すれ違い噛み合わないベタベタなコントのようなやりとり
カムイは今メトの水着とドレスを作っている。
サプライズにするために夜な夜な、「決して中を覗かないでください......」
と意味深に言って鶴の恩返し的な雰囲気を醸し出しつつ衣服作りに励んでいる。
作っているのはオランダの民族衣装のベストつきのエプロンロングドレスだ。
ロングドレスの基調は緑。エプロンは白色。
そしてレースのヘッドドレス。黒色。
デザインは花だ。
ヘッドドレスとは三角巾のようなものだ。
手首にはふりふりのフリルが。
スカートにもふりふりのフリルが。
徐々に出来上がっていく美しいドレス。手が自動で動いてるかのように淀みなく動く。
完成したドレスを着たメトを想像してカムイはケラケラ笑いながら作っていった。
チートスキルの影響かそのドレスの出来栄えはかなりのものになっていた。
まるで技術や知識が脳に直接インストールされているように体が的確に動く。
完成した喜びそのまま「よーし! メト! この後時間開けといてくれ」とメトに伝える。
メトはカムイと出会ってからすぐにする返事が今回はできずに数拍おいて返答を返す。
「はい。……分かりました」
絶望的な顔で頷くメトだが、カムイはドレスが完成した徹夜気味の頭と喜びでそのことに気が付かなかった。
時間になりメトは布団の上に正座していた。
お風呂上がりで艶やかだ。
華奢で普通の人と比べてずっと白い肌はやや朱に染まっている。
「体を清めてきました」
「……?? うん。そう」
カムイはドレスを見て驚く彼女が早く見たかった。
しゅるり……とメトは覚悟を決めたような様子で自分の服の帯を緩めた。
「どうぞメトをお召し上がりくださいっ……!!」
「?え??…………えぇ!?」
いきなり訳の分からないことを言い出した。
「この体をご主人様に捧げます……っ!!」
「ええ!? いや、そんなまだ早いっていうか。俺たちまだ知り合ったばっかだし......!」
「大丈夫です。どうか一思いにご慈悲をお願いします……」
なけなしの勇気を振り絞って言っていた。少し震えている。
メトはまぶたを下ろして顔をくいっとカムイの方に上げた。
一見してそれはキスを待っているかのようだった。
ドクッドクッドクッとカムイの心臓が高鳴る。目の前の可愛らしい花びらに誘われる蝶のように吸い寄せられようと腰をかがめる。
次に放たれた言葉がカムイの行動を止めてくれた。
「毎夜研いでいたその大包丁で一思いにお願いします……っ!」
「ん?」
どうも様子が違う。
あわあわと目を閉じ揺れるメト。
「えと……俺が何してたって?」
「はい……ご主人様が私を調理するために肉を部位ごとにバラバラに解体するための大包丁を研いでいたことは知っていました。
なのでこうして体を綺麗にしてきました。血で汚れないよう水の染み込まない素材のシートを敷いていました……っ!」
えぇー!?? 何言ってんだこの子。
「どうぞメトの血肉もご主人様の糧としてください……っ!」
oh...そりゃ性的な意味では食べたいけどさ。
「ああ。もしかして工程の時一つのザァー!って言う音が包丁を研ぐ音に聞こえたと」
こくり、とメトが頷く。
「そして時々俺が笑っていたのを聞いて確信したと」
「はい……あの、メトには分からないですがご主人様のご嗜好を象徴するような笑い声で確信しました」
メトはたらりと汗を垂らす。
カムイにとっては鶴の恩返しの昔話だったがメトにとっては山姥の昔話だったと。
「なるほどね」
この子の中の俺って一体どういう人間なんだ……?
「勘違いだメト。俺はお前を食べたりするカニバリズムの嗜好はない。性的な意味では美味しく頂きたいけどなっ!」
混乱してるメトにセクハラ。
「??えと……ご主人様はカニバリズムではないけどメトを食べたい……??」
「いや違くて……。ほら包丁なんか持ってないだろ」
メトは恐る恐ると言った様子で目を開いた。
「メトに食事をくれたのはご主人様が食すために太らせるためでは……?」
「違う。健康的になってよりエロ可愛くなってもらうためだ」
カムイは真顔でそう言ったが、メトはまだ緊張していた。
そこでカムイはニコニコと笑ってメトの頭をポンポンと撫でた。それでメトはややあって笑ってくれた。
「あははぁ……そうだったんですかぁ。メトはとんでもない勘違いをしていたんですね。
少し気が抜けてしまいました。ご主人様にもうお仕えできないと思って少し悲しかったんですが、
メトがご主人様の血肉となることができるならそれで充分だって自分に言い聞かせてて……」
落ち着いてからカムイはメトにドレスを渡す。メトは宝物を託されたかのように丁重に受け取った。
「わぁ……」
別にドレスが光をよく反射するわけでもないのに包みを開いた時、メトの顔は輝いた。
「ありがとうございます! ご主人様」
メトはドレスを着てみせてくれた。
思った通り魅力値にプラスが大幅にかかった。
ドレスのはじをつまんで持ち上げたり、くるくる回ったりとして見せてくれた。
終始嬉しそうな顔をしていて、それでいて気恥しそうにしていた。
その日の深夜。
カムイはメトが家の出っ張りに腰掛けて月を眺めているのに気がついた。
「眠れないのか?」
「はい。ちょっと……」
そのメトの体は震えていた。凍える体を温めるみたいに彼女は両手を体に抱えていた。
「……寒いの?」
「す、すみません。なんだか体が震えて……」
「俺が怖いの?」
「いえっそんな。確かにご主人様は激しいところもありますが、メトにはとても優しくしてくださっているということも伝わりましたし……」
おそらく魔族である彼女は人が怖いのだろう。
「俺は君に危害を加えたりしないし、苦しめもしない」
それにカムイは彼女の気持ちが解らなくもなかった。
ずっと人の冷たさを味わってきて急に誰かに優しくされて、その暖かさに戸惑っているようだった。
それを再び失った時の痛みに今から怯えているようなものでもあった。
「怖くないよ。ただ暖かいだけ」
カムイはメトが抱えた手を優しくとった。
「……本当、ですね」
メトが安心して眠るで二人は月の下で話をした。




