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カムイの元クラスメイト、シズク

 一方、アーレム王国、カムイの元クラスメイトたちはそのころ。


 悪魔の森でカムイが生き残っていたのは激烈に運が良かっただけのことでカムイはもうとっくに死んでいるだろうと思い込んでいたところに、いきなり爵位没収の上に財産没収に、カムイがどうやら関わっているらしいということで、カムイの元クラスメイトは大いに衝撃を受けた。


 その上、カムイの情報を集めていると、エルファ領に現れたSランクの魔物の討伐に1番貢献した功績をエルファ領主から称えられたニュースも飛び込んできた。


 毎日の生活で嫌でもカムイのことを意識させられた。


 カムイはあんな活躍をした。

 カムイはあの魔法を使えた。

 カムイは大貴族の地位を手に入れた。


 トロイの知っているころのカムイはまだ何者でもなく、吹けば飛ぶようなゴミのような存在だった。


 ちじこまって貴族から雑用をさせられているような姿を思い出す。

 大人しく誰にも歯向かわない弱虫。


 しかし、同時にトロイは悪魔の森で見た性格が豹変したカムイとその激しさに見合った、いや、それを凌駕する魔術師の力。


 その二つのカムイのギャップにトロイは混乱していた。


 ダヴィドは決して自分でも認めないが実力が開花する前のカムイのことをも評価していた。

 カムイの潜在的な能力のことを見抜いていてキュナイカは潰そうとしたし、ダヴィドもカムイの潜在能力を本能的に察知していた。


「やつが国際的に活躍する有名な魔術師だと? 許せねぇ……かならずやつをぶっ潰す」


 キュナイカを尊敬していたダヴィドはカムイを潰すために修行を始めた 。


 セナンは奴隷たちにムチを打ったり、椅子にしてその上に座っていた。

 全てを没収されたセナンは大男の奴隷にイライラとムチを打つ。


「ああああ、こんな奴らじゃダメだ、メト、メトじゃなきゃダメなんだよぉおおおお」


 爪を噛んで苛立つセナン。セナンの頭の中ではメトをカムイから奪い返す算段をなんとか立てようとしていた。


「取り戻したらまずは脱走した罰を与えなくちゃ……ふふふ」


 ダヴィドもセナンももはや第九階位黒魔法まで発動可能なテスタバーグ家の人間であるカムイをどうにかできるわけはないという現実を直視していなかった。


 アーレムの閉塞的な雰囲気にここまで結果を出す形で逆らった者などこの数十年で初めてのことだった。決して大きな声で語られることはなかったが、平民や使役物の心に熱を宿させた。


 ◇


 アルジェント白魔法学院の廊下をトロイは歩いていた。


 トロイはカムイが天罰術式により苦しむ罰を与えられているということで溜飲を下げた。

 やつに相応しい罰を先生方は与えてくれたと考えた。


 トロイが同じクラスのクリスティーナとシズクが話している姿を見る。

 シズクは悪魔の森での事件の詳細をクリスティーナから聞き出していた。


(まさか、シズクまでもロイドのことを英雄視するのか!? 活躍のように聞こえる風聞に惑わされている!)


「──結局みんなは偶然会えたあの人を悪魔の森で見捨てて来てしまったんだよね? どうしてそんなことを。ひどいよ」


「当日欠席した臆病者が何を言うのかな。……あの森は私たちにはまだ早すぎた。私たちの安全のためにああするしかなかった……それにね、どうやったか分からないけど彼は誰の助けも必要としない程の強さを手に入れていた。私たちみんなが命を懸けて欲している力を手にしていた。私達の知っているカムイでもなくなってた。あんまりあいつをかばってるとあんたも上から目をつけられるよ」


「みんな言う『豹変してた 』、とか、『 別人になっていた 』、とか『 もう自分たちの知っているカムイじゃなかった』とかってどういうこと? 要領を得ないよ」


 シズクは彼らの言葉でカムイを表現する不吉(ふきつ)で曖昧な言葉に不安を感じていた。


 トロイはシズクのことが好きだった。

 カムイのことを話す口実にシズクの部屋に上がることが出来ると考えた。


 シズクの部屋。


 部屋にはシズクの絵が額縁に入れて飾られてある。

 シズクと去年ごろから話すようになって部屋を訪れた際にいつも目に入る。


 今よりも数歳(すうさい)幼いシズクが額縁の中に瑞々しく描かれている。

 誰が見ても美しく素晴らしい筆致で描かれている。


「いつ見てもいい絵だ」


「私の心を救ってくれた宝物なんだ。大切な思い出も一緒にあってね」


「高名な画家に描いてもらったの?」


 シズクの美しさを表現している画家に尊敬の念を覚える。


 アルジェントに入学して一年目の美術の授業の相互で肖像画を描いた時のものと答える。


 入学したてのときはシズクに興味があったわけではなかったので知らなかった。


 シズクは美しい容姿が原因でいじめられていた。

 シズクの目が大きいことか小顔なことを馬鹿にする幼さゆえの悪意。


 そして誰もペアを組んでもらえない、シズクは泣きそうだった。


 カムイがペアを組み、綺麗な絵を描いた。


 絵にサインが。ロイド・ベルマン。カムイと名乗る前の名前が。


 衝撃を受けるトロイ。


 もしやシズクはそんな前からやつのことが。という思いがトロイの脳裏に浮かぶ。


「犯罪者が描いたこんな忌むべき絵は捨てるんだ!」


「……………そうだね。うん。分かった」


 トロイは我慢できず、自分で壁から取り外そうとした。


「私が捨てておくからいいよ」


 ベッドの上に腰掛けたままなんでもないようにシズクは言った。


「いや、僕が燃やしておくよ。あの犯罪者が描いたものを飾ってるなんて他の誰かに知られたらシズクがどんな目に遭うか分からないよ」


「ダメぇぇっ!!」


 冷静に話していたシズクが叫び、杖を取り出してトロイに向けた。

 シズクは捨てるつもりなどなく、しまうだけにするつもりだったのだ。


「え……?」


 魔法を放ったりしないだろうとトロイは手を止めない。


「本当に撃つよ」


「僕は勇者に最も近い存在だぞ!! 怪我なんかしてはいけない人間なんだ。本当に撃ってみろ!! 君が罰を受けるだけならいい。君の家族にまで罰を受けることになるぞ」


「っ……帰って」


「そんな……今のやつはともかくあの頃のやつなんて取るに足らないゴミみたいな存在のはずだ」


「……! あの頃の彼の素晴らしさが分かるのは私しかいなかったよ。……帰って」


 部屋を後にするトロイ。

 トロイは魔法大会で優勝しようと決める。


 しかしトロイは黄金魔力をまったく使いこなせていない。


 シズクは心の優しかったカムイを知っているからこそ、カムイが豹変したと聞いて心を乱している。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] この閑話的の話の時の時系列がわかりにくいです。読んでると現在進行形ともとれますが、視点も分かり難いのもそうですが、トロイの態度とか他見てても、財産没収で爵位とか取り上げてるにしては何か…
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