第二章 1
第二章
ラミアがカーディラスと別れた日から、一年が過ぎた。
ラミアは結局ノルデンに留まり、<グリム亭>という食堂で働いている。
ノルデンは北の外れにある街のため、アルド商会が来ることはあってもラミアの顔を知る者まではおらず、そのためラミアはここに留まることを決めたのだ。また、この街にいれば、カーディラスといつかまた会えるかもしれないという期待もあった。
「ゼーダさん、いらっしゃい!今日のオススメは、暴れ牛のステーキですよ!」
「ハラクさん、お仕事お疲れ様でした!まずはビールでいいですか?」
常連の名前をしっかり覚え、にこやかな笑顔で接客をするラミアは、グリル亭の看板娘となっており、彼女に心を寄せる者も多くいた。
「いつもありがとう、ラミアちゃん。おかげで商売繁盛だよ。」
片目をつぶって、食堂のおかみ、マイナが言う。
この食堂は40代くらいの夫婦二人で切り盛りする食堂で、ご主人のクスカが料理を作り、マイナが客と接していた。二人の人柄と美味しい料理で、もともと人気の食堂ではあったが、ラミアが働くことによってマイナさんはご主人の手伝いが出来るようになり、ますます客が増えていた。また、ラミア目当てで来る客も、少なくは無かった。
ラミアがノルデンに来たとき、最初にたまたま入ったのがこの食堂だった。ちょうど客の少ない時間に入ったラミアにマイナが話しかけたのがきっかけで、ノルデンに来たばかりで住むところと働くところを探していると言うラミアに、それならと、店の二階の一室と、店員としての仕事を与えてくれたのだ。
「はーい、カミュさん、ウサギのシチュー、お待たせしました!」
「ラミアちゃん!ビールもう一杯!」
「はーい!」
食堂で働いていると、街の情報も入ってくる。
「道具屋のお嬢ちゃん、今度結婚するんだってよ・・・。」
「西の森で、魔物が増えているらしい・・・。」
客の会話が、聞こえてくるのだ。
「そういえば、国中を旅していた第二王子が城に戻ったらしいぞ。」
「あの半竜の王子が?」
(半竜の王子?何だろう?)
ラミアは思わず耳をかたむけた。
「近年増えている魔物について、調べていたんだって?」
「竜って、実際にいるんだな。」
「何を今更。第二王子が半竜だってのは、知られた話だろう?確か、王弟様と竜との間に産まれた子だって。」
「王弟妃様は、竜なのか?」
「おまえ、本当に知らないのか?王弟妃様の人間の姿は、絶世の美女という話だぜ。一度お顔を拝見したかったぜ。で、その後王弟様が亡くなって、竜の里に帰るという王弟妃様に、王族だからこっちで育てさせてくれって陛下が頼み込んで、幼かったその子を第二王子にしたんだ。」
「半竜だろう?王子って、いいのか?」
「第二王子だから国王になることは無いしな。兄弟仲を保つために、王位継承権は既に放棄してるらしいぜ。それに今回の旅は、自分が適してるって自ら手を上げたらしい。剣の腕もたつし、えらく強いという話だ。」
「竜は誠実だって言うしな。」
「そんな方が次代の陛下を支えるなら、この国は安泰だな。」
「だが、今回の旅でわかったことで、北の森で魔物が増えて凶暴化してるって、、、。」
なかなか情報通がいるらしい。
客は、滅多に聞けないような内容まで話していた。
(第二王子さまって、半竜だったのね。天災と竜について、か、、、。そういえば、カーディも調べてたな。今頃どうしているんだろう。)
カーディラスは、未だに鮮やかな姿でラミアの心の奥に住み着いている。
何しろ、石を見るたびに想い出してしまうのだ。そしてそのたびに、ラミアの心を波立たせる。そのおかげで、ラミアは誰かに心を寄せられても、それに応えることが出来なかった。
「そういえば、第二王子は、よくお忍びで出かけてるらしいぞ。」
「お忍びったって、目立つんじゃないのか?王子だろ?」
「それが、うまく紛れ込むらしい。旅の間も、いつどこにいるって情報無かったしな。」
「よっぽど変装が上手なのか?」
客の会話はまだ続いていた。ラミアは話が気になりつつも、他の客に呼ばれて、そっと離れた。




