第45話 情報
「…あっ!先輩、勇者様たちが来ましたよ。」
元依頼主を倒した後、俺はリプラに着替えを渡してもらい、物陰で着替え、その後、俺達は、念の為リムさんとブロックさんをあの地下に残し、呪いが掛けられていた場所まで戻ると、そこには、簡易的な橋を設置しようとしている二人と、自警団の人達がいた。
…呪いはどうやら、消えていたようだった。
「…ああ、実は、勇者様方が池の方へ行った後、しばらくして、呪いが自然と解け始めたんですよ。」
俺がその様子をじっと眺めていたからか、後輩の方は、目が合うと、そう言った。
「しかし、不思議ですよね…ここに来られないように、呪いがかかっていたはずなのに、勇者様が通ったら消えてしまうなんて…まるで、勇者様が通ったという事を知っているような…。」
「…!」
後輩の方の話を聞いて、俺は、確かに、と思った。
そのタイミングで呪いが解けるという事は、俺達がそこを通った事が、分かっていたという事になるよな。
俺達が居なくなってしばらくして、という事は、呪いの効力が弱くなった、とも考えにくいからな…。
…うん、間違いない、呪いが解けたのは、誰か…いや、呪いを掛けた張本人が、意図的にやったのだろう…。
そして…。
「ツイト様、自警団の方々がいます。
…ここにいるという事は、もみ消されずに済んだという事になりますね。」
リプラは、俺が考え始めたのを見ると、すかさずそう話を振ってきた。
「…ああ、うん、そう…か…。」
「一応拘束はしてありますが、いつ起きるか分からない状況なのです。
…早く、連れて行ってもらいましょう。」
「…う、うん。」
「では、案内をお願いします。」
…俺は、自警団の人達を、元依頼主がいる所まで案内しようとしたが、何やらイーネさんがこちらの方に近づいてきた。
「…勇者様ー、ちょっと…。」
「…ダメですよ。」
「…まだ何も言ってないんだけどなぁ…。」
しかし、イーネさんが俺に話しかけようとした瞬間、リプラがイーネさんの前に立ちはだかり、全力で止めていた。
「…では、何を言おうとしていたのですか?」
「いやぁ、ただ、ちょっと、二人で話をしようって言おうとしただけだよー?」
「…では、ダメですね。
…今は、自警団の方々を、出来るだけ早く案内しなければなりません。…そもそも、薬屋での事があるため、イーネさんとツイト様を、簡単に二人きりにする訳には行かないのですよ。」
「…ふーん、なるほどねー。」
リプラの話を聞くと、イーネさんはニヤッとし、俺達から少し離れて、歩き始めた。
…何かを企んでいるのは、間違いないが…このタイミングで話がしたい…とは、一体、何を話すつもりだったのだろうか。
…まあ、でも、確かにリプラが言う通り、自警団の人を、案内しなければならないし、今、気にする必要は無いか…。
「…こちらです。」
…と、リプラが前を歩くので、俺は、セクタやカラリと共に着いて行った。
「こちらの地下に…。」
「…フフッ…勇者サン。」
池に着き、ちょうど、リプラが自警団の方々を地下に案内しようとした時、元依頼主のような声が、どこからか聞こえてきた。
「…。」
俺は、周りを見渡し、イーネさんが居ない事を確認した。
…やはり、思った通りだ。これは、イーネさんがどこかに潜んで、元依頼主の声を出しているだけのようだった。
…一体何を企んでいるんだろうか、さっき、俺と何か話したかったようだったが…。
「…っ!?」
と考えていた時、突然すぐ近くの茂みの方から、ボッ、と音を立てながら、火球がとんできた。
「…!?」
「…ツイト様!?」
「ツイトさん!」
…リプラや、カラリ、セクタや自警団の方々も、その火球を見るやいなや、こちらの方に駆けつけて来ようとしていた。
俺も、その攻撃を避けようと、素早くしゃがんだ。
…が、しゃがんだその直後に、またその場所に火球が飛んできた。
「…っ。」
俺は、同じように、サッと火球を避けたのだが、また、避けた先に火球が飛んできた。
「…!」
ずっと火球を避けていると、俺は茂みが、濃い所に向かっているようだという事に気づいた。
…なるほど、イーネさんは、どうやら俺を誘導していたらしい。
「…よし、これでやっと話が出来るなぁ…。
まあ、この状況で、普通に話が出来るとは思っていなかったから、ちょっと強引な方法を使わせてもらったよー。」
俺は、来た道を引き返そうとしたのだが、その前に、イーネさんが目の前に現れた。
「…でも、リプラには、おそらく、イーネさんがやったってバレていると思うけど…。
それに、多分、皆俺を追ってきていると思うんだけど…。」
「…まあ、自警団の人は、私が声を変える魔法を持っている事を知らないから、最悪バレてもいいさ。
今やっている事さえバレなければ、なんとでも言える。
…それに、ちゃんと追われないように火を放ってきたから問題ないよー。」
イーネさんは、悪い顔をしていた。
「…ああ、そう…。
えっと、それで、話って?」
「うん、勇者様にね、ちょっとした情報をあげようかと思ってねー。
…こっちなんだけど。」
「…。」
イーネさんは、茂みが沢山生えている場所の、さらに奥へ向かい始めた。
…俺は、そのまま、道中の火を消してリプラ達の所へ戻ることも考えたが、その、ちょっとした情報が少し気になったため、着いて行く事にした。
「…来たねー。
…まあ、今の勇者様なら、着いてきてくれると思ってたけど。」
ニヤリと笑みを浮かべるイーネさんの向こうには、また別の地下が見え、その手前には、ボロボロになっていた柄の悪い人達がいた。
「…ここは、私が勇者様達から離れていた時に来ていた場所なんだけど…ちょっと気になることがあったんだよねぇー。
ああ、敵は、私がここで倒したやつと、私を追いかけて来たやつしかいないと思うから、問題ないよー。
もし、敵がいたとしても、そいつは盗まれちゃいけないものを守ろうともしない、私を追おうともしないやつだろうから、問題ないと思うしー。
…じゃ、お先にどうぞ。」
イーネさんは、地下の方に手を向けて、俺を、先に行け、というような目でこちらを見ていた。
「……………。」
俺は、イーネさんを疑いつつも、地下に降りてみることにした。
「…そんなにこっちを見なくても、居なくなったりしないよー。」
イーネさんの動向を確認しつつ、階段を降りていると、そんな声が聞こえた。
…バレていたか…しかし、そう言われても気にしない訳にはいかない。
いつ、イーネさんが変な行動に出るか、分からないからだ…今の状況のように。
…と、そんなことを考えているうちに、階段が終わっており、目の前には、少し広い空間が広がっていた。
「…ん?何も無いけど…。」
「まあまあ、早まるなって…ほら。」
イーネさんは、壁に近づくと、何やら探り始め、スイッチを押すような動作をした。
…すると、壁が開き始め、道が出来た。
「…はいよ、どうぞー?」
「………。」
壁が開いた瞬間から、微かに向こう側から声が聞こえたような気がした。
…恐る恐る進むと、厳重そうな扉が見えてきた。
「…ん?」
扉にはロックがかかっており、パスワードを入力しなくては、通れないようになっているが、ヒントのようなものが扉に刻まれていた。
「…『せんさんじゅうろくたすごじゅうはちひくにじゅうご』…。」
このヒントは、何かしらの暗号で書かれていたのだろうか。
…全てひらがなで書いてあるように見える。
しかし、今までは普通に漢字も見えていたのに、いきなりひらがなだけに見えるなんて…もしかして、それが重要なのか…?
「なるほどなぁ…やっぱり、読めるみたいだな…。」
「…え?」
「少し疑問に思っていたんだよねー、勇者様が暗号を読む時にさ。
…だから、この暗号を読めるんじゃないかと思ったけど、まさか、私でも今まで見た事もない暗号を読めるなんてね…。」
「…。」
この翻訳は、未知の暗号も読めるようになるのだろうか。
…いや、そんなはずはない。さすがに、この世界の人が見たことも無い暗号を翻訳できるはずがない。
…とは、歴史博物館の文書のことがあるから、言いきれないが、歴史的文書や、発掘物などならともかく、こんな、割と新しく出来たような扉に、そんな未知の暗号があるのだろうか。
…待てよ、もしかして…。
「…イーネさん、ここには『1036+58-25』…って書いてあるんだけど、何文字で書いてある…ように見える?」
「…は?…ああ、二十四文字に見えるな。」
イーネさんは、一瞬、何が聞きたいんだ?というような顔をしたが、すぐに答えてくれた。
…二十四文字…。
俺は、そこに書いてあるひらがなの次数を数えてみた。
…二十四文字…ピッタリだ。
…やっぱり…それならこれは、日本語で書かれているのだろうか?
…いや、でも、翻訳が文字数の発言を合わせているだけかもしれないな…。
待てよ、そう言えば、リプラは、俺がこの世界に来たばかりで、『kantsumire』に日本語が打てなかった時に、スマホをいじっていたよな…。
…もしかしたら、スマホに、翻訳できるアプリのようなものがあるのではないだろうか…?
俺は、スマホを見てみると、それっぽいアプリを見つけることができた。
…これをオフにすれば、これが本当にひらがなで書いてあるかわかるかもしれないのか…。
とりあえず、やってみるかと俺は覚悟を決めて、アプリの設定をオフにした。
「……っ!」
目の前の扉の文字は変わらなかった。
…ってことは、やっぱりこれは日本語で…。
「……※△○*⊂?」
…と、扉を見ていると、イーネさんが、よく分からない言葉を投げかけてきた。
やっぱり翻訳オフにするとこうなるのか…。でもなんとなく、イーネさんからは、文句を言われているような気がする。
早く戻すか。
「───っ、それで、結局どうなんだ?
解けたんじゃなかったのか?
まさか、『1036+58-25』が、計算できねぇって訳じゃねぇよな?」
………どうやら、俺は、かなりイーネさんにバカにされていたようだ。
「…1069…。」
「おー、何だ、ずっと黙ったままだったからてっきり計算が出来ねぇのかと思った。
…じゃあ、行くぞー。
…勇者様も、知った方がいいかも知れねぇ情報だろうしねぇ。」
イーネさんは、俺が普通に話したのを確認すると、番号を打ち、進んで行った。
「……。」
この先に一体何があるのだろうか。
…自警団の人に伝える前に、俺が知った方がいいと思われる情報…なんだろうな。
イーネさんも、勇者様も、知った方がいいかも知れねぇ情報かもない、って言っていたし。
…いや、でもイーネさんの様子を見る限り、イーネさんはこの暗号が何かわからなかったようだから、もしかして、イーネさんもこの先何があるか知らないのか?
それか、元依頼主から、ここにある事だけ聞いた…とか。
…そんな事を考えていると、目の前に部屋のような空間が見え始めた。
「………何だ、お前ら…!」
通路を抜けると、斜向かいには扉が見え、その扉の前には、ガラの悪い男が二人いた。
「おっと…私を探しに来た時に、全員出てきていたと思っていたが…まだここに人が居たとは…。」
イーネさんは、ガラの悪い男と目が合うと、次にこちらをじっと見てきた。早くスタンを撃てよ、といった顔をしている。
「………『スタン』!」
「おーっと、話は聞いているからな。
スタン程度じゃ俺たちは…。」
「……………。」
「「ぐわああああ!!」」
『スタン』が効かなかったと分かった瞬間、俺は『エレクトリック』をその二人に放った。
「うわー、容赦ないね…。
…まあ、今は…その位がちょうどいいか…なんて。
…ん?」
イーネさんは、扉の方に近づいたが、その扉にも、パスワードが設定してあるようで、困っているようだった。
「…!」
その扉にも日本語でヒントが書いてあるようだった。
「えーと、ん…?
『さんじゅうはちかけるにじゅうにたすかっこひらきはちじゅうごたすきゅうじゅうはちかっことじ』…。」
…先程よりも、少し難しいのか?
…しかし、そんなに悩むような計算でもないな。
俺は、イーネさんに何も言わずに、パスワードを勝手に入力した。
「…おい…まあ、合っているならいいが…。
…後、先に行く前にこいつらを…って、おい!」
イーネさんは、俺を呼び止めたが、俺は、気にせず、先へといった。
「…………。」
ドアの先には、資料をまとめて綴ったものが入っている棚に囲まれた、小さめの部屋があった。
試しに、適当に資料を取り出した。
…表紙には何も書かれていない。何の情報なのかわからないようにするため…なのかは分からないが。
俺はそう考えながらそれを読んでみると、そこには、名前が沢山羅列してあり、時々、黒く塗りつぶされているところもあった。
…なるほど、これはおそらく、元依頼主らが、被害者の名前を書き起こしたものだろう。
消されているのはおそらく…亡くなった人、か…?
名前の順番に規則性があるようには見えないが、この世界の、五十音順のようなもので並んでいる可能性はあるな。
「…。」
俺は、適当に取り出した一つの資料にパラパラと目を通した後、元あった場所に戻し、その後、周りを見渡し、何やら、もっと重要そうな色をしている資料のまとめを取り出してみた。
「…さっきのものと、使われている紙の色以外は何も変わらないな…ん?」
と、資料のまとめを見ていると、見覚えのある名前があったので、思わず手を止めてしまった。
「…カラリ…プリロード…?」
その資料の、あるページに、『カラリ』という名前と、小さく、『プリロード』という、おそらく苗字が、そこには書いてあった。
「………。」
さらに、その下には、同じ苗字の………おそらく、カラリの両親ではないかという人の名前が記述してあったのだ。
「…『センド』さんと、『メイル』さんか…。
センド、さんが父親で、メイル、さんが母親、か…?
…いや、待てよ。」
…その時、俺の頭には疑問が浮かんだ。
…亡くなった人は、名前が、塗りつぶされているはずだよな…?
カラリのお母さんは、確か……。
それならば、少なくとも、カラリのお母さんの名前は、塗りつぶされて無ければいけないはずだ。
…いやしかし、たまたま苗字が一緒なだけで、両親では無いかもしれないよな…。
他のページにも、同じ苗字の人が並んでいるし、たまたまという可能性は捨てきれないな。
「ん?………やっぱり…そうだ。
じゃあ…これは…。」
資料をパラパラとめくっていると、たまに、同じ苗字の人はいるのだが、同じ場所にまとめられておらず、違うページに書かれていた。
…それなら、これは、家族基準で並んでいて…。
カラリの、お母さんは、まだ、生きてる…?
…いや、そんなわけないよな。
あの時カラリは、正直に言う、と、過去を全て話してくれた…。
いや、でも、カラリは、事件が起きた時、まだ幼かったはず。
記憶が曖昧だったら、実は生きていた、ということも、状況次第ではあり得るのか…?
「………あれ、だんだん、頭が回らなくなってきた…。」
「…おい、勇者様、私だけであの二人を拘束するの、大変だったんだからなー?
好奇心だけで先に進むのは…って、なるほどなぁ、正気を取り戻したようだな。」
俺が資料を持って立ち尽くしていると、イーネさんも俺を追ってこの部屋に入ってきた。
「今正気になられると困…じゃなくて、謎が解けないかもしれないよー?」
「イーネさんは、ここに何があるか知ってたの?
…それに、正気に戻ったって…なんで分かったの?
何か、特徴でもあるの…?」
「お前なぁ、今まで散々私の話を聞かずにここまで来たのに、元に戻った途端質問攻めにするんじゃねーよ。
勇者様は、多分あいつの情報を見つけたんだな…?
ここに何があるかは何となく分かっていた。
ハッキリとは聞かなかったが、被害者の何かがあるんじゃないかと予想していた。
私は気になっていることがあった。だからここに来た。
後、正気に戻る前はずっとどこかを見ていたからな、今初めて、分からない、って顔でこっちを見てたんだ。
だから分かった。…これでいいか?」
イーネさんは、半ば投げやりに、そう訴えていた。
「…しかし、一体どんな情報を…って、これも暗号か…。」
イーネさんは、俺が見ていた資料を覗き込んだと思ったら、そう呟いた。
…なるほど、これも暗号で書かれているのか。
まあ、重要そうな情報だし、それは当然か。
「えーと、実は…。」
俺は、少しためらったが、少しぼかして、カラリの事件のことと家族の事をイーネさんに話した。
「なるほど、“動揺”…ね。」
「ん?」
「ああ、いや、何でもないよ。
…だから、ちょくちょく塗りつぶされている所がある訳だ。
…ふーん、まあ、かなり昔の話のようだし、忘れていたって事はないだろうから…生きてるんじゃないの?」
「いやいや、“生きてるんじゃないの?”って、そんな…。」
「でも、あいつは、逆らったやつは全員死んだというようなニュアンスで言っていた割には、生きている人が多いんだな…あ。
………。」
イーネさんは、ボソボソとそう呟くと、急に黙った。
「……?」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「…………え?………?リプラ…じゃ、ないよね。」
「はい、私ではありません。
…何者かが、私達の手助けをしてくれたようですね。」
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「…あら、私、勇者さんを追いかけていた事、あなたに言ったかしら…?」
「………!」
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俺は一瞬イーネさんがなぜ黙ったのか、意味がわからなかったが、よく考えてみれば、イーネさんが今話した事が起こった時には、まだイーネさんと出会う前で、イーネさんが知りえない情報だという事に気づいた。
さらに、ふと、脳裏に先程の火球と、カラリが過去の事を話してくれた辺りの記憶と、トラックさんの会社での記憶が呼び起こされ、電撃が走ったかのように頭の中で事実が繋がった。
「…そうか…あの時…カラリが最初に攫われて、火球を飛ばしてゴーレムを倒したのは…イーネさんだったのか…!
てっきり、リムさんなんだと思っていて…リムさんには、聞きそびれていたんだけど…。
確かにリムさんは今まで火球を使った事はなかったからな…。
でも、それならイーネさんは…リムさんが俺を追う前から、ずっと追いかけていたことに…いや、うーん?」
「あー、うん、そっかー。
まあ、今の状態の勇者様でも、今の言葉があれば、気づくかー。」
イーネさんは、若干俺をバカにしたような声色でそう答えた。
「……あー、つまり、今俺が言ったことは、正しかった…って事?」
「うーん、まあ、そうだねー?」
イーネさんは、ニヤニヤとこちらを見ながらそう答えた。
つまり、俺達がリムさんに出会う前から、イーネさんが俺達を追いかけていたというのは、事実だという…訳か?
…何のために…?
と俺は一瞬思ったが、何となく理由は察した。
イーネさんは前、俺がAI化病になった理由は、リプラかもしれないとぼやかして言っていた。
つまり、イーネさんは何かを知っていて、俺を追っていたということ…だな。
…まあ、確かに、イーネさん、初対面にしては何だか、馴れ馴れしかったような覚えがあるしな…。
そう考えていると、また、段々と脳裏に考えが浮かんできた。
そういえば、イーネさんはリムさんが俺を追っていたことは、あの時点では知り得ない情報だった。
その、言い訳のために、SNSを見ていたと言っていた。
…もしかすると、イーネさんは今まで、SNSで、俺たちの様子を見ながら必要な時に俺達を追っていたのではないか?
しかし俺が、魔王軍にバレるから俺のことは呟くな、と言ったから、SNSから得られる情報が少なくなって、俺たちの前に姿を見せざるを得なかったということか。
だから、偶然を装ってレベルアップ施設で出会ったと。
そこまで考えて、俺は思った。
もしかして、イーネさんは、なんとか、俺の病状を進めたくて、情報を漏らし考えさせたのではないかと。
「……。」
やべえ、どうしよう。
どうやって…まずい、まだ考えが浮かんでくる。
えーと、イーネさんは、さっき、“動揺が…”って言っていたから、多分考えられない!っていう状況になれば戻れるかもしれないけど…。
いや、考えるな、考えないで…ええと、どうしよう…。
「うわああああっっ痛っ!!」
「!?」
俺は、何とかAI化病の症状を消そうと、何を思ったか本気で顔面を殴っていた。
さすがのイーネさんも、いつもの笑みは浮かべておらず、この行動には、驚きを隠せなかったようだ。
「…よし。」
しかし、考えが脳裏に浮かぶ事は無くなっていたので、俺は、安心し、思わずよし、と漏らしてしまった。
「え、何?
何で自分の顔殴って喜んでるの…?
頭おかしくなっちゃった…?」
イーネさんは、いつものからかうような顔ではなく、何をやっているか理解できない、といった表情で、本当に引いている様子だった。
「…な、何言ってるの…作戦なんでしょ?これも…。」
あまりにもイーネさんがドン引きするので、俺は必死にそう訴えた。
「…あ、ああ、そうか。
…そうだねー。失敗しちゃったかー。
でもまさか、自分を殴って、荒治療するとは…。
というか、出来るとは……思わなかったなー。」
イーネさんは、若干いつもの調子に戻ったような、戻っていないような話し方をしていた。
「…そもそも、何でそんなに俺のAI化病を…。」
進めたいんですか?と、言いかけて、俺はやめた。
次のイーネさんの言葉は、何となく想像がついたからだ。
イーネさんが、知りたいか?…それは…と、言いかけていたので、言葉を合わせることにした。
「「有料」で……おっ?」
イーネさんは、一瞬驚いたような表情になったが、さすがにもう分かるよな、といった態度を取り始めた。
「じゃあそれは聞かないけど、イーネさんが、リムさんより前に、俺達を追っていたって話は、皆にするからね。」
「え?まあそうか…。
うーん、面倒な事になりそうだな…あいつは。」
俺が、はっきりとそう言うと、イーネさんは、意味深にそう含ませて言った。
「面倒な事になりそう?…あいつ?」
俺が、そう聞くと、イーネさんは、怒っているような笑みを浮かべた。
「…まあ、もう追っていたのはバレたから、包み隠さず話すけど、あいつ……リムが、勇者様を追っていた理由は知っているか?」
「えーっと、確か…そうだ、リムさんも、軽度の…というか、もうだいぶ良くなったAI化病で、AI化病について、知りたい事があったから…って、言っていたような…。」
イーネさんはそれを聞くと、少し驚いたような表情になった後、おもむろに、笑みを浮かべた。
「……ん?」
「いやぁ、何でもないよ。
ただ、ちょっと、いい事が知れたかもしれないなーって。」
「…………。」
もしかして、俺、今イーネさんが知らなくて、知ってしまったらまずい情報を言ってしまったのだろうか。
…しかし、今考えてもどうしようもない。一旦、突き止めるのは諦めよう。
「…んで、勇者様に、AI化病の事を聞いた事はあるのかな?」
「…確かに、ない。
リムさんは、AI化病について知りたくて…って言っていたのに………はっ。」
俺は、察してしまった。
…リムさんは、初めからイーネさんが、AI化病の関係者だと知っていた。
…今まで、俺に聞かれなかったのは…。
イーネさんも、俺が察した事を気づいたようだった。
「…そう、私が現れたからね。
勇者様より、もっとAI化病について知ってそうな私が、ね。
…後は…いや、後も、もう、分かるよね?」
…なるほど、やはり今、予想した通りだった。
リムさんは、イーネさんに、密かにAI化病の事を、聞こうとしていたのか…。
「ああいう奴には、交渉とか、契約とか、言っても意味ないからなぁ…。」
イーネさんは、そう、悪態をついた。
まあ、確かに、ずっと話を聞かれ続けるのは、大変だっただろうな…。
「…でも、言わなきゃならないことは、言うからね?」
「………まあ、それでも、あいつにとっては、もうそれはどうでもいい情報なのかもしれないなー。
うん、分かったよー。」
イーネさんは、半ば諦めたような表情をしていた。
俺が、皆に今あったことを言ったら、リムさんはきっと、イーネさんに詳しい事情を問いただすんだろうな。
…まあ、だからといって話さないという選択肢はないが。
「…えーと、で、さっきなんて言ってたっけ?
…ああそうだ、あいつは、逆らったやつは全員死んだというようなニュアンスで言っていた割には、生きている人が多いんだな…って言ったんだっけー。うん、そうだねぇ。
…疑問に思わない?勇者様。」
「疑問…?」
「…だって、勇者様が言っていることが正しいなら、ここに書かれている人達は、ほとんど生きてるって事じゃない?
でも、こんなに生きている人がいて、抵抗しようとしなかった人が一人もいなかったなんて、不思議だなぁ。」
イーネさんは、資料をペラペラとめくりながら、疑問を口に出していた。
…確かに、そうだ、カラリの両親のことに関しても、今イーネさんが言ったことに関しても…取り敢えず、カラリに詳しく話を聞く必要があるな…。
「ところで、結局イーネさんは、何が目的で俺を呼んだの?」
「うーん、まあ、さっきの、ここに何があるか知ってるか、っていう話とも繋がるが…欲しかった情報があるのと、ヤツの事で、知りたい事があったからな。」
「…ヤツって、元依頼主の事か…?」
「元依頼主…?
…ああ、そうか、そうだな。
私は、ヤツに着いて行った時、誰もヤツを名前で呼んでいないという事に気がついて、名前を調べて見たんだ。
で、その後、ちょっと、被害者についても、知りたい事があったから、ここに来ようと思っていたんだけど、暗号があったからな。
君なら、もしかしたら解けるんじゃないかって思っていたから、解けて安心したよ。
…まあ、知りたい事はだいたい分かったから、もう、戻っても大丈夫だよー。」
イーネさんは、満足気な表情を浮かべながら、部屋から出ようとしていた。
「えっ?それだけ?」
「…え?うん。」
「でも、勇者様にね、ちょっとした情報をあげようかと思ってねー…とか、今の勇者様なら、着いてきてくれると思った…とか、勇者様も、知った方がいいかも知れねぇ情報かも…とか、言ってたから…。」
「ああ、あの時知った方がいいかも知れねぇ情報かもしねぇ、って言ったのは嘘だ。
他二つはまあ、だいたい本当だな、勇者様も、何かしらの情報は得ただろうし、着いてくるとは思っていたからねー。」
…俺が知った方がいい情報があると言うのは嘘。
…という事は、俺は、利用されただけってことか?
「…まっ、でも、結果的にいい情報を手に入れられただろ?
それでいいでしょ?」
イーネさんは、俺の様子を確認すると、軽くそう言いつつ、通路に出ていった。
「…うーん。」
何だか腑に落ちなかったが、取り敢えず、カラリと話をしなくては、と思いながら、通路へ出ていった。
今回も読んでくださりありがとうございます。
お久しぶりです。やっと書けました。
今回、かなり伏線を回収してしまいましたが、きっと大丈夫でしょう(根拠の無い自信)。
ツイト君が、今までの記憶を電撃的に思い出すのは、少し不自然か…?と思いましたが、そもそも最初からその辺りの記憶を呼び起こしていたので、きっと大丈夫でしょう()。
ちなみにツイト君が思い出した記憶は、6話、29話辺りの記憶です。
…まあ、この世界でそんなに時間は経過していないので、きっと思い出せますよ、きっと…。
あと、( ←これって括弧開きとも言うらしいっすね。初めて知りました。
次回も良かったら見てください!




