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謎の少女にも料理を振る舞います

 とりあえず、まずは正面で抱きついている少女の喉を看てみよう。


「あなたは声が出せない、んですよね。じゃあ……『ヒール』」


 回復魔法を使ってみたけど……こちらを見て首を傾げるばかりで、変化があったようには見えない。

 ……回復魔法では、ないのなら。


「『キュア』……どうだろう……」


 状態異常回復魔法の方を使ったけど……傾けた首が、今度は逆に傾く。

 ……何の効果もない、かあ。


「仕方ない。えっと、僕の言ってることはわかるんですよね? 必要があれば僕から声をかけるので、それでやりとりしましょう。あなたも何か僕に用がありましたら、そうですね……服を摘んだりして、僕の気を引いて下さい」


 こくこくと頷く。

 頷くと同時に……くぅ〜〜〜、とお腹の音が鳴る。

 魔族の少女は、ちょっと恥ずかしそうに、自由になった手で頬を掻きながら視線を下に向けた。


 ……確かに、僕も結構お腹すいてきたな。


「よし、懸念事項が一つ取り払われたということで、一緒に食事にしませんか? 僕もお腹すいちゃって」


 少女の同意を待つことなく、手元のアイテムボックスから少量のソーセージを取り出す。

 ……次手に入るのはいつになるか分からない、今は食料も水も金銀財宝、宝石魔石以上の貴重品だ。

 だけど……。


「今からこれを焼きますね。マ……魔人王国女王のアマーリエ様にも好評だったんです」


 いけないいけない、ついついいつもの癖で、簡単な略称で呼びかけてしまった。

 そう、この少ない食糧をこの子に分け与えるのだ。


 確かに飢えは厳しい。しかしそんなことを考慮に入れる必要がないぐらい、今はデーモンに出会ってしまう方が危険だ。

 デーモンは属性魔法があまり効かないと言っていた。そうなったら魔矢かミートナイフしかない。

 とてもではないけど僕一人で相手にはとてもできないだろう。


 しかし……この少女は、今自分の手枷を破壊して鎖を引きちぎったあたり、間違いなく相当に強いはずだ。

 彼女と協力する選択肢抜きに、ここを脱出できるとは思えない。


 僕はそうこう考えながら、手元で焼き上げたソーセージを一つ彼女に与える。


「お口に合えばいいですが」


 以前作ったオーガロードのソーセージだ。

 外から見てもぶつぶつとした緑が見えて、中の味を引き立たせる。

 そういえば、デーモンはこれが苦手なんだよな……。


 僕が自分のソーセージを食べながらも、彼女が恐る恐る食べる様子をずっと見ている。

 正直、これを気に入ってくれるかどうかが今後に大きく影響するだけに、今までで一番緊張する場面かもしれない。


 口に含む。

 ぱきり、と音が鳴る。


「……。……!」


 彼女の咀嚼する速度が上がる。

 そしてもう一口、小さく食べて……咀嚼しながら今度は僕の方を見る。

 その顔は驚きに瞠目していて……うん、悪い雰囲気はなさそうだ。


「気に入っていただけたら嬉しいです。どうですか?」


 少女は首をかくかくと必死に縦に振って、再びソーセージを囓る。

 よかった、ある意味最大の関門は突破した。


-


 食べ終わってひとまず満足すると、自分の指先をぺろぺろと舐める少女の微笑ましい姿が見えた。

 もうちょっとこのまま見ていたくもあるけど、のんびりしてもいられない。

 

「さて、話をいいでしょうか」


 先ほどより幾分警戒心の解けた雰囲気で僕の方に向く。


「僕はつい先ほど目を覚まして、恐らくデーモンに連れられてここにいます。デーモンと敵対しているので、襲われたら間違いなく殺されるでしょう」


 真剣な様子で、僕の話に相づちを打ちながら聞いてくれている。


「特殊な魔矢という弓矢攻撃はできますが、デーモン相手にはあまり自信がないんです。先ほどの姿を見た限り、もしもしデーモンに出会ったら僕は殺される」


 少女がごくりと生唾を呑み込む。


「もし、デーモンと出会ったら……こんなお願いは情けないんだけど、僕の代わりにデーモンを仕留めてほしいんです」


 どうだろうか……。

 魔族の少女は、視線を下に向けて、じっとしている。……すぐに頷いてくれるかなとほんの少し期待をしていたのだけれど、即答とはさすがにいかないか。


「もし、あなたさえよければ、僕の知人に魔人族で回復術士のエキスパートの……もしかしたら知ってるかもしれませんが、エファさんという体の欠損でさえ一瞬で治してしまう凄い人がいます。君の症状も治してもらえるかもしれません」


 お、興味を示した。

 口に手を当て、考える仕草をしている。

 もう一押し、だろうか。


 ならば……。


「……僕が無事に帰れた時には、さっきのソーセージ……そう、今食べたもの。あれをたくさん使った料理や、他にもいろんな料理を提供することができます。さっきのものも、僕がオーガロードと動物の腸から作ったものですから」


 ぎゅんっ、と首をこちらに向けて、目を見開いている。

 おお……かなり興味津々な様子。これは手応えありか。


「もっともっと、作れますからね。調理器具があればここでも作れますが、実は食べるものはさっきのソーセージが最後です。だから、一緒に連れて行ってもらえないでしょうか」


 少女は、目を閉じて少し悩むと、次は僕の目を見てしっかりと頷いた。

 よかった……一緒に行けなかったらかなり危なかった。

 これで大幅に助かる可能性が上がったはずだ。


 ……リンデさんや姉貴にも、心配をかけているだろう。ここで合流できるだろうか。

 あのリンデさんの心配そうな最後の顔を思い出すだけで、胸が締め付けられそうだ。

 無事であることを早く伝えたい。


 さあ、脱出開始だ。

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