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カーディラスと名乗った少年は、持っていた鞄から水入れを出し、ラミアに渡した。
「まずは身体の回復が一番だ。幸いなことにこの辺りにはほとんど魔物を見かけない。君の身体が回復するまで、しばらくこの辺りに留まった方が良いだろう。」
「ええ。」
ラミアは水入れを受け取り、数口飲んでから、お礼を言ってカーディラスに返す。一つ一つの動作でまだ痛みを感じる。ちょっと動くだけで辛いのに、魔物のいるエリアを長時間歩くのは無理だろう。
「貴方は?何処か行くところがあるのでしょう?」
ラミアはカーディラスにたずねた。何か目的が無ければ、こんな場所には足を踏み入れない筈だ。
「ああ。だが急ぎでは無いからね。俺も今日はもう休息を入れるよ。明日からしばらくはこの辺りにいる。やらなければならない事があってね。さぁ、君はもう少し横になっているといい。ここは温かい。陽の下で休んでいる間に服ももっと乾くだろう。」
逃亡のためにずっと緊張状態だったラミアは、会ったばかりだというにも関わらず、優しい笑顔で労ってくれるカーディラスに、張り詰めていた気を少し緩めることが出来た。
(この人がどういう人かわからないし、本当に安心できる状況下もわからないのに。でも、なんだか居心地が良い。・・・少しだけ、休んでも良いかしら。)
今は太陽が真上を少し過ぎたころである。
ラミアは暖かい陽の光の中、カーディラスのそばで横になり、目を瞑った。
ラミアの横に座ったカーディラスは、しばらくラミアを気遣って彼女を見守っていたが、陽の傾きかけた頃、立ち上がり、火を焚いて、鞄に入っていた干し肉でスープを作り始めた。干し肉はそのままでも食べられるが、スープにすれば柔らかくて食べやすい。それにきっとラミアの弱った身体を温めて疲れを取るだろう。
辺りが暗くなってから、燃える木の、パチパチという音で目が覚めたラミアに、カーディラスはスープの器を差し出した。
「さあ、食べられそうなら少しでも食べて。、、、味はあまり期待しないでくれ。」
ニヤッと口角を上げながらいうカーディラスの言葉に、思わず顔を弛めながら、ラミアは器を受け取った。
(私の気を緩めるために、敢えて言ってくれたんだわ。気遣いの出来る優しい人。)
スープは確かに味はいまいちー塩気も足らず、物足りないーが、スープの温かさとカーディラスの気遣いは、少し冷えたラミアの身体を温めてくれた。
「元気が出そう。本当に、どうもありがとう。・・・出会ったばかりなのに、どうしてこんなに良くしてくれるの?」
「倒れている者を、助けるのは当然だろう。」
カーディラスは肩をすくませながら答え、そして付け加えた。
「それに、俺には妹がいてね。ちょうど君くらいの歳なんだ。そんな君を放っておけない。」
ラミアが感じた安心感は、カーディラスの、兄としての抱擁力なのかもしれない。
「妹さんと仲が良くてー良いお兄さんなのね。」
「良い兄かはわからないけどね。歳が近いから、幼い頃はよく遊んだんだ。妹は今年で15になる。」
「妹さんは、私のひとつ、年上だわ。」
「っそうか。俺は17だ。・・・君はまだ14か。ずいぶん大人びているんだな。」
少し驚いてカーディラスが言った。
「・・・そうかも、しれないわね。」
ラミアのこれまでの生い立ちが、ラミアを大人びてみせているのだろう。
ラミアは、詳しくは話さずに、会話をそこで終わらせた。
「近くに洞穴があるんだ。夜はそこで休もう。」
濡れたラミアの身体を乾かすために、陽が当たっていたこの場所にいてくれたんだろう。ラミアが食べ終わると、カーディラスは焚いていた火をトーチに移し、付いていた火を消した。
二人がその洞穴まで移動すると、カーディラスは入り口から少し入ったところ枯れ枝を盛り上げ、トーチの火を移した。
そこは、すぐに奥が見える、小さな洞穴だった。
「ここなら安全だ。しばらくはここを拠点にしようと思う。」
火を囲んで、二人は眠りについた。
さっきまで寝ていたはずのラミアも、まだ身体が回復していないのだろう、すぐに睡魔が襲ってきた。