大ボス撃破……しかし裏ボス戦へ!?
俺は自分を捕食せんとする大小様々な魔物を一人で討伐しきった。
何らかの脳内物質も切れ、全身運動によってもたらされた疲労が襲ってくる。
ペーリィコージャを光の剣で解体していく。
黒い腕を無数に生やす魔法でペーリィコージャの肉を固定する。外科手術の時の固定のように。
内蔵を切り開き、現れたのは灰色の液体。
バケツ10杯分ぐらいは溜まっていた。
これなら充分固まったペーリィコージャの唾液を溶かせるだろう。
不気味な液体だ。
触りたくねー。
この分泌液は人が触れると確かただれる効果があった。
しかしそれはノープロ
俺の両腕は禁忌魔法で作った『黒腕』だ。
持っててよかった魔法の腕。
俺はそれを手ですくい、まずは使役物たちの拘束を溶かしにかかった。
拘束からはメトたちは自由になった。
「君たちに良いニュースがある」
「え......」
ビクビクっと使役物たちはたじろいだ。
「いや......傷つくな。本当にあなた達にとっての朗報があるんだって」
「何ですか......?」
「ああ、あなたたちを自由にしようと思って」
「ま、まさか俺たちを殺して全て隠蔽しようっていうのか?」
ぎょっとした顔で青年は言った。
「違う違う。こういうことさ。使役物のみんなを解放するのに条件はないけど、学院のみんなまでその固まってるペーリィコージャの体液を溶かしてあげるには条件があるんだ」
さて、誰と話そうか。
「セナン。取引だ」
俺がセナンの名前を呼ぶとトロイはその顔に影が刺した。
次期勇者候補である彼には自負がある。自分が仮想魔王の配下との人質交渉のやり取りに選ばれなかったということが気に触ったようだ。
「お前が一番自分の得になるかどうかで物を考える。勇者ごっこからはお前らの中で一番遠い。まぁ合理的な考え方ができるってやつだ」
「条件ってなんだ?」とセナンが問う。
「使役物たちと結んでいる契約魔法。それを解け」
突きつけた条件。
「命を拾うには軽い代償だろう?」
全員何故俺ががそんな俺の益にならない条件を提示したのか分からなそうな様子だったが、是非はなかった。
「みんな、いいよね?」
「うん」
トロイがそうみんなに聞き、すぐに頷く生徒達。
だが、予想外のことが起きた。
「.......嫌だ。俺は俺の使役物を解放しない」
それはセナンだった。生徒達はぎょっとしてセナンに視線を集める。
「......? あん?」
「お前こそどうして使役物の解放なんて条件なんだ? こんな条件お前にはなんの得もないだろう。あぁそうか。このあと使役物たちと再度契約魔法を結ぶのか。ただ──」
セナンの口上に俺は口を挟んだ。
「違う。ただ解放するだけだ」
セナンは困惑顔だった。この中では人間の機微を一番理解していないやつだ。こいつには俺の目的がまったく解らないのだろう。
しかし、意外だった。そんなにセナンがメトに執着心を抱いていたとは。
「なぁ......お前らからも説得してやれよ」
俺はクリスティーナたちに水を向けた。
「クリスたちはちょっとこっちに来てくれ」
俺は使役物たちと生徒達から離れた。
「さーどうなるかな」
離れる時、生徒達は全員一気に食いかかるようにセナンの説得を始めていた。
嫌だ! メトは俺の所有物だ!とセナンの言い争う声が聞こえる。
「あ......あんた一体なんでこんなことをしてんだ? 俺たちをどうするつもりなんだ?」
クリスという11歳ぐらいの少年が俺にそう尋ねる。
「別にどうも。契約魔法を割ったら自由にしてくれればいい。ただあいつらが使役物たちを扱うのが気に入らなかっただけだ」
少ない言葉で俺は答える。
自身が自由になるかもしれないという状況に狼狽える彼らに俺は気になったことを質問してみた。
「なぁあんた名前は?」
「サイードだ」
くたびれた多重債務者のようなおっさんはそう答えた。
「サイードは一体どういう契約を結んだんだ?」
契約魔法の内容は個人によって違う。
「俺は死ぬまでエドモン様とそのご家族のために働く契約を結んでいた」
「給金は?」
「......そんなものない。使役物は奴隷と同じだ」
やれやれ。
「ロイド! 僕達は合意した」
トロイがそう声をかけてきた。
「よし、行こう」
メトたちはなりゆきがどうも信じられないようで唖然としていた。
だがいく人もの目に少しづつ希望の光が灯るようになってきた。
条件を飲んだ学院の生徒たちはそれぞれが呪文を唱えた。
契約魔法自体かなりの高難易度の魔法だ。
空中に透明な羊皮紙がそれぞれ七枚現れた。
胸糞悪くなるだけだろうなと思ったが俺はその契約魔法の内容を全部見た。
やはり吐き気を催すものばかりだったが、メト・ラーマヤーナの契約は特におぞましいものだった。
俺は「こいつまじかよ」と思わずセナンの顔を見た。
契約の解除にはいろいろと面倒な手続きをする方法もあるが、ここは手っ取り早い方法を取らせることにした。
その羊皮紙を破かせた。それだけで契約魔法は壊れる。
敗れた紙は空中に煙のように消えて行った。
「確認してみてくれ。みんなの体にある契約者の刻印はもう消えてるはずだ」
サイードは自分の体を確認し、感嘆の声をあげた。
「やっっったあああ.....!! 自由だ。はははは!」
クリスはその場ですぐに喜びをあらわに小躍りを始めた。
「よし、まーもう後は特に条件とかない。俺ももう何もしない」
学院の生徒達に俺はそう言った。
俺は次の液体を両手ですくい、生徒達の元まで歩いた。
キュナイカの拘束を溶かす。
これで彼らも解放して終わり。そのはずだった。
「……こいつを死ぬまで追い詰めなかったのは誤りだった」
小さなつぶやきのようなそれはキュナイカの声だった。
俺は冷笑した。哀れで惨めな生き物に対して向ける表情をキュナイカに向ける。
単細胞のキュナイカは言い返してこない俺を見てぶつぶつ呟いてた呪詛のボリュームを上げた。
そこには俺が到底受け流せないものが含まれていた。
「ジェニー、マルクのゴミをいたぶりすぎた……そうだ。こいつをもっといたぶるべきだった。そうすればあのゴミどもみたいにロイドも俺を崇めながら死んで行っただろうに。くそっあんまりあのゴミどもをなぶった時の反応がよかったもんだから手をかけすぎたんだ」
あのゴミども......?
クリリンのことか......クリリンのことかー!?
ははっ。
やっぱり、こいつ、殺す。
ばしゃり。俺はコップのようにしていた手の形を辞めたので分泌液が地面に全てこぼれた。
確かにジェニーとマルクが俺みたいに黒魔術の才能があったかどうかは分からない。
でも俺と同じようにいじめまがいの指導で俺と同じく魔術回路は完全に壊れていた。
そして精神が完全にまいっていて絶望し死に追い込まれた。
「......ジェニーとマルクを侮辱することは聞き流せない。お前はここで死ぬ」
キュナイカはせせら笑い小馬鹿にするのみだった。
「ふふん。ロイド。あの魔物と戦うのに随分と魔力を使っただろ。見れば分かる。もうお前の魔力はほとんどない。それに杖も使えるようになった。これ以上お前に従う必要もあるまい。お前を捕まえ、憲兵に引き渡す」
愉悦の表情のキュナイカ。
「はっ。口上は死亡フラグってアニメで学習しなかったのかなぁ?」
カムイはキュナイカを嘲笑うように口角を釣り上げる。




