パレード
「貴様!! 今すぐ第一王女様から離れろ!!」
近衛騎士たちは剣を抜いて俺に向かって構えた。
「あの……俺はリチャードではありません……」
俺はフォルテの耳元でかろうじて呟く。
「あ……」
彼女の口から漏れたその声が聞こえたのは俺だけだろう。
「この子はテスタバーグ家の人間です!! 危害を加えたら許しません!! 国際問題にしますよ!!」
クラウディアが近衛騎士に立ち塞がる。
怖い顔の近衛騎士がクラウディアに抗議する。
「この者は何者ですか!? 第一王女のこの様子は一体!? 答えてくださいクラウディア様!!」
「分かりません。しかしカムイはうちの子です。この子が安全はだということは私が保証します」
クラウディアが毅然と答える。
「カムイ……?」
フォルテ王女がぽつりと呟く。
フォルテ王女は俺に抱きついたまま動かなくなった。
「お母さーん! これってどういうこと!?」
ルミナがクラウディアに聞いた。
「分からないわ。ルミナたちはまた後でね。カムイは乗って。フォルテさんをエスコートしてあげてね」
俺を気遣い優しく促すクラウディア。
俺は予期せず2カ国の首脳クラスの要人の乗る馬車に乗ることになってしまった。
座り心地のいい座席だ。だけど落ち着かない。
観衆の暖かい声援が俺にも届く。
「普段のフォルテさんは泰然自若な方なんだけど……どうしてしまったのかしら」
「君は……本当にリチャードではないのか?」
フォルテ王女は俺にそう聞いた。俺は頷いた。
フォルテはやや瞑目する。
長い黒いまつ毛は伏せられている。
フォルテ王女は訳を話し始めた。
「彼が私の弟のリチャード第三王子に瓜二つだったのです。弟は……四年前に亡くなりました。とてもよく似ています……私は心のどこかでまだリチャードが生きているかもしれないと思っていたのでしょう」
フォルテ第一王女は俺の顔を愛おしいものを見るようにずっと見つめている。
「もう少しだけ抱きしめさせてくれないだろうか……?」
「はい」
フォルテは俺をまた優しく抱きしめた。とても仲の良い姉弟だったんだろうな。
◇
メトとルミナは街を一周するために去っていく馬車を見送るしかなかった。
「行っちゃった……」
「とりあえず宮殿に戻りましょう」
「あ~びっくりした~! な、なんだったんだろう?」
◇
第一王女は直ぐに落ち着いた。
「申し訳ありません。大変な失礼をしました。それもテスタバーグ家の方だったとは」
パレードの最中じーっと時折俺を見てくるフォルテ王女。俺が視線を向けると視線が逸らされることなく絡み合う。
もちろんメンチを切ってきている訳じゃない。
それくらいは分かる。
魔道帆船の学生たちはマロマに到着したことで上陸して楽しんでいた。
浮き足だっている。
貴族以下の一般生徒も首都で交流をしに行っていた。
宮殿ではパーティが開かれた。
最近あったディエス・ワイバーンの件の話題が結構話に上がっていた。
上流階級の社交場チックで楽しかった。
正直テスタバーグ家という貴族の地位がすごい便利だった。
これがあるおかげで、すごくちやほやされる。
レムリーもけっこういい家柄らしくめかしこんでパーティに来ていた。
メトとルミナのドレス姿はとっても可愛かった。
ダンスとかやりたかったんだよねー。
貴族と言ったらこれって感じするよな。
メトと二人でダンスの練習をしたのでバッチリだぜ!
「カムイくん。お相手願えないだろうか」
ざわっと社交界がざわつく。
フォルテ王女が俺にダンスを申し込んできた。
音楽に合わせて軽やかにステップを踏む。
フォルテ王女は優雅に踊るだけでなく、俺を信用して身体を合わせたりする場面もあった。
「黒髪でまるで姉弟のようだわ」
と、誰かが言った。
「フォルテさん。良かったら後日船の見学させてもらっていいですか?」
「ああ、ぜひ見て言ってくれ。私がカムイくんを案内しよう」
フォルテ王女は快諾した。




