表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/47

第9話 森再び

今回ちょっと長いです。

…俺達は、今こっそり森の前まで来ている。

…さっき、顔バレ位置バレしていたと

いう事を反省し、俺はリプラとカラリに

服を買ってきてもらった。


リプラとカラリ自身も、服を買い、

3人で、軽い変装をしている。

…顔でもバレないように、若干

髪型を変え、メガネもかけているが、

本当にこれでバレないんだろうか。


…俺は、そう思いつつも、森へ

入っていった。


「……いや…相変わらず鬱蒼としているなぁ。」


「…待ってください、誰か…居ます!」


「…えっ?」


少し森を進むと、突然リプラがそう言った。

…確かに、少し向こうに人影が見える。

俺は、少し目を凝らしてみた。


「…んん?」


…なんか、この人見た事があるような…。


「…セクタ?」


「…そうですね。セクタさんのようです。」


「何か言ってるみたいだけど…。」


「えっ?そこまで分かるんですか?」


俺がそう言うと、カラリは不思議そうに

そう言った。


「…そうですね。何か言ってます。」


リプラは、そう言った。


「…そうなんですね…さすが、ツイトさんと

リプラさんです!」


カラリは笑顔でそう言った。


「ふふっ、ありがとうございます。」


リプラも、笑顔でそう答えた。


「あ、ありがとう…。」


俺は、若干緊張状態でそう答えた。


「…んっ?なんか頭を抱えてない?」


「…そうですね、木々の間で、しゃがみこんで

います。」


「…ちょっと近づいてみようか。」


俺達は、セクタにバレないように茂みの方

から近づいた。


「…ああー、どうしよう…。迷ったぁ…。

…ああ、コンパスが、狂ってる…。」


セクタは、深刻な表情で、そうぶつぶつと

呟いていた。


「…この森は、電波を妨害するので、

電子コンパスが正しく方向を示さない

事があるみたいですね。」


リプラは、冷静にそう解説した。


「………あ。」


と、そんな事をしている内に、セクタが

こっちに気づいてしまった。


「…な、なな、何?な、何か用?」


セクタは、焦りながらそう言った。

…って言うか、変装バレてるじゃん。

…ダメじゃん。…効果ないじゃん!

…俺は、そっとメガネを外した。

…その様子を見ていたカラリも、

変装道具を外した。

リプラの変装は、何故かもう外れている。

セクタが気付く前は、確かに変装

していたはずだったのに…。

…まあ、細かいことは気にしないことにした。


「いや、用って言うか…俺達は、リ・クエスト村

に行くために、この森を抜けようとしていた

んだけど…。…え?何してるの?」


俺がそう言うと、セクタは、突然立ち上がり、

前髪をいじり始めた。


「い、いやぁ?何も?」


そして、そう言った。


「…え、いや、さっき、コンパスが狂ったって…。」


俺が、ゆっくりそう言うと、セクタは、

やっぱり聞いていたのか…というような顔を

した。


「…まあ、ちょっと…勇者……さん達、

リ・クエスト村に行くって言ったよねぇ…。

僕は、その近くの都市に行くために、一旦

リ・クエスト村を通るんだよねぇ…。」


セクタは、しんみりとした顔でそう言った。


「…つまり?」


「…み、道案内をしてあげても…。」


「あ、お断りします。」


「……いや!!ごめんなさい!道に迷ったんで!

…その…一緒に…。お願い…出来ません?」


セクタは、目をキラキラと輝かせ、そう

俺達にお願いしてきた。


「…まあ、いいけど…。…何でここにいるの?」


「…えっと…その…。ま、まあ勇者さんと話を

して…その後、病院にも自警団にも行ったん

だけど、まあ、未成年って事と、大きな事

には関わってないって事で、僕は解放

されたんだけど…。まあ、えっと、その、

そういう訳で…ですねぇ、まあ、父さんに

会いにですねぇ、行こうと…していた訳です。」


セクタは、目を泳がせながらそう言った。


「…で、えっと…着いていってもいい、と。」


と思ったら、小声でそう呟いた。


「…本当に?」


「いや、本当だけど…2人とも大丈夫?」


「ええ、ツイト様がいいのであれば。」


「…まあ…ここにこのままにしておくなんて、

出来ないですし…。」


2人はそう言った。


「…うん、ほら、大丈夫だって。行こう?」


「…あ、ああ、ありがたき幸せ…。」


「う、うん…?」


「では、こちらです。」


俺は、リプラの案内の通り、森を進み始めた。


「…………………いや、やっぱりちょっと待って!!

言葉遣いおかしくない!?」


が、俺は思わずセクタにそうツッコミを

入れてしまった。


「…そ、そんな事ないでございます…。」


「…やっぱり!…もしかして、気を遣ってる?」


「…………………まあ。」


俺がそう言うと、セクタは、長く間を取った

後、そう呟いた。


「…だから俺は気にしてないって、ほら、

軽い気持ちで復讐には参加しないって、

約束してくれたじゃないか。…ね?ほら、

2人とも…大丈夫…だよね?」


「…はい、問題ないですよ。」


「…だ、大丈夫ですって!…やった事は反省して、

改めようと思っているんですよね?

私はあなたには全く怒っていません!」


「…ほら、問題無いって。」


俺がそう言うと、セクタは少し表情が

柔らかくなった気がしたが、まだ不安

が見えた。


「…本当に?」


「「「本当。」」」


「…本当に本当?」


「「「本当に本当。」」」


「…………そっか…うん、そっか…。」


セクタは、そう、ぶつぶつと言いながら、

こっちの方に近づいてきた。


「…?」


「…………………うああぁあぁあぁああん

ごごろ゛ぼぞがっ゛だよ゛ぉ゛お゛ぉ゛お゛!!゛」


そして、泣き崩れた。


「…ええええええ!?」


「………うっく、ううっ…本当に…本当に

心細かった。…僕まだ1人は早かったよぉ…。」


「………………。」


セクタ……。…こいつは…分かんないなぁ…。

煽り口調かと思ったら、大人っぽい口調

だったり…今は完全に、歳相応っぽい口調だろ?


「…えっと、なんて呼んだらいいかな…?」


「…あ、ああ、セクタ…で、いいよ…。」


セクタは、目を擦りながら、そう答えた。


「…えっと、セクタ…な、なんか雰囲気

変わってない…?」


俺は、歩き始めながらそうセクタに聞いてみた。


「あ、まあ……えっと………そう…うん。」


セクタも歩き始めたが、言葉を詰まらせていた。

…もしかして、何か言いたくない事か、

言いずらい事があったりするのか…?


「…………………。」


俺は、もしセクタが何かを隠して

いるのであれば、もしかしたら、あれ

ではないか、という予想はあった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「勇者君、君は“多重人格”なんだなぁ!」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


もしかして、セクタがこういう発想なのは、

セクタ自身がそうだから…とか。

…うーん、しかし、小さい子ってたまに

突拍子もないことを言ったりするしな…。

もし違ったら…いや、でも聞かれて嫌な事を

人に聞いたりしないよな。

…聞いてみるか。


「セクタって…もしかして…多重人格

だったり…する?」


俺は思い切ってセクタにそう聞いてみた。


「…え?………まあ……うーん。」


セクタは、戸惑ったような顔をしていたが、

まあ、困っていたのを助けてくれたからなぁ…

言わないとダメだよなぁ…と呟き、俺と

目を合わせた。


「えっと…まぁ、お察しの通りというか…

…うん、まあ、そう………なんだけど。

でもちょっと違うというか…何というか。

…完全に人格が変わる訳では無いと言うか…。

…えっと、記憶はあるんだ。

…でも、なんか声が聞こえてくるって言うか、

自分の後ろに誰か別の人がいるような感じ。」


「…記憶はあるけど、別の人がいるような感じ?」


「…えっと、例えるなら、ほら、悪い事を

しちゃった時、自分の中の天使は、『自分から

打ち明けた方がいいよ』って言うけど、

自分の中の悪魔は、『言わなきゃバレないよ』

っていうような…それの延長線上というような…。」


セクタは、頭をひねりながらそう言った。


「…ああ、まあ、何となく分かったよ。

…でも、記憶があるってことは…。」


「あっ…………えっと、ご、ごめんなさい!」


俺がそこまで言った時、セクタは言葉を

遮って、謝ってきた。


「ああ、ああ、そうじゃないそうじゃない。

ごめんごめん…。記憶があるって事は、

あの…………『セクタさん』も一応セクタで

あるって事だよね?…今は全くそんな雰囲気は

ないけれども…。」


「…う、うん、まあ、そうだと思う。

…でも………少し勝手が違うから…。」


「あ、あと、人格が急に変わる事ってある?」


「…うーん、まあ、あまりない。

…突然悲しい事や、衝撃的なことが起こったら、

急に変わる事もあるかもしれない。」


セクタは、そう言うと、気まずそうに前の方に

行ってしまった。

…俺は全く気にしていないのだが、さっきから

セクタの挙動がぎこちない。

…セクタは、かなり気にしているみたいだ。


「…なんだかとんでもないことが分かりましたね。」


…と、セクタとの会話が終わった後、リプラが

俺に話しかけてきた。


「…まあ、そうだな。」


…少なくとも、今とあの時の人格は、

明らかに違ったよな。

…一体、別の人がいるような感じ、とは

どういった感覚なのだろうか。

…まあ、まだセクタは気を遣っている

様だし、聞きたい事は、また後で聞くか。

俺は、そう思った。


「…あ、そう言えば、リプラ、何か調べたい

事があったんじゃなかったけ?」


そして、俺はリプラにそう聞いた。


「…ええ、少々。…あの依頼に関して

なのですが、あの依頼の安全性を調べた

時、危険ではないと出たのです。

…それが少し気になり、調べていたのです。

…危険性分からなかったこともそうですが…

おかしいと思いませんか?ツイト様。


…あの集団が言っていたことが本当だった

としても、私達のように、依頼を受けた後に

気づき、自警団に駆け込む人もいるでしょう。

…それに他の、詐欺にあった人も、

死ぬのを覚悟して自警団に駆け込む人も

いるはずです。


…さらに、カラリさんの話から、あの集団

は、全く同じ依頼で詐欺を続けていたこと

になります。

誰かが受けているはずなのに、全く同じ

依頼がずっとそこにある…おかしいと思い

ませんか?」


リプラは、悩むような動作をしながらそう言った。


「…まあ、確かに…今までなんでバレなかったん

だろうとは…思った。」


俺はリプラにそう言った。


「…はい。…ですので、私はあの集団について、

もう少し調べていたのです。

…おかしいところは何もありませんでした。

…安全すぎて怖いほどです。

…しかし私は、調べた安全なサイトに

何か裏があるのではないかと思い、

今、情報を整理しているのです。」


「なるほど…。」


…リプラは難しい事をしているんだな…。


「…ところで、もうだいぶ森を進んで

いるような気がするけど、今何時くらいか

分かる?」


そろそろお腹がすいてきたな、と思った

俺は、リプラにそう聞いてみた。


「…?まあ、分かりますが…

スマートフォンにも時計はついている

のでは無いでしょうか?」


リプラは、不思議そうにそう答えた。


「…いや、まあ、そう思って宿屋で時間を

確認したんだけど、時間がズレている

みたいなんだよね…。えっと、今は、

14:45…?」


「…ズレていますね……。直しましょうか?」


リプラはそう言った。やはりズレていた

ようだ。


「…直せるの!?」


「…はい、多分。こうすれば、こちらの

世界の機種は直るのですが…。」


俺がそう言ってスマホをリプラに

渡すと、リプラが何かを設定したと

思ったら、おもむろにスマホを頭の

上に掲げ始めた。


「……………はい、直りましたよ!」


しばらくすると、リプラはそう言って

スマホを渡してきた。


「…えっと………11:50………?」


「…なるほど…そろそろお昼にした方が

よろしいかもしれませんね…。

ちょうどいい場所を探しましょう。

皆さん!お昼にしましょう!」


リプラはそう皆に呼びかけた。


「はい!」


「……………。」


カラリは、明るく近づいてきたが、

セクタは、全くの『無』で近づいてきた。


「お昼ご飯を食べるのに、ちょうどいい場所

を見つけたら、教えて下さい。

あ、声の届く範囲でお願いしますね。

完全にバラバラになってしまったら

危険なので…。」


「はい!」


「………………はい。」


2人は即座に返事をした。


「…あ、はい!」


俺も、ちょっと遅れて返事をした。


「…では、見つけたら教えてくださいね。」


リプラは、そう言ってさっきまで進んでいた

方に向かった。


「「………………。」」


それを見たセクタは俺から見て右に、カラリは

俺から見て左に向かった。


「うーん。」


なら、俺はさっきまで歩いていた方を

探せばいいのか?と思っていたが、

当たり前だが今まで来たところはもう

既に確認済みなので、俺はさっき通ってきた

道よりも、若干カラリ寄りの、後ろの方を

探してみることにした。


「………しかし探すと言ってもどうすれば…

あ、もういっそ『kantsumire』で

聞いてみるとか………『森 開けたところ

探し方』で検索してみるとか………。」


…と、俺はスマホを開いて、まずは検索

しようとしたが…。


「…圏外…?

……………あ、そう言えば、電波を妨害

するって…………。」


……………。


「よし!探す事にするかぁ!」


俺は、さっきの行動をなかったことにし、

普通に探し始めた。


「……うーん、見当たらないなぁ…。

ちょうどいい場所…。」


俺は、しばらく進んだところでそう呟いた。


「お昼を食べるのにちょうどいい場所が

開けたところとは限らないのか…?

…でも、やっぱり周りが見渡せる場所の

方がいいよな……ん?」


…と、俺が言った時、何か物音が聞こえた。


「…何だ………?」


俺は木の影から、物音がした方をチラッと

確認した。

…それは、カラリだった。


「…カラリか…モンスターとかじゃなくて

よかった。」


俺はそう思いながら、カラリがこっちの方に

来ているなら、俺は違う方を探した方が

いいよな…と思い、カラリがいた方とは、

反対方向へ行こうとした…その時、

カラリの方ではない場所から、物音がした。


「…こ、今度は、何だ……?」


俺はまた木の影から、物音がした方をチラッと

確認した。

…それは、セクタだった。


「…セクタか…ふー、モンスターかと思った…

よかった…。」


…ん?あれ、カラリとセクタは真逆の方向に

行ったはずだよな?…セクタがこっちの

方向にくる訳が無いはず……いや、でもまあ、

セクタは、コンパスが狂って絶望していたし、

方向感覚が掴めていないって可能性も否定

できないな。


「…セクタ、セクタ…。」


俺は、セクタにギリギリ通るような声で

話しかけた。


「…………あ、何?」


「いや、こっちにはカラリが居たから、

違う方を探した方がいいんじゃないかと

思って。」


セクタは、何か焦っているようだったが、

俺は構わずそう言った。


「あ、そ、そう…だね。」


セクタはそう言うと、カラリがいた方向とは

真逆の方へ戻って行った。


「…こっちの方にはカラリもいるし、俺も

セクタがいる方向寄りの後ろの方に

移るか。」


俺はそう思い、そっちの方に移り、

また、ちょうどいい場所を探し始めた。


「…………うーん、こっちもちょうどいい

って感じの場所はないな。…もうちょっと

奥に行くか…?…いや、でもそうすると

声が届かなくなるだろうし………ん?」


俺がそう、これからどうするか悩んでいると、

また、物音が聞こえた。


「………。」


俺は、いや、もしかしたらモンスターかも

しれないからな、と思いまたまた木の影から

物音が聞こえた方を確認した。


「…いやセクタ。」


…それは、セクタだった。

…まあ、何となく予想はついていたが。

…と思った瞬間、セクタとは違う方向から、

物音がした。


「………………。」


いやいやいや、まさか、4回同じである

訳が無い。…次こそ、カラリと見せかけて

モンスターがいるパターンだろ。

…絶対にそうだ、そうに決まっている。


…俺は、そう思いながら、またまたまた

木の影から物音がした方を確認した。


「…やっぱりカラリかい!」


…それは、カラリだった。

…えっ?あれ?さっきカラリと真逆の方向に

行ったはずだよね。


…これは…この状況から考えられることは2つ。

1つ、この森は、迷いの森的なやつだと言う事。

…そして、2つめ…それは、セクタとカラリが

1人になりたくないから俺の方に着いてきている

という事…。

…でも、1つ目の考えられる事は、多分“ない”。

何故なら、この森が、同じ道に戻って来て

しまうタイプの森だったら、セクタが地図

なんて書ける訳が無いからだ。

…あの地図は、簡略化されているが、嘘はない。

…嘘があれば、リプラはあの廃工場にたどり

着けないからだ。


…森ですぐ迷うようなセクタが、同じ道に

戻って来てしまうような複雑な森の地図を

書ける訳が無い!

…ついでに、地図を書いた事があると言う事は

きっとお手本の地図を見たと思われるのに、

森で迷うセクタは……いや、これ以上は言うまい。


よって、1つ目の考えられる事はほぼない

と想定されないと思われる!!


…いや、しかし2つ目…そんなことがありえるのか?

…有り得るか。カラリは、この森がきっかけで酷い

目に遭ったのだし、セクタは…迷うのが不安か、

俺に罪悪感があり、何が言いたいんだけど、

勇気が出せないのか、そのどちらか…か?


…まあ、そうだな。でも、別にそれは悪い事

じゃない。

…お昼ごはんを食べる場所が見つからないのは、

とても困るが。


「…ツイト様ー!ちょうどいい場所が見つかり

ました!」


と思っていると、リプラの声が聞こえてきた。


…こういう様に、声が聞こえてくるって事は、

あまり離れていないって事だよな。

…という事は、やっぱり2つ目の考えで

あってるのかもしれないな…。


…俺はそう思いながら、リプラがいた方へと

向かおうとした。

…カラリやセクタも、そっちの方に

向かい始めたようだ。

俺は、その様子を確認して、安心しながら

向かった。


「…おお、結構いい場所だなぁ。」


その場所を見て、初めに出てきた言葉が

それだった。

木が、いい感じに倒れていて、空いた

隙間から日がさしている。


「…え?でもお昼ご飯って…。」


俺は、そう言えば、お昼ご飯食べると

言っても、お昼ご飯をどう食べるのだろう、

と考えていた。

リプラの事だ、きっとお昼ご飯自体は、

俺が病院にいる間に買っておいたり

してくれたのだろう。

…しかし、一体どんなお昼ごはんを

買ってきてくれたのだろう。

…調理が必要なものか…そうではないか…。

…あ、リプラ、めちゃくちゃ高い物を買って

きたりしてないよな…?


俺はそんな不安を抱き、リプラの様子を見た。


「…はい、ツイト様が病院にいた間に、

買っておきました。」


リプラは、そう言いながら、どこからともなく

カレーパウチのようなものを取り出した。

…くっ、あれは一体なんなんだ?カレーか?

それとも、めちゃくちゃ高いカレーか?

俺がそう思っていると、また、どこからともなく

少し小さい、少し縦長の鍋を取りだし、さらに、

ペットボトルに入っている水を、どこから

ともなく取り出し、集めたと見られる木の枝

も取り出し、そして、取り出したものを

組み合わせ始めた。


「…出来ました!あとは火ですね。」


リプラは、組み立てが終わった後、

こちらの方を見てそういった。


「…?」


俺は思わずセクタの方を見てしまった。


「…え?僕は火なんて、出せないよ…。」


セクタは、カラリの方を見た。


「火を大きくする事は出来るかも

しれませんが…私も、無理です…。」


カラリは、リプラの方を見た。


「…私は、冷やす魔法は持っていますが、

火を出す魔法は使えませんね。」


「「「「…………。」」」」


場に沈黙が流れた。


「……………。」


リプラは無言でどこからともなく火打石を

取り出した。

いや、火を起こせる道具はあったんかい。

と思っていると、リプラはおもむろに

鉄菱を取り出し、少し太めの枝を削り

始めた。


「…えっ?何してるの!?」


俺は思わず素でそう驚いてしまった。

リプラは、枝をほうきのような形に

削っていた。

…というか、カッターとか、

小型ナイフとかは、買っていなかった

のか…。鉄菱で削れるもんなのか?

…いや、でも、あの振動するやつが

あれば、鉄菱の先端で削れない事は

ない…のか?

…俺がそう考えているうちに、リプラは

火打ち石と打ち金でその、削った部分に

火種を落とした。


…なるほど、だからそんな形に

削っていたのか。

…と、思っていると、突然リプラは

静止した。


「…え?大丈…。」


「…ふー。」


と思ったら、息を吹きかけていた。


…これは…あれか、リプラはアンドロイド

だから、呼吸をする必要はないので、

呼吸器官はついていないが、空気を送る

必要がある場面は結構あるので、

空気を取り込んで吹ける様にする

システムはついているってことか。


…と、そんな事を考えている間に、

リプラは火を枝に置いた。


「…カラリさん!今です!」


「…は、はい!『グロウ』!」


リプラの声がけで、カラリがそう言うと、

火種が大きくなり、枝に移り燃え始めた。


「「おおー…。」」


俺とセクタは、そう、声がハモった。

…リプラは、テキパキと準備をして、

パウチを煮始めた。


「…って、そう言えばリプラ、セクタの

分ってあるの?」


俺は、リプラにそう聞いた。

煮られているパウチは、3つあるが、

大丈夫なのだろうか。


「…今回は大丈夫ですよ。

…万が一の事があっても、まあ、モンスター

を狩れば…。」


…リプラから、恐ろしい事を言われた。

…万が一の事がないのを祈るしかない。

…というか、セクタもこの森を抜けようと

していたんだよな…?

…セクタは、食料を持ってきてはいないのか…?


「…セクタ。…セクタは何か持って来ていたり

する?」


俺がセクタにそう聞くと、セクタは不思議

そうな顔をしていた。


「いや、セクタは、もともと1人で森を

抜けようとしていたんだよね、なら、

食料とか、持ってないのかな?って思って。」


「………?……………。…………………。」


セクタは、少し考えた後、顔から表情が

抜け落ちたと思ったら、絶望したような

表情になった。


「…あー、まさか、持ってない…?」


「…………。」


セクタは、静かに頷いた。

…食料、持って来ていないのか…。


「…ちなみにお金とかは?」


「……………。」


「まさか、持って来ていない…?」


セクタは、静かに頷いた。


「…じゃあ、逆に持ってきているものは…?

…カバンを持っているということは、何も

持ってきていないというわけではない

だろうし…。」


「…スマホと、充電器と…画鋲と、絵本と…魔石。」


「えっ!?…それだけ?」


「…うん。」


…ええええええええ!?

って、なんで画鋲を持ってきた!?

武器か!?モンスターに襲われた時とか…。


「魔石ですか!良かったですね!それを

食べれば、死ぬ事はありませんよ!

魔力も取れますし…。まあ、空腹感は

無くならないとは思いますが。」


リプラは、笑顔でとんでもないことを言った。

いやいやいや、死ぬ事は無くてもなんか…

いけない気がする。

…魔石に頼るのは、最終手段にしよう!

…というか、セクタは無一文、食料無しで

森を抜けようとしていたのか…。

俺は、この森の広さを知らないが、

もし抜ける事ができたとしても、

次の場所に着いた時生活出来なくなってしまう

ので、その状態で行くのは明らかに間違いだ

という事は分かる。


「…せめて、『カンパニー』で、何かしら依頼を

受けてくれば……。」


「ツイト様、カンパニーにある依頼を受ける

条件として、10歳以上である事が最低条件として

設けられています。」


俺が話していると、リプラはそう声をかけてきた。


「…え?…セクタって…何歳?」


「…きゅう。」


「九!?9歳!?」


9歳という事は…小学校で考えると、三、四年生

くらいか?

…そして…セクタは『カンパニー』から依頼を

受ける事は、出来ないのか。


「…でも、森を抜けようとする前、普通に

生活出来ていたんだし、今お金を持っていない

って事は無いんじゃ…。」


「実は…置いてきたんだ。」


「置いてきた!?…お金を?」


「…うん。…だって、そのお金は…正しい

お金じゃないかもしれないし、持っていく

べきじゃないって思ったんだ。」


「お、おお…。」


確かに、その心持ちは正しいかもしれないが、

それだとセクタ自身が倒れてしまうぞ。

…まあ、だから持っていないという事か。


「…そう言えば、セクタは、どんな魔法が

使えるの?」


俺はセクタにそう聞いてみた。

魔法によっては、食料が無くても何とか

ならないかと思ったからだ。


「…魔法…?僕が使えるのは、『ヒール』と、

後は、ちょっとした…水とか、風とかの

魔法と、支援系の魔法や探査系の魔法も多少…。」


セクタは、そう答えた。


「水ですか!良かったですね!魔石を

溶かしこんで飲めば、空腹感も収まり

ますよ!」


リプラは、笑顔でまたとんでもない事を

言った。魔石に栄養があるのかは不明だが、

それを除いても栄養が無さ過ぎる。

…やっぱり魔石に頼るのは最終手段にしよう。


「ちなみに、セクタさんが使える風魔法は、

強い風魔法でしょうか。」


俺がそう思っていると、リプラがそう

セクタに声をかけていた。


「…いや、弱い風魔法だよ。そよ風程度の。」


セクタは、不思議そうに、そう、返答していた。

一方リプラは、セクタの言葉を聞き、

それはちょうどよかった!…といった顔をした。


「セクタさん、火に風を送って下さいませんか?

火を強めていただきたいのです。」


「…うん、いいよ…『ブリーズ』。」


「…もう少し弱くても大丈夫ですよ。」


「あ、はい…。」


…と、リプラはセクタが火を調整しているの

を後ろから見て、指示を出していた。


「……………。」


2人が料理の方に集中し始めたので、

俺は少し距離を置いて、ちょうど良さそうな

倒木に座り、空を見上げた。

…そしてふと思った。

俺、写真を撮っていないな…と。


…いや、元の世界に戻った時、ゲームの

データが消えるのだから、写真のデータ

もきっと消えてしまうのだろうが、

消える、消えないはともかく、異世界の

風景は、やはり珍しいので、少し収めて

おきたいな、と思ったのだ。


「……………。」


俺は、スマホの画面を開き、カメラアプリを

探した。

…カメラアプリはあった。

俺は、カメラアプリがあったことに、

少しホッとしながら、起動した。


「…………うーん。」


俺は、木々と空が写るように移動し、

画面をタップした。


「…お、我ながらよく撮れてる。

じゃあ、鬱蒼とした森も撮っておくか。」


俺は、木々だけが写るように調整し、

画面をタップした。


「…よし。」


俺は撮った写真にまあまあ満足し、

スマホをしまった。


「……………。」


再び暇になった俺は、また、ボーッと

空を眺めた。


「…あ、ツイトさん…。」


その時、カラリが話しかけてきた。


「…ん?…カラリ…どうしたの?」


「…いえ、少し、話しておきたい事が

ありまして…。」


カラリは、緊張した様子でそう言った。


「…え?何…?」


「えーっと…ですね。」


「うん。」


「その………ですね。」


「うん。」


「あの………………ですね。」


「うん?」


俺は、しばらく相槌(あいづち)をうっていたが、

中々話し出さないリプラをに、少し

違和感を覚え始めた。


「…大丈夫?…何か言いにくい事?」


「…いや…うーん、そうですね、やっぱり、

心の中に秘めておく事にします…。」


カラリは、静かにそう言った。


「…?」


カラリは、哀愁的な笑みを浮かべた。


「…何か、別れの言葉みたいになってしまう

と思ったので。

…………いつか、“言えるようになった時”に

また、言いたいと思います。」


「…え、ああ、うん…。

なら、そう……だね。…そう…か。」


俺は、急なカラリの言葉に若干困惑

しつつも、納得しようとした。


「…え、っと、カラリ。俺も、あの柄の悪い

集団について、少し聞きたいと思っていた

事があるんだけど…。」


俺は、去ろうとしたカラリにそう言った。


「…あっ、は、はい!…何でしょう!」


「…あの人達の、表向きの仕事の1つは、

スライムの生態調査のようだけど、他には

何か分かったりする?」


「…他に、ですか…。確か、私が依頼を受けた

時は、武器や、モンスターからのドロップ

アイテムの販売も行っていると、少し

耳に挟んだ…気がします。」


リプラは、そう答えた。


「…なるほど。」


…商売業か…。と、俺が考え始めた様子を

カラリが見て、突如焦り始めた。


「…あ、つ、ツイトさん、もう少し休んで

いた方が、良いのではないですか?」


「…ん?ああ、確かに、俺、1回倒れた

んだよな…気を付けなくちゃな…。

まあ、でも今は、大丈夫だと思うけど…。」


「…でも、気をつけておく事は大事ですよ。」


「…んー、そう?」


「…そうですよ。」


「そうか…。」


カラリに強くそう言われて、俺は、

しぶしぶ納得した。

…まあ、1回倒れているんだから、また

倒れないかと心配する気持ちは分かるの

だが、何だか心配しすぎというか…。

何だろうか、あまり心配しないで欲しいと

いうか…。


…例えるのであれば、小学校入学したての、

新1年生のような気持ちだ。

気持ちは分かるが、あまり心配して欲しくない。


……………。


…あまり心配して欲しくない、かぁ…。

そんな事を思ったのは、久しぶりだなぁ…。

俺は、ふと、そう物思いにふけた。


…まあ、俺が元いた所では、倒れるような

事は無かったのだが…。


「ツイト様、カラリさん、料理が

出来ましたよ!」


…そんなことを考えていると、リプラが

俺達にそう声をかけてきた。

…一体何が出来上がったんだ…。


俺は、恐る恐るパウチを受け取った。


…この感じはやっぱりカレーか?

いや、でも丼物という可能性も…。


「…でえええい!」


俺は、ドキドキしながらパウチを開封した。


…え、何かエビチリみたいなのが出てきた。

それは予想外だった。…まあ、エビチリは

嫌いではないから、別にいいのだが。


「はい、食器です。」


リプラはそう言って、お皿とフォークを

俺に渡した。


「じゃあ…いただきます。」


俺は、お皿に、エビチリ(?)を出して、

一口食べてみた。

…ん?なんか海鮮の味がするぞ?

いや、エビは海鮮なんだけど。

…ベースの味に、海っぽい味がある。


…そうか、この世界に存在する食べ物が

元いた世界に存在する食べ物と、全く同じとは

限らないのか…。


…って、エビもよく見ると何かムキムキ

何ですけど…。…何か、肉厚というより、

シュッとして硬めだ。


…この世界には、モンスターもいる。

この世界のエビは、過酷な生存競争に

打ち勝ったのだろうか。

…そう考えると、このエビにこの世界の

歴史を感じた。


「…味わって食べよう。」


俺は、しんみりとした顔でエビチリを

食べた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…ごちそうさま。」


そして、俺はエビチリを食べ終わった。

…周りを見ると、みんなは既に食べ終わっていた。


「…そう言えば、リプラはどうするの?」


「…こうします。」


「…え?」


リプラは、突如魔石を取り出し、食べ始めた。


「ちょ、ちょっと!何してるの!?」


「…私は魔力があれば大丈夫ですので。」


「え……あ、そ、そっか。」


突然の行動に、俺はビックリしたが、

そう言えばリプラは電力と魔力で動いている

んだった。別に魔石を食べてもおかしくは

ないよな…。俺はそう思った。


「…そう言えば、汚れた食器はどうするの?」


「…大丈夫です。見ていて下さい。

…『ピュアー』!」


リプラがそう言うと、汚れた食器はみるみる内に

元の綺麗な姿に戻っていた。


「後は少し水で洗えば大丈夫です。」


「おお!すごい…けど、今使った魔法って、

そう使うのが正しいの?」


俺はふと疑問に思った事を聞いてみた。


「おや、ツイト様、鋭いですね。

この魔法は、本来こう使うものでは

ありません。…本来は、聖なる力で

アンデッドなどのモンスターを退ける魔法

として使われます。」


リプラは、そう答えた。


「…え!?…いや、何で聖なる力で

アンデッドなどのモンスターを退ける魔法が

汚れ落としに…?」


俺がリプラにそう聞くと、リプラは、

突如真剣な表情になった。


「…実はある時、汚れを落とすような魔法

が無いか探していた研究者がいました。

その研究者はある時奇妙なことを聞いたのです。

…『ピュリフィケーション』や、『浄化(カタルシス)』など

アンデッドを浄化する系の魔法が使われた

場所の環境が少し良くなるという噂です。

その研究者は、まさかと思い、ちょっとした

汚れに、アンデッドを浄化する魔法の中でも

1番低いランクの魔法である『ピュアー』を

使ったところ…効果があったのです。

これが、アンデッドを退けるはずだった魔法が

汚れ落としとして普及してしまった歴史の

始まりです。」


「なるほどなぁ、それが歴史の始まり…って、

いやいやいや、何故!?」


「『ピュアー』は、アンデッドを退けるだけ

でなく、汚れも退けるようです。」


そんな、ダブルで浄化なんて、よく見るCM

のような…。

…それにしても食器がアンデッドと同じ扱いを

受けているなんて…いや、厳密には同じでは

無いが、食器に申し訳ないような…。

いやむしろ、アンデッドに申し訳ないのか?


「…まあ、そうか。」


俺はさまざまなことを考えた結果、納得する

事にした。歴史も常識もきっと俺が元いた世界

とは違う。郷に入っては郷に従え…そう、それだ。

深い事は、考えない事にしよう。


「…はい、終わりましたよ。」


「…あ、うん…。」


何やかんや話をしているうちに、リプラは

食器をしまい終わっていた。

…という事は、また進み始めるのか。


「リプラ、そう言えば、後どのくらいで

この森を抜けられるの?」


「…そうですね、日が暮れるギリギリか、

次の日でしょうか。」


「…なるほど、結構かかるんだな…。

…なら、そろそろ歩き始めようか?」


「…そうですね、進み始めましょう。」


こうして、俺たちは、また進み始めた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…そう言えばさ、セクタは探査系の魔法が

使えるんだよね?」


…しばらく森を進んだ後、俺はセクタに

そう声を掛けた。


「…そうだけど…。」


「…探査系って、どういった魔法なの?」


「え…?…じゃあ、ちょっと見ていて。

……『サーチ』…。」


俺がふと疑問に思った事をセクタに

聞いてみると、セクタはそう言って目を

瞑った。


「…!?」


…と、突然セクタは目を見開いた。


「…え?何?どうしたの?」


「…何か、魔力が異常に高いスライムが、

この先にいる…。」


「…魔力が異常に高いスライ…ム?」


俺がそう言った瞬間、周囲の空気が変わった。

…さらに、ゴオオオという音がどこからか

聞こえ始めた。


「………。」


…俺は、音が聞こえた辺りの木の影から、

恐る恐る覗いて見た。


「…………!?」


…そこには、謎の光とオーラを放つスライム

がいた。


「…えっ、何あれ…?」


ゴオオオという音も、そこから聞こえている

ようだ。


「あれは…明らかに、魔王の力の影響を受けて

いるモンスターですね。」


リプラは、俺にそう言った。


「…これは、倒して大丈夫…なの?」


「大丈夫だとは思われます。」


「…えーっ?」


俺は、疑問を持ちながらも、その、謎のオーラを

放つスライムを倒してみた。


「…っ!?」


スライムを倒すと、スライムが持っていた

オーラが、俺の方に移った。


「…ま、まずいよ!魔力量の限界を超えたら、

人は…!いくら勇者といえど、耐えられない!」


セクタは、そう、心配そうに叫んだ。

…が、俺は全く何ともなかった。


「………あれ?」


「…ツイト様には、魔力が通る回路がない

ので、限界もありません。…ツイト様が

得た魔力は、ずっとツイト様の周りを

漂っているだけで、体を通ってはいない

のです。…ツイト様の周りを漂う魔力は、

密度を高めて、外に放出しないように

なっていたようですが、さすがに今回は

得た魔力量が多すぎたようですね。」


リプラは、冷静にそう解説した。


「…あー、今まで得た魔力って、

俺の周りにあっただけなんだ。」


「そうです。初めに言った通り、ツイト様

には、レベルの差と魔力の差があるので、

攻撃が効かなかったと見られます。」


…なるほど、そうだったのか。

…あの、柄の悪い男達の攻撃が、あまり

痛く感じなかったのは、俺の周りに

魔力があったからって事か。

…あー、魔力の差って、魔力の(量の)差

って事じゃなくて…まあ、量もあるとは

思うけど、魔力の(密度の)差って事?

…なるほど。


「…えっと、まあ、取り敢えず俺に何か悪い

影響が無かったのは良かったけど……この、

オーラが出てる状態って、何かが起こったり

するの?」


「…ツイト様自身には何も無いですが、

その状態であれば、モンスターが魔力に

寄ってきてしまったり、人間ではなかなか

ない魔力量なので、そのまま次の村へ

行くと、確実に入口で止められるでしょうね。」


リプラは、笑顔で、冷静にそう解説した。


「いやいやいや、結構な問題だよね。

…じゃあ、やっぱり、この魔力はここで使って

おかないとダメか…。」


「…そうですね。」


…うーん、使うと言っても、一体何に使えば

いいのだろうか。…無意味に雨を降らす訳にも

行かないし………。


「リプラ、何か、こういった状況の時に使う

魔法ってある?」


俺はリプラにそう聞いてみた。


「…そうですね…注ぎ込める魔力の量を

調整出来る、結界辺りを習得した方が

良いのでは無いでしょうか?」


リプラは、そう答えた。

…結界…!?結界ってどういうイメージを

すればいいんだろう。

…自分を守る魔法陣的なものを想像すれば

いいのか?


「………でやっ!結界!」


俺は、頭の中で自分を守る魔法陣的なものを

想像しながらそういったが、何も起こら

なかった。


「…ダメかー。じゃあ、取り敢えずこのまま

進むよ…その間に、考えておく事にします。」


「そうですね!分かりました。

では、進み始めましょう。」


リプラはそう言って、進み始めた。

カラリやセクタも、リプラに着いて行った。


「…。」


俺も、リプラに着いて行った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「……『スタン』!」


森を進んでいると、やはりモンスターが

俺の方に寄ってきた。

…魔王の影響を受けていると見られる

モンスターは、倒し、特にそういった

影響が見られないモンスターは、『スタン』

で動きを止め、進み続けた。


「…ふー、木の方からガサガサ音がするから

まだ居るな…。」


俺は、身構えた。

…出てきたのは、マッサツリーだった。


「…あー、まあ、大丈夫だ。

俺達は森を燃やしていないし…あ。」


俺は、思わずセクタの方を見た。


「……あ、ああ………。」


セクタは、あれがトラウマになっている

のか、その場でガタガタと震えていた。


「…セクタさん、謝っておいた方が

いいですよ!…マッサツリーは、結構

頭が良いので、理解してくれるはずです!」


リプラは、セクタに、そう訴えかけた。


「…………あ……ご、ごめんなさい…

僕は、森のことなんて、ちっとも頭になかった。

…本当にごめんなさい…これからは、

絶対に森を燃やす事に、携わりません!」


セクタは、そう言って頭を下げた。


「…………………。」


マッサツリーは、セクタの様子をじっと

見ていた。


「…ひえ…。」


「…………。」


と思ったら、森の奥に去って行こうとした。


「これは…許してくれたということでしょうか。」


「分からない、どうだろう。でも、攻撃

して来ないってことは、そうなんじゃないかな。」


「…!あ、ありがとうございます!」


マッサツリーは、何も言わずに森の奥へと

消えた。

…マッサツリー、良い奴だなぁ。

俺は、しみじみとそう思った。


「やっぱり、モンスターが寄ってくると

大変だなぁ…。うーんでも、何のイメージ

ならいいんだろう。」


雷…は、イメージ出来るけど今やったら

森を燃やしてしまう。…それに、きっと

魔力を沢山使うので、今発動させたら

それっきりになってしまうかもしれない。


魔力量を自由に設定できる魔法か、

少ないけど連発出来るような魔法がいいよなぁ。


『スタン』を無意味に連発する訳には行かない

しな…。


炎はもちろんだめ。水は…もう既に雨があるか。

…雨は強くも弱くも出来るしな…。これ以上強い

水の魔法だと、多分森が破壊される…。これより

弱めの魔法だと、多分セクタが持っている魔法

と被ってしまうだろう。セクタは、ちょっとした

水の魔法なら使えると言っていたし。

風も同じ事が言える。

…草、木…?…うーむ、植物系か…あまりイメージ

が湧かないな。マッサツリーを参考に、と思った

けど、あれは普通の植物じゃないしな。

…光と、闇のイメージ。…光を出すは

行けるかもしれないな。

…闇を出すイメージっていうのは、よく分から

ないが。


「…リプラ、光の魔法で、俺が習得出来そう

なものってある?」


俺は、進み始めながらリプラにそう聞いた。


「…そうですね…辺りを照らす魔法、『ライト』

か、相手の目をくらます、『フラッシュ』など

ですかね。」


リプラは、そう答えた。

…なるほど、『ライト』か『フラッシュ』か。

…『フラッシュ』は、みんながいる所では

使えないし、『ライト』は夜使うべきだよな。

どちらにせよ、今は使うべきではないな。


俺は、そう思い、歩き続けた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「………もうそろそろ、日が沈みそうですね。」


長い間、途中途中休憩を挟みながら、

歩き続け、俺達は、森を抜けようとしていた。

が、もう、日が沈みそうだった。


「…間に合わなかったみたいだね…。」


セクタは、そう呟いた。


「そうですね、今日は野宿ですね。」


「野宿…。」


カラリは、深刻な顔をしていた。

…それはそうだ、カラリは、あの、柄の悪い

集団に、いつ狙われるか分からないのだ。

…野宿など、不安要素しかないのだろう。


「…そうですね…では、私とツイト様で

交互に見張りをするというのはどうで

しょうか?怪しい影がないか、2人で

確認し、セクタさんには、怪しいものを

感知しないか魔法で確認してもらう…。

これでどうですかね?」


リプラは、そんなカラリの様子を察したのか、

そう、リプラに確認を取っていた。


「…それなら…大丈夫そうです。」


カラリは、少し微笑み、そう答えた。


「では、そうと決まれば、早速夕食を用意

しましょう!ツイト様は、カラリさんを

見ていてくださいね。」


一方リプラは、そう言って、また、どこから

ともなくパウチや食器などを取り出していた。

今度はさらに、3人分のテントやお(ふだ)まで

出している。リプラは、昼の時と同じように

ものを取りだし、昼の時と同じような手順で

また火をつけた。


「…セクタさん、また、風を送って下さい。」


「…は、はい。」


また、セクタが昼の時のようにリプラに

呼ばれていたので、俺も、昼の時のように

夕暮れの森の写真を取ってみた。


「…やっぱり、結構良く撮れるな…。」


俺はまた、自分が撮った写真を確認し、

そう呟いた。

…そういえば、何か忘れているような…。

と、俺はふと思った。


……………。


…あ、そうだ、光の魔法だよ、光の魔法。

『ライト』と『フラッシュ』だっけ。

…『フラッシュ』は、今やると多分

みんなにも効果が現れちゃうから、

『ライト』がちょうどいいかな?

…辺りを照らすイメージ………。


「『ライト』!」


俺は、辺りを照らすイメージを浮かべながら

そう言った。

…すると、ふわふわとした光の球体が、

俺の周りに現れ始めた。


「…これが、『ライト』…?」


なるほど、1つだと、明かりの大きさは

微弱だけど、複数個出せば明るくなるのか…。

…この明るさなら、昼のうちにやっても

良かったかもな…。

俺は、そう思いながらライトを大量に

生産した。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「皆さん、料理が出来ましたよ!」


しばらくすると、リプラが皆にそう呼びかけ

ていた。

…さっきはエビチリ(?)だったからな、

今回は別のものかもしれない。

俺はそう思いながらパウチを開けた。


「…あれ、おかしいなぁ、お昼に食べた時と

全く同じエビチリに見えるぞ…?」


俺は、思わずそう口にしてしまった。

…だって、全く同じなんだもの。

…うーん、まあ、でも、確かに持ち歩くなら

同じ食べ物の方が良いかもしれないな。

俺は、そう思いながら、エビチリ(?)を

口にした。


…うーん、やっぱり、エビじゃない

所に、海鮮っぽい味があるんだよな…。


俺は、その謎の味を気にしつつも、

そのエビチリ(?)を完食した。


「ごちそうさまでしたー。」


俺は、そう言いながら、リプラに

お皿を渡した。


「いえいえー。」


「…それで、この後はどうするの?

このまま寝るの?」


俺は、リプラにそう聞いた。


「いえ、少々やることがあります。」


リプラはそう言って、俺に様々な道具を

渡してきた。


「…え?何これ。」


「タオルと、ドライシャンプーと、

ちょっとしたハーブです。」


…タオルと、ドライシャンプーと、ちょっとした

ハーブ?

…ちょっとした…ハーブ?


「それってまさか危な」


「…安全に決まっているじゃないですか。

何を疑っているんですか。」


俺の言葉に、リプラはやれやれ、といった

様子で答えた。


「………このタオルに、お湯とともにこのハーブを

つけ、体を拭いた方が、すっきりするのでは

無いかと思ったのですが、余計なお世話

だったようです。」


そして、と言って去ろうとした。


「ああー、待って待って!ごめん!

ふざけたのは謝るから!ありがとう!

全然余計なお世話じゃないよ!」


俺は、必死にそう訴えた。


「…必死すぎですよ。」


リプラは、微笑みながら俺にタオルと

ハーブと、ドライシャンプーを渡した。


「………。」


そんなリプラと俺のやり取りを、

カラリとセクタは、じっと見ていた。


「…ん?何?」


「………。」


「…な、何…?」


「…何か、違う。」


カラリは、そうボソッと呟いた。


「…違う?何が?」


「…皆と話している時の、リプラさんと、

ツイトさんと話している時のリプラさんは、

何か違う…。」


「…え?違う?そうかな…。」


「気持ち…感情がこもっているような気がする。」


「…感情?」


カラリにそう言われて考えてみると、

確かに、そう言われたらそう感じるな。


「…そう、だね、カラリ。

…ところで、セクタは何で見ていたの?」


俺はセクタにそう聞いた。多分、カラリと

同じ理由では無いだろう。


「…何となく。」


セクタは、苦笑しながらそう答えた。


…何となくかい。

まあ、取り敢えず、リプラの何かが違う…と。

それは覚えておこう。


「…じゃあ、ちょっと体を拭いて来ます…。」


俺は、皆にそう言って、みんなから少し

離れた木の影に向かった。

…というか、ドライシャンプーって初めて

聞いたなあ。

多分水が無くても使えるシャンプー

なんだろうけど。


俺は、そう思いつつ、ドライシャンプーを

使ってみた。


「…なるほど、まあ、こんな感じか。」


そして、俺はタオルとちょっとしたハーブ

を使い、ササッと体を拭いた。


「…うん、結構さっぱりした。」


俺は、直ぐに元の場所に戻って行った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…おやすみ。…なるほどこのお札って

魔よけなのか…。」


「おやすみなさい。」


…そして、リプラを除く全員が寝る準備を終え、

テントに入った。


「…あれ、リプラはどうするの?」


用意されたテントは、3人分しかなく、

リプラは入れなかった。


「私は、眠らなくとも大丈夫なので、

ここで見張りをしております。」


リプラは、笑顔でそう答えた。


「えっ…わ、悪いよ…!」


「…しかし、他に適任な方はいないでしょう。

…それとも、ツイト様が引き受けて下さり

ますか?」


「………。」


リプラには悪いが、確かに俺じゃ

見張りを続けられる自信がない。

…それなら…。


「じゃあ、眠くなるまでリプラと一緒に

見張りをするよ。」


俺がそう答えると、リプラは意外そうな

顔をした。


「…そう、ですか…。では、眠くなったら

テントに入ってくださいね?」


「うん。」


こうして、俺達は、2人で見張りを

始めた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…しかし、一体何を話せばいいんだ。


…見張りを始め、数分経ったが、

未だにリプラと会話出来ていない。


「えーっと、リプラ、その、次の村の

事なんだけど…。」


「はい。」


「…まず、あの武器屋の店主さん…リテラさん

が言っていた、妹を探して…。あ、後、

この世界の歴史も調べて…その後は、

どうするの?」


「…何も無い場合は、次の街に行きます。」


「そ、そっか…。」


…言葉を交わしてはいるのだが、何だか

中身がないというか…見張りに集中し

すぎているというか…。

…とにかく、会話ができていない。


「…リ、リプラ」


「…ちょっと待ってください。」


「…え?」


「………気のせいだったようです。

何か聞こえた気がしたのですが…。

…それで、何か言おうとしていた

様ですが…何ですか?」


「…あ、いや、何でもない。」


「…そうですか。」


…やはり、会話が出来ない。

…完全にできないというわけではないが、

なんていうか、楽しい会話じゃない。

…でも、確かに、次の村とか、そういう

事は、今じゃなくても話せるからな…。


…そうだ。


「リプラってさ、俺が魔王を倒したとして、

その後って、どうするの?」


俺は、前から少し気になっていた事を

リプラに聞いてみた。


「…どうして急にそのような事を?」


すると、リプラの顔つきが変わった。

…今度は、本気で俺の話を聞いている。


「いや、まあ、そりゃ、いつかはその時が

来るはずだしさ、その時はその…俺も

元いた場所に帰る事になるんだよね。

…まあ、そうなったら、リプラのその後

なんて、知る術がないし、今の内に

聞いておこうかなーって。」


俺は、そう口に出した後で、感情があとから

着いてきた。…別れ、か。思えば、

いつかは来るんだよな…。


「………そうですね…。第2の魔王が現れる

まで眠りにつくか、普通のアンドロイド

として、普通に仕事をするか、その

どちらかでしょうね。…もしくは…。」


リプラは、そう言って黙ってしまった。


「…えっ?もしくは?」


「……いいえ、何でもありません。」


「…えっ?」


…えっ、もしくは、何?

…何か怖いんですが。


「…まあ、何にせよ平和が訪れるという

事です。」


「あっ、ああ…平和、ね。」


俺は、戸惑いながらもそう答えた。

…何だか、リプラは何か重大な事を隠して

いる様な気がする。…絶対に、気付かなければ

ならない事のような気がする。

…気づけるようなチャンスは、多分そんなに

多くない…。…出来れば、今ここで…。

…何か探った方がいいだろうか。


「あ、そうだ、それで思い出したんだけど…。」


「はい、何でしょうか。」


そして、俺はその後も、リプラと話をした。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ツイト様。」


「………うーん。」


「ツイト様!」


「……………………。」


「完全に寝てしまっているようですね…。」


夜も更け、皆が完全に寝静まった後、

辺りにリプラの声だけが響いた。


「…仕方ないですね。運びましょうか。」


リプラは、そう言って、ツイトをテント

の中に入れた。


「……………ツイト様は、きっと私を心配

しているのでしょうね。」


リプラは、寝ているツイトの方を見て、

優しく微笑んだ。


「…大丈夫ですよ。私には感情がありません。

…私の結末がどうなろうと、私は何も思い

ません。…例え、先代のようになろうとも。」


返事はなかった。


「…私は、何を言っているのでしょう。

…ツイト様が悲しむのであれば、それは

良くない事ですよね。

…出来る限り避けなくてはならない未来

のはずです。

…考えても仕方ありませんか。…見張りに

集中する事にしましょう。」


こうして、リプラは朝まで見張りを続けた

のだった。

今回も読んでくださり、ありがとうございます。


まーた意味深な言葉を私はー。

と、セクタが冒険に着いてくる事に

なりましたね。

…セクタさんと再会する事は

あるのでしょうか。


次回も、良かったら見てください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ