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知り合ってから今日まで、とてもよくしてくれたマイナとクスカにはなるべく誠意を見せたいが、手広く事業をし、情報網を持つアルド商会から逃げるには、のんびりとはしていられない。
(忙しい時に、申し訳ないけど、仕方ない。)
ラミアは食堂に戻ると、マイナとクスカに事情を話す事にした。
「おかみさん、旦那さん、実は私らアルド商会から追われているんです。」
唐突なラミアの話しに二人とも驚いていたが、アルド商会に対して良い思いを抱いていない二人は、アルド商会に、と言う事にはあまり驚かなかった。
「以前、アルド商会で無理矢理仕事をさせられていた事があって。私にしか出来ない事だったんです。私はそれが嫌で逃げ出したの。それが一年前・・・。逃げ出したのはここからは遠い街で。何とかこの街まで来たんです。この街のアルド商会の人は、私を知らないみたいでこれまでは大丈夫だったのですが、昨夜のお祭りで、私のことを一人の男の人と目が合って、その人がアルド商会の人だったと、さっき思い出したんです。きっと商会の本部に私の話がいって、恐らく近いうちに、私を捕らえに来ると思います。だから、捕まる前に、この街を出たくて・・・。」
ポツポツと話すラミアの言葉に、マイナとクスカは神妙に頷いた。
「そうだったのかい。アルド商会は悪い噂も多いからね。あんなとこに捕まるより、街を出た方が良いだろう。・・・昨夜一緒にいたと言う人はには、助けてもらえないのかい?」
マイナは少し気まずそうに尋ねた。
(昨日カーディと一緒にいたこと、マイナさんも知ってるんだ。カーディ格好いいし、見慣れない人と歩いてたら噂になっちゃうのかな。)
「彼は、ちょっとした知り合いってだけなんです。でも、もう帰っちゃったし。会う事も無いと思います。」
「・・・そうかい。」
親密そうだって噂だったけど、と思いつつ、今朝泣き腫らした顔を見たマイナは、それ以上その事は言わなかった。
「この街を出て、この先はどうするつもりだ?」
今度はクスカが尋ねた。
「一度、故郷に戻ろうと思います。私の顔がアルド商会に知られてしまっては、大きな街に行けないし。ほとぼりが冷めるまで、故郷にいます。小さな村なので、故郷にいれば安全なんです。」
共石の村のことは出せない。ラミアは村の名前は出さずに告げた。
「わかった。それなら善は急げだ。店の事は気にしないで、出発しなさい。アルド商会になんて捕まるなよ。」
「ああ、私達はラミアの味方だからね。私達に出来る事があったら言うと良い。そして、何年後でもいい。いつか、また、元気な顔を見せに来ておくれ。」
「クスカさん、マイナさん!本当にありがとうございます。」
急に店を辞めたらきっと大変だろうに。それよりも自分を気遣ってくれる、二人の温かな言葉に胸がいっぱいになり、ラミアは涙を流しながら頭を下げた。
ラミアはその後、少し出掛けて急いで日持ちのする食料を買い込んだ。急に訪れてしまった別れに痛む胸をおさえ、流れそうになる涙を堪えながら旅支度をする。
(ここにいられたのは一年だったけど。でも、とっても楽しかった。忙しかったけど、新しい生活を始めて、新しい仕事を覚えて。マイナさんとクスカさんにも出会えた。みんな、とっても良くしてくれた。)
(カーディには、もう二度と会えることはないのかな。
また会おうって言ってくれたけど、第二王子様なんだもの。この街を出てしまったら、会う機会なんて無いわ。
ううん、また会えたからって、どうなるってものでも無いし。たまに会えたからって、きっとどこかのお姫様と結婚するカーディを妹として見てるなんて辛いもの。
それならこれでお別れで良いんだわ。心の中にある彼の笑顔だけで・・・妹としてでも、私のことを大事って言ってくれたってだけで、私には支えになる。)
ラミアは止まらなくなった涙を拭い、旅支度を終えると、ラミアは、マイナの作ってくれたお弁当を持って、裏から食堂を出る。
クスカとマイナは、アルド商会からの追っ手の時間稼ぎをするために、(周囲にラミアが旅立つ事を知られない方が良い)と考え、見送りはせず、お客に「ラミアは昨夜疲れたようで休んでいる」と言って誤魔化してくれていた。
ラミアは食堂に向かって頭を下げると、そっとノルデンから旅立った。




