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女の子に甘いものは定番です

え、え、ハイファンタジー4位とか、な……なにがおこってるんですか……!?

ええと、見ていただきありがとうございます!

めっちゃびびってますが連載中2作のこちら側も更新していきます……!

 さて、リンデさんとの昼食を終えて、リンデさんと再びリリーのところへ行く。


「なあリリー、晩飯僕が作るから、みんなにそれ伝える係してくれない?」

「おっライがみんなの晩飯作ってくれるとか、今日はいい日だね! それぐらいならおやすいご用! で、食材はたっぷりあるんでしょうね?」

「あるっていうか、食材が余ってるから消費したいというか。エルマの姉御にもそっちの方がいい。というかそうしないと結構まずい状況なんだ」

「そうなの? よくわかんないけどまーぶっちゃけリンデさん絡みっしょ、オッケーわかった!」


 リリーの理解の良さと割り切りの早さは本当にありがたい。リンデさんもちょっと照れて頭を掻いていた。


「助かる、それじゃ!」

「こっちも酒もってくわ、楽しみにしてるよ!」


 僕はリリーに別れを告げると、エルマさんの場所へ行った。

 その途中で、袖をくいくいと引いて、リンデさんがちょっと俯いて困ったように眉を寄せて、上目遣いにチラチラと見てきた。……何だろう?


「あの……」

「どうかしましたか?」

「ライムントさんって……リリーさんと、仲いいんですね」

「まあ、この村のみんなとは仲いいよ」

「その……そうじゃなくて」

「?」


 今ひとつ要領を得ないリンデさんの言葉。ちょっと不満そうにしている。何か気に障ることでも言ったかな……?

 言いにくそうにしていたけれど、やがて勢いよく声を出した。


「あああ、あのっ、あのあのっ!」

「は、はい!」

「わわわわ! 私も!」

「はい!」

「私もライさんって呼んでいいですかっ!」


——————。それだけ?


「えっと、いいですよ」

「やった! ありがとうございます!」

「お礼を言われるようなことでは」

「でもでも! 呼びたかったんですよっ!」


 とても楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ねるリンデさん。やめて、外で薄着でそれはやめて、目に毒とかそんなレベルじゃないからやめて。

 そういうのは家の中だったら…………


 ………………いやいや、いやいやいや!

 まって、本当に待って僕今何考えた!?


 ……いけない、今朝のアレで、本格的に僕の頭の中まで桃色に染まっているようだ……。二日目でこれで、大丈夫かな……。


「ライさん!」

「はい」

「ライさーん!」

「はーいリンデさーん」

「えへへ……」


 まあなんだかんだリンデさんが幸せそうなので、よしとしよう。

 それに、親しい感じがして、確かに僕自身も嬉しい気分だ。


 言ってくれてよかったな。




「姉御、いいか?」


 ついさっきぶりの、ギルドのエルマに会いに行く。


「おう、いいぜ」

「朝言ったとおりだけどさ、今リリーにみんなを集めて食べることにしたから、オーガロード沢山あるの捌くのやって欲しいんだわ、やっちまったらリンデさんの収納魔法は保存能力も収納容量も性能いいから」

「そういうことなら悪くねえ、どっちにしろ朝っぱらからあんなでかい魔物が村に来たんだ、開店休業だろうな」


 エルマさんは肩をすくめて言った。


「ああ、それなら大丈夫っちゃ大丈夫だよ」

「ん?」

「リンデさんが城付近まで見て回ってオーガロード追加で7体仕留めてくれたので、しばらく安全だと思う」

「……午前中で、か?」

「午前中っていうか、リリーが襲われて、僕と喋り終わって、別れてから家に戻るまでぐらいの間。あとゲイザー2体も近くにいたのを仕留めてくれたよ」

「…………」


 さすがのエルマも唖然である。


「わかっちゃいたけど、あんたマジでつええな……」

「えへへ……ありがとうございますっ」

「よし……そういうことならぱぱっと済まさねえとな! よっしゃもってこい! 捌いたら次々出してくれ!」

「わかりましたっ!」


 リンデさんが、エルマに続いて店の奥に入って行った。直前僕の方を振り返って、


「ええっと、ライさんはどうしましょう」

「終わるまでかかると思うので、家でまた何か準備して待っていますよ」

「何か! 何かですか! 何かたのしみ! 何か何かー!」


 リンデさんは満面の笑みで喜んで、奥へ入って行った。「何か」でこんだけ喜んでくれるのもあの子ぐらいだろう。微笑ましい。

 よし……それじゃ、何か。準備してみますか。


 さて、リンデさんの反応を見ながら考えていたことがある。

 魔族が料理をしないこと。つまり……これからの時間のことを全く知らないということだと思う。

 女の子の、これからの時間といえば。




 そう。

 甘いもの、である。




 姉御のオーガキングの捌くスピードからいって、3時ぐらいには終わらせてしまう可能性がある。だとすると、帰ってきた時間は、世の女子達の至福の時間だ。

 しかし、海水で煮込んでおしまい、という魔族が砂糖を使ったものを……いや、そもそも砂糖作れないな……。

 果物を食べたことがあるだろうか。トマトはあると言っていたので、そちらの植物系の甘味なら抵抗のなさそうなものを……。


 僕は、手持ちの材料があって、すぐに仕上がりそうなそれを準備することにした。


 まずは生地を作ろう。バターと小麦粉、しっとりと、水を入れ、バサバサしないよう細かく混ぜて練っていく。

 ……。……。

 ……いい感じだろうか、……うん、崩れない。それではこの生地は、しばらくお休み。


 大きな林檎、皮を剥いたこれを薄く小さく切っていき、王都でも作られるようになった砂糖を加えていく。砂糖は、その味から貴族の夫人の絶大な支持と支援を受けて、安定して供給されるようになった。

 ……食材の聖地と呼ばれる丸い島では、真っ白で砂浜のような砂糖があるというけど、さすがにその地までいってみないと信じられない、いずれ行ってみたいけど……この村での役目を終えてからだ。


 そうだ、こんな時こそ……シナモンの出番だ。東の端の一部では肉や揚物料理などで使うというけど、僕はやはり甘いものにシナモンが好き。

 他にも、紅茶に入れたり……そちらも今度してみよう。きっと、ブラックのコーヒーに拒否感を示さなかったリンデさんなら、おいしく飲んでくれると思う。


 ……ふふ……本当に、僕はリンデさんの反応が見たくて、こんなことをしてるんだなって思う。別に食事と別に甘いものを作る義務もないんだけど、お礼がしたいとかそんなんじゃなくて、単に反応が見たいんだ。

 だからだろう、とにかく気合が入ってしまう。

 義務感じゃなくて、娯楽なんだ。まさかこんなに料理が楽しくなる日が来るとは思わなかった。帰ってきた時に姉貴にもお礼を言いたいな。


 ……っと、考えていたら生地が出来上がったようだ。よしよし……それじゃ、入れますか……!


 この生地で蓋をして、ちょっと絵を描くというか、造型する瞬間も楽しい。地味な作業が好きなもので、そういえば宝飾品とかも面白半分で自作したことがあったっけ。面白くてのめりこんで、効果のあるものは大分姉貴が持っていった。

 あれもどんな効果があるかわからないけど、リンデさんには似合うかな。

 ……はは……指輪をプレゼントなんて、それこそプロポーズじみてる。僕からそれをやったら完全にそういう構図だよ。


 ……よし、余った生地が多いので、巻いたり、薄く小さく重ねて……薔薇っぽく、見えるかな。焼くと崩れるかもしれないけど、ご愛敬。


 ……


 ……ん、そろそろいいかな? それでは火の魔法で焼いていこう。その間に……朝と同じコーヒーを入れよう。甘いものには、こういうものを合わせるのが好き。


 ……よし……ミルで豆を……


 ……パイの焼き目が…………甘い、香り……


 ……お湯が沸いた……


 ……。


 -


「ただいま戻りましたー! もうめっちゃはやかった! すごい! 47体全部お肉になりましたっ!」


 やはりエルマの捌くスピードは半端ではなかった。3時より前に終わっていたようだ。そして、それを見越してこちらもいい具合だ。多少寝かせていい味になった。もうちょっと置いておく予定だったけど、ま、いいだろう。


「……! ま、まままって! こ、この香り! これ! これなんですか!」

「何か、です」

「な、何か! 何かだ! やったー何か!」


 全身で「何か」に喜んで飛び上がるリンデさん。


「こ、これって、まさか、まさか、林檎、ですか……!」

「おや? 女の子には甘いものといいますが、知っていましたか」


 驚きだ。甘味の最初の驚きは得られなさそうかな……?


「はい……! わ、忘れもしない、島に流れ着いた箱に、一個だけ入っていた林檎!」

「一個だけ?」

「林檎は知っていたようで、でも腐ってるかもしれないと陛下……魔王様が、小さく女中に食べさせたところ、甘いと感動して。そしてお優しい陛下は、ハンスさんと、もう一人の側近のフォルカ—さんと、リッターの12人と、女中の人にも分けてくれたんです!」

「それ、魔王様も含めて均等ですか?」

「はい! 不器用なりに16等分に切り分けてくれて、みんなであの甘い果物をいただきました……!」


 魔王様、あまりにも聖人君主すぎて僕の中では既に好感度が青天井なんですが。どこの国に、自分と部下とメイドに均等に分ける王がいるんですか。

 魔人王国にいました。マジか。


「で、でもでも……こんなに甘い香りが……信じられない……!」

「ああこれは、甘い砂糖に、更に熱を加えて甘みを増しているのです。熱を加えると甘さが増すんですよ」

「今すぐ陛下に持って帰りたい情報ありがとうございます……! 褒美をもらえそうです!」

「それは光栄です」


 僕は、楽しそうに話すリンデさんに笑いかけながら、それを持ってくる。


「……」

「……あれ? どうしたんですか、リンデさん」

「……な、なぜ、なぜ美術品みたいな見た目が……?」

「あ、コレですか。ちょっと生地が余ったので気まぐれで作ってみました」

「きま、ぐれ」


 呆然と言うリンデさんの反応に苦笑しながら、ナイフをさくさく入れていく。


「ああーーーーっ!?」

「うおっ、どうしましたか?」

「び、びじゅつひんが、はそん、してしまいました!? なんで、なんで!? つくったんですよねもったいない!」

「中身が大事です。ほら」

「……あ、あああ……!」


 中には、砂糖と混ざり煮詰まった半透明の林檎が出てくる。


「……いただいても、よろしいですか……」

「はい。甘すぎるぐらいなので、コーヒーと一緒にどうぞ」


 そう言って、入れ立てのコーヒーを出す。


 リンデさんは相も変わらずドラゴンを前にした戦士のような顔をしている。

 ドラゴンじゃないです、王国のふつーの林檎パイです。


「じゃあいただきます」

「あっああっいただきま速いですよっ!」


 ドラゴンよりオーガより怖くない林檎パイを口に入れる。うん、なかなか我ながらいいできばえ。さくさくとしている生地が、いい味を出している。ちょっと熱い、コーヒーじゃなくて水でもよかったかな? むしろアイスコーヒーにすればよかったか……?

 でも、シナモンはやはり、こういう時が一番いいね。


 リンデさんは、一口食べて、口元を笑顔にしながら震えていた。


「……陛下、その節はありがとうございました。そして申し訳ありません。この甘みが天井を突き抜けたような甘さに比べたら、我々が食べた林檎など蜜の枯れたサルビアにも満たない存在でした……」


 大げさな反応をいただきました。


「気に入っていただけたようで何よりです」

「甘すぎてコーヒーが必要なんて言い出した時何言ってるんだと思いましたけど、これはホントにコーヒー要りますおいしい甘いやばい……! 生地も未知のおいしさ、今すぐこの甘さを全身で表現したくてたまらないです!

 しかし……これはさすがに陛下に申し訳ないです。本当に、もう、別次元で好きすぎる……持って帰りたいです」

「僕がこの村を抜けられない事情があるので……でも、そうですね。折角ですから魔王様にお会いしてお作りしてみたいですね」

「わー、リッターのみんなで分けたり、機会があるといいなあ……」


 そう言ってつんつんと指先で薔薇の模様を触る。


「でも、こんなに綺麗なのに切っちゃうなんてもったないですよう……」

「いや、宝飾品作るよりかなり荒いですし、ほんと気まぐれに作ったんでいいですよ。たくさん作れますし、指輪や他のものに比べたら全然」


 リンデさんが、ぴくりと震えた。


「宝飾品」

「はい」

「宝飾品とおっしゃいましたか」

「……はい……」


 リンデさんの雰囲気が変わる。


「宝飾品……宝飾品!」

「は、はい!」

「宝飾品を作れる人を探すのは任務だったんです!」

「……は、はい!?」


 そこで陛下と魔族の話を聞いた。


「不器用な割に、結構そこそこの飾りを付けてらっしゃる魔王様、あれらは全部、商隊跡からのものを回収したものなんです。だからいい感じの服はなくって、その……私も、普段は一枚の皮をうまく使った服をしていて……」

「じゃあ、その薄い服は……」

「商隊からです。これでも魔族の中では恵まれたほうで、みんな剥いだ毛皮そのままとか、腰に巻くだけとか。私の服は人間の前で人間の服じゃないのはダメと陛下からいただいたものです。宝飾品は、かえって悪印象があるかもしれないからやめるようにと」


 陛下のお心遣い感謝します。というか人間に詳しすぎませんか陛下。


「で、宝飾品なんですが、やっぱり女性にとっては憧れの中の憧れといいますか。だから、欲しがるんですよ」

「なるほど……」

「作れる人を探して欲しいと。まさかライさんが宝飾品まで作れるとは……ああ、私もライさんも村を離れられないのがもどかしいです。早く二人で陛下にご挨拶に行きたい」

「……そうですね、僕も魔王様には一度お会いしてみたくなりました」

「いい人ですよ」

「話を聞くだけで十分伝わります」

「それは、お話した私にとっても光栄な限りです!」


 リンデさんは、魔王様を褒めたことを心から嬉しそうにしていた。これだけ純粋でいい子に絶大な信頼を寄せられる魔王様。

 姉貴、ごめん。姉貴の討伐対象、好感度全く落ちる気配ない。ちょっと本気で気になってきたぞ魔王様、どんななんだ魔王様。


「おっと、林檎パイも食べ頃温度になりました」

「りんごぱい! 林檎パイっていうんですね!」

「はい」

「覚えました! また食べたいです!」

「他にもいろんな甘いものがありますので、何かいろいろ出しますよ」

「わああ! 何か! 何かまだあるんですね! やったー何か楽しみー!」


 リンデさんはその美しい顔を幼い子供がするような満面の笑顔にして、林檎パイを綺麗に食べてくれた。ここまで喜んでくれると、甘いもののレシピ、もうちょっと増やしておけばよかったなあ。


 さて、晩まではリンデさんが守ってくれるまで僕の仕事だ。そしてリンデさんの紹介を兼ねている。頑張ってくれたエルマや、走り回ってくれているリリーの分まで頑張ろう。

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[良い点] 読みながら、私も子供の頃を思い出したりしてました。 ちょっと、ほんわかしますねw [気になる点] しかし、そのせいで、更に印象付いてしまったのは 「主人公の料理への味付けの仕方が、私が子…
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