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復讐タイム続く

 大きい。

 最初にカムイが目に付いたのはそのデカさだった。

 先程相手にしたナメクジ型の魔物のサイズよりもさらに大きい。

 洞窟の天井はかなり高いがその天井に頭が着きそうだった。

 魔物ペーリィコージャ。


 三本の触覚が何かを知覚するためか動いている。


 目は無かった。

 口がある。そして口の上に3つの穴があった。

 カムイはその3つの穴に危険性を感じた。あの穴から何かが発射される可能性を考え気をつけた。


 今自由の身なのはカムイだけだ。

 貴族階級である生徒達も奴隷階級である者たちも等しくその身の自由を失っている。


 エドモンやパウルスなどは自分の杖を取ろうと体を動かしているがガッチリと固まったままなので届かない。


 クリスティーナが杖が使えないので仕方なしで杖無しで呪文を唱え、魔法陣の構築に取り掛かった。


 その顔は恐怖と焦りで塗れていたが、流石は才女と名高いだけあってこんな極限の状況でも第四回位の魔法式を淀みなく書いていく。


(綺麗な魔法式だな。無駄がなく、魔力の流れも最大効率になるようにできている)


 カムイはにやにやとしながらその様子を見ている。


「完璧だな。キュナイカ先生彼女に100点を付けてあげたらどうです?」


 キュナイカはそもそも魔法を組み立てるのが遅くまだ魔法陣の組み立てが70%ぐらいしか終わっていない。


「いやー遅い。遅すぎですよ先生」


 カムイは嘲笑した。キュナイカは血走った目でカムイを睨んだ。


「うるさいわね! あなたみたいな役立たずは何もできないんだから士気が下がるようなことを言わず黙ってなさいよ!」


「ロイド! やつの注意を引け! 囮になれよ! お前が食われてる間はあの化け物も俺たちを襲ったりしねーだろうよ!」


 クリスティーナとダヴィドがカムイに悪態をついたが流石天才たち。その手はまったく止まっていない。


「役立たずっていうのはあーいうやつを言うんじゃな~い?」


 カムイはレオノーラを指さした。

 レオノーラは無音の目覚ましのように体を震わせているだけで魔法を使おうともしていなかった。彼らは多額のお金を注いで作られた一流の戦闘職のはずだ。


「チッ!」


 その様子を見たダヴィドが軽蔑を隠そうともせずに傲岸不遜にレオノーラに舌打ちした。


 使役物たちはもう諦めているのか死んだ目で事の推移を見ていた。


(使役物たちの反応は当然かもな。元々自分のもの全てに関する自由がないんだ。何か巨大な力が吹けばそれで吹き飛ぶだけの存在)


 老人はいないがカムイの倍は年のありそうな大人の男も使役物にはいた。

 だが皆例外なく死んだ目をしていた。

 白い髪のメトという少女も他の使役物たちと同じようにただ死を待っていた。その青い瞳は暗く濁っていた。レイプ目だ。


 ぼさぼさの髪だったがその下の顔はすごい整っていて、普通に美人だった。


(まともな格好をさせるだけですれ違った10人中10人が振り返るほど優れた容姿になるだろうに、ボロボロな格好はセナンの趣味だな)


 この修羅場でけらけらと笑う様は道化かトリックスターか。


まだ学院の生徒たちは心が折れていない。全員の心が折れるまでカムイはペーリィコージャと戦う気にはなれなかった。


(レオノーラをいじめるか)


 涙と鼻水で濡らすレオノーラはレオノーラから見てなんの力もないはずであるカムイが逃げることもせずまだこの場にいることに驚いていた。


「不可解だろう? 雑魚ごときがさっさと逃げもせずに何をしているのかと」


 レオノーラは目を見開き口をわなわなと震わせ声も出ない様子だ。


「死ぬ気の覚悟でお前らを馬鹿にしてるんだよ」


「!?」


(なんてな。死ぬ気なんてまったくないが)


 レオノーラはカムイのことがかつての同級生だとはとても思えなかった。豹変。その一言に尽きる。

 カムイはレオノーラの頭を掴んで使役物たちの方を向かせた。


「可哀想だなぁレオノーラ。そんなに怯えて。でもねぇあいつらはもっと可哀想じゃないか? お前のように命を惜しむこともできないんだぜ? もう命なんか諦めてる。むしろ終わらせてくれって感じだ。とっくに覚悟完了ってかな? もちろん悪い意味で。誰がそうしたんだ? 心当たりあるよな?」


 レオノーラはぽろぽろと涙を零した。


(女はすぐ泣く。というかこいつ、俺が言ってること分かってるのか?)


 カムイはレオノーラの涙を舐めながら「悔しいねぇ怖いねぇ。旨い! レオノーラの恐怖と絶望の味が旨いよぉ!」とかやっておぞましさと不快感を与えてやろうかと思ったが流石にやめといた。


 (おっと。クリスティーナが魔法を放ったようだ)


 第四階位魔法の錯乱魔法。

 ペーリィコージャがまだ警戒しているのか魔法を構築する時間が思ったよりあったおかげだろう。

 だがペーリィコージャにはまったく効かなかった。


 クリスティーナのいつも侵されることのないその顔の自尊心のようなのものが崩れるのを見てカムイはほくそ笑んだ。


 カムイは再度レオノーラに聞いた。


「おい。聞いてるか?」


「分から……ない……! あなたが何を言ってるのか分からない! 使役物がそうなのは当然じゃない! 誰もそれについて何も言わないからいいじゃない! 使役物だって何も言わないわよ! 使役物はその契約主のために無償で命令に従うのが契約内容じゃない! 使役物になった彼らが悪いんじゃない!」


「まぁ全ての物事を自己責任論で一蹴する人っているよな?」


 こんな国に生まれた自分が悪い。貧乏な家に生まれた自分が悪い。

 契約を結ばざるを得ない状況に甘んじた自分が悪い。


「……力の無い自分が悪い」


 カムイは小さな声で言った。そう。俺も使役物も力がない。だから力を手に入れるのさ。


「……?」


「お前の言うことも一理あるよレオノーラ」


 笑顔でそう言って最前線行くためにレオノーラから離れる。


「二理は到底ないけどな」


 カムイはそう吐き捨てた。


 ペーリィコージャは各種の魔法を打ち込まれてもその体にほんの少し傷を作っただけだった。


「こ、こんなのどうしようもない……」


 パウルスが絶望と共に呟いた。

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