謎の魔族がいました
灰色の魔族の少女。
そう表現するしかない、見た目の色彩が一切ない女の子。
部屋の中には白い魔石の灯りがあるので、彼女の姿は綺麗に確認することができた。
白い髪、黒い角、灰色の肌、そして……両腕に手枷が嵌めてある。
その顔、両方の黒い目の中に赤い光が灯っているのが見えた。
レオンやユーリアと同じタイプの目の色だ。
ちょっと肌の色は違うけど、見た感じ魔人族のようだ。
リンデさんと初めて会ったときもこう言ったけど。
両方の目、と表現しているだけあって、その少女と今ちょうど目が合っている。
まあ、足音を殺しながら歩いたといっても、ここまで静かで石造りの建物なら足音を完全に消し去るのは無理だろう。
その少女は、こちらを見たまま何一つ言葉を発しない。
何やら僕を見て固まっているようだけど、
「……静かに。あなたも捕まっているのですか?」
僕が声をかけると、その少女は更に目を見開き、静かにこちらへと近づく。
「……」
何も言葉を発しないまま、じっとこちらを見ている。
……な、なんだろう。
「……あの……何か返事をいただけると……」
「…………」
「もしかして、言語が分からない?」
僕がそう呟くと、目の前の少女は首を横に振った。
横に振ったということは、違うということ。
つまり、こちらの言葉は分かっているらしい。
彼女は自分の喉をとんとんと叩いた。
「……僕の言語は分かるけど、声は出せない」
頷いた。
……なるほど、声を潰されているということは、魔法を封じられているということなんだな。
この少女……どうしたものか。
見た感じ、敵対的な雰囲気は全く感じられない。
だとすると、味方としても大丈夫だろうか。
一応檻の中にいることを踏まえて、安全圏であること再確認する。
返事だけでもできるのなら、質問をいくつかしてみよう。
「僕は、人間です。あなたは僕の敵ではないように感じます。あなたはどうですか?」
少女は、こくこくと頷いた。
……ふうむ、嘘をついている可能性もあるけど、どうもそういう様子じゃないよなあ。
「あなたは、デーモン……あの大きくて人型だけど人間とは違う存在に捕まっているのですよね?」
少し考え込むように顎に手を乗せて……僕の方を向くと、頷いた。
これも間違いないだろう、だって僕と似た状況なんだから。
そして彼女は、喉と手を封じられている。恐らく相当に強いはずだ。
「……最後の質問です」
「…………」
「この牢から僕は出たい。あなたも協力してくれるのなら嬉しいですが、あなたは牢から出たいですか?」
「————!」
少女は、目を見開いて、必死に頷いた。
……演技じゃ、ないだろう。彼女もここから出たいようだ。
ならば、することは一つ。
「近くに来て下さい。そして、後ろを向いて手を僕に向けるように」
少女が言われたとおりに、扉の前に来る。
白くて華奢な手と、無骨な手枷が見える。
「うまくいくかどうかはわかりませんが、僕が魔法を使うので、力を入れて手枷を破壊してみてください。……『フィジカルプラス・ダブル』」
少女に対して強化魔法を使う。と同時に、頭の中が一気に暗くなり、酸欠と同じような症状に襲われる。
練習はしたんだけど……短時間に二回連続は、人間の身には堪えるな……。
さて、魔法の威力はどうだろう。
「…………!?」
少女は何やら震えている。少し待ってみると……!
突然少女は、壁まで走ると、振り返って勢いよく壁に跳んでいって、腕の手枷と壁を衝突させた!
バキィン! という音とともに、手枷が破壊される!
「よし……!」
「!」
少女が目を見開いて、恐らく久々にであろう、自由になった自分の両手を前に持って握ったり開いたりしている。
次に、こちらまで来ると……頑丈に封をされたような牢の鎖を、あっさりと引きちぎった。
そのまま僕と同じように牢の柵を持ち上げると、僕と少女を隔てるものはなくなった。
明確に喜んでいると分かる顔をして、僕に抱きついてくる魔族の少女。
まだ分からないことだらけだけど……とりあえず、協力相手と思われる相手ができた。
よし、脱出目指して頑張ろう。