第13話 二回目のまとめ
二人目の追放者は、大人しい蓮見さんで決まった。しかも獲得票数が、たったの二票。ということは、この中に自分以外に入れた人が一人だけいるわけだ。
つまり事前の約束を破った者がいるということだ。ニセモノの『人狼』が入れたということだろうか? だとしたら、なぜに蓮見さん?
「なんで?」
目立ちたがりの勅使河原くんが言葉にしたが、全員が同じ思いだろう。それよりも蓮見さんの様子が明らかにおかしかった。
焦点が定まらない目をしており、呼吸も不規則だ。その後、過呼吸の症状が出て、そこで話し合いを中止した。それから幼馴染の西村さんが保健室に連れて行くのだった。
入れ替わるように担任の先生が深刻な顔つきで入ってきて、千葉くんが事故に遭ったことを告げた。
先生の話によると、命に別状はないようだ。しかし意識不明の重体なので予断を許さない状況であると。つまり僕と同じ目に遭ったというわけだ。
投票結果についてみんなの意見を聞きたかったのだが、下校命令が出たので従った。
その日の夜、いつものようにリビングでノートパソコンを広げて、一日の出来事をまとめることにした。とりあえず気になった点を羅列してみる。
今回の投票では二票が最多得票だった。
決戦投票がなかったので、十八人は自分に入れたことになる。
『人狼』が最低でも二人残ってるはずだが、一人は自分に入れた。
票が割れるから?
そもそも『人狼』は互いを認識できているのか?
千葉くんは分からない感じだった。
誰が蓮見さんに入れたのか?
『人狼』とは限らない。
匿名なので『村人』の可能性もあり。
その場合の動機は?
事件当日、千葉くんは足止め工作をした。
蓮見さんのスマホが紛失。
だから疑われたのか?
九人に配られた謎のメモ。
西村さんが犯人。
なぜか女子にだけ配られる。
送り主の性別は不明。
意図も不明。
命を狙われた僕との共通点。
西村さんと蓮見さんは友達同士。
二人とも幼稚園の頃から知っている。
しかし、それだけじゃない。
実は、学年成績上位の三名だ。
それが犯人の動機か?
三人とも同じ医科大志望。
さらに奨学金制度を利用しているという共通点がある。
しかもAではなく、返還免除型の学力奨学生S。
学年で十人だけ。
そのギリギリのラインで切られたのが千葉くんじゃなかったか?
だから犯人に協力した?
いや、彼は身に覚えがないと言っていた。
しかし、犯人の狙いは明確だ。
結局、金だったのか?
残念ながら、それが一番考え得る理由でもある。
そこでノートパソコンを閉じた。
急にバカらしくなったからだ。
いや、ノートパソコンをもう一度立ち上げる。
蓮見さんをどうするか考えなければならないからだ。
あれは演技ではない。
本当にパニックになっていた。
いや、ちょっと待て。
医者志望がパニックを起こすだろうか?
うん、普通に起こすと思う。
あんな死の宣告は他にないのだから。
『人狼』じゃない『生贄』をどうするか?
僕が生き返るには、殺すのが最適解。
殺し合うのが正攻法。
蓮見さんは『村長』じゃないとバレたのだから。
今後、敵が蓮見さんを襲撃することはない。
?
このゲームはルールがおかしい。
敵に有利すぎる。
殺せば『村長』じゃないと判明するからだ。
今回の投票方法だと、生かしてもダメだ。
偶然、誰かが『村長』に入れたと?
そんな都合よく考えてはくれないだろう。
昼のターンを無駄にしたツケが大きい。
昼のハズレが寿命を縮めるからだ。
僕には最初から十七ターンもの余裕はなかった。
今週は二回も襲撃を受けるようなものである。
やっぱりおかしなルールだ。
こちらは投票で選ばないと『生贄』にできない。
対して向こうは適当に襲撃するだけ。
その時点で公平じゃなかった。
『霊媒師』の能力は必要か?
それが何になる?
殺さなきゃ、殺されるのに。
『生贄』の正体を知る必要があると?
いや、ない。
蓮見さんを生かすという選択。
それは表設定の破たんを意味する。
通常の人狼ゲームではないことが明らかとなるわけだ。
蓮見さんを見殺しにする。
そうすれば、このまま続けられる。
みんな必死になって犯人を捜すことだろう。
しかし蓮見さんが『人狼モドキ』じゃなかったら?
その可能性は高い。
僕は彼女を殺せるだろうか?
そんなこと、できるはずがない。
待て。
その心理の裏を利用されたとしたら?
無実の人間を殺せないだろうと。
必ず救うだろうと。
『人狼モドキ』が進んで『生贄』になることもある。
否。
それはない。
そこで『霊媒師』の能力が活きるからだ。
投票で選ばれたら、そこで終わり。
選ばれた時点で正体がバレる。
だとしたら、いい勝負なのか?
必ずしも劣勢とはいえない。
優勢でもないけど。
問題は蓮見さんを生かした場合だ。
クラスメイトの動向が読めない。
だとしても、蓮見さんは殺せない。
ここは流れに身を任せるしかなさそうだ。
翌日の日曜日。
それは突然の出来事だった。
風に当たりたくて、ベランダに出た。
マンション五階からの景色。
向かいにビルはないのでパジャマのまま。
手すりに掴まり、空を見上げる。
宇宙が透けて見えるほどキレイな空。
ふと、階下を覗き込んだ時だった。
不意にフラッシュバック。
そこで、思い出した。
断片的だが、決定的に。
僕を校舎の三階から突き落とした犯人。
それは美山さんだった。
こんなことなら、思い出したくなかった。
僕の彼女になる予定だった人。
だから記憶を失ったのかもしれない。
受け入れがたい現実だから。
彼女以外であってほしかった。
でも、間違いない。
美山さんに背中を押されたのだから。
思い出せる。
あの日の放課後、僕は特別棟の三階にある音楽室にいた。そこでカバンからバイブ音が鳴って、スマホを取り出すと、「美山さん」で登録している着信を確認した。
電話に出ると、美山さんが窓の方に誘導して、真下にいるって言うから、窓から顔を出したが、そこで地上を見下ろした瞬間、背中を押されて落下してしまったわけだ。
今はそれだけ。
その場面しか思い出せない。
でも充分だ。
彼女で間違いないのだから。
問題は、どうやって彼女に投票を集めるかだ。
いや、無理じゃないだろうか?
告発するには無理がある。
失敗すれば『人狼モドキ』に狙われる。
証拠がなければ票を固めることができない。
僕が鎌田真澄だと打ち明けるか?
いや、失敗したら夜のターンで殺される。