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メトの気遣い

 

 4年ぶりに会った同い年のルミナ・テスタバーグは治療術師になっていた。

 帽子の2重の星を見るに《半人前》。

 短めの髪をポニーテールにまとめていた。


「……ごめんなさい。ボクの大切な人と間違えました。魔力の質がまったく違いました」


 それに彼女に最後に会ったのは4年前だ。

 一連の凄惨な日々の中で俺の人相もずいぶん変わった。


「……」


 いえ。と言うように俺は首を振る。

 声を出すとバレるかもしれないので。


「……ルミナ様の大切な人とご主人様では魔力の質がどう違うのですか?」


 メト?


 ルミナはその艶のあるせいでやたらと光の反射する髪を触りながら答える。


「……魔力のオーラの形といいますか……類型がボクの知っている人とは違いました。通常魔力のオーラが変わることなんてありえないんです」


「魔力のオーラが変化する時ってどんな時なんですか?」


 二人の美少女が言葉を交わす。


「……変化する時は、死よりも辛い体験をした時や精神に多大なストレスが加わった時が主です。だから有り得ないんです」


「……そうですか。ご教授ありがとうございました」


「いえそんな。行きましょうか」とルミナが歩き出す。


 俺とメトは並んであとに続く。

 メトに目を向けると彼女はなにかを言いたそうにしていたがどうしたらいいのか分からないように、もどかしそうにしていた。

 その目には心配と共感と同情とが浮かんでいた。


「ありがとな。メト。心配してくれたんだな。俺は大丈夫」


 メトの頭に手を乗せポンポンと撫でた。


「あぅ……ご主人様ぁ……」


 俺達が部屋に案内されたあと、ルミナは退室した。


「私が院長のアイセアです」


 治療院の制服を着た初老の女性だった。


「どうも。カムイです。はじめまして」


 挨拶をしたあと、すぐに解呪の話に入った。


「自分には天罰術式がかけられています。解呪にはどれくらいの時間がかかるでしょうか?」


「天罰術式ですか……それは大変な呪いにかけられましたね」


「良いのですか? 天罰術式はこの国の白魔術協会が使う魔法ですよ。それを呪い呼ばわりなど」


「私どもは天罰術式も含めて全てを《悪い呪い》として総称しています」


 俺は話の続きを待った。


「その天罰術式ですが解呪には相当な年月がかかるでしょう。おそらく早くて50年……」


 流石に白魔法協会。強力な呪いだ。


「ですが。《悪い呪い》というものは原因は分からないのですが必ず亡くなる前には解けるものなのです。ですから呪いと解呪による心身の不可に耐えることがとても大事になっていきます」


「魔術式は全て分かってるのですがそれでも50年ですか?」


 そう言って俺は魔法式を書いた手記を広げた。


「拝見させていただきますね」


 アイセア院長はしばらく読んでいて時々質問を俺にした。アイセア院長は顔を上げて


「カムイさんにかけられた天罰術式についてかなりのことが分かりました。ええ。これなら全くの無から解呪をするよりも断然速くなるでしょう。それに呪いをかけた者が分かっているというのがとても大きいです」


「では……?」


「10年以内には完全解呪前の状態にまで持って行けるでしょう」


「でも呪いというものは即効で解呪できる方法もありますよね?」


「……ええ。ですがそれには呪いをかけた術者に解呪させなくてはなりません」


「あるいはかけた術者を殺すか」


「その通りです」

「なるほど」


 10年も解呪の里で足止めをくらいたくない。だがアーレム王国に直接乗り込むにはまだ力が足りない。


「相当な魔術に関する知識と技量がなければ分からないことが今見せてもらった手記には書かれていました。これはどなたが書かれたものなんですか? その方のお話も聞きたいのですが」


「それを書いたのは自分です」


「まぁ……! すみません……驚きました。相当勉強されたのですね」


 アイセア院長は話すべき言葉を空中に探しているみたいに顔を上げた。


「……カムイさんは14歳ですね。あなたの年齢でこのような呪いをかけられていること自体が異常なことです。

 先程も言ったように天罰術式を《悪い呪い》として呼称していることから伺えるかもしれませんがエルファ領はやや特別なのです。我々は潜在的な反アーレム王国なんです。

 エルファ領の領主様に相談されてはどうですか? きっと力になってくれるはずです」


 実は俺はエルファ領の領主とは面識がある。

 エルファ領の領主アラン・テスタバーグはルミナの父親だからな。ルミナは超のつく恵まれた貴族令嬢ってわけだ。


 解呪の料金は入院料で50万トルク。完全解呪までに合計で300万トルクということだった。

 メトもいるし、もろもろを考えて病院室は断った。宿屋暮しになるだろう。


「それではありがとうございました。それでは今日は失礼します」


 そう言って立ち上がった俺にアイセア院長は声をかけた。


「……そちらの方の解呪は良いのですか?」


 アイセア院長がちらりとメトを見た。


「……どういう意味ですか?」


「……あら。失礼しました。彼女から魔性を感じましたので。気のせいでしたか」


 魔族だからね。


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