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ざまあみろってな!

 

 ダヴィド、トロイ、パウルス、エドモン、キュナイカの魔法もペーリィコージャにほとんどダメージらしいダメージを与えることはなかった。


 杖がないと一般的に魔法の威力、効果は3分の1から5分の1まで落ちる。

 だがダヴィドの第四階位爆撃魔法で皮膚がやや焦げた程度では最大値の5倍のダメージでもどの道肉を少しばかり抉るだけだ。彼らは直ぐにペーリィコージャの酸を喰らいおしまいだろう。


 口の大きさが最初は小さかったのに今はまるでマジックのように奇怪に大きくなっている。体を自在に変形できているのは骨のない体だからか。


 その口に丸呑みにされるのは自分たちだ。少年少女たちは悲鳴をあげるのを抑えられなかった。


「なぁ。誰か隠蔽魔法使えるだろ」


『口』を見上げながらただ1人自由な少年はそう助言する。


「そ、そうか......!」


 視覚情報を隠す魔法を使おうとするパウルス。


「それにペーリィコージャは視覚が退化してる。獲物の位置を把握するのに目でなく音に頼ってるところもある。これからは喋るな。できれば匂いも隠す魔法を使える奴がいたら使え」


 パウルスが白魔法の呪文を唱えている。カムイはかつての同級生と自身の師との八人がかりで適わなかった魔物に向かって歩き出した。


 ダヴィドやトロイやエドモンは火力担当で支援魔法をろくに使えない。

 やれることがないので他の者が隠蔽魔法を構築している間妙に落ち着いているように見える落ちこぼれを見ていた。


 彼らは全員カムイの大したことのない白魔法の腕前を知っている。


 アルジェント白魔法学院は国の名門中の名門だ。

 その学院に入学できたということだけで厳しい試験をパスした白魔法のエリートであることは間違いない。

 学院の生徒は入学時ですら地元ではもちろんその白魔法で適う相手はいないだろう。


 しかし、その学院の中でも当然実力差というものは存在する。

 カムイの白魔法は入学時は他の生徒と同程度だったが学院の体制と教師陣の指導方法がカムイに合わなかった。

 その未来ある才能は彼らによって摩耗し削られていった。

 だが他の生徒からしてみればカムイは理由もなく“何故か”白魔法が下手になっていったという認識しかしていなかった。


 誰もカムイに黒魔法の才能があることに気がついていなかった。


 宙空に現れる球状の黒炎。

 その炎は触れるものを焼き尽くす。


 黒魔術第五階位魔法。

 黒炎魔法アグニトルム

 黒い光という矛盾した存在が真上から彼を照らす。

 それはまるで黒い太陽。

 全てを照らし尽くすのに何よりも暗い闇というこれを操る彼は、支配者をイメージさせる。


 畑違いの黒魔法ではあるがトロイ達にもその魔法の難易度は伺えた。

 驚くべきポイントがいくつもあった。カムイの魔力総量にも信じられない想いだった。

 カムイが退学する二ヶ月前には簡単な白魔法も使えなくなっていたので彼らはカムイの魔力総量も枯渇したと思い込んでいた。


 真実はキュナイカ達の無理な指導でカムイの白魔法回路が壊されていたのだった。


 《アグニトルム》によって何をしても肉を抉ることができなかった分厚い肉を焼き焦がした。


 カムイの詠唱速度、構築速度も速すぎる。

 次から次へと《アグニトルム》を放っていく。

 3つの球状の黒炎によってペーリィコージャの巨体は炎に包まれた。


 燃え盛る炎。山が燃えているようだった。

 炎に塗れて巨体をのたうち回すペーリィコージャ。


 そこにいる者たちの目に輝く炎が映し出された。

 何が起きているのか正確に把握できている者はその魔法を使った者以外誰もいない。


 魔法に疎い使役物たちの理解はさらに遠い。


 学院の生徒は少しずつ状況を咀嚼する。


 連続で魔法を使うことが得意なダヴィドですら爆発魔法をあの速さで三回も立て続けに撃つことはできない。

 エドモンとセナンも口を半開きにして驚いている。


 炎に囲まれて黒い残滓(ざんし)の中央にいるカムイ。


 ペーリィコージャの体から無数の幼体のペーリィコージャが飛び出てきた。

 どばっと噴出したそれらが怨敵を食い尽くさんと一斉にカムイの方になだれ込んでゆく。


 しかしそれはペーリィコージャの母体の危機に幼体がたまらず逃げ出したということでもあった。実際カムイに向かわず壁を這いずり逃げていく個体もいた。


 カムイは冷静に後ろに下がりながら黒い刃を放つ魔法『 ダークエッジ』で対応した。


 幼体の中にも酸を放ってくる個体もいた。

 それらをカムイは不規則な動きで避けた。

 軽業師のように素早く地を蹴り、跳び、そして隙を見つけ魔法を放つ。

 右手に持っている杖でその戦場を指揮するかのように立ち回る。


 メトはその少年の戦いから目が離せなかった。

 そして何に寄与するものか体がぶるっと震えた。


 カムイは後ろから自身に向かって何かが飛来するのが解った。

 かわそうとしたがぎりぎりであたった。


「チッ」


 幼体が飛ばした酸だった。

 マントが溶けていく。


「あいつ……さっきの魔法第五階位相当はある.......」


 エドモンの口から今目の前で起きた信じられない光景を認識するための言葉が漏れた。


「ありえない。そんなはず。でもそうじゃなきゃこんな強い魔法はありえない」


 トロイも嘘だ...といったところだ。


「なんだよ。あいつに何があったんだよ!」


「分かるはずないじゃん......分かるわけねぇだろ!」


 セナンとダヴィドが納得できないように吠えた。

 もはや目の前の同年代の少年がロイドだということも半信半疑だった。


 さらに先程カムイが起こした一見わかりずらい一流冒険者の技術に彼らは気がついていなかった。

 普通は後ろから超速で飛んでくる矢はかわしようがない。


 だがカムイは惜しいところまで来ていた。来る日も来る日も魔物と渡り合った経験と磨いた魔力探知能力のたまものだ。


 前から飛んでくる酸は全てかわす。

 カムイは見えもしない分かるはずもない後ろから超速で飛んでくる攻撃をかわそうとする変態なのだ。

 いくら並の人間には不可避の攻撃といっても前から飛んでくる酸を避けられないはずが無かった。


 幼体のペーリィコージャが洞窟内に溢れる様子は洪水が起きているようだった。

 その勢いは凄まじくカムイが接近を許すところが少しずつ見られ始めてきた。


「アレを使うか......」


 カムイはすごく楽しかった。

 逃げの一手で他の魔法を使うのをやめてその魔法に集中する。右手で持っていた杖を左手に持ち替える。

 長めの構築だ。


 第六階位魔法。

 カムイはそれに《インドラの矢》と名付けた。


 それは光の剣。長尺のそれは指向性を持ったレーザーのようなものだった。

 軽く振っただけで巨大ナメクジを三体両断した。


 魔術師の特徴。

 遠距離は強い。

 中距離も戦える。

 しかし近距離だとその強さは著しく下がる。

 近距離戦をカバーするべく現れた戦闘スタイル。

 それが魔法剣士。


「上手くいった!」


 それが嬉しくてさらに振り回す。

 剣が当たった岩が悲鳴のような音を立てる。

 もちろん光の剣は岩すらも切り込める。


(光り輝く剣を持ち、自分よりも何倍も大きな魔物に挑む.....か)


 《インドラの矢》を構える。


(まるで勇者だな)


 カムイは自分の考えに笑った。

 しかし、メトの目から見たカムイは確実に『勇者』だった。


 切り結び、切り結び、ただ目の前の敵を全ての力で対処した。


 ペーリィコージャの頭を炎魔法で吹き飛ばした。

 幼体は向かってくる個体は全て何かしらの方法で討伐した。


 そして全てが終わった。


 魔物の投げナイフの先端のような歯で噛み付かれた足もアドレナリンのおかげで痛くない。

 装備もボロボロだ。

 あんなに強い生き物が彼を殺そうとした。

 しかし立っているのはちっぽけなただ一人の黒髪の少年の方だった。


『自分は今生きている』とどうしようもなく実感した。


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