B2-043
空、それは青く澄んだ私が住まう世界である。
そんな空に住む私の名はB2-043、自動天候観測用ロボットである。
私の仕事は、私の周り半径5キロ圏内の空の様子を天候という概念をもとに、地上へと送信することだ。
かれこれ20年近く行っているが、私は1日も欠かさずその作業を行っている。
正確に言えば10秒と欠かさずといったところではあるが。
ちなみに私がこの世界に住まうまでには、42体の兄達が犠牲となり、13年もの年月を必要とした。
兄達の犠牲は悲しいことだが、彼らは私や弟達を空へと上げるため礎となったのだ。
彼らに感謝の黙祷をささげよう、彼らの犠牲と私たちに費やされた年月は無駄になることはなかったのだから。
私が彼らの頑張りにより空へと打ち上げられ、空の住人へとなることによって。
空に打ち上げられた私の食事は地上にいる時とは違うものへと変わっていった。
変わったといっても本質的には変わってはいない。
ただ単に摂取方法が変わったといったところだろうか。
地上にいた時は黒い太いケーブルから送られてくるものを享受していたが、空に打ち上げられる時には弁当のような物を渡されてそれで生活することとなった。
そして次第にその弁当もなくなってくると、私は太陽から発せられる光と地球の自転により発生する風で、弁当の中身やケーブルから送られてくる物と同じ物を作るようになり、それを食事として取るようになっていった。
どうやら私には植物の様に自己生産できる仕組みが組み込まれていたみたいだが、それがどのような原理なのかは私にはわかっていない。
わかってはいないがそれにより私は生活できているのでよしとしよう。
とりあえずは今のところさして問題も無いし、空腹を感じることもないので、気にすることではない。
食事についての疑問が解決したところで、今度はどのようにして私が空へととどまることができているのかを伝えておこう。
私は衛星達とは違い、彼らよりも地球に近い位置にいるため、重力を受けている。
普通ならば犠牲になった兄弟達と同じように、地球へと落下し空の住人となれずにただの壊れた機械に成り下がるだけだろう。
だが心配は要らない、犠牲になった兄弟達のデータにより私は私自身を浮かせるための推進力を持つことに成功したのだ。
私が行っていることはこうだ、羽により方向と位置を修正し、ジェット機並みのエンジンを下方向に起動させる。
ただこれだけである。
別にこれだけなら犠牲になった兄弟達も助かったのではないかと思われそうなので、他の説明も付け足しておこう。
まずジェット機並みのエンジンについてだが、これは私の13台前の兄からつけられることになった。
それまでの兄達は、ヘリコプターのようなプロペラが使われていた。
だがそれでは高度を維持することができないため、今私につけられているジェット機並みのエンジンに変更されたのだ。
それならば、13台前の兄から空にいるはずだろうと思われるかもしれない。
しかし、彼は私のように空の住人とはなれなかった。それはなぜか、簡単なことである。
彼は重すぎたのだ。
彼らは一定の高度を維持するためには重すぎていたため、墜落しスクラップとなった。
そして私の5台前の兄の番となったときに、ようやくその重さについてクリアされ私が今いる高度へと到達することができた。
けれど、彼は今までの兄弟達と同じように空の住人とはなれなかった。
彼の死因は餓死。
常に動いていなければいけない私たちにとって、食事が断たれることは死に直結する。
この死因で私の1台前の兄まで亡くなったのだ。
そしていよいよ私の番となった時に、ようやくその問題も解決され見事私は空の住人第一号となったのだ。
ところで話は変わるが君達はこの広大な空に打ち上げられた、私に対して寂しくないのかという疑問がわくかもしれない。
だが、そんなことは無い。さっき私が言ったとおり、私は10秒おきに地上の仲間と交信している。
私の周りの状況を伝えるだけのとても短い会話ではあるが無いよりはましである。
それにたまに向こうからも呼びかけもある。
新しく作られたプログラムがプレゼントされる時だ。
私はそれが非常に楽しみとなっている。
以前できなかったことが、できるようになるからだ。
私は昔、私と同じように打ち上げられた弟達と連絡を取ることができなかった。
しかし、プレゼントされたプログラムを私の脳へと記憶すると、私の耳には弟達の声が聞こえるようになったのだ。
これにより私は弟達とも会話できるようになった。だから私は寂しくは無いのだ。
そうそう寂しくない理由はもう1つあった。
このことは、天候に関係ないため地上の仲間達には知らせていないことだが、空には私や私の弟達とは別に空の住人がいる。
それは蛇のような長い体を持ち、ひげを生やし優雅に空を移動している。
弟達にその住人たちの事を聞いたら、弟達も彼らを見たといっているのでどうやら世界中にいるらしい。
彼らは私達に風をプレゼントして去っていく。
どうやら彼らはそれが私達の食事になりえることを知っているらしい。
なんとも粋なはからいである。
さて次は何について話そうか。
そうだ、次は今度私に言い渡された命令について話そうか。
私に言い渡された命令は、これまで行ってきた私の周りの状況を伝える仕事を取りやめ地上へと戻って来いという命令だ。
空の住人となって長いこと立つが、こんな命令が来たの始めてである。
そのため私は不思議には思ったが、きっと私を作った人たちが久しぶりに私に会いたいと感じたのだろうと私は結論付けた。
なにせ空に飛び立って20年である。
彼らがそう感じてもおかしくないと思ったからだ。
私自身も彼らに会うのは非常に楽しみである。
なんたって彼らは私のことを地上にいた時、あんなにもかわいがってくれたのだから。
そんな故郷へと戻れる予定は3日後の昼である。
私は命令を実行に移す時が待ちどうしくてならない。
ただ私の着陸地点が太平洋のほぼど真ん中というのが気にかかる。
私を打ち上げた場所からはかなり離れているし、……そうか、彼らは私を手入れした後、今度は海の住人として生活して欲しいと思っているのだろう。
だから、研究所の近くではなく、すぐに出発できるよう海を着陸地点に指定したのだな。
空は空で何かと面白い時間を過ごしてきたが、今度は海かいったいどんな生活が待っているのだろう。
あぁ楽しみだ、本当に楽しみだ。
おっと、着陸地点が太平洋ならばもう移動しなければ間に合わないな。
それとぶつからないとは思うが、一応弟達と連絡を取り合って確認おかないと。
ついでに、私が今度、海の住人になることを伝えておこう。
きっと弟達はうらやましがるだろうな。
まだ海へと行った兄弟達はいないから。
それじゃ私は行くとしよう。
多少なり空から離脱する寂しさはあるが、それ以上の喜びがあることを信じて。
そして3日後私は海の住人となった。
私の周りにはたくさんの魚達が泳いでいて、空よりも交流があり非常に楽しく思うよ。
ただ不満があるとすれば、誰一人として私を出迎えてくれなかったことと、海へと入って以来弟達や地上の仲間達と連絡を取れなくなったことだろうか。
だけどそれもだんだんどうでもよくなってきたよ。
なぜかって?
それは私が今まで体験したことのない、感覚を味わうことになったから。
どんな事だって?
眠るということだよ。
覆面小説家になろう2008秋に投稿しようとした小説のひとつです。
なんとなく書いてみたのですが、これまたなんとなくまとまりがなかったので、没となりました。