第5話 武器屋と森
「……う…ん?」
…俺は、起きて、窓のカーテンを開けた。
「…ううっ…。」
…外から入ってくる日の光が目に刺さり、俺は思わず目を瞑ってしまった。
「…ここ、は…?」
俺がいたのは、見知らぬ場所だった。
…あれ、俺は夢を見ているのか?
…だって、俺は…17歳で…それで、毎日オンラインゲームを…。
あっ、宿題…!?
…って、そうだったそうだった。
俺、異世界に来てたんだった。
それで、ここは…宿屋か…。
よかった…。
俺は、ホッと胸をなでおろした。
取り敢えず、今の所、異世界で、宿題は発生していない。
スマホを確認すると、無事に充電は100%になっていた。
一応、『kantsumire』も確認して見ると、やっぱり炎上していた。
「夢じゃなかった…。」
いや、最初から夢だとは思っていなかったが、炎上していることだけは、夢だと思いたかった…ただ、それだけである。
…まあ一瞬で現実に引き戻されたけれども。
さて、それで、今日は何をするのだろうか。
セーフティシティの時みたいに、また、今日、次の町に行くのだろうか。
だとしたら、結構あっけなさすぎるんだけど…。
まだこの町にとどまるのであれば、今日も仕事を受けに行くつもりだが。
そう考えていると、自分の部屋の扉がノックされ、「ツイト様」という声が聞こえてきた。
リプラのようだ。
「ああ、えーと…朝ごはんかな?」
「はい、そして、朝ごはんを食べ終わった後に…。」
「…チェックアウトかな?」
「はい、そうですね。」
「それで、次の町に…。」
「はい、鋭いですね、ツイト様。」
俺は頭を抱えた…。
え、うそ…もうネクステ村離れるのぉ?
ま、まあ手っ取り早く魔王を倒せたら、まぁ、金銭的な意味でもそれが一番いいのは間違いないんだけど…。
…でも、もっと…ほら、ねぇ?あるでしょ、冒険が…。
そんな俺の心の声を察したのか否か、リプラは残念そうな声で、「しかし…」と話を始めた。
「ネクステ村と、次に行く村には、ワープするための電波を妨害するように、森があるのですよ…。
ですので、次の村に行くには、森を通らなければならないのです。」
「よっ……っっっ!んんー。」
待ち望んだ冒険に、思わず「よっしゃあ!」と言いそうになったが、この世界の人達にものすごく失礼なので、俺は声を抑えた。
…でも、電波を妨害するようにある森って、超ピンポイントだなぁ。
「あ、そう言えばこの世界の歴史を聞きたいんだけれど、いいかな?
ほら、例えば…いつこの世界に魔王が現れたかとか…。」
…と、俺は昨日考えていた事をリプラに話した。
「歴史、ですか?…それならちょうどいいですよ次にいく村には、『歴史博物館』があります。
…そうですね、では、次の村の博物館で、この世界の歴史をまとめて話したいと思います。」
リプラはそう答えた。
「そっか、じゃあ、取り敢えず、朝ごはんを食べるか…。」
俺は、歴史について考えながら、食堂に向かった。
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…今日は昨日カラリが頼んでいた、『ハイパー・ディメンション和風定食』なるものを頼んでみた。
…終始何がハイパー・ディメンションなのか分からなかったが、味は美味しかった。
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「今日でこの宿ともお別れか…。」
チェックアウトを終えたあと、俺は哀愁漂う雰囲気で、宿屋…何だっけ…。
俺は看板を見た。
あ、そうそう、宿屋、『シヴィライゼーション』を見つめた。
「短い間だったけど、この宿の事は絶対に忘れないよ…。」
俺はそう言い残して、宿屋を離れた。
…いや、忘れてない、忘れてないよ?
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…と、俺は森に向かう前に、仕事を受ける場所に来ていた。
何かちょうどいい森の仕事があったらなー。
ぐらいの軽い気持ちで回ってみたのだが…。
「…あった。」
あったのである。しかも、割と簡単そうなものが。
『スライムの生態調査』
概要には、お持ちのスマートフォンなどで、写真を撮って、我が社のサーバーに送る仕事です。と書いてある。
簡単そうである。
依頼主は、何故か森で会う事を望んでいるが。
リプラに聞いても、「簡単なわりには報酬が高いですね」と言っていた。
…それに、報酬は、次の村の『カンパニー』でも受け取れるらしい。
…今サラッと聞いたが、この、仕事を受ける場所の通称は、『カンパニー』らしいな…。
「じゃあ、この仕事を受け…。」
「あ、ダ、ダメっ!」
「…えっ?」
…と、俺が壁から紙を取ろうとすると、突如カラリがそう言って、止めてきた。
「…あ、い、いや、その…スライムって、意外と強いですから…。」
「いや、でも俺、ドラゴンを倒せたんだけど…。
スライムは、レベルアップ施設でも、最初に出て来ていたし…。
…一般的なスライムって、どのくらいの強さなの?ドラゴンより強かったりする?」
俺は、リプラにそう聞いてみた。
「…ドラゴンより強いスライムが現れるなんて事は滅多にないと思います。
たまに、驚く程に巨大なスライムが現れる事はあるようですが…。」
リプラは、そう答えた。
「じゃあやっぱり、やめておいた方がいいのかな…。」
「いえ、しかし、スライムは温厚な性格なので、下手に攻撃したりしなければ、相手がこちらを攻撃することもないと思われます。
レベルアップ施設のスライムは、わざと、こちらを狙うように設定されているだけですから…。」
俺が紙を取る手を戻そうとすると、リプラは、依頼を受けても問題ないですよ、といった様子で微笑んだ。
「じゃあ、やっぱり、仕事を…。」
「…で、でも、魔王がいる今、スライムの群れに何かされていない
とも限りませんし…。」
俺がまた紙を取ろうとすると、カラリが焦りながら俺を止めた。
「…えっ?じゃあ、俺、どうすればいいの?
この依頼って、受けるべきなの?
それとも、受けないべき?」
俺が混乱していると、リプラは考え始めた。
「…そうですね、カラリさんが言う事も、一理ありますね。
もし、魔王が何かしらの魔法で、スライムを凶暴化させているのでしたら、危険ではあるかもしれません。」
「…じゃあ、やっぱり…?」
俺は、紙を取ろうとした手を戻そうとした。
「…しかし、それなら好都合です。
魔王の力の鱗片を受け取ったモンスターは、普通のモンスターよりも、多くの魔力を有しているのですよ。
…今だからこそ、行かねばならないのです。
受けましょう。」
「結局、受けるのか…。」
俺は、依頼の紙を壁から剥がした。
…カラリはまだ心配そうな顔をしていたが、諦めたようだった。
うーん、なんだか少し不安が残るなぁ。
「…えっと、それで、この後すぐ森に向かうの?」
俺がそう聞くと、リプラは笑顔になった。
「…ご冗談を、素手で戦うおつもりですか?ツイト様。」
「…あー、武器屋に行くんですね…分かります。」
…俺達は、武器屋に向かう事になったのだった。
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…受け付けで依頼を受けた後、俺達は武器屋に来た。
…のだが…。
「な、なんか異様な雰囲気が…えっ、まさかここ、めちゃくちゃ高い…。」
放つオーラが異様な武器屋だった。
カラリも、言葉を失っている。
「…そうですね、ここの武器屋はこの町で一番高いです。」
…リプラのその言葉を聞き、俺はさっきの言葉が脳裏を過ぎった。
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「…ちなみに、もしそのお金をあまり使わずに、魔王を倒す事が出来たらそのお金はどうなるの?」
「そうですね…魔王に襲撃された村や町の再建に使われると思います。」
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…俺は、これはいけないなと思った。
「リプラ…俺は別に高い武器じゃないとダメだというこだわりはないから、もう少し安い武器屋に行こうよ…。」
「…そうですか?」
俺がそう訴えると、リプラは、異様なオーラを放つ武器屋とは逆の方向に足を向けた。
…よかった…と、俺は安心した。
…しかし、何だろうか。
なぜか、リプラとは俺やカラリとは違った価値観のような気がする。
…一体どうしてこんな価値観になったんだ。
…。
…考えてもわからないか。
…と、俺もリプラについて行った。
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「…ああ、そうそう、こういう武器屋!」
そして、少し歩いて、俺達は普通の武器屋にたどり着いた。
「…では、早速入りましょうか。」
「あ、う、うん…。」
…と、俺達が武器屋に入ると、陽気そうな、俺よりまあまあ年上に見える人が店主を務めていた。
「いらっしゃーい!ようこそ!私の武器屋へ!」
…そう、明るく俺達を迎えてくれた。
「単刀直入に申し上げますと、こちらの2人に合う武器を買いたいと思っております。
…なにかオススメはありますか?」
…リプラは、お店に入って周りにどんな武器が置いてあるのかを見渡すと、すぐにそう聞いた。
「…へえ、単純明快だね。
そういう聞き方…私は嫌いじゃないよー?」
店主さんは、リプラにそう返した。
…なんだかよくわからないけど、何かがハマったみたいだ。
「で、武器か…。
あんたら2人に合いそうな武器ねぇ…。」
「…って、ちょっと待って!カラリ…もう帰らなくて大丈夫なの?
まさか、森にも来るの?危険だよ!」
店主さんが考えている間、俺はカラリに小声でそう聞いた。
「…実は、リプラさんに…。」
すると、カラリはそう言葉を詰まらせた。
「…えっ、なんて言ったのリプラ…。」
「もう既にカラリさんのお宅は私が無線連絡したアンドロイドが、掃除と保護をしているので、カラリさんが良かったら冒険についてきませんか?
と聞いたところ、カラリさんがついてくることになりました。」
リプラはにっこりと笑い、小声でそう言った。
そして、ウインクした。
…だから頼んでないって…。
「…冒険って危険なんじゃないの?」
「大丈夫です。私には、異世界からの勇者様がピンチになった時のために、保護プログラムがされております。」
…なるほど、それなら大丈夫…ん?
「あれ、それならもし俺がピンチになったら…?」
「…それは……頑張って下さい、ツイト様ならピンチになるなんて事はきっとないでしょう。」
「…えっ?えええ!?」
…俺は、一瞬安心したが、すぐ不安が蘇ってきた。
…だ、大丈夫なはずだ。
リプラがそう言うんだからな。
…き、きっとピンチなんて起こらない…よな?
…そうだ、きっと、大丈夫だ。
俺は自分にそう言い聞かせた。
「はいはーい、ほら、なに無駄話してんの、武器屋に来たんだから、武器の話でもしなさいな。
…はい、一応これ、候補ね。」
…と、言い聞かせている内に、店主さんが俺達に合いそうな武器を持ってきてくれたようだ。
…カラリに渡されたのは、小型の弓とボウガンと鉄菱のようなものだった。
…そして俺には、長めの剣と鉄菱のようなものが渡された。
「…まあ、どれが一番いいかは、使ってみないと分からないからね。試してみるといいさ。」
「…えっ、俺だけなんでこの二択なんですか?」
俺は思わずそう、口に出していた。
…だって、おかしい。カラリは2、3個程度候補があるのに、俺は2つ…いや、ほぼ1つの選択肢しかないなんて…。
「ツイト様には、その武器しかない!
という熱烈な気持ちではないでしょうか?」
リプラは、俺をフォローするように、そう言った。
熱烈な気持ち…いや、まあ、むしろ、それは長めの剣だけ出て来た場合は、そう思ったんだけど…鉄菱…ねぇ。
鉄菱は、どういった気持ちで渡されているのだろうか。
…というか、もし俺が鉄菱を選んだら、これからどうなってしまうんだろうか。
…鉄菱だったら、スライムも倒せない気がするぞ。
…もちろん、長めの剣の方に決定…。
…俺は、長めの剣に決定しようとしたが、その前に、鉄菱をじっと見つめてみた。
…正面から見ると、鉄菱は、綺麗な三角形だった。
…いや、正面というか、どこから見ても…。
…確か数学で習ったような、なんて言うんだっけ、確か…正…正何とか体みたいなやつだったような。
…とにかく、綺麗な形をしていた。
…何だか、鉄菱が輝いて見えた。
…「鉄菱にしとけよ」といったようなオーラを鉄菱から感じる。
…そうだなぁ、鉄菱に、決定…。
「…どれがどのくらいの性能か分からないので、全部使ってみてもいいですか?」
…カラリのその声で、俺は正気に戻った。
…危ない危ない!鉄菱にする所だった!
「…じゃあ、えっと、俺もそうさせてもらって大丈夫ですか?」
「んー、まあ、いいよ。
じゃあちょっと試してみようか。」
店主さんは、そういうと、カウンターの下からおもむろにハリボテを取り出した。
「じゃあ、店の裏の空き地で待ってるから、試したい武器を持ってきなー。」
そして、店主さんは裏口から外へ出ていった。
「私達も行きましょう!」
「…そ、そうだね。」
俺達も、店主さんがいるとみられる空き地へ向かった。
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「…おっ来たね。じゃあ、ハリボテを2つ並べておくから、自由に武器を試してみな。」
空き地に向かうと、店主さんはそう言い、ハリボテを並べ始めた。
「ありがとうございます。じゃあ、早速…。
ていやぁっ!!」
俺は、ハリボテに向かって鉄菱を投げた。
…鉄菱は、ハリボテの周りに、散らばった。
…。
…しかし、何も起こらなかった。
「あー、このハリボテは、鉄菱を試すには向いてないかもしれないねえ。」
店主さんは申し訳なさそうにしていた。
…わかってたさ、わかってたけど、その、ほら、投げ心地みたいなものを、ちょっと試したいと思って…。
…うん、まだ100%ではないが、俺の中で、選ぶ武器は、九割九分九厘、長めの剣に決定した。
「まあ、一応試してみるか…。」
…と、俺は長めの剣を構えてみた。
そして、ハリボテを真っ二つにしようと、思いっ切り振ってみた。
「…あれぇ?」
俺は、ハリボテの胴体を狙ったはずなのだが、目の前のハリボテは、首から上がなくなっている。
俺は、胴体を狙ったが、どうやら実際は首を落としてしまっていたようだ。
「…す、すごいです!流石はツイトさん!」
カラリは、そんな、俺の様子を見て絶賛していたが、俺の方はそうではなかった。
今、たまたま胴体を狙おうと思ったから首に当たったのであって、もし頭を狙おうとしていたら、多分…いや、確実に攻撃は外れていただろう。
…つまり、ダメだったのだ。俺は、狙いを外してしまったのだ。
「ま、まあね。」
まあ、カラリやリプラの手前、そんなことは言えないので、俺はちょっと見栄を張った。
「なぁなぁ、少年。」
…と、見栄を張っていると、店主さんが小声でそう、俺に話しかけてきた。
「あと数年で少年じゃなくなりますけど…。
何ですか?」
俺も小声でそう返事すると、店主さんは笑顔になった。
「数年で少年…。いいねぇ、私、そう言う韻を踏む、みたいなの、結構好きなの。」
…よく分からないが、何かがハマったようだ。
「…数年と少年だと、ちょっと微妙な気がしますが…。」
「まあ、細かいことはいいんだよ。
それよりも、さっきの剣の振り方…少年、あんた胴体の方を狙おうとしてただろ?」
「…えっ?」
店主さんに言い当てられ、俺には若干冷や汗が滲んだ。
「あー、あー、別に恥かかせたいってわけじゃないんだ。
ただ、良ければその剣を使うコツを教えてやろうかと思ってな。」
「…えっ、あ、ありがとうございます。
是非、教えていただけるなら…。」
俺がそう言うと、店主さんは俯いて、もっと小声でなにか呟いた。
「…いいねぇ、向上心があって。
私の妹もそのくらい素直だと良かったんだけども。」
「えっ?何ですか?」
「…何でもないよ。まあ、私は、あんたみたいな、未来ある少年を応援したいだけだ…ってね。」
店主さんはそう言いながら、俺の方をチラチラと見た。
「…?」
「…まあ、武器の売上に貢献して欲しいってのも
本音だけどね。」
店主さんはそう言いながら、またチラチラとこちらを見た。
「…!」
俺は気づいた。
少年、応援、貢献…。お、う、え、ん。
全て韻を踏んでいる…!
…いや、待って、俺がこの世界の言葉が分かるのって、翻訳されているからなんだよね?
…こういう風に訳されているって事は、つまりはあれだよな。日本語と英語で例えると、英語で韻を踏んだ文を日本語に翻訳する時、直訳すると韻を踏んだ文では無くなってしまう可能性があるから、韻を踏んだ文だという事を崩さないように…うまく意味があてはまって、韻も踏めている文に訳すような…。
…つまり、この翻訳は直訳ではなく、そういった意図を汲んでいるという事が分かる。
…そこから、俺が受けている翻訳は、かなり高度なものだという事も分かる。
「韻を…踏んでいるんですか?」
「おっ、よく分かったね。
まあ、結構強調したしなぁ…。
ま、分かってくれて嬉しいよ。
…じゃあ、早速、剣を構えてみな。」
「え、あ、はい…。」
…いったい、この翻訳はどうやって作られたものなのか、とても、気になるが、今は剣だ。
…俺は、さっと剣を構えた。
「あー、ダメダメだねぇ。
少年、レベルは?」
すると、即座に店主さんはそう言った。
「あー、えっと、99です。」
「…使える魔法は?」
「あー、えっと、『スタン』です。」
「…レベル99で、使える魔法がスタンだけ…?
…剣の腕前も、素人レベル…。
…ハリボテの首を落とした時は、そんな風には見えなかったけどねぇ…。
…まあ、それは…いいか。」
俺がそう答えると、店主さんは、ぶつぶつとそう言い始めた。
「…大丈夫ですか?」
「…大丈夫。それよりも、少年、あんたこんな素人みたいな剣で、よくレベルを99まで上げる事が出来たね…いったいどうやったんだい?」
店主さんは、驚いたように、そう聞いてきた。
「ああ、えっと、レベルアップ施設で…よく分からないまま剣を持たされて…数時間モンスターをぶった切って…気付いたらレベル99でした。」
「気が付いたらって…その後は?
休んだりは…?」
「…してない…ですね。すぐ、この村に向かったので。」
俺がそう言うと、店主さんは、こいつ正気か…?といったような
顔をしていた。
「…流石に、この村に来てからは、休んだりしたよね?」
「あ、えーと、少し休んだんですが、割とすぐ『カンパニー』に…。」
「…。」
俺がそう言うと、店主さんは、黙ってしまった。
「…少年、あんたに少し警告しておくと、これからは、もうちょっと、休んだ方がいいと思う。
…まあ、約束はしたから、剣の使い方だけは教えようと思うけどね。」
そして、店主さんは、少し寂しそうな顔をした。
「…?…それって…。」
「さあさあ、無駄話はこれくらいにして、その剣の使い方を教えるとするかね。
ほら、ぼーっと突っ立ってないで、もう一度剣を構えな。」
「…無駄話って、店主さんからが初めに聞いて来たんじゃないですか…。」
「んー?そうだっけー?」
…俺がそう聞くと、店主さんは、そうとぼけた。
…でも、まあ、確かに、よく考えてみれば、俺はここまで…夜は休んだが、他は全く休憩をしていない。
…でも、俺は今、全く疲れていないような気がする。
…いつか疲れが出るかもしれないし、休憩は大切かもしれないな。
…俺はそう考えた。
「…。」
そして、意味深な店主さんの表情をスルーして、俺は剣を構える事にした。
「…えっと、それで、ここからどうすればいいですか?」
「…ああ、えっと…少年、この剣は軽めの素材で出来ているから…」
俺はその後も、店主さんから剣を教えてもらった。
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…一方、少し時間を遡り、カラリも武器を試していた。
「…初めは、弓………ひゃっ!」
カラリは、力いっぱい弓を引くも、引ききる前に弦から手を離してしまった。
「…小さくても、意外と力を使うんですね…。
…やっぱり、ツイトさんのようには行かないなぁ。
…っと、そう言えば、リプラさんって、こういった武器は使えるんですか?」
「はい、そう、プログラムされておりますので。」
「じ、じゃあ、お手本とかって、見せてもらえたりしませんか…?」
「もちろん、いいですよ。」
カラリが、「お願いします!」と、リプラに頼むと、リプラはそう言ってカラリから弓を受けとった。
「…。」
リプラは、弓を受けとると、無言で構え、スッと矢を飛ばした。
「…す、すごいです!」
矢は、ハリボテの頭をしっかりと貫いていた。
「さすがリプラさんです!やはり、“勇者様”のサポートを行うには、その位の力がないといけないのでしょうか…。」
「…ふふっ、ツイト様は、自分を助けてくれるような頼り甲斐のある女性よりも、守ってあげたくなるような女性の方が、好きなのではないでしょうか?」
リプラは、さりげなくカラリにそう伝えた。
「…えっ?」
カラリは、数秒経ったあとに、リプラが何を言いたいか察して、顔を赤くした。
「か、からかうのはやめてください!
じゃあ、次はこれを試してみます!」
カラリは、右手で顔を手で仰ぎながら、左手で弓を置いて、ボウガンを手に取った。
「………あっ!」
さっきの弓で学んだ事を生かし、倒れないように、体制を整えたが、今度は全く当たらなかった。
「…じゃあ、次は…鉄菱かぁ…。
…うーん、さっきのと、今使った武器、どれが1番私にあっているんだろう。
…店主さ……あ。」
カラリは、すぐ店主さんを呼ぼうとしたが、店主さんは、何やらツイトに剣の使い方を教えていたようだった。
「…どれが1番私にあっているんだろう。」
カラリは、すぐ目を逸らして、武器に目をやった。
「…この中ですと、弓が1番いいのではないのでしょうか?」
「…!リプラさん……そうですか?
…でも、弓って、難しかったりしませんか?
…その、例えば、お手入れとか…。」
「…その辺に関しては、私がしますので、大丈夫ですよ。」
カラリが不安そうにしていると、リプラは、そう言い、フォローした。
「…うーん、それでも、弓って何か抵抗があるんですよね…。
なんというか、矢を放つのに…。」
「…初めて使う武器は、誰でも抵抗はあるものですよ。」
「これって、初めてだからなのかなぁ…。」
カラリは、そう言いつつも弓を手に取った。
「…。」
「ツイト様に選んでもらいますか?」
「…ええっ!?い、いや、大丈夫ですよ!
そ、そうですね、弓、いいですね!
反動さえ慣れれば大丈夫ですもんね!」
リプラがそう言うと、カラリは顔を赤くして、焦りながら弓に決定した。
「…ふふ、いいですね。恋というものは。」
…ふと、リプラはそんな事を呟いた。
「なっ、何を言っているんですか!
こ、恋だなんて…。」
「…もしかして、隠しているつもりでしたか?」
照れるカラリに、リプラはそう続けた。
「…隠している…つもりでは…なかったですけど…。
…こういった感情を抱くのは…初めてで…その、突然、憧れていた勇者様だった、ツイトさんが…私を助けてくれて…。」
カラリは、もっと顔を赤く染め、目を伏せていた。
「………ふふっ、青春ですね。」
「……そうですね。」
リプラがニコッと笑うと、カラリもそう言って、笑みを浮かべた。
「…しかし、多分余計な気はなく、単純な優しさでツイト様に剣の使い方を教えているであろう、店主さんに嫉妬するのはどうかと思います。」
…リプラは、笑みを浮かべたあと、突然しんみりとした顔になり、カラリにそう伝えた。
「み、見てたんですか!…じゃなくて、嫉妬なんかしてませんよ!」
「大丈夫ですよ、人間というものは、そういうものだとプログラムされておりますので…。」
「やめてくださいよー!」
カラリは、照れながら、手を顔の前に持ってきて、手のひらをリプラの方に向け、顔を隠していた。
「ふふっ、大丈夫です、分かっております。」
「もう、リプラさんったら…。
…もういいです!弓を使う練習をします!」
リプラの言葉を受けると、カラリは立ち上がり、弓の練習を始めた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…という訳で、この剣はこう使うってわけ。
…そうそう、少年、やっぱり才能あるんじゃない?」
こうして俺は、店主さんに教えてもらい、剣の使い方を知った。
「後は…そうね、しっかり体幹を鍛えれば、問題ないね。
…出来れば、手合わせ出来る仲間がいると、もっといいんだけれど…いるかい?」
剣の稽古が終わると、店主さんは、俺やリプラやカラリの方を見た。
…俺の頭には、リプラの姿が浮かんだ。
「…リプラー!リプラって、剣って使えるー?」
俺はすぐ、リプラにそう呼びかけた。
…と、その時カラリが弓を使っているのが見えた。
カラリは弓を選んだようだ。
…カラリが弓か、わりとイメージ通りだな。
と、俺は思った。
「はい、私は、全ての武器を使えるように、プログラムしてあります。」
…リプラからは、そんな言葉が、返ってきた。
「大丈夫みたいです。」
「よし、じゃあ、あっちも選んだみたいだから、後は会計して終わりだね。
…あ、少年、体幹トレーニング、さぼるんじゃないよ?」
「あ、は、はい…。
…あ、リプラー!カラリー!後は会計して終わりだってー!もうちょっと、練習していく?」
店主さんがそう言うので、軽く受け止めた後、俺は2人にそう聞いた。
「カラリさん、どうしますか?」
「うーん…まあ、かなり練習が出来たので…問題ないです!満足です!」
「…だそうです、では、会計しましょう。」
2人からは、そんな返事が返ってきた。
「いよいよ、会計か…。」
俺は、自分の武器を買うという初めての体験に胸をワクワクとさせていた。
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「はい、剣2本と、弓と矢ね。後、わかっているだろうけど、矢は人に向かって放たないように、後、鉄菱、おまけね。」
「会計、終わりましたよ。」
「はや!?」
が、俺が武器屋へ戻った頃には会計はもう終わっていた。
…なんかちゃっかり鉄菱もついて来ているのだが。
「えー、リプラさーん、ほら、初めての武器なんだからさー、もっと余韻というか…『あー、今からこの剣は俺のものなんだー』感というか………ないの?」
「『スライムの生態調査』の依頼を受けた以上、早く会計し、速く依頼主の元へ行かなくてはならないと思っていたので…。」
「…でも!!……………でも!…………で、でも…。」
俺は何か反論しようと思ったが、確かにリプラの言っている事は正論なので、何も言い返せなかった。
「……あー、そうだね…。
じゃあ、ついに、ネクステ村ともお別れかぁ…。」
と思うと、なんだかしんみりとした気持ちになった。
「…村の出口に行ったら、また、入口の時みたいに、村の皆が歓迎してくれるかなぁ。…行こうか。」
俺は、そう言って武器屋を出ようとした。
「ちょ、ちょっと、何だい?歓迎って、少年、あんた有名人だったりするのかい?」
…が、武器屋を出る前に、店主さんにそう止められた。
「ああ、そう言えば、説明していませんでしたっけ…えっと、『kantsumire』を見てもらうのが1番手っ取り早いとは思うんですが…。俺は、まず、質問に答えて…。」
そのため、店主さんに、なんだか自分でもよく分かっていないが、俺は異世界から来た勇者だということを説明した。
「はぁ…ああ、あー!だから…!ああ…。」
店主さんは、それを聞くと、驚きと悲哀を感じる表情になった。
「…どうしたんですか?」
「…いや、何でもないよ、少年。
確か、あんた…森に行くって言ってたね。
それなら、あれだろ?森を抜けた先の村…リ・クエスト村に向かうんだろう?」
「…そうなの?」
俺はリプラにこっそりそう聞いた。
「…そうです。」
「そうです!!」
そうらしい。
俺は、リプラよりも大きな声で店主さんにそう言った。
「…リ・クエスト村には、多分、私の妹がいる。
…ネクステ村で武器屋の店主をやっている…リテラっていう女がいるって言ったら、分かるはずだから…。
だから、リ・クエスト村のカンパニーで、真昼間だってのに、真っ黒な悪目立ちしているやつを見かけたら………。」
店主さんは、そう言うと少しの間俯いた。
「…話しかけた方がいい。冒険の、手助けを、してくれるだろうから…。」
「…………。」
俺は、直感的に、店主さんは、何かを隠していると、俺は思った。
しかし、何を隠しているかは検討もつかない。
…店主さんの、妹さんに会えば、何かが分かるのだろうか。
「…分かりました。…では、ありがとうございました。」
納得はいってなかったが、俺はそう言って、武器屋を後にした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…で、いよいよ森かぁ。」
武器屋を出てそうそう、俺はそう呟いた。
「…森ですね。」
カラリもそう呟いた。
…そう言えば、カラリにしてみれば、今まで生活していた土地を離れる事になるんだもんな。
…おそらく、故郷、なんだよな…。
「…カラリ、本当にいいのか?…俺達に着いてきたら、しばらくはここには戻って来れないかもしれないぞ?」
俺は、カラリにそう聞いてみた。
「…いいんです。」
カラリは、そう言って、笑みを浮かべた。
…作り笑いだ。…何となくわかる。
…ワクワクもあれど、やっぱり、カラリも、ここを離れる事や、これからの冒険に不安を抱いているんだ。
「…大丈夫。何かあったら、俺が責任を取るから!…きっと!」
俺は、カラリの不安を取り除こうと、そう言った。
…するとカラリは、何か納得言っていないような顔をした。
「…それは、護ってくれるって事ですか?」
「…えっ。ま、まも…。でも、それならリプラが…。」
俺がそうたじろぐと、カラリは俺と目を合わせて、今度はハッキリと言葉を発した。
「…ツイトさんは!…護ってくれないんですか?」
真っ直ぐな瞳で、そう、訴えた。
「…う、うん…護る、よ。」
俺は、胸をドキドキとさせながら、そう答えた。
すると、カラリは「ふふっ」と笑った。
…今度は、心からの笑いのようだ。
…カラリを護るって、約束してしまったが…まあ、不安が少しでも和らいだならいいか。
約束したからには、護らなければ…。
…俺は、そう思いながら、3人で森へ向かったのだった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
…そして、槌翔達が去っていった武器屋に、また、1人客が来ていた。
「いらっしゃーい!ようこそ私の………。
………え、リム………あんた…リ・クエスト村にいるはずじゃ……。」
…それは、店主、リテラの妹…リムだった。
「…リテラ姉、私が今どうなっているか、知っているでしょ?
…リテラ姉は、『kantsumire』、やっていないから、さっきの人が誰だったか、最後まで気づかなかったみたいだけど…私は違う。
…すぐに気付いて、追いかけたわ。」
「…だから……なるほど、あんたらしいわね。
…その行動力を、ハリボテが相手の時にも発揮して欲しいのだけれども。」
「…私がやっている事の、練習なんて、意味が無いわ。
全てが本番よ。本番で、練習するの。」
「あー、やっぱりリムだ。本物だね。」
「…何?偽物だとでも思ったの?」
「…ごめんごめん、でも、リム、私、勇者さん達に、あんたが、森を抜けた先の村に、そんな格好しているって言っちゃったんだよねー。」
「…ええ、聞いていたわ。…というか、あの事…私が勇者さん達に説明しなくても、リテラ姉が自分で説明すればよかったんじゃないの?」
「………。」
店主リテラは、黙り込んでしまった。
「ふふ、やっぱり、私の事があるから?
…そんなに、気にしなくてもいいのに、だって、まだ私は…私よ?」
「………そうよね。大丈夫、分かっているわ。
…それで…それなら、リム、あんた、また勇者さん達を追うんでしょう?
…今日は、何をしにここに来たの?」
「…理由が無かったらここに来たらダメ?
…リテラ姉を、少しでも安心させようと思ってね。
…もう充分話したし、そろそろ行こうと思うわ。」
「…そうか…そうよね。…じゃあ、“また”。」
「…うん、じゃあ、“また”。」
「…あ。」
「…何?」
「…リム、あんたの、“それ”がもし治ったら両親に会いに行きなさいよ。
…もう、受け入れられる歳でしょう?」
「…ええ、治らなくとも、どうせ会う事になるだろうけれど。
…いや、あいつらは、そんな優しい事しないか…。
じゃあ、今度こそ、さようなら。」
「…ええ。」
…リムは、その言葉を聞いた後、店を出た。
「……………。」
いやぁー、今回も見て下さり、ありがとうございます!
翻訳に関して、カラリの気持ち、武器屋の店主さんの発言、次の村にいるはずらしい、武器屋の店主さんの妹のリムの発言…。
何だか、色々意味深な伏線がはられましたね。
いつ回収されるのか、楽しみにしていてください。
…さらに、
…だ、大丈夫なはずだ。
リプラがそう言うんだからな。
…き、きっとピンチなんて起こらない…よな?
…そうだ、きっと、大丈夫だ。
という主人公の思い…。
完全にフラグです、ありがとうございます。
こちらもいつ回収されるか、楽しみにしていてください(回収されるかは分かりませんが)。
次回も、お時間があれば…是非見てください。