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悪魔の森

 カムイが洞窟に入る二時間前。


 アーレム王立魔法魔法学院略して学院の生徒達は和気あいあいと洞窟内部を進んでいた。

 生徒達の年齢は14歳。

 カムイの元同級生たちである。

 生徒達とその担任は授業の一環としてこの森にまできていた。

 ここに来ている生徒達は表情も明るい。その危険性を理解している者は一人もいなかった。


 担任の男はキュナイカといった。

 キュナイカは多少は悪魔の森の危険性を理解していたがそれでも甘く見積もっていた。


 学院にはアーレム王国中から優秀な人間が集まっている。だがまだ子供。

 キュナイカは自分の優位性を保つために生徒達にレベルの高いこの森の魔物と戦わせ、負けさせて自尊心を無くさせようとしていた。


「けっこう奥地まで来ましたね。キュナイカ先生」


 クリスティーナという女生徒がキュナイカに話しかける。今はキュナイカの方が経験でぎりぎり勝ってはいるが、一対一で戦えばキュナイカの方がクリスティーナよりも弱い。


「ですがキュナイカ先生がいらっしゃるから私達は安心して訓練に集中できます!」


 だがその事にクリスティーナや他の生徒はまったく気づいていない。


 キュナイカは女生徒に褒められにやりと笑った。


 その一団から離れて身なりが良くない”使役物”と呼ばれた平民身分の奴隷が追従していた。彼らの顔色の悪さは彼らの待遇を端的に示していた。


「キュナイカ先生。ここの魔術式なんですがこれでいいでしょうか?」


 使役物の一人の14歳ぐらいの少女がキュナイカにお伺いを立てた。

 キュナイカはまさに豹変とも言えるぐらいに態度を一変させた。


「んん? お前そんなことも分からないのか? ダメな奴だな。だから使役物になんだよお前ら」


 キュナイカは冷たく馬鹿にしたように笑った。


「すみません……あの……それでこれでいいんでしょうか」


「そんなこと自分で考えろ!」


 怒鳴られてメトは肩を震わせた。奴隷の身分の彼女は結局どうしたらいいか分からなかった。

 そのうちに生徒の一団は楽しそうに話をしながら進んでゆき彼女は慌てて後ろからついて行く。

 だが結局後でまだできていないのかと怒鳴られることとなった。


「さてではここらへんで休憩にするぞ」


 キュナイカの言葉に生徒達はなんの疑問も抱かずにキャンプの準備を始めた。

 この洞窟は実はナメクジ型の魔物ペーリィコージャの巣であり、その中でキャンプをするなど自殺行為もいいとこである。


「マスター……ここは死臭が多すぎます。危険かもしれません」


 メト・ラーマヤーナ。白い髪で目が隠れた少女が契約上の主であるターバンの男に進言する。


 ターバンの生徒セナンは苛立ち混じりに返す。


「はぁ~!? お前ごときに何がわかんだよ。お前それ全員の前で言ったら許さねぇからな」


 セナンは自分の使役物が下手なことを言ってキュナイカの気を損ねることを危惧していた。


「はい……すみませんマスター」


 しょぼんとうなだれるメト。彼女はまったく大事にされていないので髪もボサボサで伸びっぱなしである。


 キャンプは開始された。

 篝火の中心にはキュナイカがおり、それを生徒達が囲んでいた。

 彼らは楽しそうに談笑し、食事をしている。


 それから離れたところでメトを含む使役物たちは立って見張りをさせられていた。


 何時間かたち、テントの中で生徒達が寝ている間もメト達は無言で見張りを続行していた。


 そこに巨体の魔物が襲いかかってくる。


「敵襲! 敵襲!」


 使役物の一人が声を上げる。


「な、なんだこのバカでかい魔物」


 洞窟内をズルズルと這いずり回る巨体のナメクジを見て一堂は驚愕する。


 ペーリィコージャの口から放たれた液体が生徒達のローブやテントを溶かしていく。


「酸だ!」


 一堂は総崩れになり、たまらず逃げ出した。



  ◇



 カムイは洞窟内を進んでいた。


 あの生理的嫌悪を催させるキモロン毛のキュナイカも来ているとのことだ。面を思い出したらぶん殴りたくなってくる。


 洞窟内でカムイは白くぬめぬめした体液を排出しながら動く何かを見た。すぐにそれが魔物だと分かった。

 二本の触覚が芋虫のような形状の頭から生えている。あれはペーリィコージャという魔物の幼体だ。

 それも一匹ではない。二匹、三匹。

 何かに群がっている。

 ピチャピチャ……グチャ……グチャ……。

 何かが貪られている。

 ちらっと見える白魔法協会の紋章の入った布。


 そいつらが群がっていたものは人間ではなく、馬だった。


(ちっ……。馬鹿が馬を連れて洞窟まで入ってきたみたいだな)


 馬はもう既に助からない。

 馬じゃなく学院の生徒が食われてたら良かったのにと思うカムイだった。


 さらに進むと声が聞こえてきた。

 声の方に進むとそこにはローブ姿の見覚えのある人物がいた。


 学院の生徒達は粘液が固まり、壁に張り付いて動けなくなっていた。

 おそらくペーリィコージャから逃げ回り、小さな洞窟の中で隠れて休憩している時にこの粘液の特性に気が付かなかったのだろう。


「助かった! 救援か!?」


「おおいっ! 助けてくれ!」


 カムイは生徒達のあまりの間抜けぶりに復讐心も忘れて呆れ気味に壁に張り付く彼らを眺めた。


「ロイド君!? 良かった。 俺たち同級生だろ。助けてくれ!」


「ロイド君! 私たち友達よね!?」


 元同級生達が好き勝手なことをほざく。


「くく……あーっはっはっはっ!!」


 カムイは固まって自分たちの力では動くことの出来ない彼らを嘲笑った。


「!?」


「いやぁ……愉快だよ。俺はずっと……この時を待っていた」


 アーレム王国の犯罪者収容施設の地下牢の壁には目の前の者達の名が刻まれている。それは復讐のリストだ。


「ペーリィコージャの生態活動から考えて捕まえた獲物を食べに戻ってくるまであと1時間もないだろうな」


 元同級生達はカムイに買った恨みについて覚えがあった。カムイの様子を見て助けを求めるのは無駄だとカムイに話しかけるのを止めた。


「なんというかその……」


 カムイは小さな声で言いづらそうに話し始める。


「ざまぁないな!」


 嬉々とした表情で両腕を広げる。


「自分の無力さと愚かさで死にかけてるっていうのはどんな気分だ~~? えぇ~~??」


 壁に張り付くマヌケな格好なくせにまだクールを気取っているキュナイカの側頭部を蹴り飛ばしてやった。


「いやぁ。俺としては? お前らの無能さとしょうもなさが証明されてこの上なく幸せな気分なんだが? なんっって馬鹿みてぇな姿だよ! ハハハハハ!」


 ペーリィコージャの巣の粘液が固まって動けないのは元同級生達だけではなかった。


「……なんだ。奴隷も連れてこられていたのか」


「奴隷じゃない。”使役物”だよ」


 優しそうな(・・・・・)顔のクリスティーナが言った。実際優しいという評判を彼女は得ていた。ただそれはアーレムの価値観の中での話だ。


「くく。お金も貰えず、契約魔法で絶対服従を強要されているこいつらが奴隷じゃなくてなんだって言うんだ? まぁお前らは言葉をすり替えて分からなくしているんだけどな。奴隷側も主人側も」

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