第20話 思考
「…『スタン』!」
俺は、そう言って、まずあの時のように、
『沈黙』がかかっていないかを確かめた。
「…っ!?」
…言葉を発せる、つまり沈黙はかかって
いないようだ。
…元依頼主は、何かの魔法を使ったらしく、
スタンしている様子はなかったが、驚いて
いる事から、俺が『沈黙』していないと
言う事は、想定外だったようだ。
…恐らく、これはリプラのおかげだ。
多分、森でリプラが使おうとしていた
『キャンセレーション』という魔法を、
元依頼主に対策されなかった…いや、リプラが、
対策をされないように、対策したのかも
しれない。
…まあ、何にせよ、『沈黙』がかからないに
越したことはない。
「…!」
周りの柄の悪い男達も、俺が『沈黙』に
かからなかった事に驚いたのか、少し
前に出たり、魔法を放とうとしていたり、
ザワザワとし始めた様子という事が分かった。
…俺は、チラッとリプラの方を見て、長めの
瞬きをした。
「…。」
リプラは、頷き、みんなに声をかけ始めた。
良かった、通じたようだ。
俺は、そう思いながら、目を瞑った。
「…!お前らァ!目を瞑れ!」
「『フラッシュ』!!」
そんな元依頼主の声が聞こえたのと同時に
俺は『フラッシュ』を放った。
「「「ぐああああああああっ!」」」
…そんな声が耳に入ってきた。…しかし、今
何人残っているか考えている暇はない。
俺はそう思いながら、『フラッシュ』の
効果が微妙に残ると思われるタイミングで目を
開けた。…タイミングはバッチリで、『フラッシュ』
が消える所だけを見る事が出来た。
…その刹那で俺は周りを見渡す。
………なるほど、多分カラリがいるであろう
場所は、大体検討が着いた。
俺は、一度細かい作戦を立て直そうと
皆がいる方向に飛び退いた。
「…ちょっと、何をやっているの、勇者さん!
いきなり飛び出したりして…。」
戻ると、すぐにリムさんから、そんな言葉が
飛んできた。
「ごめんなさい…でも、ほら、半分くらい、
『フラッシュ』で…。」
「…今回は上手くいったからよかったけれど、
今度からはいきなり敵に突っ込んで行くのは
やめてほしいわ…。心臓に悪い…。」
「…うっ……す、すみません…。
…でも、カラリが居ると見られる場所は、
分かりました。」
「…えっ?本当に?」
俺の言葉にリムさんは俺を二度見して
驚いていた。
「…あっちです。」
俺は、右奥の壁の方を指さした。
「………本当に?」
リムさんは、半信半疑という様子で
そう俺に聞き返して来た。
「…本当です!あの壁だけ、光の
反射に違和感があったんです!」
「…そう、そこまで言うなら、本当なのね。
それなら、私達もその道を切り
開くのを手伝うわ。…まあ、勇者さんが
特攻しなかったとしても、どちらにせよ
カラリちゃんの事があるから、結局は
戦うという事にはなったのかもしれないわ。
…もう、行くしかないのね…。」
リムさんは、もう信じるしかないわ、
といった様子でそう言った。
ブロックさんは…あれ、私達って俺も含まれ
てる?という様な顔をしていた。
セクタは、もう着いていけない、何が起こって
いるのか分からないよ、という顔をしていた。
「…いつまでそうやってお喋りしているつもり
かな?………お返しだよ。」
…こちらでそう会話していると、元依頼主は
そう言って、目の前から姿を消した。
「…………!」
この感じ、元依頼主は、あの森の時と同じ魔法を
使っている気がする。
…多分、加速する魔法だ。
「……………っ!」
…と思っていると、俺のすぐ横でクナイを持った
リムさんと魔法で防御したと見られる元依頼主が
現れた。
「…勇者さん!こいつは私に任せて、先に行くのよ!」
「チッ………面倒な事を…。」
さらに、そんな声が聞こえた。リムさんも、
高速移動で対抗しているようだ。
「ツイト様!行きましょう!」
「あっ………う、うん!」
2人の声を聞いた俺は剣を構え直して右奥の
壁の方に向かおうとした。
「………………待て、その………。」
が、その時、ブロックさんが申し訳なさそうに
リプラに声をかけていた。
「…?私ですか?」
「…………あ、ああ。…………その、異空間に
しまったと思われるのだが………。
…………俺の剣を…………出して欲しい。」
「…なるほど…きっとこれですね。」
リプラは異空間から重そうな剣を
引き出した。
「………………ああ、それだ。………ずっと持って
いる必要は無いと思っていたんだがな…………。
…………勇者、この集団は、俺が引き受ける。
………ここは俺に任せろ。」
ブロックさんは剣を受け取り、構えながら
そう言った。
「あっ…ありがとうございます!」
「『ディフェンス』…っ!」
ブロックさんは、前に出て、柄の悪い
男達を薙ぎ払って行った。
「…これで、先程ツイト様が言っていた
場所まで行けますが…。このまま行けば、
高速移動をしているリムさんと、衝突する
可能性があります。…それを避けるルート
ですが……。」
「…大丈夫、分かっているから。」
「…そう…ですか?」
リプラは、不思議そうな顔をしていたが、
俺は気にせず、“見えるままの”ルートを
走り抜ける。
…リプラも、俺の後を無言で着いてきた。
「…まさか、本当に分かっているとは…。
危ないルートを進もうとした時に止め
ようかと思ったのですが、ツイト様は、
さっき私が算出したルートと、全く同じ
ルートを進みましたね…。」
…リプラは、少し曇った表情になった。
「…なるほど、本当にこの先に通路がある
ようですね…。
開ける方法を少し探します、万が一
見つからなかった場合も、壁を上手く
切れるよう計算しますので、少々
お待ちください、ツイト様。」
が、その表情はすぐに消え、そう言って
壁を調べ始めた。
…それなら、こちらに向かってきている、
ブロックさんの薙ぎ払いを食らっても気絶
しなかった柄の悪い男を引き止めるか。
と、俺は魔法を撃とうと構えた。
「…ツイト様。」
…俺が魔法を放つ前に、リプラが、いつも
とは違う声のトーンで俺に声をかけた。
「…何となく、察していたよ。」
俺は、リプラが続きを言う前に、言葉を
挟んだ。
「…!」
「…普通、人間は…『フラッシュ』が消えるか
消えないかのタイミングで目を開けて、
光の反射で隠し通路を見つける事なんて
出来ないよね。」
「………………。」
「高速移動する人を危なげもなく綺麗に
避けて通る事も。
…多分、皆に聞こえなかった音が、
俺とリプラだけに聞こえたのも…。」
俺は、手に『ライト』を大量に出現
させた。
「…AI化病…のせいなんだよね。」
「……………はい、恐らくは。」
リプラは少し間をおいて、そう答えた。
「……………………。」
俺は、出現させた『ライト』を柄の悪い
男達の目を狙って飛ばし、視界を奪った。
「…!?前が…!」
…俺は今、一体どんな表情を浮かべている
のだろうか。
…俺は、今、何を思っているのだろうか。
そんな感情がふと、浮かんできた。
…やはり、この地下を見つける前から何となく、
そんな気はしたが…やはり俺は、もうだいぶ
病状が進んでいるらしい。
…無詠唱に成功していることも、何か関係が
あるのだろうか。
「……………。」
俺は一瞬考えるのを躊躇ったが、今更思考をやめてももう遅いだろうと思い、理由を考え続けた。
…無詠唱に成功した理由は、おそらく、思考力
が上がったからだと予想がつく。
…元々、この世界の魔法は、イメージで発動させて
いたものだった。詠唱は、言葉にする事で発動
させる魔法のイメージを固める為に必要な事
だった。…それを詠唱しないと言うことは
すなわち、発動させるそれが何かという事を
言葉にしなくても理解できる。
…スタンであれば、それが電気的なものである
という事、電気とはどういう原理で発生する
ものか、思考力が上がった事で、言葉を
使わずともその魔法のイメージを結びつける
事が出来たのだろう。…しかし、それならば
もう少し簡単に出来る筈だ。
…基本的な事はその考えで間違っていない
はずだ。…一体何が違うのか。
…そんな考えが、俺の頭の中を流れた。
…その間にも、俺は『ライト』を生成し続け、
飛ばし続けた。
「…ツイト様!隠し通路を開ける事に成功
しました。この壁は、よく見ると、パズル
のように動かすことができ、正しい順番
で動かせば開くタイプの壁だったようです。
…………行きましょうか。」
「…………うん。」
リプラがそう言ったのが耳に届いて、
俺は、『ライト』を生成するのをやめ、
先を行くリプラに着いて行った。
…しかし、思考は止められなかった。
…ついつい様々な事を考えてしまうのだ。
…疑惑が確信に変わっただけで、こうも
症状が出てくるのか、と俺は思った。
俺は、取り敢えず、カラリをどう助け出すか
に考えをまとめようとした。
この前より、設備が厳重だった場合や、
さらにロックがかかっていた場合などを
少し考えると、落ち着いた。
「……………この症状って、頭を使いすぎなければ
治るんだよね…。…その…特効薬みたいな物は、
存在しないの?」
俺は、リプラにそう聞いてみた。
「ない…と、言われております。」
「ない、と言われている?」
「…はい、インプットされている情報には、
その様な薬が存在するという事実はない
ですが、そういった薬ができているという
可能性は否定できないということです。」
「…なるほど。」
俺は、それを聞いて、イーネさんの事が
頭をよぎった。…知ってそうだけど、また
有料とか言われそうだな。
……ん?待てよ……よく思い出してみれば、
さっき、イーネさんがいなかった気がする。
…リムさんはあの元依頼主と、ブロックさん
は、柄の悪い男らと、戦っていた。
…リプラは今隣に居て、セクタは状況が
分からずビクビクとしていた………。
…いない。…いつからだ?…この部屋に
来る前は…居た気がする。部屋に入って俺が
特攻した辺りで、ドアから戻ったのか?
…何で?何のために?
…俺は、イーネさんが居なくなっていた事に
気が付いたが、この先にきっとカラリがいるの
だろう。それならば、今ここで引き返すわけには
いかない。
…そう思った俺は、イーネさんの事は一旦
置いておき、リプラに続いて先に向かう事に
集中した。
「…!」
すると目の前に、またドアが見えた。
「…この先に、カラリさんが居るような気が
します。」
「…このドアに…鍵は…。」
「かかっていないようです。」
…鍵がかかっていないということは、これは
明らかな罠だ。…しかし、開けないわけには
いかない。
「…ドアを外せたりしないかな。」
「止めているところを切り落とせば、外す事は
可能のようです。…しかし、地面の跡を見ると、
この先の部屋に仕掛けられている罠は、
ドアがあろうがなかろうが、あまり関係ない
と見られます。」
リプラの言葉を聞いて、地面の方を見ると、
確かに、不自然なヒビのようなものがあった。
「それなら、ドアを外した後、少し入口を
広げておけば、問題無さそうかな…。」
「………そうですね、そうしておきましょう。」
リプラは、少し間を置いた後、そう言った。
…さらに、ドアを一瞬にして外したと思えば、
入口を削り始めた。
「…これで、閉じ込められるという事は
ないと思います。…行きますか。」
リプラは、俺と目を合わせながらそういった。
「…ああ。」
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「…っカラリ…!」
ドアの先には、先程よりも少し小さい、
真ん中に“いかにも”な檻があり、そこに、眠ら
されているとみられるカラリが居た。
「…ツイト様!少々お待ちください!」
俺が、その檻に駆け寄ろうとすると、リプラが
そう俺を止め、先に檻の方に近づいた。
「…この檻には、電気が流れているようです。」
「…電気…!?」
「…そうだよ、勇者サン。気をつけないと。」
その時、そんな声が背後から聞こえた。
…バッと後ろを振り返ると、そこには
満身創痍の元依頼主がいた。
「…!リムさんは…!?」
「…ああ、あいつ…ね、あいつなら、お仲間と
共にさっきの部屋に閉じ込めてきたよ…。」
俺は、取り敢えず、リムさんが完全敗北
した訳では無いと知り、少し安心した。
「…そ、そんなボロボロの身体で、何が
出来るって言うんだよ。」
俺は、警戒しながら、元依頼主にそう言った。
「……これを、見なよ。」
…元依頼主は、おもむろにリモコンを取り
出した。
「…!」
「…これは、この檻の電流を止めたり…
まあ、ついでに色々出来るリモコンだよ。」
元依頼主は、わざとらしくリモコンを
振りながらそう言った。
…しかし、俺は何故元依頼主がそんな事を
するのか、理解出来なかった。
…元依頼主は、見ての通り満身創痍だ。
逃げる隙があったのであれば、わざわざ
俺たちの前に現れる必要はないはずだ。
…電流を解除出来る道具を持っているなら
なおさら、持ってどこかに逃げればいい
はず…。
…わざわざこうやって、戦いを挑んで来る
という事は、何か考えがあるのか…?
「…ツイト様、剣を構えて下さい!
…そうやって、油断させる作戦かもしれ
ません。」
リプラのその声にハッとした。
そうだ、カラリを助けるためだ。
…どんな理由かは考えていられない。
…戦わなくては…と、俺は剣を構えた。
今回も読んで下さりありがとうございます!
主人公がすっごい思考する所は、飛ばしてもらっても構わないです。(今更)
次回も良かったら見て下さい!