女神
女神は皆既月食みたいな目でカムイを見つめながらこうも言っていた。
「あなたが乗っていた船はあの後沈没したんです」
「何?」
「浅瀬を通り海の突起にぶつかり船底に穴が空いたせいですね」
「ははは。船乗りを雇う人件費をケチって信者を働かせるからこんなことになるんだ。そうか全員死んだのか」
死因が自業自得で面白かった。
「いいえ。死んでいません。あなたが前世の記憶を思い出した時間に合わせてこの世界へと転移させてあげます」
「は? あの悠人のくそ豚もか? なんでそんな余計なことすんだよ」
「だって、まだちゃんとあなたの想いが精算されてないんでしょう?」
女神が見透かしたように笑う。
「ちゃんとすっきりさせてあげますよ」
俺が返すべき言葉を見つけられずに黙っていると女神は手をかざす。
俺の体が光に包まれ始めた。
「向こうの世界ではあなたの顔も何もかも変わってるので元の世界の人達にあなたのことが気づかれることはないでしょう。自分から話さない限りは。元の世界の人達と関わるかどうかはあなたの自由ですよ」
俺が光に解けて消える前に女神は最後に言った。
「では、楽しんで来てくださいね。私も面白そうだったらそちらに行きますので」
パアアアアアア。全てが光になる。
◇
悪魔の森。
カムイ。
「ってあのアマあああああああ! 両腕を切り落とされて! 迫害の烙印を押され! 莫大な借金を負わされる世界でどう楽しめって言うんじゃああああああああぁぁぁ!」