第16話 運命?
「…リカバリー街とも、一旦
お別れか…。」
俺は、リカバリー街の出口で、そう
呟いた。
「…リプラ、そう言えば、聞きそびれて
いたんだけど、リーディングシティには
どのくらい滞在するの?」
「…そうですね、本当は、西の池に行く
ための橋にかけられた呪いが解けるまで
滞在したかったのですが…。
…カラリさんの事があるので…用を
済ませたら、すぐに戻りたいと思います。」
「用?」
「はい、まず、リーディングシティには、
セーフティシティと同様に、レベルアップ
施設があります。…そこに、回りたいと
思っています。後は、もうひとつ、
実質リーディングシティにしかない場所が
あり、そこに行きたいと考えているのです。」
「…なるほど、そうか…。」
…でも、今までの様子から見るに、
あの集団は、人が集まっている所では
不審な行動を取っていないように見える。
それなら、多少の滞在なら、問題ない
のでは無いだろうか、と、俺はそう考えて
いた。
…しかし、リーディングシティの入口を
抜けた時、俺の考えが浅かった事を
知った。
「……………えっ……人が…………いない?」
リカバリー街には、外に出ている人が
割といたが、リーディングシティには、
人が全くいなかった。
その時俺は、セーフティシティの事を
思い出した。
…そう言えば、あの都市にも外に出ている
人は全く居なかった…。
…人がいるのが、当たり前だと思っていた…。
…一つの門を抜けただけで、こうも景色が
変わるのか。
「…ここも高い建物が多いな…。」
俺は、そう呟いた。
「そうですね、こちらも、かなり発展
した都市なので、人気がないですね…。」
リプラは、俺の呟きを拾ってそう言った。
「…これって、大丈夫なの?…人がいないって
ことは見つけられやすいというか、
狙われやすいんじゃ…。」
「…何を言っているんですか。」
俺が弱音を吐いていると、リプラは、
そう言って笑顔になった。
「…私達は、それも考え、護ると
言ったのですよ。…ツイト様も、そうです
よね?」
「………えっ?ああ、あー……。」
…まずいな、あまり想定していなかった。
…でも、言ったからには、頼りない所を
見せて、カラリを不安にさせる訳には
いかないよな…。
…と、俺は覚悟を決めた。…大丈夫だ、
きっと、上手くいく…。俺は、自分に
そう言い聞かせた。
「では、初めはレベルアップ施設に
向かいましょう。こちらです。」
リプラはそう言って、俺達を案内し始めた。
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「はい、到着しました。」
周りに注意を払い、しばらく道を進むと、
見覚えのある建物が視界に入ってきた。
…あー…何だか、懐かしい感じが
するな…。
「なるほど、ここがリーディングシティの
レベルアップ施設ね…。」
「………………なるほど、これがレベルアップ
施設。」
リムさんとブロックさんは、そう呟いた。
「…おや…?」
リプラは、既にレベルアップ施設のドアの
目の前にいたが、何故かドアが開かない
ようだった。
「…誰かが、使っているようですね…。」
…誰かが?…人がいないこの都市で、
一体誰がこの施設を使っているのだろう。
…と、そう思っていると、ドアが開いた。
「…どうやら、使い終わったようです。」
…リプラは、そう言った。
…一体、どんな人が出てくるんだ…。
俺は、少し身構えてしまった。
「……ん…?君達、何?」
「……………。」
レベルアップ施設からは、金髪の小柄な
女の子が、じっとこちらをみながら出てきた。
…と思ったら今は何故かドヤ顔を決めている。
「何というか、まあ、使いたいんですけど…。」
俺は、なんでドヤ顔なんだろうと思いながら、
そう言った。
「…ん、そうか、ここに来ているんだもんな。
…じゃあ、どーぞー。」
金髪の女の子は、そう言いながら、
ドアの前から捌けた。
「…?」
俺は、その金髪の少女の様子を、
少し不審に思いながら、レベルアップ施設に
入って行った。
「あー、この感じ懐かしいな…。」
ドアを抜けると、見知った風景が目に
飛び込んできた。この階段の雰囲気、
覚えてるなぁ…。
「じゃあ、早速、行ってくる…。」
俺は、みんなにそう言って、目の前の
ドアに入ろうとした。
「…あ、勇者さん、思考するのは、
ほどほどにね。」
その時に、リムさんが心配そうな顔で
そう言った。
「ああ、大丈夫ですよ。分かってます。」
俺は、リムさんに、そう返事をして、
ドアの向こうへと行った。
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「………………なるほど、この階段は、ここに
繋がっているのか。」
一方、ツイトがドアの向こうに行った後、
他のメンバーは、上の階から、ツイトの
様子を確認していた。
「はい、こちらで、ツイト様が
どういう状況かを確認することができます。」
「なるほど…。」
「ツイトさん、順調に戦えていますね!」
「…大丈夫かしら…。」
「…大丈夫なんじゃねえの?」
リプラ、カラリ、リム、ブロック、
セクタ、金髪の女性は、各々が、
違った感情を持ちながら、ツイトの様子を
眺めていた。
「…………ってちょっと待ってよ、あなた、
さっき施設の入口で出会った人じゃない。
…何でここにいるのよ。」
「…ん?いや、あれって勇者様でしょ?
…ちょっと戦い方が見たいなぁーって
思って。」
金髪の女性は、ヘラヘラとした様子で
そう言った。さらにその後、満ち足りた
ような表情になった。
「……そう言えば…あなた……まさか…。
………………ちょっと、こっちに来て欲しいの
だけれど……。」
「…ん?…えっ!?ちょっと…。」
「皆、私、この人とお話があるから、
ちょっと行ってくるわね。」
リムは、そう言い残して、金髪の女性を
連れて、階段を降りていってしまった。
皆は、一体何をするんだろうと思いながら、
リムをずっと眺めていた。
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「何か、皆なにかに注目しているみたいだな。
リムさんがいないみたいだけど、何かあった
のかな…。」
上で何かあったみたいだが、取り敢えず俺は、
気にせず、ここでモンスターを倒す事にした。
「……………………。」
…やはり、何だか剣に違和感がある気が
する。
俺は、モンスターを倒しながら、ふと
そう思った。
レベルアップ施設では、元々施設に
置いてある剣を使わなければならない
らしい。
それは施設が破壊されないようにする
ためとか、怪しい行動を取られない
ためとか、色々理由があるみたいだけど、
セーフティシティのレベルアップ施設に
置いてあった剣と、ここに置いてある、
今振っている剣では、やはり、
セーフティシティに置いてある剣の方が、
振りやすかった気がする。
…外観、内装は全く一緒の施設なのに、
置いてある剣だけが違うとか、あるの
だろうか。
…って、いけないいけない、あまり
こんな風に、考えすぎない方がいいって
言われていたんだった。
…後で調べるか、リプラに聞くかしよう。
俺はそう思いながら、剣を振り続けた。
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…そして、モンスターを倒し続けたある時、
また、俺の周りからゴオオオという音が
聞こえ始めた。
…一瞬、俺の周りにモンスターがいるのかと
思ったが、すぐに、そうではなく、
自分から音がしているのだと分かった。
「…あれ?…もしかして、『ライト』や、
『フラッシュ』だけじゃ、魔力をあまり
減らせなかったのか…?…まあ、そうか、
使いやすい魔法だったしな…。」
…まあ、魔力を溜めすぎて何かあるという事は
なさそうだし、このまま行くか…。
と俺は思い、そのままモンスターを倒し続けた。
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「……………………。」
…結果、全く前が見えなくなってしまった。
…まさか、魔力が集まりすぎる事で、視界に
影響が出るとは思わなかった。
「…勇者さん、大丈夫?」
リムさんが、そう声をかけたみたいだが、
ゴオオオという音で遮られ、かろうじて
声が聞き取れる程度だった。
「…えっと、まあ、一応。
…前は全く見えないけど…何となく
前に壁があるかないかは分からない事は…。」
「…えっ?何!?」
「…………えーっと、前は見えないけど!
壁は何となくどこにあるか分かるから!
一応は!問題ないよ!」
俺は少し大きな声でそう言った。
「…なるほど、今度はしっかりと聞こえたわ。
…でも、こちらが全く見えていない
状態なのでしょう?…それなら、早く
魔力を使った方がいいんじゃないかしら…。」
「…うん!そうなんだけど!何に使ったら
いいのかなって!思って…!」
「ふーん、それなら、私が使おうかなぁ。」
「…えっ?」
そんな声が聞こえてきた後、突然視界が
開け、ゴオオオという音も消えた。
俺は、何が起こったのかと周りをキョロキョロ
見渡して見ると、少し前に見た、金髪の小柄な
女の子が俺の横にいた。
「…ん?あれ、なんでいるの?」
「…だって、君って勇者様でしょ?
戦い方とか、気にならない?」
「…嘘よ、さっき、話していたのだけれど
この人、『AI化病』の関係者らしいの。
…もしかしたら、勇者さんがその病気に
かかった理由にも、関係しているかも
しれないわ。」
…金髪の女の子の言葉を遮って、リムさんは、
俺にそう言ってきた。
「え!?…関係…者!?」
関係者ってどのくらいの関係者なんだ…!?
俺より、幼そうに見えるから、直接的な
関係者ではなさそうだが…。
俺がそう思っていると、金髪の女の子は、
やれやれ、と言った様子で話を始めた。
「確かに、関係しているとは言ったけど
さぁ…。別に、私も詳しい事を知っている
訳じゃーないよ。…だから、ちょっと、
勇者様の事が気になってー、そもそも
ここで出会ったのも偶然だし…。
いや、運命?
…勇者様の事が、気になるなぁ。
着いて行きたいなぁ。」
金髪の女の子は、笑顔でそう言った。
「………。」
リムさんは、私は、この人を見かけた事が
あるかもしれないから、この人を問い詰めた
んだけど、そう私にも言ってきたのよ。
…似ている人なんて、割といるでしょ、
ここで出会ったのも偶然だよ…って。
…怪しいでしょう?
と口パクに近い小声で俺に言った。
怪しい、それは怪しい。…俺は、リプラの
方を向いた。
加えて、怪しいよね?という視線を送った。
「…………。」
リプラは、頷いた。
俺は次に、カラリの方を見て、怪しいよね?
という視線を送った。
カラリは、頷き、さらにブロックさんや、
セクタまでも怪しいと疑うレベルだった。
…まあ、怪しい訳だが、こんな小さい子を
放って行くのも、何だか申し訳ない。
「…残念だけど、君の言う事は怪しいから、
信じられない。…でも、放っていくのも
何だか申し訳ないから、自警団の元
までは送って行く事にするよ。」
俺は、金髪の女の子にそう伝えた。
「…は?」
金髪の女の子は、何が言いたいのか
分からない、と言った様な顔をしていた。
「…ん?あれ、もしかして、この世界では、
迷子とか、小さい子を連れて行く場所は、
自警団じゃなかったりする?」
俺がリプラにそう聞くと、金髪の女の子は、
やっと言いたい事を理解した、といった
表情を浮かべていた。
「…お前、いくつ?」
金髪の女の子は、怒っているような声色で、
そう、俺に聞いてきた。
さっきは、君と言っていたのに、お前に
変わる辺り、だいぶ怒っているようだが、
俺には心当たりが全くなかった。
…そのため、俺はとりあえず言われたことに
返答することにした。
「えっ、じゅ、17ですけど…。」
「なるほどな、お前…。私はなぁ、
お前より5歳、年上だ。」
金髪の女の子は、そう言った。
一瞬意味が理解できなかった。
5歳年上?年下の間違いじゃなくて?
12歳、それなら見えないこともない。
年上となると、にじゅうに?ニジュウニ?
22歳…見えない見えない。分からない。
「…え、っと…22…歳でしたか…。」
「ああそうだ、お前…禁忌に触れて
しまったようだな…。」
途端に金髪の女の子…もとい女性は、
物騒なことを言い始めた。
「えっ、あ、あの…ごめんなさい。」
俺は取り敢えず、謝罪の言葉を口にした。
「…えっ?っていうか、みんなは、
気づいていたの?驚いた様子が全く
ないんだけど。」
「…まあ、見た目はその、あれだったけど、
話し方が明らかに、小さい子じゃなかった
からね…。」
「…僕よりは年上だとは思ったよ。」
「…私と同じくらいだと思っていましたが、
驚くのは失礼かな…と。」
「…………………。」
「私には、年齢が分かる機能がついて
いますので。」
俺の言葉に、各々が各々の反応を
見せた。
「……………!」
金髪の女性は、気を遣われていた
のか…!というような顔になった。
「……………そっか、リプラ、ちょっと、
カルシウムでも…。」
「…やめろ気を遣うな!それに、
もう身長の成長は止まってんだよ!!
…………何だよ。何なんだ、その顔は。」
金髪の女性がそう言うので、俺は、
周りを見てみた。
…すると、全員が、ぬるま湯の様な
表情を浮かべている事が分かった。
「…少し、悪かったわね。…あなたも、
そんなに悪い人という訳では無いのね。
…苦労もあるようだし、ちょっと
だけなら、着いてきても文句は言わないわ。」
リムさんは、優しい顔でそう言った。
「…は?」
「では、続いて、行きたかった場所に
向かいますね。」
リプラは、何食わぬ顔でそう言った。
「…ちょ、ちょっと!」
俺達は、リプラに着いて行った。
「……………っ。」
金髪の女性も、苦い顔をしながら、
着いて来たようだった。
「…この選択を絶対に後悔させてやる…。」
金髪の女性は、何かボソボソと
物騒な事を呟いている。
…しかしまあ、こんな感じだが、さっき
リムさんが言っていた話も聞き流せない。
…警戒はしておいた方がいいのかもしれない。
俺は、心の中で、そう思った。
今回も、読んでくださりありがとうございます。
ここで2句。
12歳
それなら見えない
事も無い
22歳
見えない見えない
分からない
…次回も、よかったら見てください。




