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ミア:とんでもない急展開、だけど絶対諦めないわよ

 あたしが村に戻ってきた時に最初に見た顔は、なんかもう号泣しまくっててヤバイ感じになっているユーリアちゃんだった。

 さっき戻ってきたばかりだという。マーレが両肩に触れて……あ、今から話を聞くところなのね。

 それにしてもユーリアちゃん単独行動だったの? 何してたのかしら。


 そんな暢気なあたしの考えも、次の一言で吹き飛んだ。


「ライ様が……ライムント様が、敵のデーモンに連れ去られて……!」


————気がついたら、あたしはユーリアちゃんの両肩をマーレの横から握っていた。


「南の森なのね」

「あ、ミア様……! 申し訳……」

「南なのね!?」

「ッ! はい! ジークリンデ様もそちらです!」


 リンデちゃんが追っかけてるんだ、なら多少は気が楽ね。

 あたしが剣を出したと同時に、後ろから「『フィジカルプラス・オクト』」と声がかかる。さすがレオン君、あたしが次に何をするかお見通しね。


 あたしがレオン君にお礼を言おうと思ったんだけど。

 その前に、とんでもないことが目の前で起こった。


「ビルギット!? ま、待ちなさい!」


 なんと巨人で淑女のビルギットさん、ライの話を聞いた途端に無言で南の森へすっとんでいった。

 めちゃめちゃ体でかいから、本気で走ると速いとは分かっていたけど……思った以上に速かった。

 それにしても、あのマーレに絶対の忠誠を誓っているであろう、命令違反とかユーリアちゃんの次にしなさそうなビルギットが思いっきり最初にフライングした。

 それの意味するところが分からないほど、あたしも鈍くはない。


「マーレ、行かせてあげて! あの子がライに対して特別な気持ちを持っているのはわかるっつーか、ある意味リンデちゃんの次に二人は仲が良かったから。今止めるとさすがの魔王様でもマジで恨まれるわよ」

「ビルギット、あなたはそこまで……そう、そうよね。魔人族であなた自身を見てくれた人は、ライさんだけだった。わかった、ビルギットの好きなようにやらせるわ。……ミアも行くのね」

「もちろん。それと」


 あたしはレオン君と目を合わせた。


「レオン君、マーレの隣にいて、彼女に強化魔法をかけて組んであげて」

「できればご一緒したいですが、ご迷惑でしょうか」

「連れて行きたいわよ。だけど今はあたしにとってマーレも重要だからさ。えーっと、クラーラちゃんが応援連れてきたら、カールさんとかと一緒に追っかけてきてくれると嬉しいわ」

「必ず向かいます」


 必ず向かいます、だって!

 男の人に追いかけられるのって、やっぱ女の子の夢よね。

 こんな状況じゃなければ、だけど。


「わかった。それじゃあたしもすぐ向かうわ。ユーリアちゃん、よく帰ってきて伝えてくれたわ。偉い偉い」


 ユーリアちゃん、あたしが褒めると再び泣き出しちゃった。……悔しかったでしょうね。


「違う、んです……本当は私も追いかけようと思ったのですが、ライ様は連れ去られる直前、すれ違い様に『助けを呼んできて!』と叫んだのです。だからジークリンデ様が追いかける姿を見て、急いで戻ってきました」


 ……それ、不意打ちで連れ去られる直前に叫んだの?

 相も変わらずライの頭ってどーなってんのかしらね、あれがあたしの弟っての信じられないわよ。

 運動神経の悪さもあたしの弟っての信じられないけど。もちろんこっちは悪い意味で。


「とにかくあたしはすぐに追いかけるわ。……ところでマーレに聞くけど」

「何?」


 あたしはキリっとした黒い目をしたマーレのおでこを、指でつっつく。


「ちょっ……こんな時に何?」

「最初に会った時のこと思い出したけど、自分の命は絶対に一番大切にしなさい」


 嫌そうな顔から一転、きょとんとした感じの驚いた顔になる。


「どーせ『ライ様のためなら私の命を差し出す!』とかアホなこと考えてそうだから、先に釘を刺しておくわ」

「あ、アホってなによ!」

「やっぱり思ってたんじゃない! ほんと信じられないわねこいつ!」


 あたしはぷりぷり怒るマーレのおでこを指ではじくと、「きゃん!」なんてかわいらしい声を上げて涙目で尻餅をつくマーレを見下ろしながら腕を組んだ。


 ……ほんと、最高にいい奴だよ、あんたは。

 だけどね————ちょっといい奴すぎてめんどい。


「あたしだって最強無敵なことにかまかけてバカやってきた分はライのためなら命を引き替えてもいいぐらいの気概でいるけどね、あんたの命もわりとそれぐらい、あたしにとって大切なの!」

「え、ええっ!?」

「そして、今すっとんでいったビルギットさんだって、マーレが犠牲になったらライが死んだ時と同じぐらい悲しむわ。他のみんなも同じレベルでね。だってあんた、めちゃくちゃ慕われまくってるって分かるもの」


 そう、それがマーレだ。

 魔人王国女王、アマーリエなのだ。

 死んで都合が良かったとか、政略がどうとか、もーそんな考えするヤツなんていないことぐらいアホのあたしにだって分かるっつーの。


「そして、あたしもおんなじぐらい悲しむわ。更に言うと、ライもだろうね。……だから、ライの代わりに犠牲になろうだなんて絶対思わないで。あたしのために、生きることを最優先に考えて」


 マーレは……目を閉じて溜息をついて、再び目を開くと……大分余裕のある顔になったわね。


「ほんっと、普段はダメダメなのに、こーゆーときだけこーなっちゃうんだからミアってずるいよね」

「褒めてくれてありがと」

「ええ、大絶賛よ」


 そしてマーレは立ち上がると、一歩下がって片手を上げた。


「ミア、友達としてお願い。私の分まで暴れてきて!」

「任せなさい!」


 その手に向かってハイタッチすると……マーレはふらついて再び尻餅をついた。

 地面で「もーっ!」とか言ってる。勢いつけ過ぎちゃったわね!


 ……それじゃ、行きますか。

 リンデちゃんとビルギットさんが行ってる以上、二人が勝てなかったとしてあたしにどうこうできるとは思わないけど、でも追いかけないなんて選択肢はありえない。

 勝てないから挑まない、なんて考えは端からない。


 だってあたしは勇者だから。

 ……というわけじゃない。

 あたしを今突き動かす理由は一つ、たった一人の家族だからね!

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