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金黒飛龍ディエス・ワイバーン①

 

 目が覚める。

 誰かに抱きつかれている感覚がする。

 アルファンデルが俺に抱きついて寝息をたてている。(つや)のある真紅の髪が深く沈み込むベッドの上に広がっている。


 テント内は広くてペルシャ風っぽい。

 天蓋(てんがい)付きの広いベッドで俺と彼女は寝ていた。


 ここは俺にあてがわれた四人で一部屋の二段ベッドの下ではない。

 なんでこういう状況になってるんだっけ。


 思い出してきた。

 昨日さんざん酒を飲んで、アルファンデルの天幕に連れ込まれたんだった。


「えへへ。くま~~」


 幼女が寝言を呟いている。

 嬉しそうな顔でぎゅっと顔を俺の腹に頬ずりしている。

 お手手って感じの手だ。

 こうして抱きつかれていると本当に俺よりも大分年下の子どものようだ。


 ◇


 俺たちはディエス・ワイバーンの前に集まった。

 騎士や一部の冒険者は鎧と兜をがっちりと着込み、デカい盾を装備している。

 防御役だ。盾は後ろから前が見えるように目線のところに穴を空けてある。


 騎士は統一された鎧を装備しているが冒険者のは個性があって面白い。


 真紅の髪の幼女は最前線では壁役と攻撃役を同時に務めるようだ。

 彼女は鎧は着ていないが、大盾を持っていた。

 丸い大盾に体がすっぽりと隠れている。

 前からは姿が一切見えないだろう。

 さらに肉切り包丁を馬鹿でかくしたような刃渡り3mぐらいありそうな剣を腰の後ろに横向きにさしている。

 この大剣だけが前からも見えるはずだ。


 俺は護衛の戦士に挨拶をする。


「今日はよろしくお願いします」

「おお」


 護衛は緊張しており、ガチガチと歯の根が合わないようだ。


 結界がスーッと上の方から溶けるように消えていく。


「魔法、放て!!!!」


 アランの号令でアルファンデル、オーガスト、メイナードを含む魔術師が大魔法を叩き込む。


 昨日の作戦会議でのメイナードの声が俺の脳裏に蘇る。


『近距離での肉弾戦に移行するのは最後の手段だ』


 今、メイナードは黒魔法の水流カッターような魔法で攻撃を加えている。


 ナーディが白魔法を使った後、次に黒魔法を使った。


 あ……?


 エルファでは禁忌ではないとはいえ、黒魔法と白魔法の二つの使用者を忌避する意識はあるはずだ。

 それに発動の面でも両系統の魔法を使うことのは難しい。

 俺は白魔法と黒魔法を両方極めることが目的の一つだ。

 つまり、ここに俺の先輩がいる。


 魔法のシャワーがディエス・ワイバーンに向かって降る。

 これは避けられないかと思われた。


 しかし、地に伏せていた飛龍が体を起こし、猫のように跳んで避ける。

 飛龍は巨体なのに動きが素早く、魔法は5分の1ほどしか当たらなかった。

 そしてあまりダメージを与えられていない。


 俺の護衛の戦士が喋る。


「めちゃくちゃ硬い上に加えてめちゃくちゃ避やがる……」


 飛龍が踏ん張るように両手を前に出す動作をした。


「来るぞ!!!」


 ピカッと黄色い閃光がしたと思うと光線がやつの口から発射される。盾を構えた騎士たちに直撃したようだ。

 ガギイイ! だの。ブワアアア! だのデカい音がする。


 あの行動は予備動作だったのか。


 永遠に叩きつけられるかと感じられた光線が止んだかと思うと、次は聞く者の身を竦ませる咆哮が届く。


「まったく小うるさい飛龍だ」


 と俺の護衛の冒険者が冷や汗を垂らしながら軽口をたたく。


「第2波! 放て!!」


 アランの号令と共に魔術師たちの魔法が放たれる。

 あの咆哮のあと即座に魔法を放てる精神力は大したものだ。


 俺は戦闘開始前から俊敏性を上げる支援魔法を使ったり、戦闘開始してからは回復魔法を使うなどしていた。

 第三階位黒魔法程度にとどめておいた。


 飛龍が咆哮を上げながら、狂ったように手足を動かして突進してくる。

 大きく開けられた口から長い舌と鋭い牙が見える。


「回避!!」


 陣形は右と左に開くように回避しようと動く共に、メイナードとオーガストが魔法を放つ。


 メイナードのは第四階位黒魔法の水の魔法だ。

 今度は前に押し出すように超巨大な水鉄砲が放たれる。

 まるでダムから放流される水流のようなデカさ。


 オーガストのは第五階位白魔法だ。

 咄嗟なのに高レベルの魔法が組み立てあげられたのはオーガストがシンプルな魔法を使うからだからだろう。

 魔力を衝撃に変換しているだけの魔法。《魔力殴り(マナ・パンチ)》と呼ばれる手法。


 他にも魔術師たちが魔法を使い、飛龍の突進の勢いを減速させる。


 過ぎ去った飛龍の尻尾を横から叩きつけられて、兵士たちが耐えきれず転がる。


 作戦ではあの尻尾を切断することが最初の目標だ。


 なるほど。確かにあの尻尾が厄介だ。


 リーチが腕の1.5倍くらいある。

 そして腕や足、頭の動きよりも速い。

 自由自在に動かしてくる。


 尻尾を振られるだけで尻尾の先が盾を構えている方向とは違う方向から攻撃がくる。


 真横から最悪真後ろにまで回り込まれて、攻撃される。

 尻尾叩きつけも脅威だ。


 昨日の戦いで尻尾には重点的にダメージを与えていたとのことだった。


 尻尾付近の鱗が剥がれていることからそれがうかがえた。


 全員が充分な距離をとったが、アルファンデルが飛龍の近くを走っている。


 その手には3mの肉切り包丁のような大剣が握られている。


 幼女が尋常ならざる膂力で跳躍する。


「ぎゃおおおおおおっっ!!!!」


 髪が逆立った幼女は掛け声とともに尻尾めがけて剣を振り下ろす。

 刃はボロボロの鱗を貫き、肉を貫き、骨を()った。


 大剣が尻尾を切断した。

 尻尾も剣もアルファンデルの小さな体に比べて大きく相変わらず縮尺がおかしく見える。


 ディエス・ワイバーンは聞くだけで体がぐわんぐわんする鳴き声をあげながら、目を憎悪でギラつかせてその場で転がって、暴れる。


 何が起きたのか遅れて把握した冒険者たちから歓声が上がる。


 「っし!!」


「「「うぉおおおお!!」」」


 ここまでかなり優勢に見える。


 しかし、魔術師たちはほとんど魔力を消費した。


 飛龍の黒い毛並みが金色と黒の斑模様に変わっていく。

 バチバチと電光を身にまとっている。


「第二形態だ!」


 アランが脅威を味方に伝える。


 飛龍の獰猛さが数倍に増した。

 ガチッガチッとその場で顎を鳴らしていたりする動作の隙がなくなり、狂ったように暴れ始めるようになった。


 全然弱ってない。


 だばだばとヨダレを垂らしながら飛龍は腕を振るっている。

 その猛攻に耐えるのは最前線の盾持ちたちだ。


 アルファンデルは飛龍の腕の振り払いに壁役のたちと耐えていた。


 飛龍はもう何十発も連続でパンチを振ってくる。

 片手を盾から離し、杖を振るう。

 アルファンデルは自分の命と引き換えに対象を殺す魔法を使うことを決めた。


 第七階位黒魔法、《ディアトンバファードアスティム》。


 引替え魔法の分を残して最後の黒の第五階位の炎魔法で攻撃した。


「お主ら! 一分だけ時間を稼いでくれんか!この魔法を発動できればわらわたちの勝ちだ!」


 その言葉に討伐集団は希望を取り戻した。

 しかし集団が勝利してもアルファンデルには確実な死が待っている。


 流石に集中力も使うし、詠唱も長く、構築も難しい魔法だ。


 ディエスワイバーンが暴れるのをアルファンデルが抜けた前線が止めれない。

 飛龍は大岩を投てきしてきた。


「くっ!」


 無防備なアルファンデルに大岩が向かう。

 その大岩を俺が《インドラの矢》で一刀に両断する。

両断された大岩が二つに分かれ背後へと転がってゆく。


 とてつもない高難易度の魔法が生み出す光を放つ剣を構える。


「第六階位黒魔法……」


アルファンデルが眼を見開いて俺を見ている。


「少しその魔法使うの待ってください。俺も最前線に出ます」



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