髑髏の騎士の財宝
俺はルミナが目を覚ますのを待つ間に悪魔の森の攻略を再開することにした。
魔物を倒せば倒すほど強くなる経験値チートで強くなるためだ。
「ご主人様。できれば戦闘のお手伝いをしたいんですが、まだまだメトは弱くてご主人様に並び立つどころか足でまといになるでしょう」
ラタトスク・グリフォンの傍に立つ俺にメトが自分から言ってきた。
「ああ、でもメトなら直ぐに強くなるよ。頑張り屋だからな」
「九割以上ご主人様の教え方が上手だからです」
今メトに修行はつけてやっている。しかし、魔法の基礎修行をしている最中で第一階位魔法程度しか使えないメトでは悪魔の森はレベルに合っていない。
「三週間で戻るよ」
「分かりました。ではメトはその間金策や情報収集などをやっておきますね。並行して修行を励みます」
「お互い頑張ろう。じゃあお留守番頼むな」
「はい」
メトのすべすべの頬を撫でると彼女は犬が喜びを表すみたいにはにかんで嬉しそうに首をかしげた。
「えへへ。ご主人様。お気をつけください」
3週間とは言え別れることに僅かばかり寂しさがメトの仕草から伺えた。
しかし、メトは自分が弱いから傍にいられないのだ、と考え、それが修行の大幅なモチベーションになるような性格の持ち主だということが俺には分かってきた。
俺は魔獣の背に乗った。
ラタトスク・グリフォンの大きな羽ばたきを受けてメトの白い長い髪が吹き荒れる。
メトの見送りを受けて俺は再び危険地帯へと行く。
まだまだ自分には力が足りないと思う。
ペーリィコージャや元同級生のやつらに、ぎりぎり勝てたようでは駄目だ。
圧倒的に勝てるようにしたい。
戦闘力然り、権力然り。
悪魔の森の中部に降り立つ。
準備運動をして悪魔の森最奥部を目指し、木々の間を分け入っていく。
人類未踏の地、悪魔の森最奥部。
アーレム王国やエルファ領、それに他国のどの実力者たちがそこに挑戦したが、踏破できた組織は歴史上存在しない。
騎士団やAランクの冒険者クランが全滅することも珍しくない。
最上級に危険で難易度の高いダンジョンなのだ。
転生前の世界では考えられないほどこの世界の生き物は危険だ。
素早くて大きくてそして強い。
そんな魔物すらも自分の魔法で自分が弱肉強食の頂点に立つ。
光の刃で狂ったように襲いかかってくる猪と猿を混ぜたようなに魔物を踊るように切り結ぶ。
だんだん自分もこの悪魔の森に生きる一匹の魔物の一つになったような感覚にもなる。
ショベルカーでもひっくり返せそうな大グモの突進でパンテオン神殿の柱みたいな木がへし折れる。
大グモをなんとか倒す。この魔物は外殻も固く、かなり強かった。
その後青い炎を体に纏った獅子に遭遇する。
めちゃくちゃ強かった。
「うっうわああああっ!! つっ………強ええええっ!! にっ逃げなきゃ。くそっ。もっと強くなって次は勝つからな覚えとけよお前!!」
適わない敵には逃げ出して、勝てる敵から力を奪い、強くなったら勝てなかった敵にまた挑む。
出会う全ての敵の強さがそのまま自分の力になる。
力を吸収して強くなる。力を吸収して強くなる。レベルアップ。レベルアップ。
ここはまるで自分だけが掘り起こせる金脈のようだった。
やがて第七階位魔法の難易度終盤まで使えるだけの魔力を手に入れた。
青い炎を身にまとった獣や冷気をまとった魔物は図鑑に名前も乗っていないレベルの「出会う=死」の魔物にも勝利できるようになった。
倒した魔物の素材は後で取りに来れるよう1箇所にまとめておいた。
最後まで利用しなければ魔物に失礼だと思っていた。
三週間経って悪魔の森最深部に到着するまでに第八階位魔法序盤を発動できるだけの魔力限界値を伸ばせた。
たぶんもう人間で俺に勝てる者はいないと思う。
やっぱり倒した魔物の力を吸収できるという能力がチートだった。
蔦の絡まる池のほとりに俺は立つ。
この寝床のような場所には巨大な生き物が横たわった跡や、大きな黒い羽毛が落ちていた。
恐らく悪魔の森の主のもの。
強い気配をビリビリ感じる。
この世界ではダンジョンなどには土地の主と呼ばれるほどの飛び抜けた力の持つ魔物がいる。そのあまりの強さに土地神と呼称されることもある。
元々強い魔物がその土地から主と認められることでさらに土地から力をもらっているらしい。
主は強力だが奪える力も強力だ。
この悪魔の森クラスの難易度の高いダンジョンの主ならば一匹で国を落とせるレベルであっても不思議ではない。
俺はその主級の魔物がいるとほぼ確信してあたりを探し回っていた 。
しかし、悪魔の森の主は不在だった。
「どこに行ったんだこの羽の持ち主は……」
力強い気配のする羽毛を俺は手に取った。
それから多少探し回ったが既に二週間いるつもりが三週間も悪魔の森に入っている。
そろそろルミナも目を覚ましたころだろう。
一度戻るかぁ……。
ラタトスク・グリフォンは強さ的に最奥部まで来れないので中部で待機させている。
ラタトスク・グリフォンの所まで戻る途中だった。
苔と蔦に覆われた亡骸を見つけた。
オリハルコンのフルプレートの鎧に身を包んだ亡骸は中部から最奥部にかけての地点に打ち捨てられていた。
とうの昔に白骨化したドクロが兜の下から見えた。
剣士だったのだろう。剣を握ったまま息絶えていた。
武人の誇りである獲物の刀身には長い年月が経っただろうに僅かな錆びも存在しなかった。
どの年代か分からないが相当古い。
単独でここまで来れるというのは人間の中でも突出した力を持っていたはずだ。
しかしこの世界の人間のスペック的に単独というのは自殺志願者でも無ければ普通じゃない精神状態に思える。
ドクロが楽しげに笑っているように見えた。
供養のため手を合わせる。
彼の魂でもあると予想される剣は一緒に眠らせたままにするが、
「他のなにかもらっていきます。大事に使うので許してください」
剣士の鞄を開け、中身を物色する。
金貨等もそのままだったのでやはり一人でここまで来たということが分かった。
鞄の中から悪魔の森を攻略する場に似つかわしくないものが出てきた。
掛け軸だった。それもかなり大きな。
不思議に思って注意して開くと、開き切ったところで掛け軸は硬化した。
描かれていたのは扉の絵だった。
魔法的な作用か2次元だった扉の取っ手が掛け軸から浮き出て3次元の取手になった。
何らかのマジックアイテム。
どこかにかけて使うものなのだろう。
近くの木の枝に紐をかけて掛け軸の扉を縦にする
ドキドキしながら取手に手をかける。
掛け軸の扉の中には教室二つ分くらいの空間が広がっていた。
「え…………これってもしかして空間収納アイテムか!?」
部屋の中には棚が置かれていたが、ほとんど何も無かった。
掛け軸を巻こうとすると柔らかさを取り戻し、ドアはただの絵に戻る。
掛け軸は二つあった。確認してみると同じ空間収納アイテムだった。




