魔導船学園
「魔導船学園?」
うん。とルミナが頷く。
「魔力を動力にした船全部が学園になってる船の次の寄港地がここなんだ。その歓迎パレードがあるんだけど見物に行かない?」
「魔導船学園か……アルジェント白魔法学院と同じくらい有名な魔法学園だな」
「魔導船学園の学生のブレイクスリー帝国の王女や王子も来領するみたい」
バッルート大陸にある国の中で大国はアーレム王国、エルファ公国領、そしてブレイクスリー帝国だ。
俺、メト、ルミナの三人は港に向かった。
簡易スロープの前に歓迎する領民が集まっている。
街灯にはエルファ領の旗とブレイクスリー王国の旗が掲げられている。
「見えてきたー!」
「あれか?」
一人また一人水平線に見えるうっすらとした影に気づき始める。
「えっ。あんな大きいのか?」
船が近づいて来るにつれて俺は大きさに驚く。
日本でもあんなサイズの船は直接は見たことがない。
世界一大きい客船の直径が確か俺が生きていたころ300m~400mぐらいだったはず。
だけどあの船2kmぐらいあるぞ……。島じゃん。
軍艦島の全長が480mだから小さな島より全然大きい。
「こんな珍しいものみんなも中身が気になると思うんだけど一般開放されてないかなぁ」
「ボクたちなら言えば乗せてもらえるんじゃないかな」
「ロイヤルスウィートルームだとかカジュアルキングルームだとかエンシェントフェアリードラゴンルームだとか長ったらしい名前の1等客室に泊まりたいね」
「流石ですご主人様」
渡り廊下が接岸し、乗組員が降りてくる。
みんな嬉しそうに手を振って歓迎ムードだ。
俺たち三人もエルファ、ブレイクスリーの二国のミニ旗をパタパタと振る。
音楽隊が降りてきた。
若い。学生が半分ぐらいいた。
女子はトランペットで男子はドラムだ。
女子は醒めるようなピンクの制服で男子の制服は鮮やかな青だ。
辺りはちょっとしたお祭りムードだ。
紙吹雪が舞ってる。
馬のパカパカと言う音がいくつも重なって通りに響く。
ゆっくりと道を進んだ。
憲兵が領民のそばで警護にあたっている。
アランと王子を乗せた屋根のないタイプの馬車が道を通る。
気の強そうな俺と同い年ぐらいの王子だ。
「レオ第1王子ー!!」
観衆の大きな声がブレイクスリーの王子にかけられる。
「ところでブレイクスリー王家とテスタバーグ家で大きな会合があるんだ」
「へえ」
「半年先に魔法杯があるでしょ」
「ああ、そうか。エルファ、ブレイクスリー、アーレムのよりすぐりの学生が対象の魔法杯か。3カ国のうち、もっとも優れた学生魔術師を決める大会だったな。俺とは無縁のものだと思ってたけど……せっかくここまで魔道を極めたけど今の俺は学生じゃないしな」
「出たいなら三人で一緒の学校行こうよ。どこかの学校の編入試験受けてさ。それこそ魔導船学園でもいいよね」
「それいいかもな」
「素晴らしい案ですルミナ様」
「メト。様はなしだよ」
「え……ですが……」
「できれば敬語も使わないで欲しいな。お願い」
「しかし……あっあれ王女やってきましたよ!」
メトには良いタイミングで王女を乗せた馬車が来た。
複数の騎士に守られた全身黒の女性だった。
「第1王女のフォルテさんだね」
テスタバーグ夫人が一緒に乗っている。
民衆のボルテージは高い。
ブレイクスリー第一王女はエルファ領民に手を振っている。
馬車が俺たちの一番近くにまで来た。
花の髪飾りを二つつけた長い黒髪。
十代後半ぐらいと俺たちより少し年上だろうか。
ものすごく白い肌で白と黒のコントラストが映えている。
為政者の公的な微笑みを領民に振りまいている。
そしておっと、俺と目が合った。……ように錯覚する。
俺に手を振ったんだとか、俺に今の言ったんだとか俺と目があったんだとか勘違いをさせてくれるアイドル性◎
「あっ俺と目があったぞ!!」
と近くのおっさんが声を出す。
「いいや、俺だね」と俺はふざけてメトとルミナに言う。
「すごい美しい人ですね。確かにメトを見たかと思ってドキドキしちゃいました。あれこそ王女って感じですね」
「うん。ボクも分かる。なんだか自分を射抜かれた感じになるカリスマ性あるよね」
馬車が止まった。
ブレイクスリー第一王女が何事かアランに言っているのが見える。
何か様子が変だ。
「あれ何か揉めてないか?」
王女がなにやら御者と話している。
御者が馬車を止めた。
と、思ったら第一王女が馬車から降りた。
そして俺たちがいる人だかりに近づいてくるではないか。
うぉーすげー。
頭の片隅でなぜ近づいてきたのか疑問はあったけど、アイドルの特別感あるファンサービスに湧く聴衆の雰囲気に俺たちも飲まれた。
儚げな雰囲気の王女が俺のすぐ近くまで来た。
「王女が降りてきてくれたぞー!!」
と観衆はめちゃくちゃ沸いた。
第一王女の目がすごく綺麗だった。
とても澄んでいて、宇宙を見ているような黒い瞳だ。
オニキスや鷹眼石のといった宝石のようだ。
完成された美しさ、という言葉が頭に浮かぶ。
王女の薄いピンクの唇が僅かにわなないている。
絹のような黒髪がふわりと宙に浮く。
王女が俺に抱きついてきた。
「リチャード……リチャードなのか……!!?? あぁっ。う、嘘だっ。まさか生きていたのか!?」
顔をぺたぺたと触られた後またしても抱きつかれる。
凛とした吐息が俺の耳朶を打つ。
「あ……あの……?」
俺はまったく状況が分からない。
きっと誰も分からないだろう。
「彼は誰だ?」
「リチャードってブレイクスリーの第三王子の名前よね?」
「外国の大使じゃないか?」
「なんだ大使か」
「学園のお友達でしょ?」
周りもすごく騒然としている。
憲兵と近衛騎士も厳戒態勢になる。
周囲の緊張度が一気に上がっている。
テスタバーグ夫人が慌てて第一王女に続き馬車を降りてくる。
辺りは突然起きたハプニングに騒然となった。




