隙を突かれてしまった
マグダレーナさんを思い出して震え上がるリンデさんにちょっと苦笑しつつも、僕たちは長く伸びる道を進んでいく。
「そういえば、この道ってカールさんとビルギットさんが一緒になって作っていってたんですよね」
「そですねー」
「切り倒した木は、一体どこにあるんでしょうか」
そう、ここまで綺麗に南の森を一直線に歩けるということは、今まで通ってきた道に生えていた木が全部なくなっているということだ。
しかし、村に木は見あたらない。
僕の疑問に、リンデさんが笑顔で応えた。
「ここですよ」
そう言って、自分の胸を指差した。って、まさか……!
「ここの木、全部入ってるんですか!?」
「えへん!」
リンデさんが僕の家を入れた時点で、ちょっとおかしいレベルの魔力保有量だなとは思っていた。
全然認識が足らなかった。
「ちなみにユーリアってどれぐらい入る?」
「……さすがに、オーガキング一体分ぐらいが限界です。なんだか何をやっても器用貧乏って感じで……」
「いやいや、十分すぎるぐらい器用だと思うし、一種類ずつでも人間社会じゃトップで活躍できる実力だよ。周りがちょっと特別すぎるだけで」
ユーリアは、なんともいえない苦笑いを浮かべた。
……うん、ユーリアは本当に凄いと思うよ。周りが凄すぎて、正当な評価を下してあげられないのが惜しいなと思うぐらい。
「私の周りは本当に超人だらけです。その中でもジークリンデ様は特別ですね、持って生まれた才能が圧倒的というか……」
「うっ」
「剣も、確か努力せずに今の実力になったとか」
……え? 待って、なにそのとんでもない情報。
「リンデさんって、剣術を習ったりはしていないんですか?」
「あ、あはは……はい、一応沢山普段使いしていることはしているんですが、何かを習ったり、トレーニングに取り組んだりということはなかったです」
天才剣士、天才剣士と言われていたけど納得だ、天才以外の何者でもないなあ……。
「真面目に取り組むっていうより、まずは体を動かす! ってのが好きで、陛下も『リンデちゃんは、まーそっちの方が伸びるのかもね』って言ってくれて、マグダレーナさんが私に魔法を教えるのを諦めたのはその辺りですね」
「そこもマーレさんの一声があったからなんですね」
「はいっ! 陛下の判断はみんな信頼していますから!」
マーレさん、人を見て育てる才能も高かった。欠点ないんだろうか、と思ったけどあの人に限って欠点とかあるはずないよなって当たり前のように僕も受け入れている。
もうほんと、魔人王国がビスマルク王国の隣にあったら魔人王国の方に移籍してるよ。
……多分村人全員来るんじゃないかな。
魔王を倒すはずの勇者とその末裔、みんな魔王様と友好関係である。
その未来がもはや、そっちの方が自然だと思ってしまう自分に我ながら呆れる他なかった。
「さて……」
いよいよ魔物の数も増えてきた。
僕の独断と、自分を試す部分もあって前に出てきてしまったけど、さすがにそろそろ引いた方がいいだろう。
「リンデさん、そろそろ戻りましょう。姉貴も戻ってきているはずだ」
「わかりましたっ! それじゃあ————ッ!?」
リンデさんが急に雰囲気を変えて、南の道の先を見る。
僕もそちらを見ると……!
「なんだ、あれ……」
オーガロードがいる。その魔物自体は、さっきから沢山いたから分かる。
しかし……数が半端ではない。異様に固まっている。
同時にこれが村に襲ってくるのなら、散開される前に片付けた方がいいだろう。ちょうどいいタイミングともいえる。
「リンデさん、あいつらを斬ってから戻りましょう」
「わかりましたっ!」
リンデさんが視界から消える。
瞬間、オーガロードの首が何個も空に飛び、目の前にいるオーガロードが消えていく。間違いなく、リンデさんのアイテムボックスの魔法の中に入っているのだろう。
とんでもない活躍っぷりだ、本当に村の守護神だよ、リンデさん。
「ライさんのハンバーグの材料になれーっ!」
……活躍しているのはいいんだけど、かけ声はとってもリンデさんって感じだ。
こんな局面なのに、なんだか緊張もほぐれてきてしまう。
————それが、いけなかった。
僕の体が、急に引っ張られる。
それはリンデさんが、僕を持って走った時の感覚に似ていた。
視界が暗くなり、続いて、腕に激痛が走る!
何が起こっているのか……状況を把握した。
僕の体を、デーモンが掴んでいた。
そしてそのまま、横の森に入ったのだ。