第3話 次の村
「こちらが街の出口です。
ツイト様には、ネクステ村、という場所へ向かってもらいます。」
リプラの案内に従っていると、大きな門のようなものが見えた。
「…ネクステ村…ふーん。」
いったいどういう場所なのだろう。
俺は、そんな事を考えながら、門へと向かった。
「では、門を抜けて下さい。」
リプラは、門のそばへと行くと、そう言って、先に俺が通り抜けるのを待った。
「…あ、うん……。」
俺は、リプラの言う通り、門を抜けようとした。
…それにしても、何で行くのかな。
無難に馬車とか?
いや、近未来的な乗り物とか?
…俺は、わくわくとしていた。
俺的には、馬車に憧れがあるなぁ。
なんて思いながら、門を抜けた。
…瞬間、目の前には村が見え、後ろには、さっき抜けてきた門しかなかった。
「ツイト様、こちらがネクステ村です。」
リプラも、門から突如現れたように見えた。
…つまり…これは…瞬間移動って事か。
「…えー、リプラ…これはあまりにも早すぎるというか…。
俺、まださようなら、セーフティシティ。
俺の冒険がここから始まる!
みたいな気持ちでいたんですけど…。」
「セーフティシティにもう、用はありません。
さあ、ネクステ村に行きましょう、ツイト様。」
「バッサリとしてるなぁ…。」
…というか、もう用はないのか。
俺まだ全くこの世界の住人に出会っていないんだけど。
やっぱり魔王の影響で、外出とかは控えていたりするのだろうか。
…それとも、やはり、技術的な事で、外に出る必要性がないのだろうか?
「わ、分かった…。」
俺は、取り敢えずリプラの言う通り、門の先にある、近未来的な扉に向かった。
…やはり、読み込み中と出てきて、それが100%になると、扉は開いた。
「「「ようこそ!勇者様!ネクステ村へー!」」」
「…えっ?」
…扉が開くと、ネクステ村の住人とみられる方々が歓迎してくれた。
…いや、嬉しいけども。嬉しいけどもセーフティシティとの落差がありすぎじゃあないですか?
「勇者様!『kantsumire』で見ましたよ!
大変でしたねぇ。ネクステ村では、ぜひ休んで行ってください!」
「ああ、ありがとうございます…。」
「勇者様!『kantsumire』で見た時から実際に会ってみたいと思っていたんですよ。
ネクステ村をぜひ観光していってください!」
「ああ、ありがとうございます…。」
「勇者様!ああ、この方が、勇者様…。
もう感動で前が見えません。」
「ああ、それは大袈裟かもですね…。」
…俺は、住人を1人1人相手にした後、くるっと後ろを振り返った。
「えっ…リプラ…何これ?状況が理解出来ないんですけど。」
「ネクステ村は、まだまだ発展途上なので、まだ人間が外で活動しているみたいですね。」
…発展途上で人が外にいるって事は…発展した町や村は、人が外に出る必要がないって事だろうか。
…それは少し悲しいな、と俺は思った。
「えっと、それで歓迎してもらったけど、一体どこへ行くの?」
「そうですね、せっかく人がいるのですから、少し交流してみてもいいですかね。
…私は、今日泊まる宿屋に向かうので、ツイト様は、この村を見て回って来て下さい。」
「あ、はい…。
じゃあ、どこに集合したらいいかな?」
「いえ、私には、ツイト様がどこにいらっしゃるか、分かる機能がついていますので、一段落したら迎えに行きます。」
「そう…分かった。じゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃいませ。」
…と、俺はリプラと話をして、ネクステ村を見て回る事にした。
…でも、見て回るって言っても、初めてだからなぁ…。
どこを見ればいいんだろう。
…と思っていると、壁に、ネクステ村オススメスポット
光と影のコントラストが美しい心安らぐ『神聖の道』と書かれた紙が貼ってあり、下にはご丁寧に『ちかみち』と書かれた地図まであった。
…決めた、ここに行こう。
…しかし、近道は、路地裏を通るのか。
…まあ、そんなに長くもなさそうだし、いいかな?
と思い、俺は路地裏を覗いて見た。
「いや、暗っ!路地裏暗っ!」
…いや、別にビビってないし。
…いや、別に路地裏って暗いもんだし。
…いや、まだ日中だし。
…俺は、自分にそう言い聞かせて、
路地裏を通る事にした。
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「…ふー、もうそろそろ、路地裏を抜けられる…。」
…まあ、しかし、怖かったのは、最初の方だけだった。
…路地裏も、慣れてしまえばただの暗い道だ。
…まあ、若干湿っぽくはあったが…。
…と、真っ直ぐ行けば出口なのだが、俺は右側に空き地のような場所があるのを見つけた。
…俺は特に気にもせず、路地裏を出ようとしていたのだが…。
「…はあ?今更払えません、だぁ?」
…という声が聞こえてきたので、俺は思わず空き地を覗いてしまった。
…するとそこには、1人の女の子が、数人のガラの悪い男に絡まれているのが見えた。
…助けなきゃ行けないよね、これ。
…見ちゃったものね。
今ここで何も見ていないフリをして去ると、夜、眠れなくなってしまいそうだ。
…しかし、どうやって戦えばいいんだ?
…いや、さっきまでモンスターとは戦っていたが…。
いや、そう言えば、俺はレベル99なんだ。
…何とかなるかもしれない。
「や、やめるんだ!」
俺はそう言いながら、女の子の前に
立ちふさがった。
「あ?なんだお前。」
「と、とにかく、そ、その子から離れるんだ!
お、俺は、レベル99だぞ!?」
俺はこぶしでの戦い方が分からないので、取り敢えずレベルを言ったら引いてくれないかな、と思いそう言ってみた。
…まあ、この、ガラの悪い男達が、こぶしで戦うとは限らないんだが。
「ほう…奇遇だな。俺もだ。」
ガラの悪い男の内の1人はそう言った。
「俺もだ。」
「俺もだ。」
他のガラの悪い男達も次々にそう言った。
…終わった…。俺は密かにそう思った。
だって、戦闘経験などは考えず、単純計算でも、俺と同じ強さの人が複数人いるって事でしょ?
…終わりじゃない?
…と、俺は女の子の方をチラッと見てみた。
「はわぁ…。」
…女の子は、目をキラキラとさせて俺を見ている。
…憧れというか、期待というか…そんな目だ。
…うっ…そんな目を向けられたら俺は…やるしか、ないじゃないか…。
「レ、レベルなんて関係ねぇ!
かかって来いよ!」
俺は半ばヤケクソでそう言った。
「あ?粋がってんじゃねえぞ!」
…俺は殴られた。顎をいかれた。
終わった…。…と、思っていたのだが。
「…あれ?痛く…な………?痛い!」
バランスを崩して、倒れはしたが、思っていたよりも、痛くなかった。
「…な、何だテメェは?今、確かに俺のパンチを顎に食らった筈だろ?
何でピンピンしてるんだ?」
…ガラの悪い男の1人がそう言った。
…いや、思っていたより痛くはなかったけど、痛くないわけではなかったから、別にピンピンしてる訳じゃないけど…。
でも普通そうだよな。避けたり、軽減したりしなかったら、倒れるよね。
…俺が、違う世界から来た事が関係していたりするのか?
…ガラの悪い男達の、リーダーと見られる男の攻撃が効かなかった
事により、他の数人に、少し焦りが見え始めた。
…これは、今しかない!
「…フッ、分かっただろう。
レベルなんて関係ないという意味が…。
今なら、見逃してやってもいいぞ?」
俺は、適当にどっかのラノベで見たようなキャラクターを演じてみた。
何故か相手の攻撃が通らない。
それは不幸中の幸いだったが、こぶしでの戦い方が分からないこのままでは、多分俺が負けると思う。
よって、この場を穏便に収めるには、これしかないと思ったのだ。
「…くっ…。」
ガラの悪い男達は、悔しそうな顔をしている。
いいぞ、引いてくれ!
俺がそう祈っていると、男の内の誰かが言った。
「怯むな!きっと、皆でかかれば…!」
その声を境に、ガラの悪い男達は「そうだよな」「確かにな」「行くぞ!」と、気力を取り戻していた。
…やめてくれ!皆でかからないでくれ!俺は終わってしまう!
もうちょっとだったのに…気合いを入れたヤツは誰だよ…。
「ちょ、ちょっと話をしましょうと言うか、ほら、見逃してやってもいいから…。
見逃してもいいよ、ほら、見逃すって、見逃す、見逃す、見逃す見逃す!
見逃すって言ってんだろ!見逃して!
見逃してください!見逃してぇ…!」
俺の叫びも虚しく、俺は囲まれてしまった。
「…ちょ、見逃…ぐはっ、み、みの…ごほっ、……ち、ちょっと………。」
…でも、やっぱり、そんなに痛くない。
…いや、痛い事には痛いが…何とか耐えられるくらいだ。
「…フッ。」
俺はキャラを崩さないように、ずっと不気味な笑みを浮かべた。
「…こ、こいつ…俺達の攻撃が効いていない!
それどころか…笑っていやがる!」
「…!…フッ…。」
「…やっぱり、俺達では勝てなかったんだ!
リーダー!引きましょう!」
「…!!…フフッ…。」
引け引け引け引けそのまま引け!
「…くっ…ああ、仕方ねえ。
…これで終わると思うなよ!」
リーダーと見られる男は、そう言うと、
仲間を連れて引き上げて行った。
よっしゃあぁああああ!引いてくれたぁ!
…俺は心の中でガッツポーズをして、ライトノベルに感謝した。
…そして俺は、女の子の方を向いた。
「えっと…大丈夫だった?」
「はい!あの…私『kantsumire』で見て…その服装、勇者様です、よね?」
「ああ、はい…。」
「ですよね!ありがとうございます、勇者様!
やはり、その名に恥じぬくらい、勇敢なんですねっ!」
「そ、それほどでも…。」
「いえいえ、勇者様なら、絶対に魔王を倒せますよ!」
「…そ、そう?」
「ええ。そうに決まってます!」
女の子は、笑顔で俺の事を褒め続けた。
…悪い気はしないけど、少し照れるな。
「じゃあ、俺、『神聖の道』って所に行くから…次は気を付けて…。
誰かに助けを求めるんだよ…。」
…俺はそう言ってその場を立ち去ろうとした。
「ま、待って下さい!あの、私も着いて行っていいですか?
…私も…『神聖の道』に向かいたいので…。」
…が、女の子はそう言って、俺の手を握った。
「…えっ、ま、まあ、大丈夫だけど…。」
…なんて無邪気な子なんだ…と、俺は思わずドキドキしてしまった。
…ダメだダメだ。今は、煩悩は消そう。
…俺は、路地裏の入口の張り紙に書かれていた通りに道を進んで、ついに『神聖の道』に辿り着いた。
…なんと言うか、『神聖の道』、名前通りだと俺は思った。
道に沿って左右に木が生えていて、その木の影と、光のコントラストがとても美しかった。
道を進むと、サアッと風の音が聞こえ、サワサワと木が揺れている。
…人の声は聞こえなくなった。
…なんと言うのだろう、自然と直接触れているというか、やっぱり、近未来的なものばっかり見てきたから、たまにはこうやって自然に触れるのもいいんじゃないかって俺は思った。
「綺麗ですね…。」
「…そう、だね。」
女の子と、会話は続かなかった。
…なんだか少しだけ、気まずかった。
「あの、ここに来たかったって言ったよね!
いったい、なんでそう思ったの?」
俺は、間を持たせるために、女の子にそう聞いた。
…すると、女の子は悲しそうな顔になった。
「…お母さんと、来た事があるから…。
…もう、お母さんとは、無理ですけど。」
そして、ゆっくりとそう言った。
…まずい事を聞いてしまったようだ。
「あっえっと、そ、そうだ!名前は?」
俺は急いで話題を逸らした。
「名前…。カラリ…です。
お母さんが、からりと晴れた空のように、爽やかに育って欲しいからって…付けてくれたみたいなんです。」
…またまずいことを聞いたかと思ったが、今度は大丈夫なようだ。
「そっか、いい名前だね。」
「ありがとう…ございます。勇者様。」
「…俺の名前はツイトって言うんだけど、勇者様だと何だか他人行儀すぎるからさ、名前で呼んでくれて構わない…よ。」
俺は、そう言って、カラリの方を見た。
「…は、はい、ツ、ツイト…さん。」
「…呼び捨てでも構わない…けど。」
「いや、でも、やっぱり勇者であるツイトさんを呼び捨てにすると、周りからなんて言われるか分からないので…。」
「そっか…。」
色々と複雑な事情があるんだな、と俺は思った。
「そ、それと…ツイトさんを名前で呼ぶのなら、ツイトさんも、私の事を名前で呼んでください!」
「えっ?」
「そっちの方が、分かりやすいと思うので…。」
「あ、それなら…カ、カラリ…。」
俺が名前を呼ぶと、カラリはニコッと微笑んだ。
その瞬間、俺の中のドキドキが再燃して来た。
ダメだ、これにはきっと深い意味は無いはずだ。
純粋に、憧れ的な感情として受け取っておこう。
「あ、ほら、もうすぐ『神聖の道』を抜けるよ。
ほら、前…。」
俺は、ドキドキを誤魔化すために、そう、思った事を口に出した。
「…出口…じゃあ、お別れですか?」
「そう、だね…。」
「…私、楽しかったです!
ありがとうございます、ツイトさん。」
「…俺も、まあ、楽しかったよ。」
そして、俺達は、『神聖の道』を抜けたのだった。
「…何だか、名残惜しいなぁ。」
「…私も、です。」
『神聖の道』を抜けても、俺とカラリは中々その場を離れられずにいた。
「それならば、一緒に宿まで来ては
どうでしょうか?」
「う「わあああっ!」」
カラリと叫び声がハモってしまった。
「リ、リプラ?な、何故ここに…。」
「一段落したら迎えに行きます。
と、私は言いました。
ツイト様は、『神聖の道』にいたようなので、出口でお待ちしておりました。
しかし、まだ忙しいようでしたので、私は気を使って別な宿を予約した方がよかったでしょうか?」
「大丈夫!大丈夫だから!」
くるっと向きを変え、立ち去ろうとするリプラを、俺は全力で止めた。
…一方、カラリは、リプラを見て目を輝かせている。
「あ、やっぱり…あの、リプラさんですよね?
『kantsumire』で見ました!わあ、実際に会ってみると、やっぱり綺麗だなぁ。」
「それはそれは、ありがとうございます。」
カラリの熱意をリプラはササッと受け取った。
「…それで、宿屋まで着いてきますか?
それとも、ここで別れますか?」
リプラは、カラリにそう言った。
「…うーん…。」
カラリは、ものすごく悩んでいた。
「つ、着いて行きたいです、けど…ご迷惑じゃないですか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ツイト様はそれでいいですか?」
「あ、はい、大丈夫…です…。」
「…なら、つ、着いて行きます。」
そして、着いて行くことになった様だ。
「では、案内いたしますね。」
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「着きました、こちらが今夜泊まる宿です。」
リプラの案内の通りに道を進むと、看板に『宿屋 シヴィライゼーション』と書いてあった。
いや、宿屋 文明ってどうなんだろうか。
…こっちの世界の言葉だと、また違った意味合いの言葉なのだろうか。
「そう言えば、リプラに会ったら聞こうと思ってたんだけど、俺は、カラリ…あ、この子が、ガラの悪い男達に囲まれていて、それを助けたんだ。
その時、滅茶苦茶ぶん殴られて…でも、痛みを…感じたには感じたんだけど、顎に思いっきり食らった時も、倒れずに、ちょっと痛い位で済んだんだ。
これって、おかしくない?
俺に何が起きているのか、分かったりする?」
俺は、宿屋に入る前にリプラにそう聞いてみた。
「…そうですね、レベルの差、魔力量の差、などは影響しますが。」
リプラは、「ふむ。」と考えるポーズとった。
「…俺も、相手も、レベルは99だったけど…。
魔力はよく分からないな…。」
俺が悩みながらそう言うと、リプラは、「じゃあ、やっぱり、レベルですね。」と、笑みを浮かべた。
「…この世界の人は、出生時、その時のパワー等を記録し、その状態をレベル1とします。
しかし、ツイト様にはそのデータが無かったので、やむを得なく、レベルアップ施設での体力測定の結果をレベル1とさせていただいております。
そのため、レベル上は同じに見えても、事実上、ツイト様の方がレベルが高かった事になるのでしょう。
後は、魔力の力が軽減してくれたのでしようね。」
…なるほど、だからよく分からないけど、ダメージを軽減出来たのか。
「そう言えば、人の限界レベルは999って言っていたけど、俺の場合少し低くなったりするの?」
「はい、まあ、850よりは低い位でしょうね。」
…変に中途半端だなぁ。
…まあ、仕方がないのか。
「…後、これ聞いちゃまずいかもしれないけど、そもそも、体力や、魔力をレベルとして表示する意味ってあるの?」
俺は、さっきの事を聞いたついでに、ふと頭に浮かんだ疑問を、リプラに投げかけてみた。
「…それは、私にも分からないです。
…そういったことを記録して、研究している者が居るようですが…レベルとして表示する意味は、その方々しか分からないでしょう。」
なるほど、リプラにも、分からない事はあるんだな…。
「ありがとう、じゃあ、宿屋で休もうか…。」
俺はリプラにお礼を言い、宿屋に入ろうとした。
「で、では、私は帰ります…。」
その時、カラリはそう言っていなくなろうとした。
「待って下さい、カラリさん。
私、間違えて、3部屋予約してしまったのです…ちょっとくつろいでいきませんか?」
…が、リプラがそう言ってカラリを引き留めた。
「…えっ?いや、でも…私は一人暮らしで…。
戸締りも、電気も消して来たので、心配される事はありませんが…充電器が…。」
カラリは、そう言って、困ったような表情になった。
「ええ、そうだと思って、充電器も、間違えて、二つ買ってしまいました。
ちょっとくつろいでいきませんか?」
リプラは、「対策済みです。」という様に笑顔でカラリにそう言った。
「…じゃあ、少しだけ…。」
カラリは、少し嬉しそうな表情をして、リプラについて行った。
…リプラは、こっちを振り向くと、ウインクをした。
…有能…。…じゃなくて。
「いや、別に頼んでないよ…!」
俺はリプラに小声でそう伝えた。
「ツイト様のデータは、リアルタイムで私に送られてきていますので。」
リプラも、小声でそう答えた。
…えっ、という事は、『神聖の道』でのあれが、リプラにはダダ漏れしてたって事?
「プ、プライバシーの侵害…。」
「大丈夫です。今は、データは送られておりません。
ツイト様と離れている時だけデータが送られるようになっております。」
「なるほど、それなら大丈夫…って、ならもっとダメじゃないか!!
勘弁してください…。」
「システムをオフにしますか?」
「お願いします…。」
「システムをオフにしました。」
リプラのその声を聞いて、俺は安心した。
離れている時でも俺のデータで、どんな状態か分かるなんて、たまったもんじゃない。
「リプラさん…?どうかしましたか?」
「大丈夫です、さあ、行きましょう。」
こうして俺達は宿屋の中に入っていったのであった。
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「よし、充電充電。」
俺は宿屋の中に入った後、早速充電をしていた。
リプラによると、ここは充電可能な宿屋のようだ。
いや、逆にコンセントがあるのに、充電不可能な宿屋なんてあるのかと俺は思ったが、リプラの話によるとあるらしい。
節電とかのためだろうか。よくわからない。
「それにしても、今は何時だ?」
そう思った俺はおもむろにスマホを取り出した。
「…13:30…?」
…おかしい。…ここから太陽の位置を見る限り、まだお昼にはなってない雰囲気なのに…。もしかして、
異世界に来た影響とかで、スマホの時計がズレているのか…?
…まあ、それなら、部屋の時計を見れば…。
…あれ。
…この部屋には時計がない。
AI技術が発展しているこの世界に、まさか時間の概念がないなんてことはないだろうし、いったいなんでついていないんだろう。
…まさかそれもアンドロイドなどに備わっているから、いらないとかそういう事なのだろうか。
まあ、異世界と俺がいた世界では、もしかしたら常識が違って、西から太陽が登ったりするのかもしれないから、はっきりとは言い切れないが、スマホの時計がズレているようだ。
…つまり、時間が分からない。
…今はハッキリと時間が分かる必要はないが、いつか時間がわからないと、困る時が来るはずだ。
…それまでに何とかしなくては。
…リプラに相談したらなんとかならないだろうか。
っていうか、俺はリプラにもっと、聞くことがあるような気がする。
特にこの世界の歴史とか、重要な気がするんだけどなぁ。
まぁ、そこは後でリプラに会った時に、ボチボチ聞くとするか。
それよりも、スマホを充電している間、どこに行こうか。
『神聖の道』みたいな観光名所もいいけれど、やっぱり食べ歩き的なこともしたいなぁ。
待てよ、リプラ、宿屋のお金はどうしたんだろう。
元々持ってたりするのかな。
っていうか、お金…俺も稼がなきゃいけなかったり、するんだろうか。
お金…。異世界って夢のような所だと思っていたけれど、その単語で、一気に現実的になるな…。
…考えたくないけど、考えなきゃダメだよなぁ。
アンドロイドに奢らせて、自分では一切働かないヒモ勇者なんて言う悪名が付きそうだ。
「そうだ、この世界の仕事って何があるのか、確認しに行ってみよう。」
俺はそう考え、リプラがいる部屋の前に来た。
「リプラ…この世界の仕事とかお金とかについて教えて欲しいんだけど…。
具体的には、まぁ実際にその場所に行ってみようと思うから、仕事を受ける場所とかだけ教えてくれればいいのだけれど。」
そして俺は部屋のドアをノックして、リプラにそう聞いた。
「そうですね。ツイト様には、そういった事は一切話しておりませんでしたね。
では簡潔に申し上げますね、この世界のお金の単位はもちろんツイト様がいた世界とは違いますが、しっかりツイト様がいた世界の通貨単位に翻訳されていると思います。
そして、仕事を受ける場所ですが、ツイト様のスマホに、地図情報を送ります。
地図アプリを開いてください。」
リプラは、俺がスマホを持っていないということに気づいていないようだった。
「あっ、ちょっと待って。
それなら、スマホを持ってくるよ。」
俺はリプラにそう言って自分のスマホを持ってきた。
そして、スマホからこの世界の地図アプリと見られるものを探して、開いた。
「おっ、ここかな?」
開いた地図アプリには地図と、赤い矢印が表示されていた。
「ありがとう、リプラ。
じゃあ、ちょっと見てくるよ。」
俺はそう言って宿屋から、その、仕事を受けられるらしい場所へ向かった。
今回も読んでくださり、ありがとうございます。
なんかカラリさん、ついてくることになりましたね。安心してください、まだついてきます。
それにしても、一人暮らしで、ガラの悪い男が家に来るような事とは、いったい何があったのでしょうね。
これから明かされるかは不明です。
次回も、良ければ見てください。