明を始める。


「出席番号順で聴取に応じてもらうけど、風野くんだけは事件と無関係だから除外する。時間がないし、二回目の聴取を受ける人が出てくるかもしれないからさ」


 ここで事情聴取に立ち会いたいと申し出れば確実に『人狼モドキ』に狙われるので、彼を信じて余計な口出しはしないことにした。


 美山さんが犯人だとヒントを出すのも控えた方がいいだろう。『人狼』チームは残り二人で、それには二回の投票を必要とするからだ。


 次の投票で美山さんに票が集まればいいが、それができなかった時のリスクが大きすぎる。


 ゲームに探偵が登場したので、ここは任せるべきである。

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