今の状況までを思い出します
……暗い。
頭が痛い。
僕は、一体何を……?
リンデさんとユーリアと組んで南の森に入って、魔物を掃討して。
ゲイザーを撃って、オーガロードが沢山出て来た。
それから————。
————ッ! そうだ、デーモン!
周りを見る。ここは……なんだ、ここ?
石を雑に削ったような壁、天井。
建物……そう、建物だ。
間違いなくこれは、人工の建造物だろう。
直前に起こったことを思いだそう。
僕がデーモンに掴まれた、その瞬間————。
-
急に体が引っ張られて、すぐ横にいたユーリアが驚いた顔をした。腰の辺りの感触に、僕はユーリアに向かって叫ぶ。
「助けを呼びに戻れ!」
こちらに踏み出そうとしたユーリアが目を見開き、踏みとどまる。
そしてデーモンが移動したと同時に、今度はリンデさんと一瞬目が合う。
目が合った瞬間、リンデさんは連れ去られる僕を追いかけるように走って来た。しかし……!
「こ、こいつらッ……!」
リンデさんに向かって、さっきまでどこにいたんだという量のゲイザーが襲ってくる。光線ではない、僕とリンデさんの間に割り込むようにして体当たりをする形だ。
もちろんリンデさんだって負けてはいない。腕を振るってゲイザーを吹き飛ばすと、全くスピードを緩めることなくこちらを追ってくる。
しかし追いつかない。
何故だ? リンデさんが追いつかないなんてこと、あるはずが……!
僕は自分を腕一つで抱えているデーモンを見た。
その顔は他のデーモンと同じ……ようで、何か雰囲気が違う。そもそもこいつ、全身が真っ黒いフードを被っていて、角まで隠すような……それに、背も低い。リンデさんや僕より低い。
……いや、もしかして……こいつは……!
そうか、すっかり僕自身が油断していた。
想像できていなかったのだ。
魔人族には、時空塔騎士団以外にもいろんな魔人族がいたと姉貴が言っていた。
その中でもリンデさんは格別に強い。
デーモンは、同じような顔のやつを姉貴が同じように倒していた。
そして以前、ガルグルドルフというデーモンの幹部を姉貴が倒した。
幹部。
そうだ、デーモンにだって幹部がいる。
僕は、リンデさんが強いということで完全に油断していた。
リンデさんより強いデーモンがいるかもしれないという、当たり前すぎる可能性を全く考慮していなかった。
だってリンデさんだって、クラーラさんより弱いんだ。
そしてクラーラさんだって、ハンスさんを相手にすると勝てるかどうかはわからない。
リンデさんはハンスさんを一番強いと言っていたのだから。
デーモンだって、当然そういう存在がいてもおかしくないのだ。
それにユーリアみたいな、魔法だけ優秀な奴だっているかもしれない。
強化魔法だけ得意な存在、回復魔法だけ得意な存在。
例えば————そう、例え弱くても走るのだけ速いデーモンがいても、おかしくはないのだ。
リンデさんはなおも真剣な眼差しで走ってくるけど、デーモンが次に取った一手は恐ろしいものだった。
あの量のゲイザーを……リンデさんから離れるように、わざと見せびらかすように大量に村へと飛ばしたのだ。
「リンデさん!」
「諦めません! 私は……!」
「倒してください!」
「私は……ライさんのお願いでも、ライさんよりこいつらを優先することなんて……できませんッ!」
そこまで、僕のことを……!
僕がなんとか脱出しようと暴れて次の返事をしようと思った瞬間に、頭上から溜息とともに、頭に衝撃が走った。
リンデさんの悲鳴が聞こえて、視界が暗転して……。