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第11話 二回目の追放会議

 教室に千葉くんの姿はないが、多くの者は遅刻したと思っている様子で、黙って朝自習を行うのだった。


 追放されたことを知っているのは『人狼モドキ』だけなので、じっくり観察したいところだが、首を横に向けるだけでも勘付かれる恐れがあるので自粛した。


 朝のショートホームルームが始まる時刻になっても登校してこなかったので、不穏な空気が流れるも、一限目の授業が終わるまで口にする人はいなかった。


「千葉くん、どうしたのかな?」


 こういう時に臆することなく発言するのは妹系の古橋さんだ。注目が集まったところで、隣に座っている目立ちたがりの勅使河原くんに尋ねる。


「なんか聞いてる?」

「いや、聞いてない。先週から会話もしてないし」


 今度は知的メガネの武藤さんに話し掛ける。


「今頃になって追放されたとかって、ないよね?」

「普通に追放されたんだと思うよ」

「そうなの?」

「だって、ゲーム中は学校を休みたくても休めないんだから」


 古橋さんも分かってはいたが、否定してもらいたかったのかもしれない。お調子者の日比谷くんが神妙な顔つきで疑問を口にする。


「追放って、死んだってことか?」

「それはないと思う」


 シロ確の武藤さんが断言した。

 委員長の小石川くんが問う。


「その根拠は?」

「死んでたら学校に連絡が来てるよ」

「遅れてるだけじゃないのか?」

「少なくとも朝の時点では何事もなかった」

「じゃあ、今は分からないってことだな」

「そうだね」


 それから授業が中止になることもなく、午後を迎えるのだった。その間、不安を装う芝居をしたが、大袈裟に見えないようにするのが難しかった。



 忘れかけていた追放の恐怖を思い出して逃げ出したくなるところだが、いつでも罰を受けてしまう状態にあるので、大人しくディスカッションルームへと移動した。


 座り位置は前回と同じく、パイプ椅子を円形に並べて、そこに出席番号順に座った。最後の一人が着席したところで、今回も自動的にプロジェクターが作動して、スクリーンに白狼男が映し出された。


「諸君らは実に優秀な生徒だ。月曜日の朝から現在に至るまで、誰も罰を受けなかったのだからな」


 逃げ出せない状況下では、従順になる以外の選択はなかろう。文句を言おうと思ったが、親しいと思われると危険なので止めた。


 白狼男が告げる。


「十四番には後ほど追放処分を受けてもらうことになるが、時間がもったいないので、その間に諸君らには二人目の追放者を誰にするのか話し合ってもらおう」


 クラスを代表して委員長の小石川くんが尋ねる。


「千葉くんはまだ生きているんですか?」

「まだな」

「どこにいるんですか?」

「『処分は後で』って言わなかったか?」

「はい」

「くだらない質問で時間を潰すなよ」


 確かに委員長は義務感からか、意味のない質問をしたがる癖があるようだ。そこで知的メガネの武藤さんが手を上げる。


「委員長、例の件について話し合いを始めてください」

「分かった」


 これではどちらが議長か分からない。小石川くんがポケットから二つ折りの紙を取り出す。


「説明する前に、見覚えがある人は正直に手を上げてもらえますか?」


 すると九名の女子が手を上げるのだった。女子で手を上げなかったのは幼馴染の西村さんと大人しい蓮見さんの二人だ。そこで委員長が確認する。


「男子で知ってる人はいませんか?」


 誰も手を上げない。委員長が二つ折りの紙を広げて、掲げて見せる。


「見えるかな? これには手書きで『犯人は西村』って書かれてあります。確認したところ、他の人に送られた紙にも同じことが書かれてありました」


 告発文か? 目撃情報だとしたら僕の勝ちだ。だとしても、幼馴染の西村さんが犯人? ありえるだろうか? いや、今は考えるのを止めておこう。考えると、表情に出るからだ。


 知的メガネの武藤さんがポケットから同じ紙切れを取り出す。


「これ、私も同じのを持ってるんだけど、送られたのは今朝。どこにあったかというと、下駄箱の中。だけど他の人に聞くと昼休みにカバンの中で見つけた人もいるから、時間と場所は全員バラバラみたい」


 誰にも見つからないように仕込んだのだろう。武藤さんが西村さんを見る。


「言いたいことがあると思うけど、先に話をさせてもらってもいい?」


 西村さんがコクリと頷くのを見届けてから話し始める。


「たった一枚の紙切れだけど、ここから色んなことが考えられる。一つは、そのままの意味、つまり何者かが私たち九人に西村さんが未遂犯であると伝えたということ」


 しかし、すぐに自説を否定する。


「でも、それだと特定の九人にしか伝えないって、おかしいよね? 仮に転落事件の目撃者ならば、そのことをハッキリと明記すべきだし、そもそも何か知っているなら事件直後に警察に話してるだろうからね」


 そこで天井を見上げて、しばし考える。誰も彼女の邪魔をしなかった。武藤さんが続ける。


「そうなると目的は一つ、投票先を誘導しようとしたってことだよね。ただし、それが『人狼』の仕業かどうか分からないのが問題なんだ」


 妹系の古橋さんが念押しするように尋ねる。


「え? 『人狼』じゃないの?」

「うん。『村人』の可能性もあるよ」

「そんなことする?」

「しちゃうんだよね、人狼ゲームって」


 そこでムードメーカーの岸くんが二人の会話に割って入る。


「よく知らなかったから調べたんだけどさ、ほんとクソゲーなんだよね。疑わしきを罰しちゃうんだよ、人狼ゲームって。知的なゲームに見えて、やってることはアホだから」


 お調子者の日比谷くんが捕捉する。


「ただ、人狼ゲームの起源は心理実験でもあるし、ヨーロッパで誕生して発展したのも、現実での鬱憤をゲームで晴らすっていう、ストレス発散でもあるんだと思うよ」


 本格ミステリと一緒で、あえて現実と乖離させることで、知的遊戯として楽しめるようになっているのだろう。それを僕たちはリアルでやらされているから地獄なのだ。


 目立ちたがりの勅使河原くんが会話に加わる。


「現代でも魔女狩りはあるんだし、ゲームも現実も変わらないと思うけどね。『村人』がアホなのも現実のままだし、『村人』の敵は『村人』だったりするんだよ」


 元イジメられっ子の瀬能くんがぼそっと呟く。


「結局、生き残ったもん勝ちだからね」


 ここで委員長の小石川くんが仕切り直す。


「つまりメッセージの送り主は『人狼』とは限らず、自衛のために行った可能性があるわけだ」


 表設定しか知らなければ生き残りに必死になるのも当然か。すかさず武藤さんが捕捉する。


「もちろん『人狼』が送り主である可能性も同じだけあるんだけどね。それか、私たちが出す結論を見越して、西村さん本人が送りつけたとか」


「やってません」


 西村さんが首を横に振って否定した。


「犯人でもありません」


 彼女ではないだろう。なぜなら、ここでの自作自演はリスクが高いからだ。未遂とはいえ敵は殺人犯なのだ。ならば、こう考えるはず。『生贄』に選ばれたら助からない、と。


 実際に僕は考えている。助かるためには『生贄』を見殺しにするしかない、と。だから絶対にリスクを取るような真似はしないのである。


 そこで突然、スクリーンに『生贄』の千葉くんが映し出されるのだった。

 彼はどこか分からない歩道を一人で歩いていた。

 制服を着ているので、登校する意思はあったようだ。

 この場にいる全員の目が彼に釘付けになっている。

 土曜日の午後だけど人はまばら。

 そんな中、千葉くんの歩く速度だけが異様に遅い。

 小学生の集団に抜かされた。

 目指す先に歩道橋があった。

 千葉くんがゆっくりと階段を上がっていくのだった。

 橋の上を歩く彼の背後に忍び寄る影。

 いや、黒いのは、それが黒狼男だからだ。

 小学生が横を素通りした。

 どうやら他の者には見えていないようだ。

 千葉くんが階段を下りようとした瞬間。

 黒狼男に背中を押されて転落するのだった。

 女子の悲鳴。

 顔を背ける人と、凝視する人。

 僕はそれを視界の端で確認するのがやっとだった。

 千葉くんの周りに人が集まる。

 通話している人もいた。

 血は出ていないが、意識はない状態だ。

 黒狼男が階段を下りてくるのだが、誰も気づいていない。

 そこでスクリーンが切り替わった。

 白狼男が僕たちに向かって呼び掛ける。


「追放されると、ああなっちまうから、もっと真剣に話し合ってくれよな」


 夢のままだが、夢から覚めたような雰囲気だ。

 初めて恐怖を実感したような。

 やっと始まったような。

 明らかに空気が一変した。

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