悪魔の森2
”使役物”と呼ばれる奴隷を学院の生徒は連れてきていたがキュナイカの指示で連れてきて良い使役物は一人までだった。
「お前……見たことあるな。確かクリスティーナの使役物だったか?」
黒髪のさらさらした髪のなよっとしたちょっと女の子っぽい少年も壁に張り付いていた。
確認の意味でクリスティーナに目を向けた。二人はちょうど近くで捕まっている。
クリスティーナは悔しそうな顔をしている。
クリスティーナが何も言わないのでこっちから喋った。
「お前。なんのつもりだよ。こんな戦闘能力もない子供をこんな危険地帯まで連れてくるなんて」
挑発して聞いたが答えを知っていた。この少年がクリスティーナからペット扱いされているのだ。その証拠に少年の首には首輪がついていた。どうせ、何も考えず愛玩動物として連れてきたのだろう。
「その子が戦う必要なんかないもの。私たち学院の優秀な戦闘職がいるから」
「その優秀な戦闘職様たちが楽しそうに何をやっているのかな? 休憩?」
ギリっと彼らの中に苛立ちを見せる者もいた。
「ご主人様のご趣味に付き合わされてお前も大変だなぁ」
カムイは少年の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
少年の目は死んでいた。いつも学院でクリスティーナに好き勝手やられていた時と同じ目だった。
「く……くぅ~ん。くぅ~ん。くぅ~ん……」
少年は恥ずかしそうにクリスティーナやキュナイカにこの状況からの助けを求めて、犬の真似をした。
「く……あーっはっはっはっは!」
この少年はクリスティーナから人間の言葉で喋ることを禁じられていて可愛いからという理由で犬語で喋ることを義務づけられているのだ。
「っ……!」
少年は顔を真っ赤にして項垂れた。クリスティーナがわざわざこのピクニックに連れてくるだけあって良い容姿をしている。
にやにやしているカムイに項垂れていた少年が顔を少しあげてキッと睨みつけた。
少年は喋ることを禁じられている。犬語でなければ目で意思を伝えるしかない。しょうがないじゃないか。生きていくにこうするしかないんだ。何が悪い。少年の心模様を言葉にするとそんなところかとカムイは思った。
「お前。悔しいだろ? ちょうど片腕が自由だな。ほらいいものやるよ」
カムイは少年にナイフを握らせた。
少年の手の届く位置にはクリスティーナがいる。
「クリスティーナを殺せ。ペット扱いされて自尊心をめちゃくちゃにされる生き方から脱却するにはそれしかないぞ」
少年は言葉の意味がまだ理解できないらしく呆然としていた。
クリスティーナはやや早く状況を理解したようで顔が恐怖に歪んだ。
ナイフを握った少年が亡者のような顔でクリスティーナを見た。
じりじりとした時間。




