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第12話 二回目の投票

 千葉くんが転落する様を見せられて、誰もが言葉を失った。それからしばらく放心状態が続いた。そんな中、白狼男が告げる。


「学校に連絡が入るまでに投票を行ってもらうが、それまでに二人目の追放者を誰にするか話し合わなくてもいいのか?」


 何人かが委員長の小石川くんを見ているが、彼はショック状態にあった。そこで代わりに進行したのは、知的メガネの武藤さんだった。西村さんが犯人と書かれてある紙を見せながら話し始める。


「こんな紙切れ一枚を根拠に投票するのはバカらしい。それが狙いかもしれないし、ただの悪ふざけ、もしくは自己防衛によるなすり付けかもしれないけど、話し合いもせずに書かれてあることを鵜呑みにするのは、やっぱりそれはただのバカだよ」


 幼馴染の西村さんが訴える。


「私はやってない。絶対にやってない」


 急に必死だけど、当たり前か。武藤さんが全員に問う。


「この中に、鎌田くんの転落現場を目撃した人、いる?」


 視線を一周させるが、反応はなかった。武藤さんが説得を試みる。


「事件について何か知っていて、それを言うなら、今しかないよ? じゃないと、西村さんが冤罪の可能性を残したまま追放されると思うから」


「私は関係ない!」


 西村さんの声のボリュームがおかしい。だけど、それが普通なのかもしれない。そこでムードメーカーの岸くんが発言する。


「武藤さんは決まったことのように言ってるけど、西村さんに票が集まるかな? 少なくとも俺は入れないよ? なんていうか、『人狼』に踊らされてるみたいで嫌だから」


 お調子者の日比谷くんが同調する。


「俺も入れない。仮に西村さんが犯人だとしても、最低でも一度は検討すべきだから。高確率で成功できる一回目の襲撃に失敗していることから、『村人』側が有利だってことは分かってるしね」


 ここにきて冴えた発言が出始めてきた。目立ちたがりの勅使河原くんも続く。


「怖いのは、むしろ昼のターンなんだよ。それも『人狼』じゃなくて、同じ『村人』に殺されるかもしれないんだから。九票でも最多得票なら追放されちゃうからね」


 元イジメられっ子の瀬能くんが囁く。


「ただ、誰かに投票しないといけないんだけどさ」


 だから誘導が起こるわけだ。ショックから立ち直った委員長の小石川くんが尋ねる。


「武藤さんは、どうして西村さんに票が入ると思ったの?」


「それは私以外の八人がメモのことを誰にも言わずに黙っていたから。おそらく私が告発しなかったら、そのまま西村さんに投票していたと思う」


 妹系の古橋さんが否定する。


「そんなことない。他の人も同じだと思うけど、言いたくても言えなかったんだよ。だって『人狼』に狙われるかもしれないんだから」


 表設定では、普通の『村人』は殺されるだけの存在なので、目立たないようにするのも理解できる。武藤さんが問い詰める。


「じゃあ、誰に投票するつもりだった?」

「それは、まだ決めてないけど、それはみんなも同じだと思う」


 モデル系の本庄さんがアシストする。


「だから、やっぱり一度ちゃんと転落事件について話し合った方がいいんだよ」


 メモは話し合いを促すために仕込んだのか? だとしたら名案だ。事実、事件と向き合う流れができたのだから。ここで目立ちたがりの勅使河原くんが問題提起する。


「転落事件について話し合うのはいいんだけど、それとは別に気になることがあって、喋る人と喋らない人でハッキリ分かれてるのは、どうなんだろうと思って。自分で言うのもなんだけど、喋る人は勇気を出して頑張ってるよな」


 お調子者の日比谷くんも追随する。


「話し合うのは賛成だけど、これからは全員均等に発言の機会を設けた方がいいかもね」


 いい流れだ。さすがS組。僕が頑張らなくても、自動的に解決へと向かうのである。いや、やはりメモのおかげか?


「ただ、武藤さん、古橋さん、本庄さんの三人以外は、これといった発言はしてなかったけどね」


 ムードメーカーの岸くんの言葉だが、この人の点数稼ぎというか、好感度の上げ方はスゴイと思った。


「委員長」


 武藤さんが促すが、小石川くんは意図を掴めていない感じだ。


「なに?」

「話し合いを進めないの?」

「ああ」


 と言ったまま、座席で固まるのだった。武藤さんが顔をしかめる。


「議長を代わろうか?」

「うん」


 こういう危機的状況で本来の適正や資質がバレるようだ。小石川くんはトップに立ってはいけない人だった。今も動揺しているのが顔に出ている。


 だが、人間的にはそれが普通なのかもしれない。何しろクラスメイトの転落を見たばかりなのだから。武藤さんが異常なのだ。でも、彼女だけがシロ確だ。


「とりあえず事件当時、何をしていたか一人ずつ話してもらう」


 よしっ、アリバイ調査だ。これで容疑者を一気に絞り込める。探偵役の武藤さんが神に思えた。


「事件が起きたのは一か月以上も前だから記憶が曖昧になってる人がいると思う。念のため整理しておくと、あの日は連休前で特別な時間割になっていた。普通科は午前中で終わって、S組だけ午後から三学年合同で体育の授業を二コマ消化したから、下校時間は三時半だった」


 そこで武藤さんが出席番号一番に視線を合わせる。


「学校に救急車が到着したのは四時頃だったけど、その間、愛川さんはどこで何をしてた?」


 元カノの愛川さんに全員の視線が集まる。


「宇崎さんと一緒に地下鉄で帰宅しました」


 たった一つの質問で、二人のシロが確定した。だけど喜びが表情に出ないように我慢した。武藤さんが淡々と進行を務める。


「ごめん、答えが分かってるけど同じ質問をさせて。宇崎さんは何をしてた?」


 真面目な宇崎さんが答える。


「愛川さんと地下鉄にいたか、出口で別れていた頃だと思います」


 嬉しくて笑いそうになる。ニセモノの『人狼』はどんな気分だろう? 笑うといけないので、想像しないようにした。


 次に友達の近江谷くんが答える。


「親が迎えに来て、そのままファクトリーに行きました」


 中央区にあるショッピング・モールのことだ。親と一緒とか、これ以上ない完璧なアリバイだ。友よ、ありがとう。


 次は僕の番で、関係ないけど尋ねられたので、「東京にいた」とだけ伝えた。


「全員に尋ねないと不公平だから」


 武藤さんのフォローが嬉しかった。理解を示すために頷いた。


 次にムードメーカーの岸くんが答える。


「千葉くんがチャリのカギを失くしたっていうので一緒に探してました」


 微妙な答えだ。千葉くんは『人狼』の一人。それではシロ確にはできない。


 次に地味な剣崎さんが答える。


「蓮見さんがスマホを失くしたので探すのを手伝ってました」


 ん? カギに続いてスマホ? そんな偶然があるだろうか?


 次に委員長の小石川くんが答える。


「家族旅行の準備があったので、真っ直ぐ家に帰りました」


 やろうと思えば家族に確認できるので嘘ではないだろう。


 次に喋らない宍戸さんが答える。


「私も蓮見さんのスマホを一緒に探していました」


 次に元イジメられっ子の瀬能くんが答える。


「僕も千葉くんのカギを一緒に探していました」


 ガッカリしてはいけない。落胆した姿を見せれば正体が見破られる。


 次にグラビア系の多田さんが答える。


「私もスマホを失くしたので他の人にも協力してもらって探してました」


 え? 紛失が三件も重なれば偶然ではない。明らかな足止め工作だ。一人でも多く学校内に留まらせようとしたことが分かる。


 次の目立ちたがりの勅使河原くんも同じように答えた。


 さらに幼馴染の西村さんもスマホ探しに協力していたと答えた。


 それから大人しい蓮見さんが答える。


「探してもらってる間に大変なことが起こったんですが、その後に職員室に行くと失くしたスマホが届けられていて、無事に手元に戻ってきました」


 次にお調子者の日比谷くんが答える。


「千葉くんのカギも見つかったんだけど、それが結局チャリにしたままになっていて、それを失くしたと思ったみたいで、無駄な時間を過ごしました」


 次に妹系の古橋さんが答える。


「多田さんのスマホを探していました」


 次にモデル系の本庄さんが答える。


「学校が終わるとすぐに家に帰りました」


 次に知的メガネの武藤さんが答える。


「私も多田さんのスマホを探すの手伝ってました。いま考えると、誰かがわざと隠したんだと思うけど、ま、いいや、後で話す」


 最後に孤高の諸星くんが答える。


「僕も地下鉄で家に帰りました」


 それを僕に向かって言うのだった。いや、隣だろうか? 宇崎さんか愛川さんを見ているのだった。


 全員のアリバイ確認が終わったところで武藤さんが総括する。


「あの日、鎌田くんが救急車で運ばれた時、多くの人が集まってて、なんで下校せずに学校に残ってたんだろうと思ったけど、それが犯行計画の一部だと分かって納得した」


 そこで一人一人と目を合わせる。


「ただし『人狼』の千葉くんが自転車のカギを失くしたのは自作自演かもしれないけど、スマホを失くした二人に関しては、犯人によって盗まれた可能性もあるから、そこは慎重になろう」


 千葉くんの転落を見せられたら慎重になるのも当然だ。目立ちたがりの勅使河原くんが尋ねる。


「でも、俺たちは誰かに投票しないといけないんだけど、だったら誰に投票しろっていうんだ?」


 武藤さんが聞き返す。


「カギを探している時、一人になる時間はあった?」

「心当たりのある所を手分けして探したから」

「私たちも」


 そこで蓮見さんにも尋ねる。


「そっちは?」


 その質問にコクリと頷くのだった。武藤さんが頷き返す。


「私も含めて、学校にいた全員に犯人の可能性があるということだね」


 苦慮していることが表情から見て取れた。そこで珍しく孤高の諸星くんが口を開く。


「帰宅したと嘘をついてる場合もあるから、親と一緒にいた近江谷くん以外も犯人の可能性があるよ、僕も含めてね」


 せっかくのシロ確が……。いや、確かに彼の言う通りだ。安易なシロ確も危険である。


 そこで友達の近江谷くんが手を上げて、武藤さんから指名されて発言する。


「投票だけど、実は僕、前回、自分に投票したんだ。キャンセルされるかと思ったけど、通った」


 そんな裏技があるとは思わなかった。近江谷くんが全員に訴える。


「そこで思ったんだけど、みんなで自分に投票するっていうのはどうかな? そうすれば少なくとも無実の人を追放せずに済むと思うんだ」


 それはダメだ。昼の投票が無効化されたら、僕が死を待つだけになる。ここは誰かに反対してほしいところだが、有り難いことに目立ちたがりの勅使河原くんが手を上げた。


「自分に投票できるのが本当なら、一瞬だけ良さそうな案に思ったけど、この中には二匹の『人狼』がいるんだよね? その二匹が自分に投票するなんてある? 鎌田を殺そうとしたように、俺たちのことも殺そうとするに決まってるでしょう」


 その通りだ。お調子者の日比谷くんが会話に加わる。


「でも、明らかに普通の人狼ゲームではなくて、微妙にルールが変わってるんだよな。多分だけど、相当『村人』側に有利になってるんだ。これは想像だけど、犯人に恐怖を与えるために俺たちがいる、みたいな」


 元イジメられっ子の瀬能くんが会話に加わる。


「裏切るのは『人狼』とは限らなくて、西村さんのように、誰もがターゲットにされる可能性があるわけだから、どっちみち誰かが選ばれるのなら、ここで『人狼』が誰を殺したいのか知るのも悪くないのかもしれない。だから、僕も自分に投票してみるよ」


 その後、投票が行われた。僕も自分に投票した。それは結果に影響を与えないためだ。スクリーンに映る白狼男が投票結果を発表する。


「本日選ばれた追放者は、二票獲得した十四番。残された時間を、せいぜい楽しむがいい」


 十四番は、蓮見さんだ。

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