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続続、悪魔の森

「うーん。別にお前らは死んでくれた方が嬉しいんだが使役物の人達はそういうわけにはいかんなぁ」


「君! 状況が分かっているのか!? 人としてこの状況の僕達を見捨てるような発言をするなんて正気か!? 君にはこの国で生活する魔術師として僕達の救助義務がある。それが元学院の生徒だったとしても義務は残ってるんだ」


 パウルスというメガネをかけた男が糾弾するように言った


「よぉパウルス。相変わらずガチガチに凝り固まってる上に自覚無しに規則を盾に保身に走るようでなによりだ」


「! もう既に違法魔法で完全に悪に魔法使いになったようだな! 首都に戻って罪を償うために処刑されるのは当然として、これ以上罪を重ねるな!」


 ははっ。良いね。相変わらずぶっ壊れてて。そうでなくては復讐のしがいがない。


「んでダヴィドにトロイか」


 ダヴィドとトロイ。

 ダヴィドはトロイと一緒くたにされたことで目に分かるぐらいイラついていた。


「あぁん!? 俺様をトロイなんかと同列にかたんじゃねーよ! 殺されてぇっのか!つか殺すぞ!!」


「あーあー。でけぇ声で喚くんじゃねぇよ。この馬鹿」


 ダヴィドはつんつん頭の目付きの悪いギザギザする声の男だ。

 ずっと喚き続けている。


 そして、焦ったような顔で打開する状況を考えている──ふりをしているトロイ。


(なんでこんな男が──?)


 ワカメのような髪型のトロイは勇者候補NO1だ。

 既にこの国の英雄から黄金魔力という唯一の特殊魔力を譲り受けている。


「ろくな下調べもせず、戦闘できない彼らを奴隷扱いでこき使って、挙句に命の危険に晒す。お前のどこが人々の憧れの勇者なんだ?」


 俺はさきほどとは打って変わって静かなトーンで話した。


「あの現在の勇者にしてもそうだ。あんな倫理観の狂ったやつのどこが聖人だ? それを国家主導の政策と情報統制で英雄のように報道した上でさらに国家主導でやつの神格化を強制もしている」


 俺はトロイが生徒の中では一番嫌いかもしれない。


「俺はアーレムのそういう外面と実態がかけ離れた有名無実さが一番嫌いなんだよ」


「悪の魔法使いに落ちたロイド君。僕は君を倒す。みんなを守るためにも!!」


「守るのはお前らの歪んだヒーローごっこ、だろ?」


 トロイと俺は睨み合った。


「お前の何がイラつくって自分を心の底から善良な正義のヒーローだと信じ思い込んでるところだわ」


 誰もジャンの心配をしていないのか一人も「どこかでジャンを見なかったか」とかすら聞いてこない。


 俺はトロイから目を離し全員に言った。


「お前らの権力と優遇制度を保つためにどれだけ平民が搾取されてるか分かってるか?」


「くだらねぇ」


「お前もいたな。くだらないが口癖のエドモン君。クールぶりたいのは分かるけどよ、お前の場合も実体が理想に追いついていないんだわ」


 金髪の女レオノーラはさっきから一言も話さない。


「……シズクはどうした?」


 カムイは元同級生の一人のことを聞いた。


「彼女は体調不良で休んだんだ」


 パウルスが答えた。


「ふーん。それにしてもなんだか131回生の同窓会みたいだな。ジェニーとマルクは来てないみたいだな?」


「…………」


「ああ、そうだったな。あいつら使役物落ちして自殺したんだったな」


 ジェニーとマルクは俺の友達だった。


「だから彼らの分まで僕は頑張るんだ! 僕は彼らの死を目の当たりにすることで勇者として成長した!!」


 トロイが勢いよく言った。勇者ごっこに興じるガキの表情だった。他人は経験値扱い。


「…………そうか。実は俺も……あいつらの分まで頑張ることにしているんだわ」


 俺は自分でもぞっとするような底冷えする声でそう言った。俺の表情はたぶん復讐者のものだ。頑張って、仇を討つ。


 やばい。こいつらと話していると怒りを通り越して冷たい殺意へと変わってしまう。


 ジェニー。マルク。こいつらお前らの死でさえ自分の勇者譚に利用してるんだぜ?


 平民がどれだけ死のうがそれがこいつらの勇者としての英雄譚になると考えている。だからこうして犠牲が出るような行動を自分からとろうとする。



 カムイは息を吐いて自分を落ち着かせた。

 なにはともあれ目の前で捕まっているメトという白い髪の少女やクリスという少年を含む使役物と呼ばれる彼らは死なせたくない。


 無感動な少女メト。


 使役物である彼らは過酷な生活で心を閉ざしてしまっている。


「ペーリィコージャの粘液を溶かすにはやつの体内の内蔵の分泌液が必要だ」


 その情報に彼らはざわめいた。


「俺が今からそいつを倒してくる。お前らのためじゃねぇ。使役物たちのためだ」


「ばっ、馬鹿が! 無理に決まってる! 俺ですら逃げた方がいいと判断した相手だぞ! お前が勝てるわけがない!」


 キュナイカが表情をたいして動かさずにまくし立てた。


「お前はもう喋るな」


 俺はキュナイカに腹パンして黙らせた。白魔法学院の教師陣がなにより一番邪悪なんだよ。トロイたち生徒をこんな風にしたのはこいつだ。

 キュナイカは吐瀉物を吐いた。


「……キュナイカ先生のおっしゃることはもっともだ。あの魔物の強さは尋常じゃない。到底落ちこぼれ一人でどうにかなる相手じゃない」


 ターバンのメトの主人セナンが言った。


「だからな全員で溶解作用のある魔法式を組み立ててそれを試すっていうのはどうだ? 大丈夫だ。危険な作業だが実験は俺の近くの粘液でやる」


 こいつ。あわよくば自分から助かるつもりだな。


 全員それを知っているせいか生徒たちはカムイが一人で戦うよりは100%その方が良いと思っているのにも関わらず、すぐにはそれに賛同できなかった。


「ロ、ロイド君。戦うなんて思い直そう? セナンが言ったような他に方法を──」


 だからクリスティーナは落ちこぼれのカムイが自殺同然のことをやろうとしており、自分の力量を大きく見誤っていると認識しているのでとりあえず止めようとした。

 彼らにとってはカムイが命綱でなのでそれを何としてでも止めるつもりだった。


 ズズズ…….。と奥から振動が響いてきた。


「どうやらもうお食事に来られたみたいだな」


 ペーリィコージャが餌を捕食しに来たのである。

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