第18話 会社
「…こちらです。」
「…ここは…。」
リプラが案内した先は、ものすごく高い
レンガビルだった。…セクタは、何か、この場所に心当たりがあるような顔をしている。
「…セクタ、もしかして…。」
「…うん、ここが…お父さんの…会社だよ。」
…やはり、そうだったらしい。
…しかし、この状況は、少しおかしい気がする。
わざわざ自分の会社にカラリを連れて行ったり
するだろうか。
…しかし、リプラがそう言うなら、まあ、
そうなのだろう。
「…えっと、それで…どうするの?
…正面突破もアレだけど、忍び込むっていう
のも、微妙じゃない?自警団の人を待機
させておくっていうのは?」
「それは意味が無いと思われます。
…この前、森であんなに大きな犯罪を
しているグループを自警団に突き出したのに、
何も音沙汰が無いというか、ニュースにも
なっていないんですよ。
…つまり、何者かが揉み消している可能性が
あります。
そのため、自警団の方を待機させておくのでは
なく、この中の誰かを待たせておいて、
何かあったら呼ぶ…と、そのようにしたいと
考えております。」
「なるほど…そうか…。まあ、確かに、会社に
入った瞬間襲うなんて事をして、外に情報が
漏れてもダメだろうし、それが一番
いいのかもしれない…。
…でも、それなら、誰を待たせておくの?」
俺がリプラにそう聞くと、リプラは
悩み始めた。
「…じゃあ、俺が待っていようか?」
「…それは、得策ではないでしょう。」
俺がそう言うと、リプラはすぐに否定した。
「…えっ、なんで?」
「…それは、あの方々の恨みを一番買っている
のが、ツイト様だと思われるからです。
…森で出会った時も、復讐だと言われたでしょう。
…今回も、その目的はあるとみられます。
ツイト様が1人で待っていると、そちらの方に
敵が集まる可能性もあります。
…そのため、得策ではないのです。」
…なるほど。そう言えば、あの柄の悪い集団は、
復讐とか言ってたな…。
…もし、ここに敵が集まってきたら、多分、
俺だけでは勝つ事は出来ない。…貫通も、
気がかりだし。
…じゃあやっぱり、俺が待つべきでは無いのか。
「…でも、それなら誰を待たせておくの?」
「…私が待っていよっか?」
俺がそう聞いた時、イーネさんがニコニコと
笑いながらそう答えた。
しばらく、場に沈黙が流れた。
「うーん…。」
多分皆、同じ気持ちなのだろう。
正直、信用が出来ない。…そもそも、こんな
状況になったのは、イーネさんが、俺達を
バラバラにしたからだと思うのだが…。
…待たせておいて、また変な行動を取られたり
しないだろうか…。
「…それなら、ぼ、僕が待っているよ…。」
誰を待たせておくべきかと考えていると、
セクタがそう言った。
「…いや、セクタは置いていっちゃダメでしょ。
…気持ちはわかるけども…。」
「そうだよねぇ、それに、息子なんでしょ?
なら、いざとなったら、『息子は預かった…』
とか言えば問題ないんじゃない?」
イーネさんは、とんでもない事を言った。
「…そ、それは…さ、最終手段で…。」
「…えっ!?…や、やめてよ?勇者さん…。」
俺は、セクタに、少し警戒されてしまった。
「…………………それなら、やはり俺が待機した
方がいいのか…。」
ブロックさんは、俺たちのやり取りを見て、
そっと、そう言った。
「…い、いいんですか?」
それが一番得策だと思うのだが、リムさんが
カラリを追いかけていってしまって、無事
なのか、一番気になってるのではないだろうか。
…その気持ちを汲んであげたい。
しかし、セクタやイーネさんを待たせてはおけない。
リプラ…リプラか…。でも、リプラには追跡能力が
あるようなんだよな…。他にも色々、便利な能力が
備わっているようだし、できれば連れて行きたい。
…やっぱり、ブロックさんにお願いするか…?
「…おや、もしかして、あなたは、セクタさん
ではありませんか?」
そんなことを考えていると、突然会社の
扉が開き、人が一人出てきた。
「…!?」
俺達は思わず身構えてしまったが、
その人は、俺の予想とは違う言葉を放った。
「もうそろそろ、そんな時期でしたっけ…。
旅行は楽しめましたか?…おや、ご友人ですか?
もしかして、ご友人の方も連れて旅行へ
行ったのですか?」
「り、旅行?…あっ、だ、ダメだぞ!
ボスって呼べと、電話で言われたじゃないか。」
「…ボス?何かの遊びですか?
旅行のお土産話、後で私にも聞かせてくださいね。
…ご友人の方々も…おや?」
その人は、俺の顔をまじまじと見つめた。
「…な、何ですか?」
「…なんというか、勇者様、に似ているな、
と思いまして。」
「…えっ、ああ、そうですかね。」
俺は、少し言葉を濁した。
「…まあ、気の所為ですよね。こちらへどうぞ。」
「え、え、ああ…。」
その人はそう言って俺たちを会社の中に案内した。
俺達は、案内されるがまま、結局誰も待たせる事
なく、会社に入っていった。
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「…お父様は、まだお仕事中ですので、
ひと段落するまで少々ここでお待ちください。」
秘書っぽいアンドロイドが、俺達をちょっと
した個室に案内した。
セクタのお父さんは、まだ仕事中らしい。
「…って、何か色々と噛み合っていないんだけど。」
「何だか…僕が旅行に行った事になってる
みたい…。それに、おかしいよ、お父さんが、
もう子供じゃないんだから、1度一人というもの
を体験して見た方がいい…。って、少しの人を
つけて、僕をネクステ村に送った筈なのに。
…それに、電話で、ボスと呼べ…って、
僕に言っていたはずなのに…。」
セクタのその言葉から考えられる事は、
セクタのお父さんが、会社の1部の人に嘘を
ついているか、会社の人が嘘をついているのか…
それとも、誰かがセクタのお父さんに
なりすましているのか。
…俺は、とある人に疑いの目を向けた。
…どうやら、リプラや、ブロックさんも同じ
考えに至ったらしく、ゆっくりと視線が移って
いた。
「…ん?え、何?…ああ、もしかして、
私を疑ってる?今の、話が噛み合っていない
理由を、私が声真似の魔法を使って、
そいつの父になりすましたからだとでも
思っているのか?」
「ええ、そう考えれば、罠にはまり、
カラリさんがいなくなった理由にも、
当てはまりそうです。」
「電話っていうところが怪しいよね。」
「……………………。」
ブロックさんは、不信感をあらわにした
目でイーネさんを見ていた。
「…うーん、違うんだけど。
どう証明すればいいのかなぁ…。
あ、ほら、セクタ君が、ネクステ村に
行った後、電話で話しただけで、
その前の会話は、普通に対面して話したん
でしょ?」
イーネさんは、そう言いながらセクタの方を見た。
「…う、うん、まあ…。」
「…ほら、私は姿まで真似ることは出来ないから、
違うよ…。」
…まだ能力を隠している可能性もあるし、
疑いの目は止まなかったが、確かに、
イーネさんだけを疑ってしまうと、
真犯人がイーネさんじゃなかった時、
ある程度推理の目処が立っていないと、
真犯人に逃げられる可能性がある。
…でも、イーネさんじゃないとすれば、
誰か、他に候補はあるのだろうか。
森の時より、もっと難しいことになってきたな。
そんなことを考えていると、部屋の扉が
ガチャっと開いた。
…そこから、ちょっとセクタに似ているような…
いないような人が出てきた。
この人がセクタのお父さんか…?
「セクタが、いつもお世話になっております。」
「あっ…いえいえ…。」
なんだかすごく礼儀正しい人だな。
この人が犯人…という可能性もまだなくなった
訳ではないんだよな。
俺は、セクタのお父さんが、どういう人かを
見極めるため、集中した。
「…あ、あの…ぼ、ボス…。」
「…ボス?ハハハ、セクタ、それは何かの遊びかい?」
「遊びじゃないよ、父さ…ボスが、そう呼べ…
って、言ったんじゃないか…。」
「…ふふっ、分かった。そういう設定なんだな?
その遊びは、友達が帰ったらやろうな。」
「…あ、う、うん。」
…やはり、セクタと、セクタのお父さんの
話は噛み合っていない。
「いやあ、友達と旅行に行くと言って
いなくなって、どんな友達と行くのかと思って
いたけど優しそうな人達で安心したよ。」
「…あの…。」
「ああ、申し訳ない。私は、トラック。
セクタの、父親だ。」
俺が、話しかけようとすると、セクタのお父さん
は、そう名乗った。
「ああ、えっと、ツイトです。」
「リプラです。」
「………ブロック、です。」
「イーネだ。」
俺達も名乗り返した。
「…えっと、ここに…カラリ…っていう名前の人と、
リムっていう名前の人が来ませんでしたか?」
俺は、単刀直入にそう聞いてみた。
「…いや、今日は、お客さんは誰も来ていないね。
…人を探しているのかな?」
…セクタのお父さん…トラックさんは、知らない
らしい。嘘をついている可能性もあるが、
顔を見ると、嘘をついている様子には見えなかった。
「…ねえ、リプラ、本当に、この建物の中に
いるんだよね。」
俺は、小声でリプラにそう聞いた。
「…ええ、そのはずですが…。」
「…何階にいるとか…分かる?」
「…いえ、分かるのは現在地だけで、
何階にいるかまでは分からないですね。」
…リプラは、困った様子でそう答えた。
…なるほど、GPSのようにしか分からないのか。
この建物にいるはずなのに、2人が見当たらない
理由が分かったかもしれない。
「…えーっと、と、トラックさんこの会社って、
地下室とかあったりします?」
「…地下室?ないね…。」
…俺は、てっきり地下への隠し階段があって、
誰かがこっそりカラリを連れていったのだと
思ったが、どうやら、違うようだ。
…それなら、どうしてここにカラリがいる
のだろう…ん?いや、待てよ…。
もしかしたら、分かったかもしれない。
カラリとリムさんがいる場所が。
「…ふむ、まあ、一緒に旅行に行った友達が
分かってよかったよ。後は、お友達と
遊んでくるかい?」
と、トラックさんは、そう、セクタに言うと、
去ろうとした。
「…待ってください!」
俺は、そう言って、トラックさんを引き止めた。
「…えっと、何て言っていいか分からないん
ですけど、この会社に、危機が訪れている
かもしれないんです!」
俺は、トラックさんが犯人という可能性は
無いと割り切ってしまって、思い切って
そう言ってみた。
「…何…?」
トラックさんは、先程までとは打って変わって、
真剣な顔になった。
「…えーっと、まず、俺達は…旅行に行っていた
のではなく…。」
…俺は、トラックさんに、今まであった事を
説明した。…しかし、俺が勇者だという事や、
森であった事の1部は、念の為少しだけぼかした。
誰かが、トラックさんやセクタになりすましている
可能性や、社員に、怪しい人がいるという
可能性の話だけ、詳しく話した。
…俺達が、セクタの友達だと思われている話は、
否定するのは可哀想なので、そうと言う事にした。
…いや、別に友達でないということはないとは
思うけど、はっきり、友達です!…とは言えない
関係だよな…。
「…なるほど、だからさっきセクタは、ボス、と…。
…しかし、そんなに高度な変身術を持っている
人など、この会社には居ないはず…。
…それに、この会社には、人を隠せそうな
場所なんて無いはずだ。…倉庫なども、
アンドロイドが見回っているはずだしな。」
「…その…2人の人ががいる場所が、わかったかも
しれないんです。…少し、周りの建物を確認
してみても良いでしょうか。」
「…まあ、良いだろう。仕方ない。
…セクタの友達なら、信用出来るよ…。
私も、力になれる事があったら、
力になろう。」
トラックさんは、優しく微笑んでそう言って
くれた。…何だか、申し訳ない…。
「念の為、連絡先を渡しておく。」
トラックさんは、そう言って、何かのIDを
自分のスマホに表示させて、こちらに
見せた。
「…ん?これは…まさかとは思いますが、
kantsumireの…IDとかでは…無いですよね?」
「…いや、そうだが?…何かあったら、
ここのダイレクトメッセージ機能を使って
教えてくれ。」
トラックさんは、とんでもない事を言った。
もしかして、連絡先というのは、SNSの
ダイレクトメッセージの事なのか…?
…てっきり、電話番号だと思ったんだが…。
セクタとも、電話で会話していたみたい
だし…。
「…えっと、トラックさん…電話番号では、
無いんですか?」
「…こっちの方が、早く連絡できて、
慣れてしまったんだ…電話の方がよかったかな?」
「…ああ、まあ、分かりました、問題ないです…。」
連絡に関しては、それで納得する事にした。
まあ、早い方がいいよな…。
「…ツイト様、周りの建物をみて、どうする
のですか?」
「…いや、ちょっとね…。もしかしたら、
別の建物から、ここの地下に道が繋がって
いないかと思って…。」
「…それは…可能性はありますが、違法建築
です。…すぐにバレる気もしますが…。」
「…う、まあ、そうかもしれないけど。
確認して、怪しい建物がなかったら、
他の可能性を考えるよ…。取り敢えず、
早く行こう。2人が心配だ。」
「…………………そうだな。」
「…行こう。」
そして、俺達は、部屋から出ようとした。
「………………。」
「…リプラ?…どうした?」
「…いえ、何でもないです。行きましょう。」
「…そ、そっか…。」
…少しリプラの様子が気がかりだったが、
俺たちは、問題なく会社の前に戻ったのだった。
今回も、読んで下さりありがとうございます。
次回もよかったら見てください!




