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なんたって俺はこの世界で誰よりも強くなると決めたから

 

 ルミナが戻ってきた。


「あの……すみません。顔を見せてくれませんか。もしかしたら自分の知っている人かもしれ……」


 間違いであって欲しい。ルミナの表情からその思いが伺えた。

 俺はマスクを外してみせた。ルミナの父親にどうせ用がある。

 ルミナは驚愕に瞳を揺らし、口を覆う。


 「うそ。どうして。そんな」


 「久しぶりだな」


 「すごく魔力の色が変わってる。まるで別人だよ。何があったの!? 」


「……アーレム王国とアルジェント白魔術学院にやられたのさ。例えば両腕を切り落とされたりとかな。この手袋の下は俺の魔法で補ってる」


 手袋の下は見せなかったが、腕をひらひらして見せた。


 「ア、アーレムやアルジェントが君をそんな状態にまでしたっていうのにご家族は何をしているの?」


 「……しょうがないさ。国っていう大きな力に言われたら俺の両親みたいな上に逆らわずに言われたことだけやるような人達にはどうもできない。縁切りだよ俺とは。犯罪者になった時点で」


 「そんなの……おかしい。アーレムもアルジェントも。君のご家族も! そんなの真っ当な行為じゃない!」


 「おかしかろうがそれが真実だ。領主っていう権力者の家に産まれたルミナ嬢には分かりづらいことかな?」


 俺の言葉にルミナは一瞬怯んだが、また冬の日の空みたいな光をその瞳に戻した。その目、親父さんに似てる。


 「うちに来てよ。ボクたちと一緒に暮らそう。ボクの家は君の言った通りこのエルファ領の領主だもん。キミ1人ならアーレム王国からだって守ることができるよ」


 「…………申し出は嬉しいが……そういうわけには、いかないな。1人じゃだめなんだ。俺には守るべき人がいる」


 メトの目が感極まったように開かれる。しかし自分なんかのせいで俺に来た良い話を蹴らせてしまったという罪悪感も表情に現れていた。


 ルミナがメトに視線を向けた。


「あぁそれになぁルミナ。どうやら俺はもう権力者の庇護のもとに生きずに済みそうなんだ」


 俺はふざけた口調で言った。


 「……??」


 そう。チート能力ならね。転生者としてチート能力が使える以上全ての前提は変わってくる。


 「……うん。そっか。そうだよね。ボクみたいにぬくぬくと育った人間なんて信用できないよね。君の痛みも知らずにね」


 ルミナは何かを勘違いしているのかそんなことを言い始めた。そして決意した顔。


 「ボクもキミがされたことを経験して、キミと同じ傷を負いに行くよ」


 そんな意味の分からないことを言って白魔法の呪文を唱え始めた。

 古今東西の魔法を熟知している俺にはそれが何の魔法なのか当然分かった。

《アルティ・トランスダイブ》という禁魔法だった。使用を法律で禁じられているので使えば犯罪者の仲間入り。


《アルティ・トランスダイブ》は他人の記憶につながり他人がした体験を追体験する魔法だ。主に裏社会などで情報のやり取り、スパイ行為などで使われている。


 「……考えてたんだ。本当に人の痛みに寄り添うにはどうしたらいいのかって」


 そう話しながら描く魔法陣はルミナが相当な練習したことがうかがえる。

 ルミナはこれから俺の記憶の中に入り、俺の過去の絶望を自分も味わうつもりなのだ。

 だが第四階位白魔法。

 その難易度は第四階位の中でも中盤に入る。

 当然、半人前(ダブルステラ)のルミナが発動できる難度の魔法ではない。


 ……おいおい。どう考えても魔力が足りないだろ……。


 だが見立てとは裏腹に魔術式は組み上がって行き、確実に魔法が発動する手順が進んでいっている。


 いや……これは、発動する。


 「……おいやめろ。あの絶望は精神が壊れてもおかしくないぞ」


 「心配してくれるんだね。ありがとう。でもいいのさ」


 魔法が発動した。白い光のドームが現れその下に俺達三人が入っている状態になった。

 白魔法特有の白い残滓がキラキラと空中に消えた。

 ふらりとルミナの身体が崩れる。前に倒れた少女を受け止める。


 「…………メト。この白い光の外に出るなよ。お前もこの魔法の範囲に入ってる」


 「はい。ご主人様」


 「今ルミナは俺たちの精神と繋がっているからな。術を壊したら俺たちにどんな影響があるか分からない」


 「この人、地獄巡りですね」


 「そうだ。ちょっと頭がおかしいと思ってたけど会わない間にさらに頭がおかしくなってたみたいだ」


 今、このバカで愛おしい少女は俺たちの絶望の過去を巡っている。


 「わけわかんねぇ……なんなんだ一体……」


 彼女の意識がここに無い間に俺達はやることが無い。暇になったメトが聞いてきた。


 「どうして魔法が発動したのでしょうか?」


 「…………そうなんだよな。修練で使う魔力量をカットしたとしても明らかに魔力量が足りてない。ブーストアイテムを使ってる風でもない。精霊の加護とか?? んん……なんでだ?」


 俺はあぁ、と辺りを見渡して

「この状況誰かに見られたら面倒だな」

 と呟く。


 禁魔法を使っているところを見られたらルミナは犯罪者になってしまう。


 氷魔法でドアを凍らせた。


 それから姿と音を消す隠蔽魔法を使う。


 「《──内緒話がしたいか?》《シャドウドーム》」


 俺が呪文を唱えると頂上から傘が生えるみたいに半球状の黒いドームができてゆく。

 それで俺たちを覆っている白いドームを上からさらに覆う。





 カムイとメトは床に座ってルミナの過去体験が終わるのを待った。

 二人が味わってきた地獄をどちらか一人でもきついのに二人分も、それも僅かな時間で体験しているのだ。ルミナは苦悶の表情を浮かべ、涙を流し、時々悲鳴をあげた。


 「……この人、よっぽどご主人様のことが好きみたいですね。ここまでするなんて」


 「…………」


「……この人たちと暮らしてはどうですかご主人様?」


 メトは自分のエプロンドレスのはじを握りながら考えたくないことを考えた。


(この人は可愛いですし、エルファ領の領主の娘です。それにメトと違ってお日様のように笑うことができます。そんな娘がこんなにも深く愛してくれるというならメトをとる理由がありませんよ……)


 「行かないよ。そんな所に行っても俺に居場所はないだろうし。俺の場合孤独っていうのは集団の中にいた時に感じるものだったし」


 「いいんですよメトのことは気にしないで」


 メトは無理に笑顔を浮かべて言った。


 「お前を1人にしないよ」


 沈黙が病室に降りた。

 頼りなく震える白い繊細な指がカムイの服のはじっこをつまんだ。


 「……見捨てないでください。メトわがままですよね。でもメトは……」


 喋りながら泣きそうになるメト。


 「俺はメトの本心が聞きたかったからいいんだよ」


 口もとがわななかないように下唇を噛みそれでも縋るようにカムイの顔を見てしまう少女。

 白い髪の下ので揺れるアクアマリンの瞳が少女の不安定さを物語っている。


 「……ごめんなさっ……もうメトは1人は嫌で……すいません……メトは足でまといにならないように頑張りますから……」


 カムイはメトの頭を撫でた。


 「お前といられて毎日すごく楽しいよ。ずっと一緒にいようぜ」


 小動物のような女の子の申し訳なさそうに甘えるといういじらしい行為。

 カムイはこの子を守ってやらなければならないと強く、思った。


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