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魔人王国は、本当に強そうです

あわ、あわわ……総合1位、ですか……一体、何が起こって……?

あ、ありがとうございます、超うれしいです更新頑張ります!

 晩の鍋は、たくさん仕込まなくてはいけない。


「じーっ」


 幸いにも肉は多い。いろんな味が楽しめるようにしたい。


「じーーっ」


 これだけあったら、ぱーっと焼いてもいいかもなあ。


「じーーーーーっ」


「……何ですか、リンデさん」

「ライさんの観察です!」

「……面白いですか?」

「見てるの面白いですし! 好きです!」

「っ! あ、えーっと、ありがとうございます?」

「どういたしまして! じーーーっ…………あっ」


 なんだかすごくストレートに好意を伝えられた気がするけど……今の、「あっ」は、聞かなかったことにしよう。

 いや、もったいないので聞いたことにしておこう。




 さて、先ほど新鮮なバジルを摘んできた。緑のバジルの葉、乾燥させて細かい葉っぱにして保存して流通させているものもあるけど、やっぱり新鮮なものが好き。

 リンデさんはトマトのことを知っていたので、トマトも用意した。


 バジルとトマト、そして……チーズも最後にかけよう。硬いヤツを、粉に削って。鳥や鴨ではないけど、あの肉のおいしさなら。いい感じの味に持っていけるんじゃないだろうか。




「あっ、トマトだ! おっきい!」

「はい、今日はトマトを煮込んだ鍋も用意します」

「これは、しゅるい! というやつですか!」

「そうです、色んな味を作って、少しずつ食べていくのと、後は網でぱーっと焼いてしまおうかと思います」

「やったー! 楽しみです! いろんな味が楽しめる!」


 リンデさんは、椅子に後ろ向きに座る感じで、背もたれに両腕を乗せて足をぷらぷらさせていた。


 さて、トマトを細かく切って、ここから煮詰めてピューレにする。こういう時は……魔法の出番だ。

 水の魔法を入れて、火の魔法を使って、鍋の中でうまく煮詰めて……ある程度崩れたら、火を弱めて潰していく。

 失敗は成功の元とは言うけど、最初にウィンドカッターで鍋の中のものを吹き飛ばした時は、姉貴に思いっきりバカにされたっけ……。


 気がついたら、リンデさんがすぐ後ろにいて。

 僕の肩から顔を出して、トマトを見ていた。


「トマトが! トマトが綺麗な、なんか赤い泥っぽいのになってます!」

「はい、これがトマトピューレです」

「ぴゅれ!」

「これを使って、バジルと一緒にオーガの肉を煮込んでいきます。まずは少しでいいので肉をお願いできますか?」

「はいっ! おまかせくださいっ!」


 リンデさんは、ばーんとお肉を出した。


「うーん、さすが姉御。短時間のわりに綺麗に切り分けられてます」

「もうすんごい速かったです! だんだん速くなっていきました! あんな一瞬で上達するなんてかっこよすぎる……!」


 あー。これ、エルマの姉御、完全に褒め殺されてるなー。


「そうだ、バジルって食べられるかな? こっちだと苦手な人はいないぐらいメジャーなんですけど」

「バジル?」

「そこの緑の草です。一枚取って食べて見て下さい」


 僕は、リンデさんにその一見普通の、丸く膨らんだような緑の葉っぱを薦める。リンデさんはおそるおそる口にすると……


「……! え、え!? な、何ですか! お、おいしいです……すごい! こんな普通の見た目の草が、どうしてこんなにおいしいんですか!?」

「ふふっ、それがバジルですよ」

「ばじるだいすき!」


 よかった、何でも大好きリンデさん、バジルも好きだったみたいだ。


「でもふしぎだなー……私も草って何度か食べたことあるんですけど、全部「草だこれ!」って感じの味しかしなかったんですよー」

「草だこれ! って……ふふ……!」

「まさか、こんなおいしい草があるなんて! 草なのにバジルさんすごい! ふしぎ! どうしてなんだろう! バジルさん以外もがんばってほしい!」


 ついにバジルに敬称がついたリンデさん。




 でも、確かに……面白い意見だなと思う。


 僕も、最初からバジルも、ローズマリーも、オレガノも。知ってたから使っているんだ。

 同じ草なのに、『どうして』かあ。毒物だと自分を守るためとか、辛みがきついものも自分を守るためだとか、いろいろあるけど。どうしてかと言われると、答えられなかった。


 きっと、みんな最初は、食べなかったはずだ。殆どの葉っぱは、なんともいえない植物の味なのだ。だけど、不思議なことに、この草は特別おいしかった。

 同じような味でも、それぞれ違う。僕は、全部試したことはもちろんないけど。本当は、雑草という草はなく、全て何かの種類なんだ。

 そう思った人がいるから、バジルが今こうして僕の手元にある。




「なるほどなー、リンデさんはすごいなあ」

「えっ! わ、私がですか!?」

「うん。今までバジルってどうしておいしいか、なんて考えたことがなかったんですよ。最初っからおいしいって知ってる人に教えてもらったり、そういう本や料理で学んだりしていたもので」

「人間さんは、いろんなものに詳しいですねー」


 そう、詳しい。僕がというより、人間が、だ。


「うん。でも、こういうのは最初に食べて見つけた人がいるからなんですよね。誰かが、果物や野菜じゃない、この一見普通の草を「食材、ハーブ、スパイス」というものとして採用した。なかなかこういうことって気付かないですよ」

「そうですか?」

「そうだったんです。だから、リンデさんはすごいです」

「……え、えへへへへ……うれしい、です……」


 リンデさんは、ニヤニヤしながら自分の体を抱くように……あっそのポーズ結構きわどい。あ、戻った……と思ったら。


 僕の背中にくっついてきた。


「あ、あの?」

「えへ、ちょっとこうやってていいですか?」

「……は、い……」


 ……。背中にくっついてきて、同じ背丈ぐらいだから、髪の毛にリンデさんの顔が当たる。ちょっとにおいを嗅いでいる……? なんでだろ、恥ずかしいな……。

 しかしそれどころではない。

 背中が……時々……当たってますけど……!


「あーっ、ライさんめっちゃいいにおい……」

「……え? 僕の臭いがですか?」

「はい。髪の毛とか、体の臭いとか、汗とか、なんだろう……すごく、甘い感じというか。ちょっと違うんですけど、ずっと嗅いでいたくなる、好きなにおいです」

「初めて言われました……」

「……あっ! あのっ、お嫌でしたか!?」

「嫌では、ないですけど……」

「そ、そうですか! じゃあもちょっとだけ、このままよろしいでしょうかっ!」

「はい、いいですよ。でも鼻を僕の頭にぶつけたりすると痛いかもしれないので注意してくださいね」

「たぶん大丈夫です!」


 リンデさんはそう言って、軽く顔面でぶつかってきた。後頭部に、やわらかい感触がした。……鼻をぶつけたのかな……?


「うん、痛くないです!」

「そういえば、僕の頭程度なら大丈夫なぐらいリンデさんが強かったのを忘れてました」

「えへへ、なのでお気になさらず!」


 結局僕は、そのままオーガ肉を小さく切って鍋に入れるまで、リンデさんに後頭部を嗅がれていた。ちょっと恥ずかしい。ちょっとくすぐったい。そして背中がすごい。だんだん腰に腕を回して、近づいてきて……最後は密着してきた。


 ……いかん! 集中集中……! ……。


 ………………。


 …………。


 ……。




 ……で、できた……と、思う。今日の集中力、産まれて一番。マイベスト集中賞を自分に授与したい。後は煮込むだけだ。


「あのあの!」

「ん?」

「まちきれません! おなかすいた! おなかすきましたー! ちょっとだけ食べたいです〜っ!」

「もう、仕方ないなあ……」


 リンデさんの要求に、トマトとバジルのそのスープを一口分つぎ分けて渡す。リンデさんは、香りを嗅いで、口元を緩めながら、そのスープを飲んだ。


「〜〜〜〜っ! おいしいぃ〜っ! トマトが! トマトが私の知っているトマトさんと同じなのに全然違う! あとさっきのバジルさんの味がする! おいしい! バジルさんありがとう!」


 僕からもバジルさんありがとう。リンデさんの最高の笑顔、再びいただきました。




「さて、トマト煮ができたし……次!」

「はい! 種類さんがんばってください!」


 なんでも敬称をつけちゃうリンデさんに苦笑をしつつ、僕は僧帝国料理に手を出す。……しかし、ここでリンデさんに最大の懸念事項がある。

 僧帝国、名物カレー。




 そう……辛いもの、である。




「リンデさん」

「なんですか?」

「辛いものって食べたことあります?」


 僕はリンデさんに聞くと、リンデさんはようやく僕から離れた。ちょっと安心、ちょっと残念。


「辛いもの、というのがよくわかりません。塩ですか?」

「全然違います。それじゃあ、食べてもらいましょう」


 ほんの少し切った、赤唐辛子。本当に、本当にほんの少し。


「この、赤いのですか?」

「はい。噛んでいってください。でも、無理はしないでくださいね?」

「……ふえ? ……では、遠慮無くいただきますね……」


 リンデさんは……その小さい輪切りの破片を口に入れた。


 ……。


「……? ……ああ……ちょっと、熱くなりました……! ふしぎ、これふしぎですねー! ……へえー……味は……あんまりないほう……?」


 ……。……?

 ………………あ、あれ?


「あの」

「はい」

「……終わり、ですか?」

「あ……あれ!? っす、すみません! 私なにかまずい反応をしてしまったでしょうか!?」


 リンデさんの反応の薄さに、かえって僕の反応が薄くなってしまったことで、今度はリンデさんがやらかしてしまったかと文字通り蒼白な顔で慌ててしまう。


「あーっ! すみません違うんです! この赤いやつ、舌が痺れて、喉から咳が出るぐらいヒリヒリするはずなんですよ」

「ヒリヒリですか? ……でも、ちょっと熱くはなりました。麻痺かな? こういうの、効きにくいからかなあ……」

「……リンデさん、そういえば、状態異常系って、魔族は効くんですか?」

「あんまり効かないですねー。麻痺とか、毒とか、そういうの基本的に弾いてしまうというか。能力低下系とか、呪いとか、その手のものは全く効かないですね。属性魔術も全部弾いてしまって。あと種族的な特徴なのか、光は無効化して、闇は吸収しちゃいますね」

「な、なるほど……」


 ……姉貴、すごい情報聞いたぞ。能力低下系も、属性魔法も、基本的に効かないらしい。はやく帰ってきて情報共有してくれ、この魔人族、多分そうそう勝てる相手じゃない。ていうか挑まないで。そろそろ食べ物要求しに帰ってくる頃でしょ姉貴。


 僕はどこをほっつき歩いているのかわからない姉貴のことを考えつつも、リンデさんの回答に納得していた。


「なるほど、じゃあ安心しました。全く駄目って人もいるんで、さっきのが食べられないようなら外すつもりだったんですけど、いけそうです。これを使ったカレーもまた、今その味から人気なんですよ」

「かれー! そうなんですね! 楽しみです!」


 リンデさんは僕の回答に安心したようだ。クミン、コリアンダーを取り出して、再び作り始める。


 ……。


 ……。


 しかし、量が必要だし、大きい鍋をいくつか用意しているけど、作るまで退屈だなあ。煮詰めるだけというのを何度も繰り返すのは、やっぱりちょっと退屈である。

 せっかくなので、林檎パイの時に気になったことを聞いてみよう。


「そういえばリンデさん」

「はいっ、なんでしょうか?」

「リッターの12人って何ですか?」


 リンデさんは、「あー」と言って、その話をした。


「『時空塔騎士団』のみんなです!」

「じくうとう?」

「はい! 時空塔騎士団 のことを略してリッターって呼んでます。遺跡があって、そこの守りをやってるって名目なんですけど、ぶっちゃけ敵がまだ来たことがないので別になんもやってないです!」


 え、ええ……?


「陛下が、「こちらにも円卓騎士団と同じものを作りたい、強い戦士の代表をある程度の人数欲しい」と仰って、強い人を選んでやってきたのが時空塔の12の時計の時刻にちなんだ戦士12人です」

「……。待って、リンデさんって、第二刻でしたか?」

「わわ、はいっ! 覚えていただけてうれしいですーっ! えへへ……」


 ……。


 リンデさん、第二刻ってことは。


「それ、強い順ですか?」

「そうですね。第一刻のクラーラちゃんにはまだ及ばないんですけど、結構そこそこ強い方なんですよ! といっても得意不得意もあるので、12人均等に強いともいえます」


 リンデさん、本当に強かった。いや、しかし……そんなことより、リンデさんより強い魔人族がいて、その下に10人このレベルの魔族がいて、この上に、ハンスさんと……。


「そういえば、ハンスさんの他に話していた、ええと、フォルカーさんというのは?」

「あっはい! フォルカーさんはヨルムンガンドライダーですね。ハンスさんより弱いと本人は言ってるんですけど、みんな乗ってるもの含めたらフォルカーさんの方が強いかもって言ってますね」

「そうですか……」


 ……能力低下、状態異常も属性魔術も防ぐ魔族15人にフェンリルとヨルムンガンド。これね、勝てないと思う。ちょっと想定していた戦力と違いすぎる。

 姉貴は、知っているんだろうか。


「そうかあ、魔族は結構強いのが多いなあ……戦力を揃えていて、全員がそこまで強いと、とても人間では勝てなさそうですね。負けなさそう」


 ちょっと苦笑していると、リンデさんが少し考えて喋った。


「あの、ライさん」

「はい……」

「魔族の、国別の差の話ってしましたっけ?」

「国、ですか?」


「人間って、王国複数と、帝国と、ありますよね?」

「はい」

「人間同士って、争いますか?」

「……そりゃ、もちろん」


 当たり前の話だ。そうやって領土を広げてきた。しかし魔物や魔族の関係で、今はお互いを攻撃することがない。


「魔族もなんですよ」

「……え?」

「だから、魔人王国は魔人族の国。他に、デーモンの一族と、今はいなくなった陛下の友人の、淫魔の一族と、そんな感じで分かれてます」


 ……ということは……


「魔族だから、人間を襲う気がない……というわけではない?」

「もちろんです……デーモンの一族は、時々人間にも魔人にも刺客を送ってきたりします」

「刺客、って例えば?」

「うーん、強い魔物を送って様子見をしたりとか?」

「……」

「あと本人が乗り込んできたり、とか」

「……」

「あと、何かあったかな……」

「……」

「…………あれ、ライさん……?」


 ……僕は、溜息をついた。だって、そうじゃないか。


「リンデさん」

「は、はい……あの私、何か粗相を……」




「その、刺客を送られてる村、まさかここじゃないですよね」




 …………。


 …………。


「…………あ、ああああっ!?」

「そういう情報は先に言ってください……」

「す、すみません! まっったく思い当たりませんでした!」


 リンデさんは、あわてて謝罪した。


「あ、ああいえ、本来なら僕らなんて何の情報も知らないままやられてたんです。今気付いたということは、こちらから相手の先手を取れる可能性もあるということです」

「そうですね、ちょっと気になるので大反省リンデ、巡回に出てきます!」

「えっ、リンデさん?」


 リンデさんは、僕の返事を聞かずに出て行ってしまった。


「……まあ、今の会話で気がついてよかったかな」


 僕は、再び鍋の仕込みを再開した。


 -


 リンデさんは晩頃帰ってきた。


「うわ鍋の数すっごい! 全部! 全部作ってるんですね!」

「はは、村全員になるとこれぐらいあっていいかなと」


 元気よく宣言して、ひょいっと家に入ってきた。


「なんか、外に、ぱーっと炭と、こう、なんかすごいのが!」

「金網ですね、魔術なしでも焼くための準備です。ちなみに焼肉にも味の種類がたくさんあるので楽しみにしていてくださいね」

「やったー!」


 全身で喜びを表現するリンデさん。……しかし、何故かすぐに深刻そうな顔になり、口を開いた。


「……あの」

「何ですか?」

「確認してきたんですが、オーガがいなくて、ゲイザーが……追加で、3体いました」

「……それ、は」


 あまりにも、同種の上位体が固まっている。

 そして、下位がいなさすぎる。


「ええ、ちょっと言いづらいんですけど……」




「デーモン族……悪鬼王国に、狙われてる、と、思います」

最初名前伏せてスタートして1ヶ月して、後から右側のHN出させてもらいました。

冬コミ出るんですけど、えっとあらゆる意味でジャンル違いですわたし……さすがにめっちゃ気が引けるのでアドレスとかは割愛します。

インストの音楽動画とかたくさん上げているんで、BGMにでもしていただけるとうれしいです……!

3日間予定あるんですが、できれば更新がんばりたい……! です!

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