第1話 炎上
…俺の名前は焔 槌翔。
異世界に憧れを持っている17歳男子高校生である。
あくまでも、異世界に憧れを持っている17歳だ。
進んで行きたいとはあまり思っていない。
何故憧れているのに行きたいとは思わないか、その理由の1つは…。
「あっ…おっと、あぶね……ここはこうで…よし、勝った!」
スマホを持っていけないからである。
例え持っていけたとしても、オンラインゲームが出来なくては意味が無い。
つまりネットに繋がらなくては意味が無い、と言う事だ。
…持って行けるとすれば…少し考えるが。
まあ、俺は17…あと半年弱で18歳になるこの時期に、異世界なんて、あるかないか分からないものに憧れを持っている場合では無いのだが。
「よーし、次も勝つぞー!」
だが、でも、そういったものに憧れを抱いていられるのも今の時期までかな、と思う。思うので…まあ、仕方ないよね。
と、俺は心の中で言い訳をして、もう一度スマホゲームのマッチングボタンに手を伸ばした。
「槌翔!」
…と、ボタンを押そうとしたその刹那、母に話しかけられた。
「えっ、お母さん……何?」
話しかけられる心当たりは1つしかないのだが、俺はそう言ってとぼけてみた。
「…宿題は?」
…やっぱりそうだ。思っていた通りの言葉だ。
「いやあ、お母さん…言わせてもらいますが、やっぱりゲームが出来る時期っていうものは、今だけなんじゃないかな、と思いましてね?
大人になると、やっぱり自由な時間っていうものは、学生の時よりも削られますしぃ…。」
俺は、母に精一杯の言い訳をした。
「…という事は、やっていないのね?」
「いや、でも」
「やっていないのね?」
「…うん。でも…!」
「今すぐやる!」
「いや、でもですねお母さ…」
「今すぐやる!!アンタの部屋のライトノベル、全部売るわよ!」
「はい!!やります!!」
…やっぱり、勉強からは逃れられなかった。
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「ちぇー、お母さん、ラノベ全部売るなんてまで言わなくたってぇ…。」
…母に言われ、俺はしぶしぶ勉強を始めた。
「ああ、もし異世界があったら、そこには宿題なんて無いんだろうな…。まあ、娯楽も少なそうだけど。」
…異世界。本当にあるかどうかは分からないが、無いと全て否定してしまうより、あるかも、と考える方が、俺は楽しいと思っている。…実際楽しい。
…勉強ばかりで心を無にしていると、気が滅入るのだ。楽しい事をたまに考えるくらいがちょうどいい。
「まあ、今日の宿題は少なめだから、それが唯一の救い…。早く宿題を終わらして、今やってるゲームのPvPランキングを上げなくては…。」
…よし、さっさと終わらせてしまおう!と、俺は宿題に向き直った。
「………、……………、…………………。」
向き…直った…。
「ダメだぁぁぁ!」
ダメだった。
「何で!何で数値をxと仮定しなければならないんだ!
何でだ、何で点Pは動くんだ!
何でだ、何でcos120°はマイナス2分の1なんだ!
なぜ足さなくてはならない引かなくてはならない
なせ掛けなくてはならない割らなくてはならない
…何故、答えを求めねばならない…。」
…今日は1番苦手な教科から宿題が出た。
…少ないと言い聞かせても分からないものは分からなかった。
…そうだ、人生に答えなんてないじゃないか。
良い事、悪い事の理解は必要だが、人生に正解や間違いは無いじゃないか。
こんなの、間違っている。
答えを求めねばならないなんて、間違っている。
説明すれば、母は分かってくれるはずだ。
人生に、答えなどないという事を…。
俺は自分の部屋のドアを開け放ち、母の元へ向かった。
「お母さん!」
「あら、槌翔…宿題は終わったの?」
「まだ…だけど、俺はすごい事に気が付いたんだ!」
…そして俺はさっき考えていた事を母に説明した。
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「ちぇー、お母さん、今度はラノベを燃やすなんて…。
そこまで言わなくたってぇ…。」
ダメでした。
母には、「槌翔、人生にはね、明確な答えが必要な時もあるのよ。」なんて言われてしまった。確かに一理あるとは思う。
だが苦手なものは苦手なのだ。
「…ま、まあ、ちょっと休むくらいなら怒られはしないよな…。」
5分程勉強をしたところで俺はそう言って、
ベッドに転がりこみ、スマホを持ち、ゲームを起動した。
「もう少しでランキング3桁になるんだよなー。
…お母さんとは、1ヶ月1000円の約束しているからなぁ。
ぐぬぬぬ…。」
俺は、お金を貰っている手前そこの約束だけは守らなくてはならないと思っている。
この1000円は、ここぞという時に使わなくてはだめなのだ。
「…まあ、今日はこの順位を保って、明日から
本気でやるか…。…ん?」
…ふと、スマホを見ていると、画面が突然真っ暗になり、白い文字が点滅しながらゆっくりと表れてきていた。
「…何だろう。」
…俺は、グッと目を凝らして、読もうとしてみた。
「…は……です…『異世界は好きですか?』『はい』『いいえ』…何これ、タップしろってこと?」
…何の疑問も持たず、俺は『はい』をタップした。
…すると、ふっと文字は消え、また違う文字がゆっくりと浮かんできた。
「…次は…『異世界に1つ持って行けるなら?』お、次は入力式なのか…」
俺は、『自分のスマホ(出来れば充電器と回線つきで)』と入力しようと思い、画面をタップした。
が、しかし、よく考えて見れば自分のスマホに謎の質問が表示されているこの状況って、結構おかしいんじゃないか?
と、俺は思い始めた。
…というか俺、何でナチュラルに第一の質問に答えてるんだ。
やべえやべえ、つい反射的に…。
「…電源が消えない!?」
俺は、スマホの電源を消そうとしてみたが、全く消えないし、そもそも画面が暗くなる素振りも見せないという事が分かった。
こうなったら俺がやるべき事は1つ…。
「答えよう!!」
今度は迷いなく、『自分のスマホ(出来れば充電器と回線つきで)』と入力してみた。
ここに書いた物が持って行けるのなら、俺は…興味ある。
…すると、ふっと文字は消え、また違う文字が浮かんできた。
「んー?『冒険などに興味がある』か?」
…俺は、文字が出る度に『はい』または『いいえ』入力が必要な時は入力をして行った。
…もうかなり答えたな、と思った時、スマホの画面にはさっきまでの雰囲気とは違った文字が表示された。
「何々…?『合格です。魔法陣を転送します』…えっ?」
すぐ、足元に目をやると、そこには白い魔法陣が浮かんできていて、なにやら光だした。
「えっ…?まさか…本当に自分のスマホ(出来れば充電器と回線つきで)を持って異世界に…!?」
俺の身体は段々と薄くなっていっている。
絶対にそうだ!絶対にそうじゃん!
俺はわくわくしながら、魔法陣に身を任せた。
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「……お目覚めでしょうか。ホムラ ツイト様。
私は、異世界サポートアンドロイド、リプラと申します。」
…目を覚ますと、そう言ってメイドの様な姿の女の人が、いや、この人の言う通りならアンドロイドが俺を迎えてくれた。
この感じ…間違いない、ここは異世界だ。
「えっと、お目覚めです……おわ!?本当に俺のスマホと…充電器もセットだ!」
ふと、手元を見てみると、そこにはしっかりスマホが握られている。
「はい、ツイト様が欲しいと言っていたので。
…この世界には、ツイト様のスマートフォンを充電出来る充電器がありませんので…。
コンセントの方は元いた世界と同じ筈なので安心してください。」
「あ、ああ、はい…。後、異世界でも言葉は通じるんですね…。」
「はい、この世界にお呼びする時に翻訳プログラムを組み込んでおきましたので。
同様に、ツイト様のスマートフォンにはこちらの世界で使用可能な基本アプリを入れさせてもらいました。」
「あ、ああ、そうですか…。ちなみに俺がいた世界のアプリはどうなっているんですか?」
俺は、1番気になる事を聞いてみた。
…全て消えます。なんて言われたら俺は発狂してしまう。
「そのスマートフォンからは消えています。
しかし、あなたが元の世界に帰る時は、この世界のアプリを消し、元の状態に戻るように設定してあります。」
…よかった。今は使えないが、しっかりアプリのデータは残っているらしい。
…ていや待て、それならオンラインゲームが出来ないじゃないか!
「…オンラインゲームをプレイしたいんだけど…やっぱり無理?」
「…はい、申し訳ないですが、そちらの世界のゲームは。
…こちらの世界のゲームで我慢して頂けないでしょうか。」
「…あ、は、はい。」
かなりショックだったが、俺は、取り敢えず元の世界のオンラインゲームは諦める事にした。
…しかし絶望するのはまだ早い、こっちの世界のゲームを知らないからだ。
…後で機会があったら、こっちの世界のゲームを入れてみよう…元の世界のゲームより、案外ハマるかもしれない。
「えーと、ところでリプラさん…。
俺はなんで異世界に呼ばれたんでしょうか。
それに、異世界にしては何だか、この空間は近未来的なような…。」
「リプラ、で結構ですよ。
そうです、ツイト様には、魔王を倒して頂きたいのです。
異論はないはずです。全ての質問の条件を満たしているのですからね。
…異世界にしては近未来的、ですか。
どうやら、ツイト様には、変な異世界の概念があるようですね。
…そうですね。ツイト様がイメージする異世界よりは…ここは少々近未来的でしょうか。」
「あ、はい…そうですか、リプラさ…リプラ。」
俺がライトノベルで付けた異世界の知識を、変と言われて、俺は少しもやもやした。
…まあ、確かに俺は『魔王に挑める勇気がある』のような項目の、『はい』を押したが…。
やっぱりそうなのか、魔王を倒さなくてはならないのか。
「…まあ、大丈夫ですけど、俺以外に条件を満たした人はいなかったんですか?」
「…いるにはいました。…しかし、ツイト様が1番懐柔しやすかっ…親しみやすかった雰囲気があったので…。」
「リプラ、今…懐柔しやすかったって言おうとしなかった?」
「いいえ、ツイト様ならきっと魔王にも快勝して下さるでしょう。と言いたかったのです。」
「…………。」
何だかすごい人間味のあるアンドロイドだな。
まあ、懐柔しやすそうだと思われていようが構わないけど。
「えっと、それで?魔王を倒すためにどうするの?
鍛える…とか?」
「はい、それに関しては、ご自身のスマートフォンを起動し、『kantsumire』というアプリを起動してみて下さい。」
「かんつみれ…?」
「『kantsumire』です。」
「ああ、はいはい、かぅんとぅみぃれ、ね。」
俺は、リプラの「『kantsumire』です」という声を聞き流し、言われた通りにスマホを起動し、その中に入ってい『kantsumire』を開いてみた。
「何々…?名前を設定してください?」
俺は、名前を『ツイト』に設定しようとしたが、なぜかエラーが起こってしまった。
「…ん?何で?」
「見せてください。ああ、『kantsumire』が打ち込みの翻訳プログラムに対応出来なかったみたいですね。
少々お待ちください、そちらの…『ニホンゴ』にも対応出来るようにプログラムを組み直しますので…。」
俺が、頭の上に疑問符を浮かべていると、リプラはそう言って、俺の後ろから手を伸ばし、スマホの画面を弄り始めた。
…って、なんなんだこの状況は!
傍から見たら、俺がリプラに抱きつかれている見たいな状況じゃないか!やめろ!俺は17歳だ!無反応でいられる訳がねぇ!
「えっと、その…リ、リプラ…。」
「もうすぐで組み直しが完了するので、
もう少々、お待ちください。」
「あ、は、はい…。」
もう少々で完了するらしい。そうだ、それだけだ。
そもそもこの状況も、偶然生み出されてしまった状況ですし、本人の言う通りならリプラは人間じゃあ、無いですし…。
落ち着け、心を無にするんだ、無に、無に、無っ !!
「はい、完了しました…。おや、ツイト様、何やら顔が赤いようですが…?」
リプラは、スマホから手を離した後、状況が分からない、といった様子で小首を傾げていた。
「ななな、なんでもないよー。あっ『ツイト』って入力出来たー!よ、よかったー!
おー、アプリの画面の字も全て日本語だー!
成功だよやったねリプラー!」
俺はそう言って誤魔化した。
リプラは「ふむ」といい、首を傾げるのをやめた。
よかった、何とか誤魔化せたようだ。
「はい、では今の状態は、誰もフォローしていませんし、されていませんが、取り敢えず、『魔王プギギアm9(^Д^)☆』と検索してみてください。」
リプラはそう言った。
なるほど、『kantsumire』はそう言ったタイプのSNSのようだ。
回線は一体どうなっているんだろうか、と思ったが、どうやらこの空間には電波が飛んできているらしい。
…というか、魔王って事は、何?魔王、SNSやってるの?
…まさかな、と俺は思い、『魔王プギギアm9(^Д^)☆』
と検索してみた。
『プレシャス村征服したったwww』
…検索し、1番上に飛び込んできた文字は
それで、征服したと見られる村の写真が添えてあった。
「は?」
俺は思わずそう口に出ていた。
そこに来ている返信にも目を通してみると、『最低です!村を征服して、そんなふざけた態度でいるなんて…。』とか、『プレシャス村なめんな』とかいう人間側と見られるコメントや、『さすが魔王さんwww最高www』とか、『魔王様を倒せる力もない人間が何か言ってるw』など魔王側とみられるコメントが沢山あり、とても炎上していた。
魔王本人も、『文句あるなら実際に会いに来て倒してみろやw』という文面で、魔王城とみられる写真を添えて、さらに炎上を加速させるような事をしている。
「…見ての通り、魔王プギギアは、村、町、都市などを征服し、その写真をネット上にあげるという悪質な行為をしています。
世界の平和、そして、ネットの平和を守るため、ツイト様には魔王を倒して頂きたいのです。
それで、まずはネットで倒して頂きます。」
リプラは、一瞬少し悲しそうな顔をしていたが、すぐに出会った時の表情に戻り、そう意気込んでいた。
「ネットで倒すって言ったって、いったいどうすれば…?」
「そうですね、まず魔王に、『予言通り異世界から来ました。私が伝説の勇者です。』とでも送ってみましょう。」
「えー?」
俺は、リプラの言ったことに疑問を持ったが、まあ、他に出来そうな事も無いので、その通りの文面で魔王のつぶやきに返信した。
…すると、すぐ魔王プギギアから返信が来た。
…早くない?暇なのかな…。
『は?もっとましな嘘つけよww
本当だってんなら証拠出してみろよw』
らしい。まあ、普通に考えてそういう返信が来るだろうとは思ったが。
…本当に暇なのかな。…でも、証拠ってどうすればいいんだろう。
「…安心してください、ツイト様。
私は、異世界からの使者が召喚された時に起動するようになっていますので、私が目覚めているという事実が、証拠となります。
写真でも送ってみたらいいのでは無いでしょうか。」
「あ、ああ、そう…。じゃあ、はい、チーズ。」
リプラがそう言うので、俺は顔バレしないように念の為腕で顔を覆いながら、リプラとのツーショット写真を魔王に送った。
『は…まさか、こいつ…噂で聞いてる…。
…リプラ…?……いや、違う、動いていない状態のそいつを写真に取って、それっぽくしただけなんだろ?wそれか、別のアンドロイドにそれっぽい格好をさせただけとか…。
…そうなんだろ?wはい、論破ー!www』
すると、そんな文章が返ってきた。
何が論破なんだろうとすごく思った。
「だってさ、どうするの?」
「それなら、動画を送りましょう。」
リプラがそう言うので、俺は動いているリプラと、「まあ、そういうわけです。」と言った俺の声を撮った動画を魔王に送付した。
『えっ?てことはまじ?』
魔王からは、とても焦りが見える返信が来た。
俺は、『だから最初からそう言ってるじゃないですか』と魔王に送信した。
…今度は、返信まで若干間があった。
『そうかそうか、お前が伝説の勇者…。
なるほどな………よし!お前ら!やっちまえ!』
…という、物騒な文章を返された。
一体何をされるんだ…。
…が、しかし、しばらく待ってみたが何もおかしい事は起きていない。
『は?何やってるんだお前ら!はやく勇者のスマホを乗っ取ってやれよ!!』
…痺れを切らしたのか、魔王はそうつぶやいた。
その返信には、『だって、勇者の送信元とみられるデバイスが、今まで見た事もない機種でして…。』といったものが相次いだ。
…ふむ、どうやら魔王とその仲間たちは俺のスマホを乗っ取ろうとしていたみたいだが、俺のスマホは日本製で、この世界には存在しない機種なので、この世界の乗っ取り方では乗っ取れなかったようだ。
『だとしても『kantsumire』にログイン出来ているって事は、多少この世界に対応出来るように改変されてるって事だろ!何とかしろ!』
魔王は怒り気味でそうつぶやいた。
返信には『そんな無茶な…』という
ものが見受けられた。
部下が可哀想である。
そのつぶやきの返信には
『魔王wwwm9(^Д^)プギャー』とか
『魔w王wさwんw乙ですwww』といった、
人間側とみられるものが相次いだ。
『ええい!もういい!プランBだ!』
…と、しばらくして、魔王はそんな事をつぶやいた。
…プランB?一体何をしてくるんだ…?
そう思っていると、突如通知が沢山来た。
通知を確認してみると、全く知らない人から『勇者ならはよ魔王倒して』『こいつに魔王なんか倒せんわ』『(多分ウイルスに感染するURL)』などが送られてきた。
「えっ?何これ…何で俺炎上し始めたの?」
「…多分、魔王がいうプランBとは、『お前も炎上させてやる』といった、プランブーイングなのでしょうね。」
「えーっ!?…あっ、たまに応援もある…けど、圧倒的に批判が多い!強い!
魔王軍強い…!」
「炎上してしまいましたね、ツイト様。」
「炎上してしまいましたね、じゃないよー。
これは一刻も早く魔王を倒さないと…!」
…こうして俺は、何やかんや異世界へ行き、
何やかんや炎上したのであった。
読んでくださってありがとうございます!!
もう、感動で前が見えません!!(大袈裟)
初投稿です。これからどんな風に評価されるのか、またはされないのかと考えると胃が痛いです。
…もし、文法、構文にミス、または誤字脱字があったらぜひ教えて下さい。出来る限り迅速に対応したいと思います。
更新は、1週間くらいを目安にしたいと思っております。
次回も、ぜひ…読んでください…。ぜひ。