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アルジェント白魔法学院、廃校寸前(前編)

 

 ルミナは一週間後目を覚ました。起きた直後は前後不覚になった。

 カムイとメトの人生が地獄ならここは天国だ。そのあまりの高低差が理解できず混乱したのだ。


「カムイ……キミずっとあんな景色を見てきたんだね……」


 彼のことを思うと胸が貫かれそうだ。


 ルミナはすぐに治療院に休みをもらい父と母、家族の元に向かった。


 ひとしきり家族に泣きついた。

 家族の優しさと安心出来る強さ。

 ルミナは自分だけそれを享受していることに忸怩たる想いに駆られた。


(カムイとメトさんはこんなものを得られなかったのに)


 アーレム王国で行われてる圧政を止めさせるべく動こうと行動始めた。


 カムイとメトがされたことを体験したことで復讐心や怒り、憎しみといった感情までルミナに宿っていた。

 たったさっき全ての責め苦をカムイの記憶を通してアーレムから受けてきたのだ。

 その感情は真新しくそして激流だ。


 運の良いことにテスタバーグ家はアーレム王国の王よりも力のある存在だ。

 テスタバーグ家は軍事力、経済力共に世界でも群を抜いているのだ。テスタバーグ家が本気を出したらアーレム王国の王などテスタバーグ家にへりくだり、ご機嫌を伺うしかない。


 次から次へと勝手に湧き上がる憎しみに囚われた者のすることは一つ。

 復讐だ。


 テスタバーグ家をフルに使ったルミナによる代理戦争が始まる。



  ◇



 アーレム王国。

 アルジェント白魔法学院。

 教室でキュナイカが黒板の前でトロイたち生徒に向かって授業をしていた。


 キュナイカの機嫌はすこぶる悪かった。


 理由は自身が落ちこぼれと侮っていたカムイに大敗北を(きっ)したからだ。

 常に自分が無能者だと馬鹿にしていた者に絶対有利であるはずの状況から負けて、威厳を全て奪われ無様に逃げまどわされた。


 未だにキュナイカはカムイのあの実力と自分の現状を受け入れられずにいた。


 いつもキュナイカの性格は最悪で生徒や平民に対して、酷いことをしているのだが、そのせいで最近は特に酷くなっていた。


「こんな問題も分からないのか無能が」


 自分の受け持つ生徒があの時自分を助けず、無様な姿を見ていただけということにもいらついていた。

 あの時キュナイカは全員でかかればいいものをカムイを侮った。

 ペーリィコージャの粘液から自分のみが解放された時にカムイを攻撃したことを棚に上げていた。


「いいか? 俺のさじ加減ひとつでお前らは平民落ちするし、使役物落ちもするんだぞ? 俺は寛大だから無能なお前らを許すかもしれんがこの国が許さん。俺の意見はこの国の意見だからな」


 キュナイカに逆らえなくする言葉を一日何十、何百回も言って生徒達を洗脳していく。


 既に洗脳されている生徒たちはすごい勢いでキュナイカの言葉を一言一句ノートに書くのはもちろん、さらに注釈をつけていた。

 特にトロイとパウルスの板書勢いは凄まじい。


 しかし、あの落ちこぼれのカムイが生きては帰ってこれない悪魔の森で自身すら大幅に上回るほどの力をつけたこともあり、生徒たちは心のどこかでキュナイカの指導に懐疑の念を抱いた。

 そのせいか生徒たちの自身へのリスペクトが減ったようでキュナイカは腸が煮えくり返っていた。


 いつもの出来事が行われている教室の黒板がわのスライド式のドアが開けられた。


 ドアを開けたのはいかつい顔と体の槍を片手に携えた者たちだった。

 彼らは中央騎士団。先頭の男が口を開く。


「キュナイカ・ボイゴモス。貴様には殺人罪及び国家反乱罪の容疑がかかっている。大人しくしろ」


「は……? はは。これはこれは騎士団の方々……ようこそおいでくださいました。ここではなんです。来客室でお話を伺いまし……」


 自分よりも強い者にはキュナイカは汚物のような顔で媚びた。


「その必要は無い」


 視線だけで人を殺せそうな騎士が一蹴する。


 騎士団の男はこの狭い教室の支配者を槍の(つか)で叩きのめした。

 キュナイカは大きく吹っ飛んだ。

 教卓を倒すほどの威力だ。

 歯が数本抜けて、女子生徒が汚い血に嫌悪の悲鳴を上げる。


 そして騎士団たちはキュナイカを連行する。

 教室でトロイたちはアホみたいにずっと呆然としていた。


 全校生徒は校庭を引きづられるようにして無様にしょっぴかれるうなだれたキュナイカの姿を目撃した。


  ◇


 王宮。

 年老いたアーレム王国の王は跪くキュナイカに唾を飛ばし恫喝していた。

 控える騎士たちがキュナイカを取り囲んでいる。

 たったひとつ王が命令を下すだけでキュナイカの首と胴が離れる。


「貴様テスタバーグ家の人間の怒りに触れたな!」


「は……? お、恐れ多くも王様。私には心当たりが一切……」


「この愚か者がっ……! ロイドという学生がテスタバーグ家の人間と繋がりがあったのだ! この能無しが!」


「は……ま、まさかそんなやつはただの平民……な、何かの間違いでございます」


 そのキュナイカの言葉に王はより激怒した。


「ほう! ならこの状況は一体なんだと申すのか! 貴様の過去の犯罪が浮き彫りになっただけではない! 貴様がロイドを害したせいで我が国の秩序は崩壊しつつあり、エルファ領には大いにつけ込まれることとなった!! 牢で一生己の間違いを悔いるがいい!!」


「おお、王様。あんまりでございます……」


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