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第7話 森と廃工場 後編

今回…割と重いです。

「…誰もいない。…今のうちに行こう。」


こうして俺達は、廃工場っぽい場所から、森へ脱出した。


「…よーし!ここまでくればもう大丈夫…。」


「…では無いですね。まだ、モンスターの心配もありますし…。」


「あ、そ、そう…。」


俺はしばらく離れた後、そう言ったが、言葉の途中でリプラがさらにそう被せてきた。


「…もうスライムの生態調査どころじゃなくなってしまいましたね、勇者様。」


依頼主さんも、俺にそう話しかけてきた。


「………そう、ですね。

…なら…どうしましょうか。」


俺は依頼主さんにそう、相談した。


「…まあ、一応、取り敢えず写真だけ撮ってもらって…後の異常はこちらで調べることにします。」


俺はリプラと目を合わせた。

…リプラは頷いた。


「…分かりました。…でも、スライムって森のどの辺に生息しているのかなぁ。」


…俺は、そう呟いてみた。


「…あ、俺、分かりますよ。

案内しましょうか?」


すると、依頼主さんがそう答えた。


「…!はい、お願いします。」


俺がそう答えると、依頼主さんは、方角を見始めた。


「…こちらです。」


そして、見終わると、案内を始めた。


「………。」


カラリは、それを不安そうな様子でずっと見ていた。


「…きっと大丈夫だから、カラリ。」


…ここで、大丈夫?と聞いても、カラリはきっと、大丈夫。としか答えないだろう。

…それなら、安心出来るような言葉をかけた方がいいと思った俺は、カラリにそう声をかけた。


「………。」


カラリから、不安と悲しみと、でも俺を信じていたいというような気持ちを感じた。

…そんな表情で俺を見つめるカラリに、俺は笑顔を向けた。


「…………。」


カラリは、少し硬い笑顔で返した。


「…あ、そうだカラリ、これ。」


と、俺は、カラリに借りた弓と矢を返した。


「あ、う、うん…。」


カラリはそっと弓と矢を受け取った。

…が、カラリは弓矢をしまう様子はなく、じっと眺めていた。


「…ん?どうかした?」


「…ううん、大丈夫。」


俺がそう声をかけると、カラリは何事も無かったかのように弓矢をしまった。


「………。」


カラリ…きっと、大丈夫だから…。

俺は、そう考えながら依頼主さんについていった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


…依頼主さんが向かった先は、少し開けた場所だった。

…そこには、スライムがいたが…。


「…さっきはよくもやってくれたねぇ、勇者君?」


「…もしかして、人間に擬態できるスライムだったりする?」


スライム(セクタ)もいた。


「誰がスライムだ!普通に、人間だ!!」


スライム(セクタ)ではなく、セクタだったようだ。


「…というかおかしくないかお前!?

普通回り込まれたら焦るだろ!何でそんな余裕でいられるんだよ!?」


セクタは少し怒り気味にそう言った。


…しかし、まあ、俺は余裕でいる訳ではない。

一度カラリと…依頼主さんも捕まっているし、周りに注意を払ってはいるのだが…。


…なんて言ったらいいのだろうか、こいつ(セクタ)は…。

何だか、小物感がある。

…いや、小物感があろうがなかろうが、警戒しておいた方がいいのは分かっているが…。

何だか、焦る様な気分にならない。


…ん?いや、待てよ。


「さっき会った人達と、本当に似ているなぁ。」


「だからスライムじゃないっての!

もうそのくだりはいいだろ!」


…あー、今何となくわかった。

俺がこいつをあまり警戒出来ないのは、小物感があるからだけじゃない。

…俺の友達に、性格が似ているからだ。

…俺の友達…紅雲 刀夢(あかうん とうむ)に。

…そうだ、それだ、間違いない。

俺はぽん、と手を叩いた。


…何だか既視感があったんだよなぁ…。

この、俺の発言に対する切り返しが…。


…。


…だから何だという話だがな。

俺はそんな理由でこいつにこんな態度を取っていたのか。

自分にビックリだよ。


「えっと、それで何をするつもりなんですか?

…それを説明してもらわないと…。」


…俺は今度は落ち着いて、セクタにそう聞いた。

…取り敢えず友達の事は一旦置いといて、出来るだけ普通の対応をする事にした。

…まあ、何をするつもりなのかは、俺が前に会った柄の悪い男がいた時点でなんとなく察しているが。


「あれ?…あ、そう言えば説明していなかったな。

…ふふ、僕の目的はただ一つ。

…君への復讐と、魔王を倒すという手柄を得る事だ!」


「…え?今、ただ一つって…。」


「あ……ただ二つ!!…まあ、数はどうでもいい。

…ともかく、勇者君、今言ったようにだな、まず僕は復讐をしたいと思っている。

…さっきの『スタン』の復讐をしたいというのはもちろんだけど、まあ、事の発端はこいつでな。」


セクタはそう言ってカラリと出会った時にいた柄の悪い男のリーダーの肩を…身長的な問題で、叩けなかったようで、腕を叩いていた。


「…こいつを始め、勇者君に負けた奴らは、メッセージを送っていたようでね。

それを、父さ…ボスが見つけて、電話で事情を聞いた。

…そして、ボスはこうして、こいつらに復讐する機会を与えてくれた、という訳さ。」


その後に、そう言った。


「…ん?でも、その話なら、君、関係なくない?」


俺はそう言った。


「ああ、この話に僕は関係ない。

…でも、僕はこの話を電話でボスから聞いたのさ。復讐の話、そして、君が勇者だという事も。

…その時僕は思ったのさ、『魔王を倒す冒険!? なにそれぇ!?』ってね。

…僕は少し興味を持った、でも、僕は自分が戦うための魔法を持っていない。冒険をするのは危険だ。


…だが、考えてもみなよ、こいつらが、復讐を成功させたら、勇者君達は、“僕ら”に負けた事になる。

…僕は、それを利用して、勇者君達のリーダーになろうと思ったのさ。」


セクタは、俺の言葉にそう返してきた。


「…ん?つまり、俺達の仲間になって、一緒に冒険したいって事?」


「…違う!…勇者君達が、僕の仲間になって、

冒険するのさ、僕が、君達のリーダー。

そして、君達が魔王を倒した暁には、リーダーである僕の名が知れ渡る。

…と、そういうわけさ!」


セクタは、誇らしげに、そう言った。


「あー…。」


俺は、セクタの目的が、なんとなく分かった気がした。

うーん、しかし、そんなにうまくいくかな。

たとえ、リプラやカラリ、万が一にもセクタが魔王を倒したとしても、はっきりと名が知れ渡る事は、ないような気がする。

…リーダーになったくらいで、名が知れ渡るだろうか。


…まあ、それはそうとして…やっぱり復讐か。

厄介だな。

…俺はまだ戦うため魔法を覚えていない。

…謎の笑みを浮かべても、多分この前みたいに引いてはくれないだろう。

…しかし、たぶん敵は魔法を使えるだろうし、剣で魔法に対抗するのは、結構無謀だよな。


…どうすべきか…。


「そういう訳だ、この前とは違い、今度は魔法が使える仲間もいる。お前に魔法の耐性があろうが、百パーセント防げない魔法も必ずあるはずだ…。…行くぞ!」


この前出会った柄の悪い男は、得意げにそう言った。

復讐するんだったら一人で復讐しに来てくれよー…。

俺は心からそう思った。


「「「『イグニション』」」」


柄の悪い男達がそう唱えると、沢山の火球が俺の方に飛んできた。


俺は、炎か…と思いながら攻撃を素早く避けた。

…すると、俺が避けた火球は、俺の後ろにあった木にぶつかり、木は炎上した。

そして、炎上した木から木へと火は燃え移って行った。


「…これはまずい!」


俺は慌てて火を消そうとしたが、火は消えず、むしろ、どんどん燃え広がって行く一方だった。


「…っ!」


俺は、火を消すイメージを浮かべる事にした。

…火、火を消す…水!…でも、少しの量じゃまた燃え広がるだろうし…そうだ!雨!


「…リプラ!雨を降らせる魔法ってある!?」


俺はリプラに大声でそう聞いた。


「あります。…しかし、今のツイト様の魔力の量でそれを習得してしまうと、魔法を放てる回数が、極端に減ってしまいます。

数字にして、後3回位でしょうか。」


リプラは、そう答えた。

…3回…雨をふらせた後、3回でこの人達を倒すか、

魔法封じるかしないといけないのか。

魔法封じるイメージは湧かないし、封印の魔法習得は多分無理…。


「…!そうだ、あれなら…。」


俺は、一応柄の悪い男達を倒す方法を思い付きはしたのだが、本当にそれで勝てるかは、確証が持てなかった。

…でも、森が炎上しているのを見て、何だか他人事だとは思えなかったので、俺は火を消す事にした。


「……っ。」


俺は、空に雲が集まっていくイメージを浮かべ、さらに、雨が降るイメージを頭の中に浮かべた。

…すると、森の上の空には雲が集まり、森は暗くなって行った。

…ある程度雲が集まると、ぽつ、ぽつ、と音を立て、雫が落ちた後、サアアアっと雨が降り始めた。


「……ぐっ!?」


成功だ。そう思った瞬間、俺は少しめまいがした。…大丈夫だ。

元々なかったものが無くなりそうなだけ…。

俺はそう思いながら周りを見た。


…火は…消えている。…よし。

俺は、リプラに目で合図を送った。

…リプラは、頷いた。


「…なっ!?…ひ、火を封じただけで、勝ったと思うなよ…。」


「『スタン』っ!」


俺は、柄の悪い男達が次の魔法を撃つ前に雨を止め、木にしがみつきながら、柄の悪い男達がいる場所の足元に『スタン』を放った。

…リプラの方を見ると、カラリを抱えて木の上に登っていた。

…よし、通じたようだな。


「「「ぐあああああああっ!?」」」


柄の悪い男達の方を見ると、『スタン』が効いていた様子だった。

…作戦は成功だ。俺は、柄の悪い男達の足元の、水溜まりに『スタン』を放った。


俺達まで感電してしまわないように、濡れていない木の上…俺は上ではないが、そこに避難した。

…リプラには、カラリも避難させてもらった。


「…く………そ……。」


どうやら、威力は若干落ちているようだが、足留めをするくらいには効いているようだ。


「行こう!」


俺は、二人が木から降りたのを確認すると、走り、森の奥へと進んだのだった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…ゼェゼェ…よし、取り敢えず撒けたかな…。」


しばらく森を進んだ後、俺は止まって、後ろを振り向いた。


「ツイト様!」


リプラもカラリを抱えたまま、俺を追いかけてきた様子だった。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」


…依頼主さんも、俺たちについて来たようだった。


「置いて行くなんて、酷いじゃないですか…。」


…と、依頼主さんは俺達と距離を詰めてきた。

…俺とリプラは、依頼主さんから距離を取り始めた。


「………どうしました?

……まさか、俺を疑っているんですか?…俺が向かった先に、さっき会った柄の悪い男たちがいたから…ですか?」


依頼主さんはそんなことを言った。


「…違うのですか?」


リプラは、ニコッと笑顔を作ってそう言った。


「違いますよ!! 偶然に決まってるじゃないですか…。」


依頼主さんは、ご冗談を。といったニュアンスで、返事をした。

…リプラがこの話をし始めたという事は…。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…じゃあ、行こうか?」


「…ツイト様、少々お待ちください、話しておきたい事があります。」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


俺達は、廃工場の様な所に乗り込む前に、作戦を立てていた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…えっ?」


「…依頼主さん、どう思いますか?」


「…どうって…?」


「…なるほど、では単刀直入に言いますと、私は、依頼主さんはほぼ黒だと思っております。

…つまり、このような状況になっているのは、依頼主さんの策略でもあるのではないか、という事です。

そう思った理由の一つは、モンスターです。

…ツイト様は、モンスターが現れる前に、何か音が聞こえませんでしたか?」


「…音…ああ、そういえば、何かがパキッと砕けるような…。」


「…そうです、あれは魔石が砕ける音だと思われます。

…魔石は、魔力を有している石なのですが、砕くと周辺の魔力濃度が濃くなるので、それでモンスターをおびき寄せたのかと。」


……………。


「いや、でも…周りで別の人がやったって可能性も…。」


「…まだその可能性は否定できませんが、不可解なところは他にもあります。

…カラリさんが『沈黙』状態になったのは、モンスターのせいだと考えておりましたが、敵に沈黙を使ってきそうな者はおりません

でした。

…それに、モンスターの仕業だとすれば、四人いる中でカラリさんだけが沈黙にかかるというのは不自然ではないでしょうか。

…その前にカラリさんが何か言いたそうにしていた事から、カラリさんに言われたら不味い事でもあったのではないでしょうか。


…それに、二人に使われた浮遊魔法の使用者が見つからなかった事もです。

私のこの、魔法の使用者を見つけるシステムは、自動的に、その魔法を受けているものは対象外になります。

…『沈黙』も、浮遊魔法も依頼主さんが使ったと考えれば、辻褄は合います。

…そして、依頼主さんは、きっとここでカラリさんと共に捕まっている“ふり”をしているはずです。

…カラリさんだけを助けて、遠くへ逃げれば、きっとこの問題は解決するでしょう。」


「…なるほど…。」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


俺は、リプラの考えに納得した。

…すごい考察だと思った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「…で、でも、もしそれが勘違いで、依頼主さんはただ巻き込まれただけだったら?」


「…その可能性は低いとみますが…もしそうであれば、依頼主さんは無事ではないでしょうね。」


……………。


「…リプラ、でも、俺は…依頼主さんも、助けたいと思うんだ。

…依頼主さんは、敵かもしれないけど…敵ではないかもしれないだろ?

…だから…。」


俺がそう言うと、リプラは少し残念そうな顔をしていた。


「…ツイト様がそういうのであれば、依頼主さんも助けましょう。

…しかし、私は完全に信じるというのはできません。

…そうですね、この先にいる、依頼主さんでは無い敵から二人を助け、敵を撒き、四人になった所で、私が話を始めます。

…そこで、ただの一般人だと見受けられれば、敵ではないと認めましょう。」


「…あ、ありがとう、リプラ…。じゃあ、今度こそ…。」


「あ、まだ待ってください、ツイト様、敵に作戦がバレてはいけません。

何かをする場合は、全てアイコンタクトで意思疎通をしましょう。」


「え?アイコンタクト?分かるの?」


「そうですね…では、何かする、という時は私の目を見つめてください。

何かして欲しいという時は、目を合わせた後、何かをする方向を見てください。

…何がしたいのかは、察します。

…敵に作戦がバレるような事ではない、または、これはどうしても

言葉にするしかない、という場合だけ、話をしましょう。」


「察する!?…わ、分かった。えっと、例えば足留めををして欲しいと思ったら、リプラを見たあと、敵の方を見ればいいって事だよね。」


「はい、そうです。…では、行きましょう。」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


2回目の依頼主さんの案内で、俺も少し依頼主さんを疑いつつあるのだが、まだ、いやスライムもいたし…。と、希望を持っている。

…依頼主さん、冗談っぽい雰囲気だし、きっと…大丈夫だよ…な?


「…なるほど、先程モンスターが現れた時、何かパキッと音がしましたね。

…それは魔石ではありませんか?

魔石を砕き、魔力濃度を濃くすることで、モンスターをおびき寄せたのではないですか?

魔石さえ持っていれば簡単なことです。」


リプラがそう言うと、依頼主さんは少しだけ黙った。


「…はは、そんなわけないじゃないですか。

…周りに、魔石を砕いた別の人がいたかもしれないじゃないですか。…ほら、火球を飛ばしてきた人とか…。」


しかし、依頼主さんはすぐそう、否定した。


「…他にも、おかしい所はあります。

…カラリさんは『沈黙』の状態異常にかかりました。

…私は、それをモンスターの仕業だと考えておりましたが、

モンスターの中に『沈黙』を使ってくる者はおりませんでした。

…ですが、カラリさんは沈黙状態になった…。

…依頼主さんが、『沈黙』を使ったからではないですか?」


…依頼主さんには、若干の焦りが見えた。


「…いや、そ、それもその…火球を飛ばしてきた人がやったかもしれないし、それに! そんなことして俺に何の得があるっていうんですか…!」


依頼主さんの口調も、少し荒くなった気がする。

依頼主さん…やっぱり、本当に…?


「…得ならありますよ。

依頼主さん、あなたはカラリさんが私達に何かを伝えようとした瞬間に、スライムを見つけたと叫び、そしてその後にカラリさんは沈黙状態になりましたよね。

あなたは…というより、あなた方は、カラリさんに言われては、何かまずいことがあったのではないでしょうか。

…そう、例えば、依頼主さんとあの、柄の悪い男が、グルだということ…とか。」


リプラは、相変わらず笑みを浮かべてそう言った。


「…は、はは…何を…言ってるんですか…。」


「…依頼主さんは、初めて私達と出会った時、驚いたような顔をしていましたよね。

それは、ツイト様が、勇者に似ていたからではなく、自分のことを知っているカラリさんがいたからでは無いですか?」


「…………。」


リプラがそういうと、依頼主さんは黙ってしまった。


「黙っているということは…。」


「……チッ…ああ、そうだよ。」


しかし、リプラが決定的な事を言おうとした瞬間に、依頼主さんは、邪悪な笑みを浮かべながら、そう言った。


「…はぁ、まあ俺の行動、割と怪しかったし、あんた、冷静だし、勘が鋭そうだし、思考力もありそうだったから、最後までは隠し通せないかなー、っては思ってたんだけどねぇ。

…ここでバレちゃうかぁ…。

…まあ、勇者サンに無理をさせるくらいには遅かったみたいだけど。」


依頼主さん…いや、依頼主だった人がそう言うと、ふと、俺の方を見て、「ふむ…」と少し考え、突如、納得いったような表情を浮かべた。


「…なるほど、俺が敵側だという判断が遅れたのは、勇者サン自身の責任っぽいね。

…はは、魔法はあと数回しか使えないんだっけ。

…まあ、どうせ使わせないけどね。…沈黙。」


「『キャンセレーション』」


「…何…防がれた!?

………なんてね。」


「…………!」


…リプラは、言葉を発せなくなっていた。


「…………!…………!?………。」


…俺は、「リプラ!」と、声をかけようとしていたのだが、俺も声が出せなくなっていた。


「…………っ。」


カラリも、声が出ない様子だった。


「…まあ、バカ正直に言ったタイミングで魔法を撃ったりはしないさ。

…これで、魔法は封じられたかな?」


「…………っ!」


俺は、サッと剣を構えた。


「…魔法がだめなら剣…って?

…はは、いいよ、とどくのなら…ね。」


…俺は、剣を振りながら元依頼主…に飛びかかったが、彼は素早く避けた。


「……っ……。」


…俺は、一度避けられても、諦めず剣を振り続けたが、当たる事はなかった。

…俺は直感的に、彼は加速するような魔法を使っていると俺は思った。

…避けるスピードが、異常なほど速いのだ。


…というかこの状況、どうすればいい?

…話が出来なくともアイコンタクトで何となく連携する事は出来る。


…しかし、魔法を封じられたのは大きい。

…いや、待てよ?…元依頼主…彼は、沈黙を発動する時、『沈黙』というタイミングと、魔法を発動するタイミングが違ったよな…。

…始めの言葉が、ブラフだとしたら…彼は、無詠唱で魔法を発動させた事になる。

…今の加速は不明だが、『沈黙』は小声で発動させた様子もなかった。


…俺も…無詠唱で行けたりしないか…?

…『スタン』!


「……?」


…彼の様子に変化はなかった。

…俺に無詠唱はまだ無理のようだ。


…ならどうする…!?

…リプラは…無詠唱…は、出来ないと考えると、取り敢えず魔法は使えない。

…手元にあるのは剣と、カラリが今持っているのは弓矢。


…弓矢…。


足元を狙って放てば、足止めには

なるかもしれない。…当たれば…だが。

…リプラなら、当てることができるかもしれないな。

…しかし、カラリが今弓を持っているということは、アイコンタクトでカラリに、リプラに弓を渡して欲しいという意図を伝えなければならない。


…多分、カラリにアイコンタクトをして、矢を放つような動作をすれば、カラリは弓と矢を俺に渡してくれるだろうが…

俺じゃダメだ。俺じゃアイツに矢を当てることはできない。

できればリプラに渡して欲しいが、多分それは、アイコンタクトでは伝わらないだろう。


…リプラに、カラリの弓矢を借りてくれ、とアイコンタクトで訴えてみるか。


「…………っ!」


俺は、リプラと目を合わせ、カラリの方を見たり、矢を放つような動作をしたり、足を示す動作をしたりして、リプラに訴えかけた。


「…………!」


リプラには通じたようで、カラリの方に近付いた。

…リプラが弓を使うのであれば…俺は隙を作らなくてはいけないな。


「…っ…!」


俺はリプラが弓矢を準備している間に、

元依頼主に向かって剣を振り続けた。


…剣を振り続けていると、彼のよけ方にパターンが二つあるということがわかった。

横に避けるパターンと、後ろに避けるパターンだ。

横に避けるのは、俺が縦に剣を振った時が多く、後ろに避けるのは、俺が薙ぎ払いなどの、剣を横に振った時が多いというのがわかった。


…つまり、ここから考えられる最善の隙の作り方は…薙ぎ払いをした瞬間、俺が右か左によけて即座に俺の後ろにいるリプラに矢を放ってもらう…これだな。


俺は、ちらっとリプラの準備が完了したかを確認して、元依頼主に薙ぎ払いをした。


「はは、いつまでそうやって…。」


…瞬間、バッと左側に飛んだ。


「…っ!?」


「………!」


…静かな空間に、ヒュンッと、矢が飛ぶ音だけが響いた。

…矢は…元依頼主の足に当たっていたようで、血が流れていた。


…その瞬間、俺の身体は、震え始めた。


…血…。血…?いや、それはそうだ、人を射ったんだから、血は出るだろ。


…あれ?俺、何で…震えて…?


「…っ、そうか、弓…迂闊だった…。

…君達には無理でも、アンドロイドなら…そうか…。」


「……………!」


「…え?何?『沈黙』を解けって?

…まあ、この状況、どうせ勝ち目もないし…。」


「…え?何これ!?一体どうなってるの?」


…と、いったタイミングでセクタが乱入してきた。


「…え…ち、血が…お、応急処置…。」


セクタは、元依頼主の足に刺さった矢を謎の力…多分魔法で矢じりの上の所で切り、二つともそっと抜いた。


「『ヒール』…。」


そして、セクタは、そう言った後、包帯を取り出し、元依頼主の足に巻いていた。

…包帯を巻く腕は、なかなかのものだった。

…なるほど、セクタは攻撃というよりは、回復系に優れているのかもしれない。


「…ゆ、勇者…君…。」


セクタは、元依頼主に応急手当をした後に、怯えたような顔でこちらを見ながら、話を始めた。


「冒険って…こんな感じのものなの…?」


「……!」


そのセクタの言葉で、俺は今まで気付けていなかったことに気づいた。

…俺は、冒険とは楽しいものだと思っていた。

…それは間違いではないとは思う。

様々な人との交流…様々な観光名所を見て回る事…そういったものに楽しさはあると思う。


…でも…それと同時に…傷つくこともある。

物理的精神的は問わず、傷つくことが。

…俺はやっと気づいた。


「…そうなのかも…ね。」


俺は呟くようにそう言った。

…その瞬間、急に今まで感じていなかった疲労感が、俺を襲ってきた。


「…っ。」


俺はふらふらとその場に座り込んだ。


「…ツイト様!大丈夫ですか?声は、出せるようになっていますよ!」


「え…あ、ああ…。」


俺は、リプラにそう言われて、確かに声が出ている。…と思った。

声が出せるようになっている事にも気付かないくらいの疲労感に襲われていたようだ。


「…ふ、ふふ、ゆ、勇者君…。

と、取り敢えず今日の所はこの位で…

か、勘弁しよう…。あ、そうだ…。

ぼ、僕が君達のリーダーになるって話は…ちょっと一旦真剣に考えてみる事にするよ…は、はは…。」


セクタは、そう言いながらふらっと立ち上がり、元依頼主を連れて去ろうとした。


「…待って。」


…と、その時カラリがセクタ達を呼び止めた。

…元依頼主は、何かを察したようでニヤニヤとしている。


「…私、ずっと話すか話さないか迷ってた…。

…話したら、ツイトさんを危険な目に遭わせる事になってしまうかもしれないから。

…というか、ツイトさんは、余計な責任を背負っちゃいそうだから…。

…でも、私が今言わなきゃ、きっと、私と同じような人を増やしてしまう…。

…それにツイトさんは…護るって、約束してくれましたし…助けにも、来てくれましたから。」


カラリは、そう言ったあと、俺達と目を合わせて話し始めた。


「…ツイトさん、リプラさん、今まで黙っていて…危険な目に遭わせて、ごめんなさい…。…それと、嘘をついてごめんなさい…『何でもない』って言っていたけれど、何でもなくないです。」


カラリはそう言って、今度はセクタ達の方を見た。


「私は…詐欺にあったんです。…この人達から…。

…私が依頼を受けられる、ギリギリの歳になった時、私はお父さんと一緒に、『カンパニー』へ来ていました。

…その時にも、その、スライムの依頼は貼ってありました。

お父さんは、手頃な依頼だと、私に受けさせました。


…そして、依頼を達成し、写真を送った後、URLが送られて来ました。

『このサイトにあなた方が撮った写真が掲載されます』と依頼主は言っていました。

…私はあまり興味が無かったので、見ませんでしたが、私のお父さんは、自分のスマホに来たURLで、サイトを開きました。


…そのサイトには、ウイルスが含まれていたんです。

…そのウイルスのせいで、私のお父さんの財布アプリのデータが

盗まれ、私たち家族の生活は、とても苦しくなったのです。

…父も多額の借金を負い、もうどこも私達には、お金を貸してくれなくなりました。


…そんな時に、私達にお金を貸してくれるという人達が現れました。

…お金に困っていた父は、藁をも掴む思いで、お金を借りました…。


…しかし、その依頼を貼った人達と、お金を貸した人達はグルでした。

…そして、私達は、もっと多くの借金を負うことになりました。


…私の母は、私が小さい頃、重い病にかかり、薬が必要でした…。

…私達が負った借金のせいで、もう薬は買えなくなり…母は………亡くなりました。


…父は、私に顔向け出来ないと、どこかへ行き、私には、お金だけが送られて来るようになりました…。

…それから私は、自分の生活費を稼ぐために、一人で『カンパニー』の仕事を受けるようになりました。」


…俺が依頼を達成して宿屋に帰ってきた時、『仕事の後は、食事が一番ですよっ!』なんて明るく言っていたが、心ではどう思っていたのだろうか。

…俺は、どうしようも無い気持ちになった。


カラリは、そこまで言うと柔らかな笑みを浮かべた。


「…ツイトさんに会ったあの時は…何故か、父から入るはずのお金がまだ入っていなかったんです。

…だから、まだ払えないって言ったら、ああいった状況になってしまって…。


…ごめんなさい、ツイトさん。

ツイトさんが、あの依頼を受けようとした時に、言うべきでしたね…。

…でも、私は…言って、ツイトさんが余計な責任を負うのではないかということと、私がこの集団から報復を受けることを恐れて言えませんでした。

…でも、結局、言わないで、ツイトさん達を危ない目に遭わせてしまいましたね…。

…本当にごめんなさい。でも、私、もう大丈夫です。

…私は、どんな報復にあっても耐えてみせます…。

なのでツイトさん、余計な心配はしないでくださいね。」


カラリは、崩れそうな笑みでそう言った。

…セクタは、詐欺…?借金…?死…?と言ったように、混乱していた様子だった。

…すると、元依頼主は、笑い始めた。


「…言ったね。どんな報復を受けても耐えてみせますって。

…はは、でもね、周りの人にその事を言ったり、借金を踏み倒そうとした人は、もう皆この世には居ないんだよ。

…意味は分かるかな?…耐える耐えない以前の問題だって事。

…はは、勇者サン、気をつけた方がいいよ、護りたいならね。」


元依頼主は、そう言い捨てた。

…つまりは…カラリは…自分がどうなるかも分からないのに、俺達に今その話をしてくれたって事か?

…それで、カラリは…

こんなに重い過去を持ってて…。

俺はあまりの衝撃に、何も考えられなくなった。


「…え…ね、ねえ、どういう事なの?

僕達の集団って…悪い事をしていたの?

…ねえ…。」


一方、セクタは元依頼主にそう声をかけていた。


「…何を今更、あなたがやった事だって、悪い事じゃあないですか。」


「…う…そ、そうだけど…そうじゃなくて…そうじゃなくて…!

だ、だって言ってたよね、あの人達が、こいつに負けたから、復讐するって…。

『カンパニー』に偶然居た仲間が、勇者一行が依頼を受ける所を見たから、だから依頼を誤魔化して、復讐するんだって…。

だから、僕も行って…僕がリーダーを務めるって言って…。

そうだったはずなのに…。

でも、それじゃあ、今、その女の人が言った話じゃ…。」


「…そうですよ、セクタさん。俺達の集団はそういう集団なんですよ。お金を騙し取り、都合が悪くなったら消すような…。」


「…そんな、僕は…そんなこと…。」


「何を言っているんですか、これは、ボスの…あなたのお父さんの意思ですよ。」


「ボス…父さん?」


「セクタさん、あなたは馬鹿ではないが少々純粋すぎる…。

…現実を受け入れられるように、なったら、また会いましょう。」


…話の流れから、どうやらセクタは、カラリが言っていたような事をしていたと言う事は、全く知らなかったようだ。

…セクタの父親が、ボス…カラリを苦しめている元凶…。

…何だか、難しい事になってきたな…。


元依頼主は、そう言ったあと、セクタを置いて、森の中に立ち去ろうとした…。


「はは、じゃあね…。」


「…待………て?」


俺は引き留めようとしたが、元依頼主の後ろに、何やら影が見えるのがわかり、俺はそれが何かを確認しようとした。

…ん…もしかして…『マッサツリー』?


「…どうせ魔法は後三発…勝ち目なん…てっ!?」


「あ。」


『マッサツリー』は、元依頼主の背後に忍び寄る寄ると、枝を伸ばし、元依頼主を持ち上げた。


「ちょ、ちょっと待っ…。」


「……………。」


「ぎゃあああああああああ!」


『マッサツリー』は、容赦なく元依頼主を締め上げた。

…辺りに、元依頼主の悲鳴と元依頼主の骨が折れたであろう音が響いた。

…その後、元依頼主は気絶したようで、悲鳴はぱったりと聞こえなくなった。


「これは何本か行きましたね…。」


リプラは、冷静にそう解説した。


「…うわぁ…。…でも何で急に?」


「…森を燃やしていたからでしょうか。」


「ああ…。ん?でもそれなら…。」


「「「ぎゃあああああああああ!」」」


でも、それなら、元依頼主は、関係ないし、もっと直接的に火を

放った人達がいるのでは? と、リプラに聞こうとした瞬間、どこからか悲鳴が聞こえて来た。


「…まさか、柄の悪い男達が…。」


「…そのようですね。」


「…え?でも、やっぱり元依頼主は、あいつらの仲間とはいえ、直接的に火を放った訳では無いし…やっぱり関係ないんじゃ…。」


「…もしかしたら、『マッサツリー』は、元依頼主さんが、あの方達の仲間だという事が分かっていたのかもしれませんね。」


「な、なるほど…。まあ、うん…うん?

えっと…ありがとう?」


俺は、状況がまだ飲み込めずにいたが、まあ、取り敢えず…『マッサツリー』にお礼を言った。


「えっと…これから、どうする?」


俺は、リプラにそう聞いた。


「…そうですね、まず、この方達を拘束し、ネクステ村の自警団に突き出したいと思います。

…その後、もう一度準備をして、リ・クエスト村に向かいましょう。

私も少し、調べたい事があるので…。」


リプラは、そう答えた。


「…カラリも、取り敢えずはそれで大丈夫?」


俺は、念の為にカラリにもそう聞いた。


「…うん。」


カラリは、静かにそう答えた。


「…じゃあ、取り敢えず一旦…。」


「…ま、待って。」


そして、俺達が気絶した元依頼主を回収しようとすると、セクタは俺達に話しかけてきた。


「…勇者…君。…いや、勇者…さん。

僕は…っ、僕は、軽い気持ちでいた。

…全てにおいて。

…僕は冒険をしてみたかった。

…冒険に憧れていたんだ。

…でも、僕に戦いの才能はなかった。

だから、だから…リーダーになれば…楽に冒険出来る…って思ってた。

…だけど、今それは違うってわかった。

…それに、ボス。…僕のお父さんのこともある。

…僕は…信じたくない…けど。

…………………ごめんなさい…。」


セクタは、目に涙を浮かべながら、そう言って頭を下げた。

…まあ、セクタがやった事は、謝って済むような事ではないと、本人でも分かっていると思う。

しかし、そうするしかないのだろう。

…そして、セクタのお父さんの事…整理出来ない事も、沢山ある。

…自分の父が、自分の意思で悪い事をしていると言うのだ、受け入れ難い…というか、受け入れたくないのが普通だ。

…混乱している状況で、出てきた言葉が、謝罪の言葉なんだろう。

…何が正しいのか、何が味方なのか、分からない状態でも、謝らなくては、と思ったのだろう。


「…俺はいいよ、別に。

…確かに、場合によっては酷い目に遭っていたかもしれないけど、取り敢えずはこうして、無事な訳だし…。

それよりも、やっぱりリプラとカラリにその言葉を聞いてもらわなきゃ。」


俺はそう言って、リプラとカラリの方を見た。


「私は、ツイト様が別にいいと仰るのであれば、構いませんよ。」


リプラは、そう答えた。


「…………。」


一方、カラリは黙っている。


「…許してもらえるなんて思ってない。

僕は、それだけの事をしたから…。」


セクタがそう言って、俯くと、カラリが、いや…と話し始めた。


「…い、いや、えーと。…た、確かに、捕まって…脅されて…怖かった。

…それに、あなたの父親が、私達家族を苦しめた元凶だって事にも腹が立った。

…で、でも、それは、あなたは知らなかった

んですよね?

…あなたは、私よりも年下…に、見えます。

…そんな歳で、何も知らないのに、“許してもらえるなんて思ってない”だなんて…。

…確かに、あなたも、悪い事はしたと思う。

…でも、あなたは反省しているし、これから、『軽い気持ちで復讐に参加しない』って約束してくれるのなら…。

私も、ツイトさん達と、同じ気持ちです。」


カラリは、そう言うと、笑みを浮かべた。


「…あ、あ…ありがとう…!僕、分かったよ。

…絶対に軽い気持ちでいない、もうこんな事はしない!

…僕は…自警団に行くよ、そして、その後に…父さんにも会いに行く。」


セクタも、静かに笑みを浮かべ、そう言った。

そして、セクタはネクステ村の方へ歩き始めた。


…と、その時、セクタの後ろに、何やら影が見えたのがわかった。

まさか、また、『マッサツリー』?

俺はそう思ったところで気づいた。


あ、そう言えば、セクタも、結果的にだが木を燃やすような事を命令した事になるな…と。


『マッサツリー』は、容赦なく枝を伸ばし、セクタを持ち上げた。


「…え、ちょっと待って…ぎゃああああああああ!」


辺りに、セクタの悲鳴と、多分骨が折れた音が響いた。


「…うう、『ヒール』…ぐっ…『ヒール』…『ヒール』…。」


…セクタは、咄嗟に回復魔法を使い、気絶はしなかったようだが、かなりダメージを受けたようだった。


「…はぁ、はぁ…ちょ、ちょっと…。

あ、待ってダメだ。」


…と思っていたが、セクタは最後にそう言い残すと、その場にバタっと倒れてしまった。


「『マッサツリー』、恐ろしいですね。」


リプラは、冷静にそう言った。


「な、何でそんなに冷静なの…。

まあ、えっと…じゃあ、柄の悪い男達を拘束して、自警団を呼ぶんだよね。」


「はい、そうですね。では、私が自警団を呼びに行くので、ツイト様はこれで拘束しておいて下さい。」


俺がそう言うと、リプラは謎の空間からロープを取り出した。


「えっ!?それは一体どこから出したの…?」


俺は驚き、リプラにそう聞いた。


「カラリさんを助けに、通路を通っている時にしまってある場所を見つけたのです。」


リプラはそう答えた。


「いや…えっと…それもそうなんだけど…その、それってあれ?異空間収納的なあれ?」


「ああ、これですか。はい、その通り、『異空間収納』ですよ。」


リプラは、そうです、これが『異空間収納』です。

当たり前じゃないですか、と言ったように、そう答えた。


「いや、俺は『異空間収納』って、初めて見たんだけど……って、まだ出てくるの?」


リプラは、俺と話をしている間にも、次々と謎の空間からロープを取り出して行った。


「…はい、このくらいですかね。」


リプラは、しばらくロープを出していたが、ある程度出したところでそう言った。


「いや、多っ!」


「こういったものは、多めに備えて置いた方がいいのですよ。

…では、自警団を呼んできます。」


「…あ、ちょっと待って、まだ『異空間収納』の話が!

……行ってしまった。じゃあ、拘束しておくか…。」


「あ、手伝います…。」


俺がロープを手にすると、カラリもそう言ってロープを手にした。


「あ、ありがとう…。じゃあ、始めますか。」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「ふー、終わった…。」


…見逃している者がいなければ、すべての柄の悪い男を確保出来たはずだ。


「…ツイト様、呼んできましたよ!」


…と、その時、リプラと大勢の人の姿が見えた。自警団の人であろう。


「…あ…良かった…。」


俺は、心からそう思った。


「…あ、こっちで……す……?」


俺は腕を振り上げようとしたが、その瞬間、体の力が抜けていくのを感じた。

…倒れる、俺は直感的にそう思った。緊張が解けたからだろうか。


…そういえば、武器屋の店主さんが、これからはしっかり休んだ方がいいって言ってたな…。

こうなることが分かっていたのだろうか。俺がそんなことを考えてる時、

ふと、自分の顔が、地面に当たるような感覚があった。


…ん?あれ?俺って…今…?


…誰かの声が聞こえる気がするが、その声もだんだん遠くなって行く…。

そして俺はそのまま意識を手放してしまった。

今回も、読んでくださり、ありがとうございます。

今回は、割とシリアスでしたね。

…え?マッサツリー?なんの事でしょう。


…大丈夫、安心してください!ハッピーエンドになりますから!安心してください!!本当に安心してください!!!


(…これだけ強キャラ感を出しているのに名前を貰えない元依頼主)

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