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数日かけて森を歩いた。明日はとうとう森の外に出られるだろう。
その夜、カーディラスはラミアに言った。
「森を出てから二日歩いたところにノルデンという街がある。そこまで君を送ろう。」
明確になる別れの日。ラミアの胸がギュッと痛んだ。
「君は、逃げ出してきたんだろう?そいつらがまた君を捕らえる可能性はあるのかい?」
「・・・ええ。私を追っているのはアルド商会なの。」
カーディラスは信頼できる。これまで共に過ごした日は、彼を判断するのに十分であり、ラミアは商会について話すことにした。
アルド商会は魔石を取り扱う、名を知らぬ者はいないほど国内有数の商会である。
「アルド商会が相手とは。少し、厄介だな。」
カーディラスは手を顎に当てて考え込んだ。
「君の力になると約束した。君にこれをあげるよ。」
カーディラスは自らの首にかけてあったネックレスを外す。それは、銀の針金細工の中に、深い青色の石が入ったものだった。
ネックレスを外したとたん、彼の髪は石と同じ深い青色に変化した。瞳は金色であった。
「!カーディラス!貴方、髪と瞳の色が変わったわ!」
「ああ。これは、魔道具でな。髪と瞳の色を変えることが出来るんだ。俺の本当の色はこっちなんだ。騙していたようで悪かったな。」
そして、カーディラスは、そのネックレスをラミアの首にかけた。
そのとたん、ラミアの髪と眼は茶色に変化する。
「これで君の髪と瞳が茶色になった。君の白金色の髪の色は好きだったんだが、この色の方が目立たない。アルド商会が君の髪と瞳の色で追っ手をかけていたら、そうそう気がつかれないだろう。」
「カーディラス、なんてお礼を言っていいか・・・。でも大事なものでしょう?・・いいの?」
「君も、もう俺にとっては大事な子だよ。もう一人の妹だ。君の力強さはとてもまぶしかった。それに共にいたこの数日は、本当に楽しかった。君と過ごせなくなるのは、残念だよ。寂しくなる。」
カーディラスは優しい瞳でラミアを見つめた。
「俺のことはカーディと呼んでくれ。親しい人が呼ぶ俺の愛称なんだ。」
(妹、か。でも、大事って言ってくれた。それで、充分だわ。)
「ありがとう、カーディ。では私のことはラァと。母さんがそう呼んでいたの。もうそう呼んでくれる人はいないから・・・別れは私も寂しい。」
そういって俯くラミアの頭を、カーディラスは優しくなで、そのまま頭を引き寄せて軽く抱きしめた。
その後二人は森を出て二日歩き、ノルデンに到着した。
(いよいよ、お別れ、か。)
悲しみで痛む心を押し隠し、ラミアは明るい声で言った。
「これまで、本当にありがとう、カーディ。貴方のことは忘れない。・・・いつか、また、会えることを願っているわ。」
「ああ。いつかまた、きっと会おう、ラァ。俺はまだ旅を続けなければならないが、旅が終わったら、きっとまたこの街を訪れる。この石の色を見て、たまには俺のことを思い出してくれよ?これは俺の色なんだ。」
カーディラスは、ラミアに渡したネックレスの石を手に取りながら言った。
そして、二人は別れの握手を交わし、別れた。二人が共に過ごした期間は、三週間にも満たなかったが、とても長い時間のような気がしていた。
カーディラスの姿が見えなくなると、ラミアはこらえきれなくなった涙を流した。




