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オセロと一緒

『猫には9つの命がある。』ということわざを聞いたことはあるだろうか。ちなみに俺は知らなかった。


目を開けた俺は驚いた。一面見たこともない程の美しい草原。その向こうには川なのか湖なのかはたまた海なのか、端が見えない。風が軽く吹き、鼓膜を振動させる。


「…ここどこだ?」

混乱する頭で何故今自分がここに立っているのかを考えた。…ついさっきまで俺はコンビニで発売されたばかりの雑誌を立ち読みして、小腹が空いたなと思ってポテチとコーラを買った。そのままブラブラ歩いてて…


「おやぁ?おかしいねぇ。こんな所に人間の子がいるなんてぇ。」

やや耳障りな語尾を伸ばす話し方が後から聞こえて来た。声の主は大きな黒猫の被り物を被り、顔は確認できないが、そこら辺のアイドル顔負けの抜群のスタイルをしたお姉さんだった。胸は大き過ぎず程よく付いていて、細過ぎでもなく、正にドンピシャのウエスト、スラッとした細い足。ここでヘンテコな猫の被り物さえなければ思わず付き合って下さいと言ってしまいそうな、そんな人が立っていた。


「えっと…」

返す言葉が思いつかない俺をよそに、“猫の人”は続けた。

「あぁ、あれだぁ。ここどこだろう?って感じかなぁ?」

「えぇ…」

「ここは死後の世界。まぁ人の死後ではないんだけど…ふむふむなるほどねぇ…そういうことかぁ…また気持ちが落ち着いたらうちにおいでよぉ。ほらうち、あそこだからさぁ」

そう言って丘の上にある白壁の建物を指差した。

「じゃあねぇ」

そう言って白壁の建物にゆっくり歩いて行った“猫の人”の後ろ姿に見とれてしまっていた。


ってちょっと待て。あれ、今あの人死後の世界って言った?どういうことだ?そもそも俺…


「…死んだって」

「その通りでございます。矢木様。」

「どぅわ、びっくりした!って猫…?」


いきなり隣に現れた猫にびっくりした俺をよそに猫は続ける。


「人としての人生はいかがでしたか?矢木様。」

猫の瞳はじっと俺の目を見つめている。どうやら俺は夢を見ているらしい。そりゃそうだ。猫は喋らない。せいぜいニャーと鳴くくらいだ。当たり前だ。うん、そうだ。これは夢だ。うん。そう腕組みしながら小さく頷いた。それならいつか覚めるんだし、この夢を見ることにしよう。


「聞いておられますか?矢木様?」

「あぁ、すまん。聞いてるよ。んで何だっけ?」

「やはり聞いておられないじゃないですか!人としての人生はいかがでしたか?とお尋ねしたのです。」

「うーん、人としてって言われても俺まだ17だし、これからっていうか、まだまだ何もできてないなっていうか…よく分からん。それよりお前は口を動かさなくても喋れるのか。何だか腹話術みたいだなぁ。」

「17年も生きたのでしょう?猫としては十分過ぎる程の長生きです。それに、やはり…記憶もないようですので、一からご説明致します。」

そう言う猫は少し寂しそうに付いてきてくださいと言い、俺を呼んだ。


「話は済んだかぁい?オセロ。」

「いえ、どうせならバステト様にもお話を聞いて頂きたいと思いまして、矢木様をお連れ致しました。」

「ふーん」


俺はさっき猫の被り物を被った人、“猫の人”が歩いて行った白壁の建物の中に連れて来られた。あの“猫の人”はバステト、連れて来たこの猫はオセロと言うらしい。なるほど、白黒の毛並みだからオセロか…他になんかなかったのか?ってか誰だよ、そんな適当な名前つけたの…


「おやぁ?覚えていないのかい?君がつけた名前じゃないか。忘れたのかい?」

「…えぇ、バステト様。どうやら矢木様は猫の頃の記憶がないようです。私だけではどうやって説明したら良いか考えが及ばず、こちらに連れて来た次第です。」

「ふーん、なーるほどねー。まぁ、人に転生しちゃったんならそういうこともあるかもねぇ。」

「えぇ、もしくは私がこちらの世界に連れて来る際、車に轢かれたせいで記憶が抜けてしまったのかもしれません。」

「まぁねぇ、それもあるかもねぇ。もともと矢木はそこまで賢い方でもなかったから、それもあるかもよ?クスクス」


何だろう。人のバステトと猫のオセロが何の違和感もなく喋っているこれは一体どういう状況だ?全然理解できない。それに矢木は賢い方じゃねぇって言ったか?この女ちょっとスタイル良いからって…あれ?そもそも何で俺喋ってないのに…まるで考えてること見透かしたみたいに…


「おや、スタイルが良いってぇ?ありがとう。まぁ読心術なんて神の私からしたら簡単なことだよぉ。」

…は?神?

「はい、バステト様は神です。そして私も読心術くらい使えますよ。」

オセロの目がじっとこちらを見つめている。

「何度も言うようですが、あなたは死んだのです。人として生きた17年はいかがでしたか?矢木様?」

「ちょっ、ちょちょちょっと待て!って何か?俺は本当に死んでんのか?さっき連れて来たって言ってたがどういうことだよ?」

「あなたはコンビニの帰り、道路に飛び出した私を助けようと道路に飛び込み、そしてトラックに轢かれたのです。」


…そうだ。思い出した。何でか分からないけど考えるよりも早く助けようと思って…


「そう、思い出したようだねぇ。そうさぁ。君は死んだ。そしてここに来たのは約束していた通り、私の次の神になるため。どうせ俗世に未練などないはずさぁ。そうだろぉ?矢木よ。」


約束ってなんだ。ってか何この展開。ついていけないんですけど!何言ってんのこの人?確かに死んだことは思い出した。だからってこんな急な展開を受け入れられるかよ、普通!しかも何?約束って?こんなにスタイル良い人との約束なら絶対俺忘れねぇだろ!


「矢木様。それはまだあなたに人としての感性が残っているからスタイルが良いと思われるのです。そして曲がりなりにもあなたはオス。私のようなメスの猫からすれば人の体型などはどうでも良いこと。ただこの猫の被り物に関しては素晴らしいと思います。」

「ありがとう、オセロ。ただ体型どうでも良いってのはよくないかなぁ。これでも一応神だからさぁ、ほら恵比寿のおじさまみたいなメタボになりたくないじゃん?」

「バチが当たりますよ、バステト様。あれでも七福神と言われる神様のお一人です。雰囲気的にも何かしらご利益ありそうじゃないですか。それをメタボなどと…あれ?矢木様?」


俺は頭の中が真っ白になっていた。


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