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金黒飛龍ディエス・ワイバーン②

 

 ラタトスク・グリフォンが戦闘中に帰還していた。

 その背にはメトとルミナが乗っていた。


 二人は戦闘の激しさを見守ることしかできない。

 ルミナは多くの身内がこの戦いに参加している。

 アランはルミナの父親だ。メイナードは叔父だ。オーガストは兄だ。アルファンデルもナーディも幼いころからの友達だ。


 メイナードを守る盾兵士が飛龍に全員なぎ払われた。


 金の光の残像を残すほどの速さで次の爪がローブのみのメイナードに迫る。


 メイナードは魔術の詠唱を行っている。

 速い。

 速いが間に合わない。


 メイナードに死をもたらす凶爪(きょうそう)


「メイ叔父さんっ!!」


 ルミナが叫ぶ。


 カムイがその時呪文を詠唱し終えた。

 第七階位黒魔法、《スタールダストノフェル》。

 レーザーの様な紫の光線が空中から生まれる。ど派手な花火のような音とともにバーンと飛龍の腕を弾く。


 メイナードはおかげで助かった。

 レーザーは飛龍の腕を貫通し丸い大穴を空けた。


 カムイの超高威力の魔法は誰もが予想外だったようだ。


 杖を構えた若き魔術師に視線が集まる。


 叔父の命を救ったカムイの姿がルミナの瞳に映る。


 メトはマスターの活躍に拳を握った。


 ◇


「すげえ!! やった! これ誰がやってるの!? 闇系の、相性がいいのか!?」

「見ろよ! 誰かの魔法がやつの手に大穴を開けやがった!」

「魔術師サイコーーー!! 守ってやってるとかボヤいてゴメンな!!」


 討伐隊から歓声が上がる。


 飛龍の動きが全て読める。

 ほら、今あいつはブレスをする振りをしてバックステップするつもりだ。


「となると、こっちを止めなきゃ」


 ちょうど飛龍の真後ろに移動しようとしている一部隊の動きを第三階位魔法、《ストラーノアーム》でとうせんぼの形で地面から黒い腕を生やし、真後ろに来るのを防ぐ。


「!?」


 突然地面から生える黒い腕の魔法に困惑した彼ら。

 その困惑は次の瞬間氷解することとなる。


 部隊が飛龍の真後ろをとろうと移動するはずだったその場所に飛龍の巨体がズシンと着地したからだ。


 飛龍を観察したことと、悪魔の森で同系統の魔物と戦った経験が生きている。


 ワイバーンの行動を誘導するのはもちろん時に味方の行動をも誘導する。

 大人数での戦いの楽しさを初めて知った。


 他の討伐隊が何十発も攻撃を加えてほとんどダメージを与えられなかったのに対して、俺は一発の魔法で大きなダメージを与える。

 火力が全然違った。


「カムイくんを中心にした動きに編成を組み直す」


「了解です。ミームとダンの部隊は彼の壁になれ!」


 アランとナーディが冷静に新しい主力を援護できる形にするべく戦略を練っていた。


「了解。どうやらこの戦いを制するかどうかはあの少年にかかっているようだ」


 戦士長ミームが老練な眼差しで俺を見ているのを視界の端で捉えた。


 小山みたいにデカい体のくせに猫のように速い動きをする。

 普通はこんなに体がデカい生物は動きもスローになる。

 しかし、異世界の強い魔物は巨体と速さが同時に兼ね備えている。


 飛龍がコマのように一回転した。

 周囲の全てを吹き飛ばす。

 飛龍にとっては自身にまとわりつく小バエを払うかのような簡単なのもだ。


 俺の体の耐久度は14歳のただの少年のそれなのでそんなものが当たったらミンチになってしまう。


 ガキィィィイン!!!


 アルファンデルが剣で飛龍の体を弾いた。


 超怖い。


「ふっ!」


 息を吐き、飛龍がバランスを崩したチャンスに第六階位黒魔法《インドラの矢》で俺は切り上げする。


「駄目だ……」


 誰かが何度も攻撃を弾かれたところを思い出したかのように言う。


 しかし、《インドラの矢》の切れ味はどんな名刀をも凌ぐ。


 飛龍の腕に光の刃を滑らせていく。

 長く伸ばせるようになった光の剣は飛龍の鱗をも切り裂いた。

 討伐隊は尻尾を何度も重点的に攻撃した上でようやく鱗を突破できたのにだ。

 光の剣が尋常でない攻撃力を持っている。


「頼もしいですね。アルファンデル様」


「まともに戦えるのはお主とわらわだけじゃ。お主さえいればなんとかできる気がしてきたぞ」


 アルファンデルと言葉を交わす。


 メイナードとオーガストがいい線行ってるけど、力不足感はやはりあるな。


「あいつらだけに任せてこのまま何もしなきゃ上位冒険者の名が泣くぞお前ら!」


「おい! こっち向けよデカブツ!」


 少しでもできることをしようと戦士が持っていた槍を投擲(とうてき)した。


 槍は鱗に弾かれたが、飛龍の恐竜のような目はギョロリと戦士たちに向いた。


「うっ」


 蛇に睨まれたカエルのように戦士たちの体が硬直する。

 一瞬で伸びてきた頭に比較的薄い鎧を着ていた冒険者が食いつかれた。


 止める間もなく巨大ショベルカーが建材を粉砕するようにガキガキリガキリと剣山の様な歯が鎧をへし折る。


 「ああ!! ラント!!」


 食われた冒険者の名前を誰かが叫ぶ。


 俺は光の剣を足の付け根に振り下ろす。

 それと同時に並列展開していた第七階位黒魔法が発動した。


 黒い魔法の7メートルくらいある棒を7本飛龍に深く突き刺した。

 ワイバーンがひるむ。


 その棒からいくつものトゲのようなものが一瞬で爆発するように生え、さらに飛龍の身体に食い込む。


 飛龍が叫び声を上げて噛み砕いた冒険者を落とす。


 すぐさまその冒険者を他の冒険者が二人がかり引きずって行く。

 魔術師の医療班に直行だ。


 魔物と何度も戦った経験から飛龍の筋肉の動きや目線など、いく通りもの情報が俺に入ってくる。


 それらを俺は頭で処理し、爆発的な火力を誇る魔法をほとんど全て当てていく。


 何十人もの実力者が束になってもろくなダメージを与えられない相手に俺が本来の実力を発揮した途端に、圧倒し始めた。


「行けるっ行けるっ行けるっ」


 アルファンデルはギャンブル中毒者のような様子で剣を持つ手を思いっきり握りしめた。


「やってしまえカムイ!」


 アルファンデルが叫ぶ。


「行っけえカムイ様ぁああ!! 」


 今までで一番大きな声を出すメト。


 ルミナははらはらした様子で戦いを見ている。


 飛龍がその巨体で突進しようとしてきた。


「「「おああああああっ!!」」」


 討伐隊の叫び声が重なる。


 俺は両方の手のひらを地面につけた。

 俺の黒い腕はもともと第三階位黒魔法で補っているのだが、また新しい魔法を使う。

 早口で詠唱し、第八階位黒魔法を発動する。


 俺の黒い腕が地面を侵食するように大きく広がっていく。

 重力系の魔法はその黒い地面に突進してきた飛龍の巨体を沈ませた。


「かかっ! かははははは!! お主底なしの魔力か!」


 高笑いするアルファンデル。


 俺は周りを巻き込まないように全体から走って離れる。


 俺は走りながら新たな第八階位黒魔法、《黒球》を詠唱する。

 今から使うのは俺の現時点での最強魔法。


 物理攻撃一切無効の黒いオーラを球状に纏うことができる魔法だ。

 俺の周囲半径一メートルに展開した《黒球》に触れたものは消滅する。


 ディエスワイバーンが口を空けて光のブレスを吐く。

 ここにつっこんでいくのはまじで怖い。


 ブレスに包まれたが《黒球》が全ての攻撃を消滅させる。

 ディエスワイバーンのティラノサウルスのような頭の下を潜り、体へと突進する。


 そして俺の物理攻撃最強術が頑強な身体を抉る。

 ただ走り抜けるだけで、その軌道にあったものを全て消滅させる。


 走り抜けた飛龍の身体がぐらりと倒れる。

 あわや俺が吹き飛ばされたかとみんなが思ったのだろう。


 みんなはぽかんとしていた。

 立っているのは俺で息絶えているのは飛龍の方だった。


「死んだ……のか?」


 うおおおおおおおと勝ちどきの声が戦場に上がる。


 死んだかどうか確認しに行ったり、俺に駆け寄ってきてくる。


「お前すごいよ!!」

「もうだめかと思った」

「君めちゃくちゃ強いじゃないかっ!!」


 純粋に喜んでめちゃくちゃになってるオーガストの唇が俺に迫る。


 うわぁっ! 称えてくれるのはいいけどキスするのはやめろ!


 俺はしっかりとディエスワイバーンから生命の力をを吸収した。

 これでさらに俺の全能力がさらに上がった。


 第九階位黒魔法も使えるようになったな。

俺はどんどん強くなっていっているが、これ以上強くなるには、ディエス・ワイバーン以上の強さの魔物を倒す必要がありそうだ。


 ◇


 討伐祝いに宴会が開かれた。


 俺は宴会の主役となった。


 次から次へと俺のところにごちそうが運ばれてくる。


 メトがお酌をしてくれていた。さすごしゅしたくてうずうずしている。

 しかし、討伐隊の面々が俺に次々話しかけようとするためお行儀よく待っている。


 俺の両隣にメトとルミナが座ってくれたので両手に花だ。


「カムイ。お疲れ様」


「よおルミナ」


「今はとにかくメイナードおじさんやみんなを助けてくれて、エルファ領を救ってくれてありがとう。これから生涯どんなことがあってもこの日のことを忘れない」


「大げさだな」


俺が大げさな力を手に入れたのは確かだが。


 ルミナはもっと話すことがあったみたいだが俺に集まる人が多くて身を引いた。


 魔術師たちが俺が使った一連の魔法について詳細を聞きたがった。


「最後に使った……あの球状の黒いオーラを身にまとう……魔法だが、あれはなんなんだ?」


「第四階位黒魔法を発展させたものです」


「第四階位魔法のあれは身体の……表面に衝撃を和らげたり、攻撃を弾く防護膜を貼る魔法だったはず。なるほど……そういう可能性を持った魔法なのか。素晴らしい」


 魔術師は魔術の内容について興味津々みたいだ。




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