第8話 病院
「う…ん…?」
俺は気がつくと見知らぬ場所にいた。
…何だろうか初めにいた、近未来的な空間に
似ている気がする。
「意識の回復を確認しました。」
…俺が色々考えていると、リプラではない、
見知らぬアンドロイドがそう言ってこちらを
見ているのがわかった。
「えっ?えっと一体これはどういう状況…?
あれっ?いつの間にか俺の服装も変わってる?」
俺がそこまで言うと、俺の右側にある扉が開き、
リプラとカラリがこちらに駆け寄ってきた。
「ツイト様!大丈夫でしたか?」
「ツイトさん…!」
「えっ、ああ、うん…大丈夫だけど…そういえば
俺は森で倒れて…ここは?」
「ここはネクステ村の病院です。ツイト様の
ことは、自警団の人が運んで下さったんですよ。」
「自警団の方が…?」
誰だかわからないけど、ありがとうございます。
俺は心の中でそうお礼を言った。
…それにしても、病院かあ、まあ、確かにここは
先端技術を最初の方に持ってくるべきところでは
あるな。…さすがにここは、一部だけが近未来的、
という造りではないようだ。
「…えっと、今…時間は…。」
俺はそう思いながら窓の外を見てみた。
…なるほど、もうお昼は過ぎているようだ。
「…2人って、もうお昼食べたの?」
俺はそう聞いてみた。
「はい、食べましたよ。…食べていないのは、
ツイト様だけですね。」
「そうですね。」
2人はそう答えた。
「ツイト様のお昼は、もうすぐ運ばれて
来るはずです。」
「え?」
…そう思って周りを見渡すと、さっき
起きた時にいた見知らぬアンドロイドが
いつの間にかいなくなっていた。
…と思ったのも束の間、右の扉がそっと
開いた。
「お持ちしました。」
そこから、見知らぬアンドロイドが
料理を持って来た。
「…これは…体に良さそうな料理…。」
俺はそう呟いた。
…低カロリーで高タンパクそうな食材
ばかりある。
…別にそれはいいのだが、俺が食べたい
ものとは、ちょっと違う。
…俺はもっと、ジューシーな…。
…まあ、病院だから、体に悪い食べ物を
進んで出すわけないのだが。
「…じゃあ、いただきます。」
俺はそう言って、出されたご飯に手をつけた。
「……………。」
やっぱり、満足いかない。
…まあ、身体のためだと思えば…。
「体に…良さそうな味がしますね。」
俺は、初めに見た時と、全く同じ感想を
述べた。
…そして、俺はその料理を完食した。
「ありがとうございました…。」
俺はそう言って、見知らぬアンドロイドに
食器を渡した。
見知らぬアンドロイドは、食器を持つと、
右側の扉から出て行った。
…すると、そのタイミングでリプラが、
俺に話しかけてきた。
「…ツイト様、本日は取り敢えず休んで
下さい。…明日、また森に出発する予定
ですが…ツイト様の、無理のないように
したいと思います。」
「…え?いや、でも、いくら疲れていると
言っても、昨日も休んだし…。」
俺はそう言いながら立ち上がろうとしたが、
その瞬間、クラっとして、俺はフラフラと
床に座り込んでしまった。
「…いや、今のは、寝起きによくある、ただの
立ちくらみで…。」
「ツイト様は、今のうちにここでゆっくり
休んでいた方が良いのではないでしょうか。
魔王の元へ向かったら、休む暇など
無いかもしれないですよ?」
俺の言葉を遮り、リプラは、笑顔でそう言った。
「ツイトさん、今は…休んでいてください。」
カラリは、心配そうにそう言った。
「じゃあ…それなら…えーと、休みます。」
俺は、そう言いながらベッドに横になった。
「…では、私達は、少々出かけて来ますので、
しっかり休んでおいてくださいねー。」
「はーい。」
リプラは、そう言うとカラリと一緒に右側の
扉から出て行ってしまった。
…まあ、確かに、リプラの言う通りだ。
…これは、休めという身体からのサインかも
しれない。
…今日、まあ、あと、約半日、ゆっくり休む
か…。
俺は、そう思い、寝る事にした。
「病院のベッドって、すぐ眠れるんだよなぁ。」
俺はそう言いながら、眠りに落ちた…。
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「…ん?あれ、俺寝ちゃってたか…。」
そして、俺はしばらく寝たあと、目が覚めた。
「…意識の回復を確認しました。」
…目の前には、あの見知らぬアンドロイドが
いた。
「勇者様、精密検査を受けていただきます。」
そしてそう言った。
「精密検査?どうして?」
「勇者様の状態に、少し気になることが
あったからです。」
え、俺なにか重い病気を持っていたりするの?
…でも、今まで特に異常は無かったし…
あ、ほら、俺は違う世界から来たから、何か
この世界の人と身体の仕組みが違うのかも
しれない。うん、きっとそうに違いない。
「…では、こちらに来てください。」
見知らぬアンドロイドは、そう言って
右側の扉の方へ向かった。
「そう言えば、ここは何階なの?」
俺は、ふとそう聞いてみた。
「こちらは、5階です。これから、
1階に向かいます。」
見知らぬアンドロイドは、そう答えた。
…それを聞いた後、俺は、立ちくらみを
しないようにそっと立ち上がり、見知らぬ
アンドロイドに着いて行った。
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「…そう言えば、なんて呼べばいいんでしょう。」
俺は、検査をする場所に着く前に、見知らぬ
アンドロイドにそう聞いた。
「…名前、ですか?………アプデ、と申しますが…
…別に名前で呼ばなくとも『お医者さん』
『看護師さん』…で、大丈夫ですよ。
…名前を覚えておくのは、大変ではありま
せんか?」
見知らぬアンドロイド…もとい、アプデさんは
そう言った。…まあ、確かにそうかもしれない。
…お医者さんや看護師さん全員を、名前で覚える
というのは、大変かもしれない。
「…でも、まあ、名前で覚えておけるなら、
名前で覚えて置きたいと思いまして…。
…そっちの方が、なんかいいじゃないですか。」
俺は、アプデさんにそう言った。
「…なるほど…勇者様は、少々変わって
いらっしゃるのですね。」
アプデさんは、少し驚いたようにそう言った。
…そんなに変わってるかなぁ。
「…はい、着きました。こちらで、精密検査を
していただきます。」
…と、そんなことをしている間に、精密検査を
する場所についたようだ。
「…どうぞ。」
アプデさんは、その部屋の扉を、開いた。
「…えっ?」
…俺は思わずそう驚いてしまった。
扉の向こうには、10人程のアンド
ロイドや、2人の人が居たのだ。
「えっと…。」
「…ああ、すみません。驚かせてしまって、
少々、アンドロイドの精密検査をして
いまして…。私は、人間担当医師の、
インポートと申します。」
「…え、えっと…アンドロイド担当医師の
エクスポートです。」
「ソートです。」
「インプットです。」
「アウトプットです。」
「イジェクトです。」
…と、アンドロイドたちも自己紹介を始めた。
「…ちょ、ちょっと待って!…えーと。
インポットさん?」
「インポートです。」
「ああ、えーと、よろしくお願いします人間
担当の…医師さん。」
俺がそう言うと、背後から冷ややかな視線を
感じた。…後ろを振り向くと、アプデさんが
白い目でこちらを見ていた。
…すみません。やっぱり、名前で覚えるには
限度があります…。
俺は、心の中でそう呟いた。
いや、でも、インポートさんは覚えたから!
大丈夫だから!
絶対に忘れないぞ。…と俺は、心の中で誓った。
「…じゃ、じゃあ、こちらの検査は終わったので…
お願いしますね。」
エクスポートさんは、そう言うと、
アンドロイド達を引き連れて、部屋から出て
行ってしまった。
「…では、精密検査を始めます。」
「あ、は、はい…。」
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…そして、俺は様々な精密検査を受けた。
…今は、アプデさんと共にインポートさんから
検査結果を聞くところだ。
「…勇者こと…ホムラ ツイトさん、精密検査の
結果…。」
インポートさんは、そう言うと、申し訳なさ
そうな顔をしながら俯いた。
「…実は…。」
「…実は。」
「…身体に…。」
「…身体に?」
「異常が…。」
「い、異常が…。」
「…全くありませんでした。」
…無いのかよ。…いや、無い方がいいのだが。
…しかし、今その瞬間だけは、無いのかよ。
と思ってしまった…。
「あー、つまり、健康って事ですか?」
「…まあ、そうですね。」
じゃあ、今までの精密検査は何だったんだ。
…健康じゃないか。俺は心からそう思った。
…まあ、あくまでも状態が気になっただけ
だから、健康の可能性は大いにあったが…。
「…では、ありがとうございました。」
俺は、インポートさんにそう言って、
俺が初めにいた部屋に戻ろうとした。
「…あ、後で、勇者さんのお連れの方にも、
話をするので、よろしくお願いしますね。」
その時、インポートさんは、俺にそう言った。
話をするって…健康だったってことを?
…まあ、それは大事な事か。
俺はそう思いながら、アプデさんと共に部屋を
出た。
「……………。」
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「…あー、健康だったなぁ。」
俺は、元の場所に戻って来て、ゆっくりしていた。
…リプラとカラリは、まだ帰ってきていないようだ。
…つまり、今この空間には、俺とアプデさんしか
いないという事…。
…よし、つまり、あれが出来る…。
「オンラインゲームだ!」
これが無ければ異世界には行きたくないと
思っていたものだ。
…この世界が、ゲームのような世界だった
から、退屈することはなかったが、
これがなければ、始まらない。
「…よーし、じゃあ無難にこの世界で1番
人気のオンラインゲームを……。」
…待てよ。…俺は今、この世界で1番人気の
オンラインゲームをダウンロードしようと
している。
…そしたら、魔王を倒せなくなってしまう
のではないか、と俺は思った。
…この世界で1番人気という事は、いわゆる
神ゲーという事だ。
…それはつまり、ゲーム性をはじめ、様々な
要素が神、という事。
…ゲームにハマり過ぎて、魔王を倒すために
やっておく事が、疎かにならないだろうか。
「………………。」
…夢中になりすぎないような、オンライン
ゲームを、ダウンロードしなくてはならない。
…そんなちょうどいいゲーム、あるんだろうか。
…俺は、そう思いながら、レビュー評価が
3くらいのゲームを検索した。
「うーん、あ、これはどうだろうか。」
俺は、『プリズムクエスト』という、アプリを
ダウンロードしてみた。
「…名前を入力してください?」
…俺は、ツイトと打とうとしたが、
それだと俺が勇者である事が一瞬でバレ、
魔王軍にゲームまで荒らされてしまう。
…俺は、そう考えた結果、名前を、本名から
50音表から1音ずつ下げた、て、う、な、に
適当な顔文字をつけた『テウナ^^*』に決定した。
…レビューによれば、このゲームは、
ストーリーは結構良いようだが、難易度が
馬鹿みたいに高いらしい。ガチャの確率は
運が良ければ当たる程、PvPもあるらしい。
…まあ、バグさえ起こらなければ問題ない。
俺は、そう思い、チュートリアルを始めた。
「なるほど、これは、武器をガチャで引く
タイプのゲームなんだな…。武器は、6つまで
身に付けられます。…一体どこにしまって
いるんだ…。」
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…様々な現象に、疑問を持ちつつも、
俺はチュートリアルを完了した。
「お、よし、チュートリアルの報酬と
チュートリアル完了記念の星5確定10連ガチャを
合わせて、20連回せるぞ。」
俺は、取り敢えずガチャを20連してみた。
「…確定の方は、星1が3つ、星2が4つ、星3が2つ、
星5が1つ…。で、普通に回した方が、星1が6つ、
星2が2つ、星4が2つ…何この確率?俺、呪われ
てる?」
…まあ、いい。…と俺は思う事にした。そして
PVPは、物語を進めると開放されるらしいので、
俺は少しだけ物語を進めた。
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「…なるほど、突然魔力の無い世界に呼ばれた
記憶喪失の主人公が、魔力のある世界から来て
しまうモンスターを止める話なのか…。
…この主人公優しすぎない?『こっちの世界に
魔物が来てしまったのは、俺のせいだ…』
って、この人別世界から来たっていう記憶
以外無いんでしょ?…『そんな気がする。』
あー、そんな気がする、なるほど…。」
…そして、ついにその時は来る。
「よし!…この次の話をクリアすれば、
PvPが…あれっ。」
「……ツイト様…何故ゲームをしているんですか!
休んでいてくださいと言ったじゃないですか!
…ゲームをしてしまっては、本末転倒じゃ
ないですか!」
…と、その時リプラが俺から見て右の扉から、
現れたかと思うと、俺のスマホを取り上げた。
「あっ…えーっと……す、すみません…。」
俺は、咄嗟にリプラに謝罪をした。
「…明日からなら、ゲームはやっていいので、
今日はゆっくり、休んでいてくださいね?」
リプラは、そんな俺の様子を見て、
仕方ないですね、と言った様子でそう言った。
…今日はPvPはお預けか…。
…まあ、確かにそうだよな…ゲームを
やっている場合じゃなかったな…。
…俺は、とても反省した。
そんな俺の表情を見て、気持ちを察したのか、
リプラは、笑顔で話を始めた。
「…ツイト様、実は、私とカラリさんで、
ツイト様にプレゼントを買ってきたのです。」
「…えっ?」
俺は、予想していなかった言葉に、ビックリ
してしまった。
「…ツイトさん、どうぞ…!」
カラリは、そう言って、俺に小さな袋を
渡した。
…開けてみると、中には、透明な宝石が
あしらわれたバングルがあった。
「…こちらは、魔力を貯めておいて、魔力を
補給出来る、バングルです。私と、カラリ
さんで、デザインや、機能性を考慮して、
買ってきたのですよ。」
「あ、ありがとう…!」
俺は、2人にお礼を言って、早速腕につけてみた。
…おお、何だかちょっと力が溢れてきたような
気がする…。
「そこの、宝石の部分に触れることで、魔力を
得る事が出来ます。」
…まだ、何も起こっていなかったようだ。
俺は、改めて、宝石の部分に触れてみた。
…今度こそ、力が溢れてきたような…?
…溢れて来てるんだよね?…気のせいじゃない
よね…?
…まあ、とにかく魔力を得ることができたらしい。
…次の村についたら、俺も、リプラやカラリに
俺としては何か買おうかな…。
…もちろん自分の力で得たお金でね!
俺は密かにそう思った。
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しばらくリプラやカラリと話していると、
アプデさんが夕食を運んで来てくれた。
俺がいる場所からは、外が見えず、暗くなって
いる事は分かっていたが、もうそんな時間
なのか、と、俺は思った。
その後、俺はまた食事を完食し、休憩をして
…様々な事を終わし、寝る時間になった。
「…では、私達は、宿に泊まりますね。」
「ツイトさん、また明日会いましょう!」
リプラとカラリは、そう言って、
右側の扉から出て行こうとした。
「あ、じゃあ、またー。」
俺はそう言って、2人を見送った。
「では、私も行きます…何かあったら、
呼んでくださいね。」
アプデさんも、そう言って、電気を
消して居なくなった。
「…ふー、じゃあ、寝るか…。」
誰も居なくなったあと、俺はベッドに
横になり、眠った。
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「うーん…トイレトイレ…。」
…そして夜中、俺は目を覚ました。
…トイレの場所は、事前にアプデさんに
聞いておいたので、分かっている。
…俺は、眠い目をこすりながら、
廊下へ出た。
廊下は、ほぼ真っ暗で、僅かに非常口の
光だけが、辺りを不気味に照らしていた。
…俺は、その瞬間冷静になって、
よく考えてみたら、夜中の病院って
ものすごく怖いよな…。と、思った。
「……………………。」
…いや、まだ看護師さんや、お医者さん
もいるだろうし、他の患者さんだって
いるはずだ。…完全に1人という事は無いだろう。
俺はそう思った。
「そう考えたら、怖くなくなってきた気がする。」
俺はそう言って、トイレのある方向へ行った。
「…えっ、誰もいない?」
俺はしばらく廊下を歩いていたが、廊下には
誰もいないどころか、どこの部屋を見ても、
誰かがいるような雰囲気は無かった。
「…この階にたまたま人がいないだけ…だよな。」
俺はうちにだと思いながらも、用を済ました。
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「…いや、やっぱりおかしいよね!」
俺は、トイレから出た時、そう叫んだ。
俺は、1度トイレに行き、思考が冷静に
なってしまった。…普通に考えて、俺と
同じ階層に、人が全く居ないなんて事は
無いよな…と、俺は思ってしまった。
「…。」
…俺がいる場所より下の階を確認すれば、
真実は分かるかもしれない。
…でも、もし誰も患者がいなかったら…。
…今、俺が元いた部屋に戻れば、何も
分からないまま、平和に終わるかもしれない。
…怖いのは無理だ。
…俺はそう思ったが、しかし俺も人間だ。
…こういった状況で、気にならないわけが無い。
…俺は、そんな矛盾した感情を抱きながら、
ゆっくりと階段の方へ向かった。
「……………。」
階段の目の前まで来て、俺の心臓はバクバクと、
高鳴り始めた。
「…大丈夫だ、大丈夫。きっと、患者さんは
いるはず…。」
俺はそう自分に言い聞かせたが、そこまで
来ても人の気配は全くしなかった。
「…。」
そっと階段を降り、下の階の様子をササッと
確認した。
…誰も、いなかった。
「う、うわあああ!」
…俺がいた部屋には、ちゃんと俺の名前が書いて
あったのに、ここには、そういったものが
一切ない。…ただ、誰もいない部屋が並ぶ
だけだった。
俺は、焦り、少し歩くスピードを
あげた。
…目の前に曲がり角が見えたが、止まる
事なくバッと曲がった。
「……痛っ!ヒィッ!」
すると、俺は誰かにぶつかってしまった。
「…ってあれ?あなたは…確か…。」
俺は、驚き、すぐにその場から離れようと
したが、ぶつかってしまった人は、
俺の知っている人…もといアンドロイドだった。
「…ソートです。……あなたは確か5階の…勇者さん
ですよね。……いったい何をしているんですか?」
「あっ、えっと、今、起きたんですけど、
俺がいた階に俺以外の患者さんが誰もいなくて…。
それに、この階にも…だ、誰も…。」
俺は、焦りながら今あった事をソートさんに
説明した。
「……当たり前じゃないですか、だってあなた…
勇者さんは、事件に巻き込まれた被害者なん
ですよね。」
「…えっ?」
「……まさか、伝えられていなかったのですか?
…では、今、私から、伝えたいと思います。
実は、この辺には、大きい病院はここしかなく、
あの、柄の悪い男達も少しここに来ているん
です。…勇者さんと、あの2人は被害者にあたる
ので、一緒の階にするのはどうかと思いまして。
後は、勇者さんは結構有名人なので、
病室に人が殺到すると勇者さんも迷惑でしょう。
…なのでまあ、勇者さんがいる階と、その上下の
階は、勇者さん御一行以外は、立ち入り禁止に
なっているんですよ。」
「…なるほど…ビックリした…。
…って、大丈夫なんですか?病院を
3階層も使えないなんて…いくら大きい病院とは
いえ、流石に患者さんが溢れるのでは…?」
俺は、ソートさんにそう聞いてみた。
「……勇者さん。勇者さんは別世界から来た
人なんですよね…。…私は、勇者さんのいた世界は、
魔法がなく、技術にも、様々な違いがあると
言う情報を得ました。
…勇者さんの発言から、勇者さんがいた世界は
防壁の役割も、病院が果たしていると見られます。
…こちらの世界は、ある程度の病気は防壁で
防げますし、『ヒール』もあります。
…他にも、様々な魔法や技術で、様々なリスクを
防げるため、こちらの世界の病院は、あまり
混まないのです。…というか、今の病院は、
私達、アンドロイドの検査をするしか、
役割がないというか…。まあ、人間は、
よっぽどひどい大病か、今まで見た事もない
ウイルスにかかるかでしか病院には来ないので、
そんなに混まないのですよ。」
「…あ…そういうものなんですか…。
分かりました。…じゃあ、戻ります。
ありがとうございました。」
俺は、ソートさんにそう言って、俺が
元々いた病室に戻った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…はー、良かった何も無くて…。」
病室に戻ってきた俺は、そう言って、
ベッドに戻った。
「…というか、俺、病院に泊まる意味、
あったんだろうか…。」
精密検査をして、結果、何もなかった
んだから、今日泊まる必要は無いのではないのか?
…と、俺はふと思った。
…明日まだ、何か検査があるのだろうか?
…それとも、何かの経過を見ている…?
…いや、健康なら、何の経過も見る必要は
ないか…。
…一体、何のため泊まったのだろうか。
俺は、そう思いながら、眠ったのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「おはようございます、勇者様、
ご飯をお持ちしました。…そして、この後に、
もう一度ちょっとした検査を受けてもらいます。
それが終わったら、退院です。」
…そして朝、アプデさんが、そう言って、
俺を起こしてきた。
…なるほど、これが終わったら退院か…。
俺は、そう思いながら、出された食事に手を
つけた。
…この味も、これで終わりか。
そう思うとなんだか悲しいような気がしてきた。
そう思いつつご飯を完食した。
「ごちそうさまでした。」
「…では、少し検査を受けていただきます。」
アプデさんは、そういうと立ち上がった。
…俺も立ち上がり、アプデさんについていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
そして、1時間後、検査が終わり、俺は
退院の準備をしていた。
「…よし、これで準備は万端だな…。
忘れ物は…多分ないよな。
アプデさんによると、剣類は、リプラが
預かってくれているらしいし…。
…後は、2人が来るのを待つだけか…。」
…と、俺がそう呟いた瞬間、
右側の扉がスッと開いた。
「…ツイト様!体調はどうでしょうか?」
「ツイトさん…!大丈夫ですか?」
そして、リプラとカラリが心配そうな
表情で、出てきた。
「うん、大丈夫、元気だよ。」
俺はそう言った。
「…なるほど…やっぱりあの医者が言っていた
ことは、嘘ではなかったようですね。」
すると、リプラが何やら意味深なことを
言った。
「…ん?どういう事?」
「…ツイト様が、元気だという事ですよ。
…実際に見てみるまで、信用出来ません
でしたので。」
「…そうですね。」
そんな、お医者さんを疑わなくても…。
と、俺は思ったが、2人はそれだけ
俺を心配してくれたということだろう。
「…まあ、迷惑をかけてごめん。
…そして、色々と、ありがとう。」
俺は2人に、謝罪とお礼を言った。
「…感謝されるほどでもありませんよ。
当たり前のことじゃないですか。」
カラリは、哀愁を感じさせる表情で、
そう言った。
「ええ。」
リプラも、同じような表情で、
そう返答した。
「…?取り敢えず、早く魔王の所へ
行かなくちゃ。準備も終わったし、
忘れ物もないはず、もう一度
森へ行こう。」
俺は、何か少し違和感を覚えつつも、
2人にそう言った。
「…そうですね!行きましょう!」
そして、俺達は、もう一度森へ
向かったのだった。
今回も、読んでくださりありがとうございます。
今回は病院です。皆に、若干気になる間や表情がありますね…。
次回も、読んでもらえるとありがたいです。
誤字がないか毎回不安です。