7 side カーディラス
「兄上、見つけました!今日の主役じゃ無いんですか?全く、こんなところに逃げ込んで!」
カーディラスが休んでいる部屋に、第三王子のアランドールがやってきて、カーディラスが休んでいるのと反対側のソファに座った。アランドールは13歳。現在18歳のカーディラスの5歳年下だ。
「俺を探しに来たふりして、おまえも逃げ出してきたな?」
カーディラスがニヤリと口角をあげていうと、アランドールは膨れて返す。
「兄上が逃げ出したおかげで、令嬢の的が僕になったんです。まったく、イルザに誤解されたらどうしてくれるんです!!」
イルザはアランドールの婚約者だ。父王が決めた婚約者であるが、アランドールとイルザは小さい頃から共に育った。まだ幼い恋であるが、お互いを思いやって仲が良い。
そこへ、もう一人乱入者が来た。カーディラスの妹、王女のシシリアである。
「お兄様方!もう、逃げて狡いですわよ!」
そうして、遠慮なくアランドールの横に座る。
カーディラスが思わず苦笑した。
「会が終わったら、兄上の小言だな。」
「父上と母上からもです。」
だが、誰も戻る気はない。
「カーディ兄上がいけないのよ。抜け出すんですもの。」
しれっと人のせいにするシシリアだ。
「自分で抜け出して来たんだ。自己責任だろう?」
「だって我慢していたのに。逃げ出す姿を見かけたらついつられちゃうじゃない。
こういうのは最初に我慢できなくなった人が悪いんですのよ?」
隣でうんうんと頷くアランドール。
カーディラスは苦笑しながら、でも楽しそうに二人を見た。
カーディラスは王弟の子であるため、兄弟の中で一人だけ養子だ。だが王太子レオンハイムめ、4人は本当の兄弟のように仲が良かった。しかし忙しくて最近はこうして座って話す機会が無かったのだ。
「カーディ兄上、そういえば、旅はどうでしたか?父上にした報告は僕も人伝に聞いたのですが、直接兄上にお聞きしたかったんです。」
「そうそう!私も、兄上に話しを聞くのを楽しみにしていたんですのよ。父上にした報告以外にも色々あったんでしょう?綺麗な場所や美味しい食べ物も教えてくださいな!」
ソファーに横になっていたカーディラスは、身体を起こしてから、アランドールとシシリアに乞われるまま、国の様々な街や村、名物など、旅で知ったこと、聞いたこと、見た物について話した。
カーディラスが粗方話し終わった、と言うところで、シシリアが聞いてきた。
「お兄様、それで、<変化の魔道具>をお渡ししたのは、どんな方ですの?
「え?」
「お兄様が旅の前にわざわざ作らせた魔道具を、帰城の際は持っていなかったと。そして、また作らせたと聞きましたわ。」
「ああ、それは、なくしたと報告したろう。」
「そんな訳無いですわ。お兄様が大事な石を無くすはずがないもの!」
「そうですよ、兄上。その話しが聞きたかったのに、ちっとも出てこない。」
二人に詰め寄られ、カーディラスはたじろぐ。
父や兄にも問われなかったことを、この二人に問われるとは。
(まぁ、でも、この二人ならば。)
カーディラスは溜息を吐いて、ラミアのことを話すことにした。
「北の森で助けた子がいてね。聞けばアルド商会に追われているっていうから。彼女の助けになればと思って、あげたんだ。」
「北の森?確か、魔物が増えて、危険なところじゃなかったですか?」
「一年前はまだ今のように危険な場所ではなくてね。ちょうど、北の森の奥を調査に行っていたんだ。その時に、川に流されてきた女の子を見つけて。」
「川を流されて?それで、その子は無事だったんですの?」
「ああ。特に怪我も無くて。翌日にはもう元気に活動していたよ。一人で付近を見て回って、食事を作って。挙げ句の果てに、剣技を教えて欲しいって頼まれた。」
当時の事を思い返し、カーディラスは思わず苦笑を浮かべながら話した。
「女の子でしょう?・・・随分とたくましいですね。」
話しを聞いた二人は、目を丸くした。
「しかも、彼女はシシリーの一つ年下だった。両親を亡くして、自分のことは自分でする生活を送っていたらしい。森にも慣れててナイフで弱い魔物とは対峙したことが何度かあるって言うから、結局剣技も教えたんだ。そこの調査が終わるまで、約二週間そこにいたんだが、最後には中級の魔物くらいまでなら何とか倒せるまでになっていたよ。」
「まあ。本当に凄い方ね!」
「そうだろう?しかも、旅を終えて再び会いに行ったら、今度はノルデンの食堂で看板娘になっていたよ。」
「その方、私もお会いしてみたいわ!」
国王一家は、あまり身分による差別をしない。公式な場ではもちろん貴族を重んじるし、功績も認めているが、平民も一人一人が国の大事な財産であるときちんと認識していた。
「ああ。今度呼んで紹介しよう。きっと友人になれる。」
「楽しみだわ!・・・それで、その方が私のお義姉様になるんですの?」
「えっ?いや、彼女はシシリーより年下だよ?もう一人の妹のような存在だよ。」
カーディラスはシシリアの言葉に、驚いて言った。
「兄上、僕とイルザは三歳差ですよ?兄上とその子と同じじゃないですか。兄上の大事な魔道具まで渡したのに、妹ですか?」
「そうよ!お兄様、その子と二週間二人きりで過ごしたんでしょう?何も無かったの?」
「当然だろう!」
シシリアとアランドールに詰め寄られ、カーディラスは眉間に皺を寄せた。ラミアのことを妻になんて、考えてもみなかったのだ。
「これまでほとんど女性の影が無かった兄上が、シシリー姉上以外の女性と二人きりで二週間も過ごして、しかもべた褒め。旅が終わってすぐに会いにもいかれたんでしょう?兄上にとって貴重な方ですよ。逃がさない方が良いと思いますが。」
「そうよお兄様!」
「全く、妹だって言ってるだろう?おまえ達、自分達がうまくいってるからって、人のお節介焼くんじゃない!」
アランドールだけでなく、シシリアも婚約者とは仲が良い。そもそもシシリアが好んでいた相手を、ちょうど身分も釣り合うからと、父王が婚約者に選んだのだ。相手もシシリアを気に掛けていたため、婚約を喜んで受け入れた。
恋愛に関して充実した二人に口々に言われ、カーディラスはため息を吐いて、ソファーにもたれて天を仰ぎ見た。
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