三人のパーティは、いいバランスです
南の森。それは両親が潜入し、魔物を引き連れた両親が殺されてからは村人達の間ではタブーとなっている場所だった。
この森に入っていったのは、勇者となった姉貴だけだったように思う。一日入って、すぐに出てきた。
相当暴れたのか、派手に返り血を浴びていたけど、顔は晴れていなかった。
いくら倒したところで、納得できないのだろう。
しかし魔人族の強さを皆が知って、トーマスの先導のもと開拓が進められた。デーモンの情報を聞いてからは、ますます積極的になった。
そんな、村にとっては因縁のある森が、ここ南の森だ。
今、僕はその森にいる。
魔人族は、出てくる魔物を倒しながら開拓した。
カールさんとビルギットさんと、時々クラーラさん。
三人の活躍により、開拓が急ピッチで進んでいた。
いざ入ってみると、かなり長い道の木が取り払われている。
元々ここが道だったと思うほど、草木の生えてない直線の道だ。
「ユーリア、くれぐれも燃やさないようにしてくれ。恐らくトーマスはもちろん、マーレさんも何かに使うと考えているようだし」
「ハッ、承知しました!」
「リンデさん、敵が出てきたら対応をお願いします。僕の魔矢は試しに撃っただけに過ぎない。恐らく威力はいずれ落ち着きます」
「わかりました! 敵が出てきたら、どんどん倒しちゃいますよ! この森は私もずいぶんパトロールしてますからっ!」
頼もしい。
リンデさんはこの森もパトロールの範囲に入れていたとは聞いていたけど、やはり村人達にとって危険な森でも、リンデさんにとっては何の苦にもならないらしい。
そりゃそうか、リンデさんだもんな。
「『ウィンドカッター・トリプル』!」
と、リンデさんの様子を見ていると、後ろでユーリアが叫んだ。
振り返ると、右側……歩いている方角からは左手の東の森の中、木々の間にいたゲイザーが、前後を分けるように切断されている。
そうか、こちらを無視して森の間を抜けて、村に入ろうとしていたのか!
それをユーリアは見つけて、素早く斬り飛ばしたのだ。
「ユーリア、ナイスだ。左は頼む」
「了解です!」
僕は言ったと同時に、右手の西側にある森にもゲイザーが移動しているのを見つけた。
視認したと同時に、魔矢を射る。
「……よし」
一撃で大きくふらつき、こちらを睨んだところをもう一発。
何の因果か失敗してクリティカルヒットを出してしまい、ゲイザー相手に強化魔法なしでもかなり戦えていた。
いざ強化魔法を使うと……二撃か。
「いい感触だ」
本当に、この魔人族の強いパーティの一員になれている感じがする。
リンデさんの方を向くと、既に先行して現れていたゲイザーを斬り落としていた。
さすが、リンデさん。空の敵に対して跳び上がって斬るぐらい、余裕だな。
「それにしても、散開しているのはつらいな」
クラーラさんが魔人王国へと救援を求めているということは、とてもありがたい。
しかしこの場面、彼女が攻撃側に加勢をしてくれないのは痛い。
「……あるいは、それを踏まえた上でも、欲しい助けがあるのだろうか」
「ライ様?」
「ユーリアはどう思う? クラーラさんを戦力から外してでも救援を呼びに行ったわけだけど、それほどまでに必要かな」
僕の疑問に、ユーリアはあっさりと応えた。
「そりゃ当然ですよ」
「当然?」
「……ままままさか〜っ!」
いつの間にか戻ってきていたリンデさんが震えていた。
「マグダレーナ様が来ます。多分それで、さくっとこの森全部の魔物を倒してくれるんじゃないですかね」
マグダレーナ。
『時空塔騎士団 第五刻」の魔法担当であり、魔法の教育係であり……。
「……あ、あわわわわ……」
このリンデさんが、真っ青になって震える相手である。
……いや、元々真っ青だった。
「そんなに怖がらなくても。リンデさんの方が強いんですよね? 第二刻なんですから」
「それはありえないです」
……え?
「時空塔騎士団の順番って、ビルギットさんがカールさんより下であることを申請したのもあるんですけど、もう一つ理由があって……。マグダレーナさんが数十メートルとやや広めの建物だった試合場を見て『魔法発動前に攻撃が来るのは恐らくビルギットまで。それ以外は私より弱い、ビルギットより速いのなら私に勝てるだろう』と言って決まったんです」
「それじゃあまるで」
「はい。時空塔騎士団の強さの順番は、まずマグダレーナさんが決めました」
そして、マグダレーナさんの自己申告を受け入れたということか。
いや待て。それを全員が受け入れたのか?
「じゃあ、もしも試合の間合いが限定されてなかったら?」
「……クラーラちゃんと、どっちが強いかはわかりません」
……そりゃ、リンデさんがびびるのも仕方ないな。
しかし、その人が味方になるとなると頼もしい。
魔物の討伐のためにこちらから森を攻めているけど、早く他のメンバーにも会いたい。
クラーラさんが戻ってきたら、合流しよう。
それに、他のメンバーには料理を振る舞っていない。
皆の反応も、見てみたいな。