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翌日から、ラミアとカーディラスは果実で朝食を済ませると、早速剣の特訓を始めた。
ラミアはナイフを扱ったことがあるだけあって短剣の扱いもすぐに慣れ、またカーディラスは教えるのが上手かった。
「君は筋が良い。これならレベルの低い魔物ならすぐに相手に出来るだろう。」
この森を抜けるときはカーディラスがいてくれるが、アルド商会から逃げるために、いつかまた森に入ったり魔物を相手にするときが出てくるかもしれない。
ラミアは、カーディラスが出かけている日中は素振りをしたり、木を相手にしたりと、今後のためにも必死になって練習した。
時には少々カーディラスと共に魔物のいるエリアまで出て、弱い魔物を相手に実践もした。
そのため数日のうちに剣の腕は上達し、中級までの魔物であれば何とか相手に出来るレベルにまで達した。
「よく練習したな。この腕なら、俺とこの森を抜けるのに何の問題も無い。」
カーディラスは笑みを浮かべてラミアの頭を優しくなでる。
この数日で二人の距離も少し近くなった。
カーディラスは自らの妹のように気安くラミアに接し、兄弟のいないラミアも、気恥ずかしながらも兄のような温かさを嬉しく感じていた。
ラミアが剣の特訓に明け暮れるこの数日、カーディラスは周辺を調査し、森の更に深部にある岩山の中腹に、洞窟があるのを発見していた。
入り口にある崩れた岩の隙間を通り抜けると、中はかなり広い洞窟であった。
過去に何かあったのだろうか。あまり良い気配の無い洞窟であった。
中の方にも進んでみるが、途中、岩が完全に崩れ、進路が閉ざされていた。
(この先に何があるのか気になるが、、、これは通れないな。)
カーディラスは岩をどかしたり、何とか通れないか試みたが、先に進むことは出来なかった。
その洞窟以外にも、カーディラスは周辺を調べてみたが、これ以上気になる場所は見つけることが出来なかった。
日の暮れる頃、カーディラスはラミアの待つ洞穴に帰った。
洞穴は明かりが付き、ラミアが夕飯の支度をして待っていた。
「おかえりなさい。」
ラミアが笑みを浮かべて言う。
「ただいま。外にスープの良い香りがしていたよ。疲れて帰ったときに、こうやって待っていてもらえるのは本当に嬉しいものなんだな。ほっとする。」
カーディラスは心底嬉しそうに言った。
それを聞いて、思わずラミアは赤面した。
「それにしても、前から思っていたが、君は料理が上手いよな。それにとっても手慣れてる。まだ14なんだろう?母親の手伝いをしていたのか?そう言えば、君の両親は?心配しているんだろう?」
「ううん。母は私が10歳の時に亡くなったの。父は産まれる前に亡くなったって。母が亡くなってから、やれることは全て自分でやってきたから。」
「君は、両親を亡くしていたのか。」
「ええ。でも母さんは必要なことを全て私に教えてくれていたから。それに村の人たちが優しくて、助けてくれたわ。」
ラミアは視線を落として話す。
「皆で助け合う、良い村だったの。」
カーディラスはしばらく黙っていたが、徐に口にした。
「君が大人びているのは、そのためなんだな。その後捕まって、一人で働かされたんだろう?
・・・辛かったな。」
カーディラスの少し申し訳無さそうな声を聞いて、ラミアは顔をあげて微笑んだ。
「大丈夫よ。それに、今はこうして逃げられて、貴方に出会えた。剣も教われて強くなれた。きっとこの先も大丈夫!」
ラミアの力強い眼差しに、カーディラスは思わず見惚れた。
「俺も本当の父は亡くしているんだ。母とは訳あって離れて暮らしてる。幼い頃から義父母に育てられたんだ。君は妹より幼いのに、本当に強い心を持っている。
俺は君の力になりたい。俺に出来る事があれば言ってくれ。」
その後二人は話し合い、翌日準備を整え、翌々日に出発する事を決めた。