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今後の計画を立てました

 リンデさんが姉貴を気にしながらも、新しいケーキをもっちゅもっちゅ食べ終わって追加注文した頃、結構前からとっくに泣いてもいなくてぐりぐりレオンのお腹に顔を押しつけて感触を味わっているだけの姉貴に声をかける。


「おい姉貴、レオンがくすぐったそうにしているぞ」


 突っ込むと、ゆっくりと顔を上げてきた。

 ひっじょーに満足そうな顔だ。


「ミアちゃん復活〜」

「おかえり」


 余裕そうな表情に呆れてしまうけど、この図太さも姉貴らしい。

 さて、随分脇道に逸れてしまったけど話を戻そう。


「で、そのリヒャルトの話なわけだ」

「そうだったわね」


 姉貴は自分の両頬を叩くと、「うし」と気合を入れ直した。


「話したとおり、男ってのは基本的に女よりも体でっかいし力強いし、だから前衛としてのプライドってのがあるものなのよ。冒険者ギルドで前衛やりたがった男も、あたしが嫌がってもそういうことやるわけ。ライみたいに最初から後衛ってんでない限りはね」

「そうだね。……それでも、僕だって姉貴を守れるぐらい強くなりたいとはずっと思っていたよ。今もちょっとね」

「———ッ! ……そう、だったの。あれ覚えていたんだ」

「当たり前だろ」


 僕が遠距離武器として弓を取った理由。『姉ちゃんを守ってやる!』という、子供のころの宣言。

 その夢は、かなわないものとなった。

 理由は簡単。戦いの分野において姉貴に勝つことは、全人類を比較対象にしても不可能だからだ。


「でも無謀なことはしないし、かえって負担を掛けるようなことはしない。その分精神面のサポートで姉貴を守れたらと思うよ」

「めっちゃ守ってもらってるわよ、母さんの料理に両親を喚べる死霊術士ネクロマンサーに家を持ち運べる魔族。みんなライの縁よね」

「全部偶然だけどね」


 実際これらは偶然の者だったけど、それでも姉貴一人に任せきりだった部分を軽減できたことが本当に嬉しい。


「きっと姉貴に対しては、みんなそういう想いがあったはずだよ」

「そうなのね。……ねえ、ライはさ……優男のやつががそういう気持ちだったって当時から気付いてた?」

「もちろん、気付くっていうかわかるっていうか」


 同じ男同士だからってのもあるけど、姉貴より剣の腕があったリヒャルトは、その田舎出身にしては洗練されたルックスのこともあって村ではちょっとした有名人だった。

 勇者じゃない頃の姉貴は今より長髪の女の子で、もうちょっと女の子っぽかった印象がある。母さんの髪が長かったのも影響しているだろう。

 二人は軽口を言い合うことも多く、僕から見ても当時ねーちゃんこいつと脈あるなーと思うぐらいには仲が良かった。


 でも、誰も相手の内面なんて完全に理解できるわけではない。


「リヒャルトと姉貴の仲の良さは、背も高くて男で先輩だったリヒャルトの方が、剣の打ち合いでギリギリ勝てるから成り立っていたものだ。僕達七人が再び組んだとしても、特に近接武器組は姉貴の引き立て役にしかならない。それを嫌がるのはあいつの心が狭いからではないよ」

「…………」

「姉貴はね、どんなに努力しても届かない存在だって見せつけてしまったから。だからリヒャルトは余計に、自分の惨めさを感じただろうね。背が高くて男で先輩だったという要素が全部マイナス側になる」


 姉貴は難しそうな顔をして唇を噛んでいた。……当時やらかしたことを思い出しているんだろう。


「だから勇者の村の剣士として一人で活躍して、今自らを勇者と名乗っているんじゃないかなと僕は思う。そして……」


 僕はレオンのほうを向いた。レオンは……やはり分かっている顔だ。僕の代わりに続きを話した。


「ハイリアルマ教で悪とされている魔族が、改めて敵であるという『普遍的な教義』を強めて、魔人族と一緒にいる勇者のミアさんよりも自分の方が勇者に相応しいというアピールをしているわけか」

「そういうこと」


 さすが、理解が早い。リンデさんはレオンの話を聞いて「なるほどー……」と納得していた。いや自分達のことだからね?


「だから、元を辿ればリヒャルトが出て行った理由そのものでもあるんだろうね。まさか勇者を名乗るほどだとは思わなかったけど」


 姉貴は黙って僕の話を聞いていたけど、やがて大きく溜息をついた。


「ああもうほんと、両親が死んで余裕がなかったとはいえ、あの時はそーとーやっちゃダメなことしたわね……」

「そういうこと。男のプライドが男の勝手であるというのとは別として、非常に付き合いづらい感じだったんだから。反省してね」

「ハイ……」


 さすがに自分の撒いた種でレオンに迷惑がかかっていることは堪えるのか、姉貴は大幅にしおらしい感じで反省した。あまり追い打ちはしないでおこう。


「でもライ、この状況どうすればいいのかしら。あたしはあいつの気持ちが分かったからといって、魔人族を悪く言うようなことを見過ごせないわよ。マーレにも悪いもの」

「そうだね、僕としてもマーレさんのためにも解決したい。それにアンリエット様の件もある」

「アンリエット……あっ!」


 そうだ、最初に魔人族の悪い噂を広めたのはアンリエット様。二人が繋がっている可能性は非常に高い。つまりリヒャルトをどうにかしなければ、アンリエット様が戻ってこない可能性が高い。

 元々ここに来た目的がアンリエット様を連れ帰ることなのだ。娘を心配するオレール様のためにも、この問題を解決しなければならない。

 ……まさか姉貴、アンリエット様のこと忘れてなかったよな?


 解決の糸口は、説得するしかない。それも簡単にいくかどうかはまだ完全なる未知数でわからない。

 でも、今回の事件の全貌が見えてきた。僕は手を叩いて注目を集める。


「頑張って解決しよう。なあに、このパーティなら不可能じゃないさ。なんといっても全員が文句なしに優秀だからね」


 そう宣言すると、みんな口元に笑みを浮かべた。

 そうだ、このメンバーで解決できない問題なんてあるはずがない。

 さて、解決に向けて本格的に作戦を考えますか。


「とにかく問題は、リヒャルトが神出鬼没であるということ、そしてキマイラが出没するから僕達が分断されるということだ」

「っと、そうだったわね。ちょっと悪い時期に当たってしまったというか……キマイラをほっぽり出してリヒャルトだけ追いかけるわけにはいかないわ。一応ライにも確認するけど、リンデちゃん絡みでリヒャルトが問題起こしたとしても、それでアンリエットを助けられなくなったとしても、あたしはキマイラ討伐を最優先にするわ。いいわね」

「むしろそう言ってくれて安心したよ。何よりも誠実であること、それが勇者と信じてもらうことに一番重要だと思うから」


 姉貴の発言に安心した。

 そうだ、普段は自分の欲に忠実だけれど、勇者としての本分である人類を救うという広くてアバウトな使命を完遂させてしまうのが姉貴だ。だから多少無茶苦茶でも、僕は姉貴の判断に全幅の信頼を寄せている。


 やはり姉貴はなるべくして勇者になったって思わされる。

 リヒャルトは、自分のために誤った力の使い方をした。


 あいつの気持ちが分からないわけじゃないけど……そのことに他者を巻き込んでいいわけがない。その判断ができなかった時点で、やはりリヒャルトでは勇者にはなれなかったと思うのだ。


「リヒャルトとアンリエット様、その他細かい行動方針はまた後日指示するよ。とりあえずリンデさんもレオンもユーリアも、まずキマイラ討伐を最優先に考えてほしい」

「わかったよ、ライ」

「お任せくださいライ様!」


 僕はみんなの返事を聞いて満足して頷………………。


 ………………あれ?


「…………?」


 僕の疑問と同じ疑問を、みんな感じているんだろう。正面三人の視線は、僕の横に向いている。


「……リンデ、さん?」


 リンデさんは、返事をせずに顔を伏せていた。

 ……な、何か、今の提案に不満が————


「あ、あのっ!!!」

「はいっ!?」


 急に顔を上げてリンデさんが叫んで、椅子の上で跳び上がる。


「キマイラ討伐は、もちろん私一人でも余裕でできるんですがっ!」

「はいっ!」

「ですがーっ!!」

「は、はいーっ!」

「今度はライさんと一緒に行動したいですっ!!!」


 ……………………。あ、えっと、僕と一緒に行動したい、別行動したくないから、こんなに叫んだの?

 ああもう……そんな可愛らしいお願い、断れるわけじゃないじゃないか。


「……わ、わかりました」

「ほ、ほんとですか!? いいんですか!?」

「正直このメンバーで一番弱いのが僕ですし、間違いなく一番強いリンデさんがそばにいてくれるのが心強いですから」


 今の話の流れで、これを自分で言うのはちょっと情けないけど。


「今日ユーリアと確認したいことをも無事に終わったので、明日以降は別行動を取ったとしても、リンデさんと組みましょう」

「や、やったぁ……っ!」


 リンデさんはふにゃっと笑うと、僕の腕に絡まりながら頬ずりしてきた。……え、えっと、今日はまた随分と距離が近———


 ———ガチャリ。


「ケーキセット追加をお持ちしまし……」


 さっきの店員さんと、思いっきり目が合った。


「……あわ、あわわ、あわわわわ……」


 リンデさん、慌てすぎて僕と隣接したまま震え出す。待ってなんだか僕もぶるぶるしている、ちょっとくすぐったいです。


「……ふふ、仲がよろしいんですね」

「ラブラブだからねこの二人!」


 今度はまさかの姉貴が返事をして、リンデさんが驚いて姉貴の方を向いて凍り付く。

 ぐっ、さっき見られたからってこっちで遊ぶことないだろ姉貴!


 ケーキセットを置いてニコニコしながら店員さんが退室すると、リンデさんはなんとも気まずそうにケーキを食べ始めた。

 ……まあ、一口食べたらすっかりそんなこと忘れちゃいましたって顔になってたけどね。

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